● 短編・ショート ● |
●● テノヒラ1(彼女のテノヒラ) ●● |
放課後、オレは珍しく一人で帰宅する。 偶然目の前を歩いてるのは、クラスも部活も一緒の桐柳佳奈美だ。 いや、部活も一緒だった、が正しい。 桐柳はつい最近まで陸上部でも結構目立ってる存在だったのに、急に体調不良とかいう理由で部活を止めた。 クラスも同じだっていうのに、オレはほとんどコイツとは話したことがなかった。 だけどキレイ系でクールな印象の桐柳のことは、結構気になる存在だった。 オレは彼女の後姿を見ながら、ちょっと離れた距離感を保って歩いていた。 オレが見つめていたせいかどうかは分からないが、目の前の彼女がふっとよろけて倒れそうになる。 オレは慌てて彼女に駆け寄った。 「水城くん…」 オレを見上げた桐柳はしんどそうだった。 体調不良ってホントだったのか、ってオレは思う。 「大丈夫か?なんか、倒れそうだったぞ」 「うん……平気」 フラフラしてる桐柳の手をオレは取ろうとした。 「あっ!……ダメっ!!」 「…えっ?」 オレは何がダメなのか分からなかった。 そう言われて、オレは握りかけた桐柳の手をギュっと掴む。 「あっ、……あぁぁぁんっ!」 彼女は体の力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまう。 オレはビックリして、手を離して座り込んだ桐柳を覗き込んだ。 「はぁ…はぁ…」 (何なんだよ…) 彼女は息が上がってる。 でもそれは病気とかそんなんじゃなくって、…いわゆる「感じてる」っていう感じだった。 もともと澄ましてる彼女が見せるそんな表情に、オレは戸惑いながらも少し興奮してくる。 それにしても…オレ何かしたか?一体どうしたんだよ。 「どうした…?……ヘンだぞ、お前…」 「ご、…ご、…ごめんなさい……」 まだ肩で息をしている桐柳を、オレはただ見守るしかない。 「だ、…大丈夫だから…」 「とりあえず、送るよ…」 成り行きで、オレは桐柳を家まで送ることになる。 一緒に電車に乗って、桐柳を改めて見た。 やっぱりキレイな顔してる。 その顔と、陸上やってて引き締まってる体の印象で、オレは何か桐柳には話し掛けにくかった。 オレは元々そんなに女の子に積極的に話すほうじゃない。 だから高校に入って、で、もう9月だっていうのに、まだ彼女もいなかった。 「なんで、部活辞めたの?」 少し気になってた事を聞いてみる。 オレは桐柳が走る姿を見るのが好きだった。 走る姿が美しいっていうのはこういう事なのかと思っていた。 桐柳はオレをちょっとダルそうに見返す。 「……なんか、続けられないなって、思ったから」 彼女はそれだけ言うと、またオレから視線を外して窓の外を見た。 その後会話が続かなくなって、黙ったまま駅に着いた。 彼女は並ぶとオレのイメージよりは背が低かった。 桐柳は体のバランスがいいせいで、遠くから見ると実際よりももっと身長が高く見えた。 肩のあたりで切った髪がサラサラしてる。 全てが整った人間って、いるんだなぁってオレは思う。 静かな住宅街を二人でそのまま黙って歩いた。 さっきの桐柳…。手を取った途端しゃがみ込んだ彼女。 その様子がどうしても気になって仕方がない。 オレは思い切って彼女に言った。 「なあ、もしかして部活辞めたのって、……さっきみたいになるのが原因?」 桐柳がピクっとした。 「え……さっき…って…」 明らかに桐柳が動揺してくる。 「もしかしてさ、…桐柳…」 オレは聞いてみる事にする。 「変な意味にとるなよ?…もしかして、さっき……」 「…………」 彼女がオレを見る。 