秘密のメガネ君。

☆☆ 9 ☆☆

   

「藤木、カッコよくなったじゃん。メガネ変えて」
「そうでしょ?だってあたしが選んだんだもん」
体操着とジャージ下に着替えて、私と雨美は体育館へと向かっていた。

眼鏡を変えたから、今の光成は眼鏡をかけていても十分に格好良かった。
『藤木』が隠れイケメンと知るや否や、女子の間ではあからさまに人気が出てるらしい。



「そこ、ダラダラすんな」
もろに体育会系の教師に、名指しで注意される。
目をつけられると後々ややこしいから、イヤなのに真面目に走った。
(ああ、ダル……)
もう秋だというのに、すごく汗をかいてしまう。
(汗ダクになるなんてキャラじゃないのに…)
体育の授業が終わって移動しているときに、遠目に光成を見かけた。

結構、背が高いとは思ってた。
裸になると意外に締まったその体は、制服を着ているともっと細く見える。
先日私が選んだメガネは彼によく似合っていて、相変わらず手入れの甘い髪でさえも不思議とお洒落な感じがした。

(なんか、ホントにカッコよくなっちゃったなあ……)

あのオタクっぽい藤木がほんの数日で、かもし出す雰囲気を変えた。
エッチしたり恋したりすると女の子は変わるっていうけど、男の子だってそうなのかもしれない。

元々、ヤツに告白されて、断ってるのに相当強引にデートにつきあわされて、なんだかいつのまに彼女になってた。
結局のところ藤木は隠れ美形だったんだけれど、私は最初そんなことには全然気が付いてなかった。
(でも…)
いまや他の女子から、ヤツと付き合っていることを羨ましがられているのをちょっと思い出す。
(良かった……光成、カッコよくて)
そりゃあ悪いよりいい方がいいに決まってる。
だけどそんなコトは関係なく、私はアイツのことを好きになってた。

だから光成がカッコ良かったっていうのは、私にとっては大きなオマケみたいなものだった。



予定が合う日は大体いつも二人で一緒に帰っている。
夕方の風はだいぶ涼しくなっていたし、暗くなるのもずいぶん早くなっていた。
私たちは並んで、ゆっくりと秋の道を歩いた。

うちの駅についてからは、光成は私の手を握ってくれる。
そんな仕草にも慣れてきていて、ああ彼氏なんだなって思う。
「なんか、最近、あんた人気あるね」
「そうかなあ…?うーん」
ヤツは首をひねっている。
「そうだよー、さすがに気付くでしょ?」
私が光成の顔を覗き込むと、ヤツはニコっと笑い返してくる。
「なんでかな…?美由さんと付き合ってから、雰囲気が変わったからかなあ…」
光成も私に慣れてきて、そんな笑顔もすごく自然で優しい。
なんだかこっちが照れてしまう。
「……うん、変わったと思うよ」
「あ」
光成が前を見て、眼鏡の下の目を更に細めた。
「え?」
私も光成の視線の先に目をやる。


「お?おおお?」
こっちに向かって歩いてきた茶髪の派手な高校生が、光成を見て怪訝な顔をした。
あいつ、知ってる。
「――海都くん?」
光成が彼の名を声に出した。
「お前、もしかして、……光成〜〜???」
海都と呼ばれた他校の生徒が、光成を見て笑顔になる。

「久しぶりだね、海都くん。何年ぶりだろう!」
「5、6年ぶりかな?…なんだよ、お前!だいぶ背が伸びたんじゃねえ?ちくしょー」
並ぶとだいぶ背の低い海都は、光成を叩いた。
光成も嬉しそうに彼を見て懐かしそうに微笑んでいた。
こんな風に友達と話す姿って、そういえばあんまり見たことがないなと私は思った。

海都の視線が私に移る。
「ちぃーっす。光成の彼女?お前もちゃっかり可愛い子と付き合ってんじゃんよ」
「ははは…」
光成は恥ずかしそうにしている。
「ど、どうも…」
私はボソっと答えた。
本格的に美形の海都に『可愛い』と言われて、悔しくも私はちょっと舞い上がってしまった。
「じゃな!仲良くやれよ!」
満面の笑みで、海都は去っていった。
彼はA高の3年で、アイドル並みの容姿で他校の生徒にもかなり人気がある有名人だ。
こんな間近で初めて見たけど、その評判どおりだった。
男の子なのに、キラキラしてる。
海都の彼女はすごい真面目な子らしいってウワサで聞いたことがあるけど、どんな子なんだろう。

