好きという気持ちだけで全てうまくいけばいいのに

●● 11 ●●

   

頬に、柔らかな髪が触れている。
(ああ……)
見慣れない天井を見上げ、改めて自分の状況を柚琉は思い出した。

カーテンから外の光が漏れ、桃子の部屋は明るさを薄く戻していた。
ぐっすりと横に眠る彼女の寝顔を見て、柚琉は改めて、昨日のことが現実で良かったと安心する。
(あー、可愛いなあ…)
柚琉は桃子の髪に触れた。
(これで、オレよりも8歳も上なんだよなあ……年なんて関係ないよなあ)
それでも、この年の桃子と出会ったからこそ、好きになったのかも知れないとも思う。
柚琉は桃子の肩にしっかりと布団をかけ、自分も彼女に寄ると、また目を閉じた。


「今日が土曜日で、良かったね」
二人がやっと起きて服を着た時は、もう11時を回っていた。
「うう……、でもオレ、今日……午後からバイト」
桃子が入れてくれたコーヒーを、低いテーブルに戻して柚琉はため息をついた。
「バイト、って…佐藤さんのところ?」
「うん………サボっちゃおうかな」
半分本気で、柚琉は言った。
「ダメダメ、…ちゃんと仕事してください」
柚琉のバイト先は、桃子の担当だ。
桃子も残念に思ったが、こればかりは仕方がない。
「しょうがねーなあ、……桃ちゃんのお給料も、間接的にオレが稼いでるんだもんな」
そう言うと柚琉は伸びをした。

「……どうもありがとう、柚琉」
桃子は腕を伸ばしている柚琉の胸に回り込んで、そっと寄り添った。
自分に慣れてきてくれる彼女のこんな仕草が、柚琉は可愛いと思う。
「なあ桃ちゃん」
「?」
「……今日、バイト終わったら…また会っていいかな」
柚琉の腕の中から、桃子は顔を上げた。
「うん……大丈夫」

「今日も…泊まってもいいかな」
「う、…うん。いいけど…」
昨日も今朝も会っているというのに、そう言ってくれる柚琉に対して、桃子は素直に感激してしまう。

「じゃあ、オレ、一回帰って着替えてくるわ!良かったー、桃ちゃんち、おれんちと近くて!」

柚琉はそう言っておもむろに立ち上がった。
上着を着てジャンバーを羽織り、鏡を見て髪を直すとすぐに玄関へと向かった。
「それじゃあ、桃ちゃん!バイト終わったら、また連絡するからヨロシク!」
「う、…うん」
「じゃあまた!」
あっという間に柚琉は部屋から出て行ってしまった。

(嵐のような人……)
ついさっきまで自分を抱きしめていた柚琉が、今は部屋にいない。
バイトがあって残念だったが、終わって来てくれる約束をしてくれたのが、桃子は嬉しかった。
(すごく、嬉しい……)
柚琉の気配を部屋に感じながら、目を閉じて彼を思い浮かべる。
(ホントに、嬉しい……)
ストレートに好きだと言葉にして何度も表現してくれる彼は、桃子にとってはとてもくすぐったくて、そしてとても居心地が良かった。

(……すごく…好きになってきちゃった…)

昨夜の柚琉のことを何度も思い出して、桃子はまたドキドキしていた。



「なんだか、お前……ソワソワしてるな?」
何度も時計ばかり見ている柚琉が気になって、佐藤は言った。
「えっ……イヤ…その〜〜〜」
(お見通しか、)
柚琉はその場を取り繕うとしたが、振り返ったその顔は思わず笑顔になってしまう。
「ゲッ……、なんだよ。気持ちワリィな……」
「…………」
佐藤にあからさまにイヤな顔をされて、柚琉はまた通路の方へ視線を戻した。
すぐに客が入ってきて、柚琉と佐藤に距離ができた。
柚琉はホっとした。
吊るされたGパンを見ている客に、佐藤はそっと近付いて接客を始めた。