一瞬にして頬が赤く染まっていく。 いつもクールなくせに、その表情のギャップって凄かった。 彼女の家まで行く途中の小さな公園のベンチで、二人で並んで座った。 「……変だと思わないでよ?」 「うん」 桐柳はオレに打ち明けたいみたいだった。 「…あぁ、でも、…やっぱり変だ…」 彼女が頭を抱える。 「いいから続けてくれよ」 オレは言った。 夕方の公園、もうだんだんと日が短くなってるんだなって思う。 まだ充分に暑かったが、風にはもう秋を感じた。 暫く迷ってたみたいだったが、意を決したようで彼女は話し出した。 「手が、感じちゃうの」 「…え?」 何か感じてるとは思ってたけど、『手』って限定されるのは意外だった。 「夏ぐらいから、…急に……」 「な、……なんで?」 桐柳の告白を聞いて、オレが焦ってくる。 性的なモノとは無縁な印象を受ける彼女が、『感じる』とか口にするのを聞くだけでもオレは汗が出てくる。 「わかんない……。二人組でストレッチとかやってる時、 急に…そんな風になってきて……」 「ふぅん……」 「…………」 「それが、部活辞めた理由?」 オレは聞いた。 桐柳がオレを見る。真っ直ぐ見てくる目、睫毛がすごい多い。 「おかしいよね?変だよね?……」 真剣な顔でそう言うと、また目を反らして下を向いてしまった。 「…なんか原因ってあるのかな?」 オレは言った。 「わかんないよ…。急にだもん……」 甘えたような口調で彼女は言った。普段はそんな感じじゃないのに。 「……悩んでるんだな…」 オレはボソっと言った。 「……水城くんに、…初めて言ったの…」 彼女はまた向き直った。 「絶対、誰にも言わないでね!お願い!」 「言わないよ…」 オレは桐柳の真剣さにドキドキしながら、答えた。 「手が感じるって何なんだろうな」 オレもマジメに言った。 「………」 桐柳は自分の膝に当てた手を見つめて黙る。 「急にそうなったんだろ……何か、治る方法とかないかな」 「…あれば、いいけど……。体育の授業とか、もう死にそうにブルーだもん…」 「……部活、やりたいだろ、…桐柳」 桐柳はちょっと泣きそうな顔になって、オレを見て頷いた。 「………今までみたいに、普通の生活をおくりたいよ…」 オレは彼女がちょっと可哀想になってくる。 「今度さ、改めて色々試してみない?」 オレはかなりマジメな気持ちで言った。 正直、言葉に出したときは下心はなかった。 「……試して…って?」 立ち上がったオレを見上げて彼女が言った。 「んー、どういう場合がダメで、…もしかそうなっても何とか回避できる方法を探すとか」 「……そんな事できるのかな」 桐柳も立ち上がる。 もう公園は暗くなってきて、こうしてたら普通に付き合ってるみたいだった。 「じゃあ、ずっと一人で悩む気?」 「……それは、ヤだ…」 桐柳がオレより半歩前に出て、ゆっくりと歩き出した。 オレは日曜日に彼女と約束をした。 原宿で待ち合わせて、そのまま公園に行く。 二人きりで密室でっていうのもヤバいし喫茶店とかでも変だから、天気もよかったし、いかにも健康そうなこの場をオレ達は選んだ。 園内は広いから、奥へ行くと目立たない場所がたくさんある。 遊んでいる人たちから少し離れて、普段は家族が弁当持参で団欒しそうなベンチに机を挟んで向かいあって座った。 ここは屋根があって、遠くの人からはハッキリとは見えない。 「どういう時に、感じちゃうかって分かる?」 オレは聞いた。 今日の桐柳は勿論私服で、制服じゃない彼女を初めて見るオレはそれだけで緊張していた。はっきり言って、かなりカワイイ。 それに二人で公園に来るなんて、まるでデートだ。 