意地悪な彼はホンモノじゃない

1 聞かれちゃった本音

   
「今日子はいいよね、亘理先輩優しそうだし」

最近ハマっているキャラクターの付いたシャーペンを、右手でカチカチ鳴らしながら、つばさはため息をつく。
ゴールデンウィークの時間を持て余していたつばさは、たまたま体験価格の安かった塾へ、友人の今日子と共に短期学習へ来ていた。


「でも、先輩が大学に行ったらあんまり会えなくなっちゃった」
今日子もつばさにつられて、深いため息をついた。
「ゴールデンウィークも、私と一緒に塾に来るぐらいだもんね」
つばさは教室を見渡す。
体験特価のおかげか、20人は入りそうな教室はほとんど席が埋まっている。
(休みの日なのに、勉強してる子はしてるんだな…)
普段していない自分が差をつけられるのも、納得がいく。
もういい加減暑くなってきているのに、ニットキャップとマスク姿の男子が、前の席に座っていた。
変な子だなと思いつつも大して気に留めずに、つばさは話し続ける。

「私も彼氏欲しいよ〜」

高校2年になって、周りの女子は急激に彼氏持ちになっていく。
もちろん彼氏のいない子もいたが、大体の女子は誰かの事が好きで、自分のように、好きな人ができた事もないという子はいなかった。
恋愛感情を知らない、という事が最近のつばさの悩みでもあった。
そんな状態なので、女子友達ともまともに恋愛話すらできないのだ。

「つばさ、モテないわけじゃないじゃん。中学の時だって、相馬君に真剣告白されてたじゃん」
「だって、告られるのって、友達ばっかりだもん。嫌じゃん、好きでも無いのに適当に付き合って、友達関係が崩れちゃうのもさ〜」
確かに、つばさは時々告白される。
大体が仲の良い男子で、大抵、仲良くなり過ぎて告白されて、ちょっと気まずくなって少し距離があいてまた元に戻るパターンだ。
「そう言えば、つばさの口から好きな人の話って聞いた事が無いね」
「……私、恋ってした事が無いかも」
「ウソ、マジで?ウソでしょ」
今日子は本当に信じられない様子で、つばさを見る。
高校2年の春になった今まで、薄く好意を感じる事はあっても、この人が好きでいつも一緒にいたいと思うような、強い気持ちになった事は無かった。

「今日子とか、涼香とか、クラスの友達とか見てるといいな〜って、最近すごく思って来て」
「そう?」
今日子は真剣につばさの話を聞いていた。
「そうだよ〜。そもそも高2にもなって、初恋もまだなんて…、私どっか欠落してるんじゃないかって、不安になってきてるよ」
つばさの前に座っている、ニットキャップの男子の肩が、笑いを堪えて軽く震えたのに、つばさは気付かなかった。

「うーん、別につばさがどっか欠落してるとは思わないけど、ちょっと男子を男として意識しなさすぎなのかもね〜」
「だってクラスの男なんて、友達って感じで。今日子みたいに年上の男の人だったら、また違うのかなあ…」
そんなつばさを見て、今日子は少し考えて答えた。
「じゃあさ、うちのクラスに1人イケメンいるじゃん、片倉って奴」
「どんな子だっけ〜…?」
4月にクラスが変わったところなので、つばさはまだクラスの全員を覚えていなかった。昼休みには、今日子と共に1年の時に仲が良かった友人と一緒にクラスの外でランチしていた。そのせいもあり、つばさは名前を聞いても顔と名前が一致しないのだった。
「え〜!覚えてないの!クラス替え直後に女子がめっちゃザワついてたじゃん!」
「そうだっけ〜?…ああ、あのキラキラした子か」
確か顔のキレイな男子がいた気がする。
美形に興味が無くて、彼のイメージを思い出してもまだ漠然としていた。

前に座っている男子が、チラっと振り返った。
マスクと重装備な眼鏡をしていて、ひと目で花粉症だと分かる。
うるさくしてしまったのかと思い、つばさと今日子は小声になる。
「片倉くんとか超カッコいいし、さすがのつばさでも意識するんじゃない?」
「え〜、あのキラキラ?あんなキラッキラなの、別世界過ぎて無理無理!」
「そうかな〜、目の保養になるじゃん。せっかく同じクラスなんだから、どうせなら片想いでもいいじゃん。あんなイケメンそうそういないよ」
「え〜、ヤダよ。ああいうキラキラな子って面倒くさそうじゃん。女子を敵に回しそうだし、何の修行?って感じ。私はもっと普通に爽やかな子がいいなあ〜」
勘弁してという顔で、つばさは肘をつく。
「じゃあ具体的にどんなタイプがいいのよ」
「そうだなあ…強いて言えば〜…」

そのまま、つばさの好みの話と今日子の好みの話がゴチャゴチャになって、盛り上がっているうちに教師が教室へ入って来る。
そこで自然と会話は途切れた。

つばさの前の席に座っていた男子が、花粉症用の眼鏡を外し、ケースの中の普通の眼鏡と交換して、かけなおす。
(つばさ、って誰だよ…。オレも知らないっての…)
そしてテキストに書かれた『片倉』という名前を、そっと左手で隠した。
 

ラブで抱きしめよう
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