無造作に投げ落とされた服が、ベッドの足元に重なる。
「桃子……」
(ああ……)
彼に耳元で名前を呼ばれるだけで、桃子は切なくて泣けてきそうになる。
重なる肌も、触れているというのに現実ではないような気がした。
つい今朝まで、自分にとって遥か遠い存在だった柚琉が、今ここにいる。
「うあ、……柚琉……」
足を割り、柚琉が入ってくる。
(ああ……そうだ……)
桃子は彼の背中にギュっと腕を回した。
(恥ずかしいぐらい、……気持ちいいんだった…)
「あぁ……あっ…」
心の裏側に隠すように、柚琉への想いをずっと押し込めていた。
本当は求めていたはずなのに、見ないようにしていた気持ちが一気に溢れてくる。
「ああん……柚琉…」
彼に回した腕が痺れてくる。
(ああっ……だめ…)
懐かしくて熱い感覚が、桃子の体を押し上げていく。
「桃ちゃん……」
「あぁ……」
桃子は薄く目を開けた。
目の前に、柚琉の顔がある。
彼は切ない目で桃子を見ていた。
髪を黒くした彼は少し印象は違うものの、その目の光は以前と同じだった。
(柚琉……)
心が震えた。
そして体内で彼に触れている部分の感覚が、更に研ぎ澄まされる。
(ああ……好き……)
「あん……、あっ…」
心だけでなく体までも、目を背けられないほど柚琉を求めてしまう。
柚琉は自分に回されていた桃子の腕をとった。
手に手を合わせ、しっかりと指を絡ませる。
「好きだよ……、桃ちゃん……」
柚琉は桃子に入った腰をゆっくりと動かした。
体を繋げたまま、キスする。
柔らかい彼女の唇を、柚琉は舌先で撫でた。
「桃ちゃん……」
何度も名前を呼びながら、柚琉は桃子の温もりを確かめた。
「今日……、ホントに会えて良かった」
「うん……」
ベッドで裸のまま、二人は横たわっていた。
繋いだ手の指先を、お互いに何度もなぞり合う。
「オレ……、マジで今日で人生変わったかもしれない」
「………」
桃子も柚琉のその言葉に心の中で頷いた。
彼がここにいてくれるのが信じられないと思うのと相反して、一方で彼と今まで離れていたという事も信じられなかった。
「……柚琉…」
顔の向きを変えて、桃子は柚琉を見た。
彼を見つめるだけで涙が出そうになってくる。
「…………」
柚琉も黙って桃子を見つめ返した。
「ずっと、……好きだったのに」
「桃ちゃん……」
「柚琉のこと、全然、忘れられなかったのに…」
桃子は柚琉にしがみついた。
「オレは……」
柚琉は温かいぬくもりを感じながら、頬に触れる彼女の髪を撫でて、言った。
「…死ぬほど、会いたかった」
唇を桃子の髪に寄せる。
もう二度とこの腕に抱くことはないだろうと、ほとんど諦めていた。
それでも焦がれて、もう一度会いたくてたまらなかった。
(良かった……またこうすることができて…)
柚琉は目を伏せ、桃子を更に強く抱いた。
(またここに来ることができて……また、桃ちゃんと…)
切なさがこみ上げてくる。
柚琉は桃子にキスした。
「…………」
ここまでの想いを全てぶつけるように、激しく、何度もキスした。
「あっ……」
桃子が小さく声をあげる。
柚琉は手を伸ばし、彼女のその場所を探った。
クリトリスを指先で小さな円を描くようにゆっくりと撫でる。
「んん……んっ…」
キスしたままの唇から、桃子の声が漏れる。
焦らすように執拗に、柚琉はそこを何度も撫でた。
「あ、あっ、ああんっ、……あんっ…」
桃子の声が大きくなる。
指先に少しだけ力を入れ、固くなった小さな突起を更に追い込む。
「ああっ…………、あっ……、ダメっ……」
桃子は柚琉の腕を掴み一瞬背中を反らした後、ぐったりと体の力を抜いた。
「はあ…はあ…はあ…あああ…」
すぐに柚琉は桃子の中に入っていった。
まだ達したばかりのその部分は少し震えながら、柚琉をギュっと掴む。
(ああ……やっぱり桃ちゃんはいい……)
柚琉は改めてそう思いながら、しっかりと彼女の奥まで自らを刺した。
「やっ……うぁっ、…ああん!」
(ダメ……ああっ…)
桃子は首を振った。
柚琉は両手で桃子の乳房を掴み、柔らかく揺り動かす。
「あっ、…あっ……、ああんっ…」
(ダメダメっ…、気持ちいいよ………ダメだよ…)
突き動かされる体に、あっという間に桃子の快感が高まってしまう。
「ああんっ、…ダメっ……柚琉っ…」
「もうイっちゃうの?…桃ちゃん」
柚琉は桃子の耳元で囁く。
その言葉に押されるように、桃子の中で一気に高ぶりが突き抜けていく。
彼は更に動いた。
「ああっ!……イクっ……イクっ…」
桃子は一瞬真っ白になる。
自分がどんな反応をしているのかも、分からなくなってしまう。
「ああっ、…あ、ああっ……」
(桃ちゃん、やっぱすげー可愛い…)
顔をしかめて快感で震える桃子から、柚琉は自らのものを抜いた。
「あんっ…」
柚琉は桃子の肩を掴み、一旦体を持ち上げるとうつ伏せに位置を変えた。
桃子の白い背中を少し撫でてから、彼女の腰を自分の方へと引き寄せる。
「うああああんっ……!」
柚琉は再び桃子へと入った。
後ろからこうして突くと、桃子はとても感じてしまう事を知っていた。
(桃ちゃん……)
桃子の背中から腰へと流れる曲線を、柚琉は美しいと思った。
「やんっ…、ま、まだ、……ダメぇ……ああぁぁっ…」
(そう言われても……)
先ほどよりも更に激しく柚琉は桃子の腰を突いた。
彼女はもうすごく濡れていて、柚琉のものを簡単に滑らせてしまう。
それでも感じている内部は更に柚琉を締め付け、余計に彼を興奮させた。
「あ、あ、あっ…あ、…ああ……」
(桃ちゃん、またイきそうなのか……?)
