ぼくらのキスは眼鏡があたる

14 私の17歳

   

横で眠ってるのは、…杉下くん。

ウソみたい。
私たち、裸。

…とうとう、杉下くんと結ばれてしまった…。

い、痛かった…。
だけど、その前……すっごく…。

「はあ…」
私はため息をついて、また目を開ける。
顔を上げると、杉下くんの寝顔。
(……きれいな顔だなぁ…)
こうしてしみじみと見てみると、彼の顔は本当に整ってる。
男の子なのに、なんだかカワイイしそれに美しい。
お姉さんがいるって言ってたけど、多分すごい美人なんだろうって思う。
杉下くんの肩。
私は、体中彼にぴったりとくっついてる。
(………)
改めて彼に寄り添ってみる。

(この感じ…気持ちいいな…)
人肌恋しい、っていうの、…分かる。
こういうことなんだなって思う。


――― 全然イヤじゃなかった。

こうしているのも、全然イヤじゃない。
というか、こうしていても、…未だに私は杉下くんと付き合ってるって実感が湧いてこない。こんなに触れ合ってるのに。
(あったかい…)
熱いぐらい。
「…海都」
小さく、呼んでみる。
それでも杉下くんはよく眠ってて目を覚ましそうになかった。

私もいつの間にか、うとうとしていた。


髪を撫でられているのに気が付いて、目が覚める。
「あ…」
目を開けると、杉下くんと目が合う。
「私、寝ちゃってた?」
「うん、寝顔、バッチリ見た」
そういって杉下くんが笑う。
私は瞬きをして、じっと杉下くんを見つめ返した。
「私も海都の寝顔、さっき見たよ」
なんだか恥ずかしくてムキになってしまったけど、まだ二人とも裸だってことに気がついて、もっと恥ずかしくなってしまった。
「…何時?」
ふとんを抱きしめて、私は聞いた。
杉下くんが体を起こす。
ベッドの上に置いてあった腕時計を見て言った。
「1時過ぎてる…。結構寝てたね」
裸の杉下くんの胸が、目の前にあって。
ついさっき、エッチまでしたのに私はすっごく照れてしまう。
見られるのも恥ずかしいけど…、こうして彼の体を見るのもすごく恥ずかしい。
「雛乃」
杉下くんがふとんに入ってきて、私の肩を抱きしめる。
「うんっ……」
ギュっと抱きしめられて、私は思わず声が出てしまう。

「かわいい……」
「………」

そう言われても、余計に照れるんだけど……。
やだ、ホントに恥ずかしい……。
だって裸なんだもん…。
それに、肩にかかる杉下くんの息もすごくくすぐったくて。

「いや、やんっ」

私は首を振って、杉下くんの体を押しのけた。
「……?」
杉下くんは戸惑ったみたいで、ちょっと寂しそうに私を見た。
「ち、…違うの…。く、くすぐったかったから……」
私は自分の首筋をおさえた。
杉下くんはすぐに笑顔になる。

「んんん……」
キスされてしまう。
「…んっ……」
杉下くんの舌が、私の唇をこじ開ける。
「………」
すぐに濃厚なキスになる。
やっぱり、男と女なんだなって実感してしまう。
こんな風にしてると…。

杉下くんが私の上に体を乗せる。
「んっ…」
彼の両手が、私の乳房に触れた。
(あっ……やん…)
体がビクっとしてしまう。
(どうして……)
すぐに息があがってくる。
彼に触れられるだけで、まるで準備運動もなく走り出したようにハアハアと息が漏れる。
「あっ…あんっ…」
そんな風に触られると、だめ…。
つい昨日までただブラジャーの下で守られていた胸が、今、杉下くんの前に放り出されてる。
そして、彼の手が私を…。
「…やっ、……あぁんっ」
逃げたくなってしまう。
「だっ…、あぁっ…」
杉下くんが、私の乳首を口に入れる。
「あぁぁんっ、…はぁ、…あんっ…」

何をされているのか分からなくなってくる。
体中がゾクゾクして、さっきあんなに痛いと思ったところでさえじっと止まっていることができない。私は無意識に体をひねってしまう。
逃れたくて…。
受けとめたくて…。

「雛乃」
薄く目を開けると、杉下くんの顔が目の前にあった。
「……海都…」
私は思わず彼に手を伸ばしてしまう。彼は汗ばんでた。
杉下くんの口が開く。
「好きだよ…」
「うん…」
ゆっくりと唇にキスされる。
全てが恥ずかしいけど、…イヤとか、そういうんじゃない。
私、杉下くんの全てが好きなんだ。
実感する。
ホントに。