「…あの子と、どういう知り合い?」
光成と海都、どう考えてもつながらなかった。
「小学校のとき、習い事が一緒で」
「習い事……って、なに?」
「空手」
「へーー」
光成が空手っていうのは意外だ。
そういえば先日、巻野に絡まれたときの身のこなしは素早かった。
「ボクは中学1年までやってたんだけど、海都くんはもっと早く辞めちゃって」
「ふうん」
「結構、小学校のとき仲良かったんだよ」
「しゃ…」
「?」
「写真とか、ないの?」
思わず聞いてしまった。
海都の小学校時代が気になるというのもあったけど、光成の昔も知りたかった。
「あると思うよ…。えーっと………今度、うち来る?」
「う、うん!」
私にとって、光成は謎の男だった。
付き合えば付き合うほど、知らない彼を知る。
「じゃあ、親のいない時に…」
そう言って照れる光成の表情の裏に、私はちょっと男を感じてしまった。
彼の部屋に行くっていうのは、かなり緊張しそうだし興奮もしそうだ。

「さっきの話の続きだけど…」
「うん?」
突然の海都との遭遇で、私はさっきの話を全く覚えていなかった。
とりあえず、光成の話を聞くことにする。

「変わったのは、美由さんのおかげだよ」
そう言うと、光成は改めて私の手を握ってきた。

「美由さんは……」
「?」
「あの頃のボクを、好きだと言ってくれて…」
「………」

「ボクは………ホントに、嬉しかったんだ」
心なしか潤んだように見える光成の目。
夕焼けに照らされた光成が、清々しくてなぜか切ない。

(うっ……)
ヤバイ、今、胸がギュンってなった。
時々、自分が意識している以上に光成のことが好きな自分に驚いてしまう。

「もう、何年もずーっと美由さんのコトがすごく好きで……」
「………」
「ま、まさか付き合えるなんて思ってなくて…」
「………」

「……ボッ、ボ…ボ…、…ボクは…!」
「ちょ、ちょちょちょっと!ストップ!!」

私は慌てて光成の口を押さえた。
「???」
光成はキョトンとしている。
「だんだん、声がデカくなってるし!もう……!」
「あ」

気付いた光成と目が合うと、二人で笑い出してしまった。
大人しいのか激しいのか、光成はよく分からない。
だけど、結局どんな彼でも私は好きなような気がする。
少なくても今のところは、そうだ。

「続きは家で、ゆっくり話そ……」

今度は私から彼の手を握る。
光成は黙って、だけど堪えきれないって感じで口が横に伸びてニっとした。
やっぱりこの口は大好きだ。

―― 昔の彼も知りたい。
でも、最近の彼も知りたい。
弱気そうに見えるのに、意外に強いみたいだし。
マジメなのか不マジメなのか、その辺りもどうも掴みにくい。
分からないところが沢山あって、ホントに光成は面白い。
その秘密をひとつずつ紐解いていくのも、すごく楽しそうだ。


「ボクは、本っ当に美由さんが大好きなんだよ…。」

ものすごく照れながら、光成はつぶやいた。

そんな光成がすごく可愛く見えた。
きっと彼がどんな彼になっても、私を好きでいてくれる事、それだけは変わらないと確信できる。
愛されてるのが自然に伝わってきて、なんだか胸が一杯になってくる。
(なんで私なんかを、こんなに愛してくれるのかなあ…)
なんだか私まで潤んできそうだ。
私は目をしっかりと開いて、大きく息を吸った。

「私も、ダイスキ!」

光成の手を離して振り向かないまま、急ぎ足で私は玄関の鍵を開ける。
不謹慎だけど、今日は眼鏡を外してされちゃうのかなとか、そんなことを想像してしまった。

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〜〜〜秘密のメガネ君(終わり)〜〜〜
(Extra Thanks:がーこさん(原案))


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