バイトの間中も、柚琉は桃子のことばかり考えていた。
(想像以上以上に、……スゲエ良かった……)
ゆうべ何度も抱いた彼女のことが、頭から離れない。
(ほん、…っとに!付き合えて、良かった!色んな意味で!)
昨晩の出来事を思い出すと、どうしてもニヤついてしまう。
柚琉は今日をやり過ごすのに必死だった。
佐藤には多分、ほとんどバレてそうだと思いながら。

「お疲れ様っす!すいません!今日急ぐんで!」

ロクに佐藤の顔も見ずに一礼すると、柚琉はもう一人のバイトにも軽く会釈をして足早に店を出た。
普段なら従業員用の出口から行くのに、今日は大急ぎで閉店時間を過ぎて出る一般客に紛れて百貨店を出て行った。

すぐに桃子に電話をかける。

「桃ちゃん?終わった!今からすぐ行くから!」

こうして何の抵抗もなく、桃子に電話できることだけでも柚琉は嬉しかった。
つい先日までメールさえもできないぐらい、桃子にどんな態度をとっていいものか悩んでいた。
(それなのに、今日は桃ちゃんちへ直行できる……)
浮き足立ってる自分が滑稽に思えてきたが、それでも柚琉はそんな気持ちを抑えようとは思わなかった。


桃子のマンションまで、ほとんど半走りで駅から来た。
部屋のある2階まで、階段を走って登る。
息を切らしながら、柚琉は桃子の部屋の呼び鈴を押した。

「はーーい」
桃子が中からそっとドアを開いてくる。

ドキドキしているのは、走ってきたからなのか、桃子に会えるからなのか。
「た、……ただいまっ」
そう口に出して、柚琉は今更ながらにジワリと嬉しくなってくる。
「おかえりなさい」
その台詞と、自分に向けられた桃子の優しい笑顔を見て、柚琉の興奮は一気に加速した。

「桃ちゃんっ!…会いたかった!」

玄関のドアを閉めるなり、思わず柚琉は桃子をギューと抱き寄せてしまう。
「……うっ、…柚琉っ…」
「あっ、……ごめん、桃ちゃんっ…」
勢いで力ずくで抱きしめていた腕を緩めた。
「苦しいよ…」
桃子は軽くむせながら、柚琉を見上げた。
「…嬉しいけど」
照れてそう続けた桃子の表情に、柚琉はグっとくる。

「…オレはすごく嬉しいよ…」

今度は優しく桃子を抱きしめた。

桃子は柚琉の言動全てに、心を奪われてしまう。
想像以上にリアクションを常にとってくれる彼が、桃子にとっては切なくてたまらない。
「……柚琉」
視線を落とすと、柚琉の荷物に目が止まる。
「何?…その大荷物?」
「ああ…、学校の用意とかー、着替えとか?結構持ってきた」
柚琉は桃子を見て、明るく笑った。
(可愛い人……)
桃子はやっぱり嬉しくなってしまう。



「あぁっ……、あぁぁんっ…、あっ…」
桃子は眉間に皺を寄せて、大きな声を出さないように耐えた。
それでも柚琉の動きに、どうしても声が漏れてしまう。

柚琉は桃子のそれぞれの足首を持って、大きく開く。
伸びた彼女の足を、腕を伸ばして更に開いた。
柚琉からは、桃子と自分が繋がっている部分が丸見えになる。
下半身をしっかりと捉えられた桃子は、柚琉の動く度に上半身を反らせ、表情を歪める。
「はぁ、あぁっ…あぁっ…」
桃子のそんな姿もいい、と柚琉は思う。
自分と繋がった彼女のそこは、柚琉が体を引くたびに溢れてくる。

(ああ、なんかスゲー…)
ギュウギュウと締め付けながらも滑らかに自分を滑らせるその場所の感触は、柚琉にはたまらなかった。

桃子は、しっかりと奥まで当たる柚琉に、感じさせられていた。
(気持ちいい……もう……ああ…もう…)
こんな風に激しくされるのは、どれぐらいぶりなんだろう。
恥ずかしいこの体勢に、桃子はますます興奮してしまう。
(ああ、……だめ…いきそう……)