枕に顔を埋めた桃子は、拳をギュっと握っていた。
細い腰のくびれに手をかけ、柚琉は桃子をしっかりと捕まえる。
(ああ…オレもヤバいかも……)
柚琉は叩きつけるように自らの腰を桃子へとぶつけた。
(ああ……マジで…)
「あ、あ、…あっ……あぁぁぁぁっ…」
桃子の声も切羽詰っていた。
柚琉は自分がイキそうになる一歩手前で、桃子から自分を抜いた。
ボタボタと愛液が滴り落ちる。
「はあ、はあ…はあ…」
(ヤバかった………まだ……オレは我慢だ…)
再び彼女を仰向けに戻した。
桃子はもう柚琉にされるがままで、体の力が抜けていた。
「はあ…はあ……ああ…」
(桃ちゃん…)
薄目を開けてこちらを見た桃子の目の色っぽさに、柚琉は背中がゾクっとした。
(こんな顔……)
柚琉は桃子のその場所に指で触れた。
体の興奮と気持ちの興奮で、柚琉もまたどうにかなりそうだった。
(これから先、絶対オレ以外のヤツに見せるなよ…)
柚琉は指を一気に桃子の奥へと挿れた。
「ああっ…」
桃子は再び目を伏せ、顔を歪める。
中に入った指先をグっと折り曲げると、柚琉は指を中で思いきり動かした。
「あっ、あ、あっ、ああ、ああんっ…」
既に留まることなく溢れているそこから、グチャグチャと大きな音が出てしまう。
桃子は自ら足を開いて、既に柚琉のされるがままになっていた。
(今日は……)
普段は女の子らしく可愛い桃子からは想像もできないようなこの姿態に、柚琉自身の興奮もピークに達しそうだった。
(限界まで……)
柚琉は指の動きを止めることなく、更に激しく桃子を責める。
桃子の切ない声とその様子で、またそろそろ彼女が達しそうになるのを悟る。
「ダメ……、柚琉っ……、あっ、あっ…あっ、あっ…」
更なる快感を求め、無意識に桃子の腰は動いていた。
―― ただの女と男になって、貪欲に何度も求める一夜が過ぎた。
携帯のアラームが鳴っても、桃子は暫く手を伸ばすことさえできなかった。
「ううーーーん………、ダメだぁ…」
うつ伏せの状態で熟睡している柚琉をチラっと見て、桃子は携帯を取るとまたベッドに倒れた。
「会社は無理だな……」
そうつぶやいて、桃子は溜息をついた。まるで砂が入っているように体中が重い。
(昨日は…すごかった……)
昨晩というよりもつい先ほどまで、柚琉と交わっていた。
(やっぱり……若いから体力あるのかな……)
桃子は改めて感心してしまう。
(柚琉…)
彼が、すぐ隣で眠っている。
それが嬉しくてたまらなかった。
「やっぱり……柚琉がいて欲しい」
無防備な寝顔を見ていると、また切なさが溢れてくる。
「好き……」
桃子は柚琉の裸の背中に、頬を寄せる。
「柚琉、大好き……、愛してる……すごく、愛してる…」
何度もそうつぶやいて、彼の黒い髪を撫でた。
正午になって、柚琉はやっと目覚めた。
「ああ……ああ……」
短い髪があちこちに向いて跳ね、その頭を更にクシャクシャとかき混ぜながら起き上がる。
「おはよ」
桃子は既に部屋着に着替えて、テーブルのところに座りコーヒーを飲んでいた。
柚琉は寝ぼけた顔で、桃子をじっと見て言う。
「……起きた時、一瞬夢見てるのかと思った」
「寝すぎて?」
桃子は笑顔で答えた。
「いや……ここにいるのも、オレの願望から出た妄想でさ…昨日のことだって全部夢じゃないかと」
「………妄想?」
「でも体中が痛えから、……現実なんだなって」
頭を掻いて柚琉は笑った。
「………」
桃子は昨晩のことを思い出して少し恥ずかしくなってしまう。
「桃ちゃん、来て」
「うん」
ベッドの縁、柚琉の隣に桃子は座った。
「良かった………現実で」
「うん」
桃子も笑顔で頷いた。
二人の顔が近付く。
柚琉の指がそっと桃子のあごに触れる。
「マジで、……良かった…」
(私も………本当に…)
柚琉がいるだけで部屋の空気が違った。
ドキドキして、愛しさが溢れて止まらない。
どうして意地を張って、何のために離れていたのか。
こうしていると、昨日までの自分の行動に全く意味がなかったと実感してしまう。
(どうして……離れていられたんだろう…)
様々な想いを遮るように、柚琉が更に近付いてくる。
桃子は目を閉じた。
優しくそっと触れたお互いの唇が、とても柔らかかった。