この前はあんな風に言っちゃったけど、今の自分は下心の塊みたいになってた。 「よく、分からないんだけど…ギュってされるのが、とにかくダメ」 「ふーん。じゃあ、手のひら、出してみてよ」 「…………」 二人の間にある木製のテーブルの上に彼女はハンカチを敷いて、そして手のひらを上に向けて両手を置いた。 「モノを触る分には大丈夫なの?」 オレは聞いた。 「うん。自分の手で触ってもなんともないよ」 彼女はマジメな顔で答える。 オレは片手を伸ばした。 その手を見るだけで、彼女が警戒する。 オレは彼女の左の手のひらに、自分の右手を真っ直ぐにしてただ重ねた。 「……これぐらいなら、大丈夫?」 「…それは、全然平気」 桐柳の様子を見ながら、オレは左手も彼女の右手に置いた。 「平気?」 「うん」 彼女はちょっとほっとしたみたいだった。 オレは自分の手を真っ直ぐにしたまま、ただ手を重ねて自分の方へ引いた。 「……」 彼女の眉が少し歪む。 「ダメ?」 「……なんて言うんだろ、…首がくすぐったくなる感じ…」 それでも桐柳はまだまだ冷静だった。 オレは張っていた自分の手のひらの力を少し緩めた。 そうすると急に桐柳の手の感触を感じる。 オレの方が興奮してきそうだった。 「なんか、…オレ、手汗かいてない?」 実際に手汗かいてたと思う。だけど彼女は首を振った。 「いい。…続けてみて。まだ、大丈夫だから」 彼女は真剣だった。 力を緩めたまま、またオレは彼女の手のひらから自分の方へと手を引き寄せる。 桐柳の手のひらの中心のくぼんだところを指で触れて、指の付け根の手前、膨らんだところを触る。 通学でカバンを持っているせいか、少し豆ができそうに固い。 「…うっ…」 桐柳が少し声を出す。 こんなんで、感じるのか?ってオレは内心驚いてしまう。 『手が感じる』って言ったって、くすぐったがりの延長ぐらいだろ、とオレは軽く考えていた。 だけど彼女の表情は、『くすぐったい』とかそういう種類じゃない。 オレは一気に興奮してしまう。 そのまま、ただ手を引いた。 オレの指が、桐柳の指の第一関節のあたりを触る。 そのまま流れて、第二間接へ。 「…………」 桐柳は眉間に皺を寄せて、耐えている感じだ。 そして、手が離れる。 「…………はぁっ…」 彼女が大きくため息をついた。 「どうだったの?今ぐらいで」 手を握りもしないで、ただ手のひらの上で動かしただけだった。 「……うん。ガマンできないってホドじゃない。…これぐらいならまだ、平気だと思う」 そういう桐柳は、既に頬が赤くなってた。 何か色っぽくてヤバイ。 「桐柳が、オレの腕、触ってみてよ」 「うん」 半袖シャツから出たオレの腕を、手首の上のあたり、桐柳が握る。 全然平気そうだ。 「大丈夫そうじゃん」 「あぁ、コレなら物を触るのと一緒かもしれない」 彼女は少し安心したみたいだ。 「こういう風に、試した事なかった?」 オレは聞いた。 「うん。…とにかく人に触らないようにしてた」 桐柳が手を離す。 「…じゃ、自分から触る分には平気なのかな?」 オレは言った。 「どうなんだろ?」 彼女が美しい目でオレを見つめてくる。 なんかこの倒錯した感じに、オレの方がどんどん感じてきそうだ。 「じゃあ、触ってみる?」 オレはテーブルに自分の両手を手のひらを下にして置いた。 「うん…」 そっと彼女がオレの手の甲に両手を触れてくる。 『手』って、感じるかもしれないって、オレが思ってくる。 桐柳の手のひらが触れたオレの手の甲、そこから彼女のぬくもりが伝わってきて、オレ自身が高ぶってくる。 なんか桐柳はマジだし、オレは下心を抑えるのに必死になってきた。 