「ああんっ……だめっ…」
「……は、はぁ、はぁっ…」

桃子が達する前に、柚琉は先にイってしまった。

「はぁ…はぁ……」

二人とも息が切れていた。
桃子はもう少しでイきそうなところを抜かれて、まだ体中にジワジワと官能を求める感覚が広がったままだった。
柚琉が優しく、桃子に圧し掛かってくる。
「桃ちゃん………」
「……んん……」
優しい感触で、柚琉の唇が桃子に重なる。
「……すっげー好きだよ…」
小さな声で囁く彼の声まで、桃子の官能に響く。
「うん……」
桃子が頷くと、また唇が重なる。
触れ合う舌と舌の熱さと感触が、お互いをまた熱くし合う。

「う……んん…」

桃子の顔が歪む。
柚琉の指が、桃子に触れた。
襞の中心にある突起を、擦ってくる。
「あぁ、……あぁんっ……」
桃子はたまらず唇を離して、声を出してしまう。
柚琉はそこを捉える指先の動きを速めた。
達したくて達したくて、桃子の中で出口を求めていた官能が一気に高ぶってしまう。

「うあ、…ああ……あぁ…」

「ここ、…気持ちいい?」
柚琉が耳元で言った。
「……あぁ、……あぁんっ…」
桃子は声にできずに、ただ大きく頷いた。
「可愛い……」
器用にそこを動かす柚琉の指が、さらに速くなる。

「う、ああっ!……あっ、……あぁんっ!」


桃子はあっという間に達してしまった。

まだ体を震わせている桃子にはお構いなしに、柚琉は下に回ると彼女の足を開いた。
(あー…なんかスゲーエッチ…)
彼女のそこは、体の震えとは別にヒクヒクと動いていた。
(普段マジメそうに見えるだけに、余計に興奮するんだよな……)
柚琉は手を伸ばした。
指が触れると、桃子がビクンと動く。

「………」
暗がりの中見て分かるほど濡れて滴っている桃子に、柚琉は指を刺した。
その時グニュリと、音が聞こえたような気がした。
まるで彼女のそこが自らの意思を持って、柚琉の指を飲み込んでいくように見えた。

「あああん………」

桃子は両手で口を抑えていた。
まだ感じたままのようだった。
柚琉が入れた指を引くと、ドロっと愛液が流れ出してくる。
(いっぱい、濡れちゃうんだなあ、桃ちゃんは……)
そんなところも柚琉にとって、良かった。

(まだ、イケそうだよな……)
柚琉は手の平を上に向けて、中指と人差し指を桃子の奥まで入れた。
しっかりと指が全部入ってしまうと、指を出さずに中で指先を前後にグイグイと動かす。
柚琉の指の動きに合わせ、桃子は中からグチャグチャと音をたてた。

部屋に、桃子の音が響く。

(やだ……恥ずかしい……)
「うっ、うぅっ……、あぁっ……」
そこをかき回される音以上に、大きな声を出してしまいそうになるのを桃子は懸命に耐えた。
クリトリスを弄られてイったばかりの体は、中で生み出される快感を貪欲に求めていた。

(ああ、…ダメ、……感じる……)

「あぁ、あぁっ、…うあぁんっ……!」

柚琉が中で動かす指の動きに合わせて、桃子のそこも外から見ても分かるほど動いた。
(ああ、またすげー濡れてきた…)
グチャグチャという音が、更に水気を帯びて大きく響く。
柚琉の手の平まで、桃子の愛液でグッショリと濡れていた。

「ああん、……ダメ…!……イっちゃうよっ……」

(イケよ……)
柚琉は力を入れて、桃子の中にある指を動かした。
ギュッと、まずその指先が締め付けられ、そしてその直後に指全体がキツく締められる。
(すげーな、この動き……)
柚琉は指先に気持ちを集中した。

「あぁっ、イクっ………、ダメっ……!……」

一度大きく体を仰け反らすと、一気に倒れこむように桃子の全身の力が抜けた。

(………すーげー濡らしたな……)
しっかりと桃子に掴まれた指を、柚琉はゆっくりと引き抜いた。
愛液が一塊になって、ボトリと垂れ落ちてきた。
それはシーツに更に染みを作ってしまう。
それを見て、柚琉も興奮してくる。
ビショビショになった指を持ち上げて、桃子の顔の前に見せた。