「さすがに、今日2回目はムリかな」
ちょっと困った顔で、私を見て彼が言った。
「………」
2回って…。そういうことだよね…。
急に我に返ってしまう。
(…この状況でダメって言ったら杉下くんは、ど、どうなんだろ…)
確かにさっき痛かったし、…多分まだ血も出てそうだし…。
「…わ、わかんない…」
どうしていいのか本当に分からなくて、私は言った。
「……」
杉下くんが私をギュっと抱きしめて、体をひねる。
「んっ」
私はクルっと回転させられて、彼の体の上に乗っかる形になる。
「こうしてるとさ……」
彼が言う。
私の下半身は杉下くんの体からゆっくり滑って、上半身だけ彼に乗ったままだった。
確かに、…杉下くんのその部分が大きくなっていたのを私は自分の体で感じた。
「……すっごい、たまんなくなってくる…」
「……」
そう言われても、私は返す言葉が見付からない。
「ごめんな…変なこと聞いて。雛乃は、無理しなくていいから」
私を見て切なそうな表情をする杉下くん。
「………」

困った。
本当は受け入れてあげたい。
だって私だって、杉下くんのことが愛しくてたまらないのに。
私がこんな風に思ってること、…多分杉下くんは分からないだろうな。
「海都」
「…うん?」
杉下くんは私の背中に腕を廻したままだった。
私も彼の胸に乗ったまま。
「……い、…いいけど」
「えっ」
杉下くんが一瞬ちょっとビックリする。
そして私の背中を撫でた。
「いいよ、…雛乃。無理することじゃないし…。こうしてても嬉しいしさ」
「でも……」
私はこうしてるだけでも本当に嬉しい。
だけど、杉下くんはそれでいいのかな。
「海都が…、ちょっとでも辛かったら…私はヤダ…」
「……辛くないよ」
なぜか恥ずかしそうに杉下くんは言った。
「…辛くないけど…雛乃、かわいすぎだし…」
「…別に…かわいくないよ」
私は杉下くんから離れた。

「可愛いよ」

杉下くんは笑って私に手を伸ばした。
その目がすごく優しくって、私はまた照れてしまう。
「………」
私は彼の手に自分の手をそっと重ねた。
杉下くんは一瞬私の手をギュっと握ると、そのまま自分の体を起こす。
「…シャワー浴びてくる」
そしてちょっと私の方を振り返ると、ダッシュでバスルームへ向かってしまった。

裸のまま、こうしてラブホテルのベッドに一人でいることが不思議だった。
見慣れない天井。
独特の匂い。
「はぁ……」
私は大きく息を吐いた。
(……しちゃった…)
こういう経験をしたら何かが劇的に変化するんじゃないかと思ってたけど、実際の私はなんだかピンとこないままだった。
杉下くんの温もりは、嬉しかった。
エッチってなんかこう、もっとすごくドロドロとしたイメージを想像していた。
だけど、実際はそんなことはなくって。
(…余計、好きになっちゃったかも……)
杉下くんのことを考えるだけで、なんだかジワジワっと心の奥から溢れてくる。


私もシャワーを浴びて、着てきた服をきちんと着た。
二人で普通に服を着た状態で、こんなところにいるのも不思議。
「なんか食べよう。」
杉下くんが言った。
「ここで?」
「うん。まだ時間あるし」
「…ふうん」
私は曖昧に頷いた。
「二人きりの方が、いいし」
杉下くんがニコっとする。
私もつられて笑顔になってしまう。

メニューを見ている間も、杉下くんは私の手を握ってた。
いつもよりもずっと、実際に彼との距離は近い。
杉下くんは目が合うたびに、優しく見つめ返してくれる。
そのままキスしたり、髪を触ったり…。
私はやっぱり恥ずかしくってどうしていいか分からなかったけど、そのまま、杉下くんに自分を任せてた。
こうしてるのも自然な気がした。
触られるっていうのも、幸せだなって思う。
杉下くんの隣にいると、心の奥のジワジワが溢れ出て止まらない。

ゆっくり時間が過ぎる。
二人きりでいられることが、こんなに嬉しいなんて…初めて実感した。
他愛もない話をしながらも、私たちはずっとくっついてた。

「大丈夫…だった?」
「えっ…」
最初何を聞かれてるのか分からなかったけど、すぐにその事だって気付いた。
私は恥ずかしくて彼の顔が見れない。
「うん…。大丈夫」
小さい声で、そう答えた。
まだ血は出てたけど、今は痛いとかそういうことはなかった。
その時は、…すごく痛かったけど。
「………」
杉下くんは何も言わなかったけど、私に軽くキスしてくれた。
優しいオーラが、彼を包んでるみたいな気がする。
それに触れると、何だか涙が出そうな気分になる。
心から、ギューンって…溢れるものがどんどん大きくなってく。
「なんか…」
私は言った。
「ん?」
少し体を離して、杉下くんが私を見る。
いつもの彼なのに、私にとって今までの彼じゃない。
なんて言うか……。

「もっと好きになっちゃった」

私は思わず言ってしまう。
杉下くんはすごく嬉しそうな目になって、そして光りを撒くように笑った。
その笑顔が可愛くって、やっぱり大好きで、…私も素直に笑ってしまった。



初めての、その日 ――――
私は後でほっぺたが痛くなるぐらい、ずっと1日中笑顔だった。


〜ぼくらのキスは眼鏡があたる★終わり〜
 

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