「あ、…平気かも」 笑顔でオレを見て桐柳が言った。 (う…カワイイじゃん…) 今日、暑かったせいもあるけど、オレはいつもより余計に汗をかいてた。 「じゃあ、こうしてみるし」 オレはさっき彼女がしたように、手のひらを上に向けてテーブルに置いた。 彼女がその上から手を重ねる。 (なんか、これだけでもエロい感じなんだけど……) 『感じる手』がオレに伝染しそうだ。 「置くだけなら、平気だ…!」 彼女は嬉しそうにオレを見た。 「じゃあ、ゆっくり握ってみていい…?動かさないでね。水城くんは」 オレは頷いた。 彼女の手に少しずつ力が入る。 「…あ……」 力が入るのと同時に、彼女の表情も少しずつ変わっていく。 やばいって、オレがキレそうになる。 オレは自然と手に力が入ってしまった。 「あぁぁっ…!」 明らかにそういう声を桐柳があげる。 「感じるの…?」 オレは彼女を見る。 彼女は下を向いたまま、頷く。 やめようかとも一瞬思ったけど、それ以上に自分の中の欲望が出てしまう。 オレはオレの手の上にある彼女の手を少し握る。 「うっ…」 桐柳は下を向いたままだ。 手を振り解こうとしないから、オレはそのまま続けた。 彼女の手を握る。 また力を緩める。 さっきよりも少し強く握る。 オレの手は汗ばんできて、じっとりと二人の手のひらは絡まりあうみたいだった。 オレの方も、手のひらに全神経が集中してしまう。 握っては緩めを繰り返す。 「はぁ……はぁ…」 桐柳が懸命に声を殺そうとしているのが分かる。 オレの中にある意地悪な気持ちが、沸々と湧き上がってくる。 オレは桐柳の手を握って、自分の方へ引き寄せた。 「なっ……、何?」 上半身が引っ張られて、彼女がオレを見た。 その顔がすごく色っぽくて、絶対普段見られない桐柳のその顔にオレは直球で興奮してしまう。 桐柳の右手をもっと引き寄せて、オレは彼女の指を舐めた。 「あぁっ!」 彼女の左手は、オレの右手でしっかりと握ったままだ。 「だ、…ダメ!…水城くんっ!」 離そうとしても、女の力は弱かった。 既に彼女の力は大分抜けていて、しっかりと掴んでいるオレの力には敵わなかった。 オレは桐柳を見ながら、人差し指の先を口に入れた。 「はぁぁんっ」 声が出てしまっても、両手がオレに抑えられているから彼女は首を振るだけだった。 「だ…だめぇ…ちょっ…ちょっと…み、水城くんっ…」 オレはもっと彼女の人差し指を吸う。 「あぁぁぁっ…」 オレは桐柳の指を口の中に入れたまま、舌でその指をなぞった。 「あっ…、あぁぁんっ……」 凄いいい反応だ。 「こんなに感じるの…?」 オレは聞いた。 桐柳が首を振りながら、頷く。 「いやっ……、だめ…、んっ、んっ…」 「………」 オレは女が男にそうするように、彼女の指を自分の口に出し入れした。 色んな指を口に含み、指の付け根の間も舌で執拗に舐めた。 「あ、あ…あっ……、あぁぁんっ…」 勿論彼女の左手も握ったままだ。 桐柳は声を出してしまっていた。 普段マジメな彼女が、エッチの時はこんな声を出すのかと思うと、オレはいてもたってもいられなくなってくる。 「もう、ダメだよ……ダメっ…、み、水城くんっ…」 桐柳は辛そうな顔でオレを見た。 オレはとっさにキスしたくてたまらなくなってくる。 オレはもっと彼女の指を吸った。 「あっ、あ、あぁぁんっ…!」 桐柳は顔をゆがめると、彼女の指先に力が入った。 オレに両手を預けたまま、背中を仰け反らせて少し震えた。
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