「桃ちゃん、…これ見て」
「えっ……」

桃子はうっすら目を開けた。
目の前に、トロトロに濡れた柚琉の手があった。
「ヤダ……恥ずかしいよ……」
そむけようとした顔を、柚琉の反対の手で制止された。
「こんなに感じてくれるなんて、……オレもすげー嬉しい」
「柚琉…」

(食べられちゃいそう…)
激しいキスを、何度も柚琉にされる。
いつの間にか両手がしっかりと柚琉に掴まれていた。

(ああ、………あああんっ…)

キスされたまま、桃子は柚琉が入ってくるのを受け留める。
(こんな……ダメ……溶けちゃう……もう……)
お尻や太腿の方まで濡れてしまっているのが分かった。
さっき結ばれてから、全く休みなく愛撫されて2度もイかされている体は、柚琉の侵入を待ちに待っていた。

(どうしてこんなに気持ちいいの……)

気持ちが良すぎて、涙が出そうだった。
「好きだよ……桃ちゃん」
さっきよりもゆっくりと動く柚琉から生み出される快感は、達したばかりの桃子に心地よかった。

「私も好き……好き……柚琉…」

桃子自身、こんなに何度も『好きだ』と繰り返したことはなかった。

柚琉の言ってくれる『好き』が嬉しかった。
そしてこんなにも感じてしまうことが信じられなかった。
柚琉に触れる心と体の全てが、今までの自分とは違うような気がした。



「桃ちゃんって、感じ易い?」
時間はとうに日曜日へと日付を変えて、深夜というよりは早朝になりつつあった。
桃子はパジャマを、柚琉は持ってきたスウェットを着て、ベッドに横になっていた。
「…わかんないけど……。なんか……柚琉とだと……すごく感じちゃうみたい」
「オレだと?」
柚琉が目を輝かせて、横にいる桃子を見た。
「うん……なんか柚琉だと……すごい…」
先程、かなり乱れてしまったことを思い出して、桃子は恥ずかしくなってくる。
そう口にするだけで、少し溢れてくる自分がまた恥ずかしい。

「……そうかー…それってマジで嬉しー…」
恥ずかしそうにしている桃子を見て、柚琉は余計に嬉しくなってくる。

「オレも、桃ちゃんといると……なんか今までのオレじゃないみたいな気がする」
「そう?」
桃子は驚いて柚琉を見た。
自分が考えていたことを、柚琉にそのまま言われたからだ。
「うん……。まあ、エッチもそうだけどさ……。それだけじゃないっていうか。
初めて会った時から、すげー話しやすかったし。なんか本音を言えるっていうか…」
「ホントに?」
桃子はドキドキしてくる。
(柚琉もそう思ってた…?)
自分の気持ちを、鏡を見るように言葉にされている気がした。

「……私も、そう思ってたんだ……ずっと、前から…」

「マジで?」
桃子の意外な反応に、今度は柚琉が驚く。
「オレたち、って……」
そこで柚琉は、口篭もる。


(お互いに『運命』なんじゃねえ?)


「何?」
桃子が隣で、じっと柚琉の目を覗き込んでいた。 
「………ううん……いや…」
柚琉はとっさに、桃子の手を取った。
ベッドに横になり二人で向かい合って、手を握ってただ見つめあった。
(オレ、本気で桃ちゃんが好きだ…)
柚琉の手に力が入る。
桃子は優しく笑って柚琉を見た。
そんな彼女があまりにも可愛くて愛しくて、柚琉は胸がジワンとしてくる。
(オレ、離れたくない……ずっと、桃ちゃんとこうしていたい…)
その気持ちは、今までの恋愛では経験したことのない感じだった。


(マジで『運命の人』なのかも……)

――― 本当にそうなりたい、と柚琉は強く思った。
強く思うからこそ、今、軽々しく口にできなかった。

 

ラブで抱きしめよう
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