秘密のメガネ君。 |
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胸が突っかかるみたいな…。妙な違和感を感じていた。 普段の彼。 素顔の時の彼。 (なんか、違うんだよね……) 藤木は藤木なんだけど…、何か違う。 (考え過ぎかなあ) エッチの時に性格が出る、っていうのはあると思う。 藤木の変わりようも、もしかしたらそういう事なのかもしれない。 (わかんないけど……) 彼には、きっとみんなの知らない一面があるんだ。 (そう言ってしまえば、誰だってそうなのかもしれないけど…) とにかく、私は藤木のことがキライじゃない。 素直に言っちゃえば、たぶん好きになってる。 もう一つ言ってしまえば、普段の藤木も、違和感のある方の彼も、どっちも好きみたい。 どっちも好きだからどっちでもいいやと思って、その時は深く考えなかった。 「早く!意外に美由ってトロいよね」 「……待ってよ、もう…雨美が急かすからだよ…」 私は友人の後について走って教室を出た。 昼休みの廊下で、何気なく視線を感じた先に振り返ってみると、向こうに藤木がいた。 「………」 藤木はすぐに私に気がついて、一瞬照れたような素振りを見せると目をそらした。 「ちょっと待ってて」 雨美にそう言うと、私は彼の方へと向かった。 「……美由さん」 私が近付いてくるとは思っていなかったらしく、藤木は驚いているようだ。 「あのさ、今日……、一緒に帰る?」 その言葉に彼の顔がパっと明るくなる。 「えっ……い、いいの…?」 オドオドしながら、たちまち赤面していく藤木。 こういう反応が面白くて、好き。 「じゃあ、玄関でね」 私が戻ると、雨美は藤木と私の顔を見比べながら言った。 「あんたたち、ホントに付き合ってるんだね……。なんか変な感じ」 変な感じといえば、自分でも変な感じだ。 だから雨美がそう言うのも分かる。 授業が終わり、急いで玄関に行くと藤木はもう先に待っていた。 「変なの」 歩きながら下を向いて、私はボソっと呟いた。 すぐに学校から出たから、通学路にはまだそんなに人がいない。 それでも私と藤木とのツーショットを驚いた顔で見ている子が何人かいた。 「変、かな…?」 藤木は眼鏡の縁を両手で押さえて位置を直している。 「ボクは今最高に嬉しいけど…」 ヤツは結構恥ずかしい事を平然と言う。 「………」 それに対して、いつも私は答えることができない。 そんな風に言葉にすることにもされることにも、全く慣れていないのだ。 冬服のブラウスの長い袖を指先でギュっと握りながら、私はただ藤木を見て笑った。 なぜか藤木はそれだけで真っ赤になって、ちょっと口の端を緩ませると前を向いた。 あんなにエッチな事をしてるのに、こうしている私たちはまるで子どもだった。 数日後、昼休みがもう終わろうとしている時間にクラスの男子が私のところに走ってきた。 その顔はニヤニヤしていて、私の反応を探るように彼は言った。 「おい、藤木が巻野と廊下で喧嘩してるぜ」 「うそ!」 教室を出ると、廊下の奥に人だかりがあったからすぐにそこだと分かった。 ざわざわしているギャラリーの外に、眼鏡が落ちている。 私はそれが藤木のものだとすぐに悟り拾い上げると、人を分けて輪の中心へと向かった。 (ええっ……?!) 巻野が藤木に殴りかかろうとしていた。 正確に言うと、巻野は藤木に殴りかかっていた。 藤木は巻野が出した腕を巧みに避けていて、巻野はそのたびに体勢を崩してよろめいている。 すごい反射神経だ。 巻野が伸ばした腕を藤木が上から軽く叩き落すと、巻野はバランスを崩し膝を付いてしまった。 「てめー、ふざけんな…」 座りながらそれでも巻野は睨んできて、今にも藤木に飛び掛りそうだった。 「ちょっと!何してんの!」 私は藤木の前に割って入った。 「榎森かよ…」 イヤな笑いを浮べて、巻野は私を睨んでくる。 「……まき」 「行こう、美由」 巻野に言いかけた言葉を遮って、藤木は私の肩を抱いた。 さっきまでうるさかったギャラリーが、なぜか静かになる。 巻野に一瞥した藤木の態度は妙に迫力があって、みんなの視線が一気に彼に集中した。 (………) 周りにいた女子の彼を見る目つきが変わる。 どんな風に彼を思っているのか、手にとるように分かった。 私の肩を抱いてギャラリーの輪から抜ける彼は、贔屓目なしでもホントに格好良かった。 「なに?ど、どうしたの?何があったの?」 私を引っ張った藤木は、廊下を抜けて実習棟に入り、そのまま屋上へと向かった。 すぐにチャイムがなり、昼休みの終わりを告げる。 「美由……」 目を細めて私を見ると、彼は私の背中を壁に押し付けた。 「んんっ……」 キスされた。 それも濃厚に。 「んっ……はあっ……」 やっと唇が離れる。 藤木の手が、私の髪を撫でた。 そして、おでこにチュっとキスしてくる。 一連の彼の仕草に、思わず私はうっとりしていた。 ものすごいドキドキしていた。 「光成……巻野と何があったの?」 「何でもない」 「…何でもないわけないじゃん」 普段温厚(に思える)な藤木が、喧嘩するなんて理由がないわけがなかった。 藤木は少し体を離すと、私をじっと見つめてきた。 そして薄く笑う。 その表情がたまらなくセクシーで、私はもっとドキドキしてしまう。 「オレのこと、心配してくれんの?」 「だっ……だって」 私はオドオドしてしまう。 彼らしくない態度だった。 素顔の藤木はすごく色っぽい。 ……なんか、ヤバい。 藤木の手がちょっと耳に触れて、また私の髪をかきあげる。 耳元に、彼の唇が近付く。 「オレのこと、好き?」 思わず首がブルっとしちゃったのは、くすぐったかったからだけじゃない。 「……光成」 「……なあ」 「!」 耳たぶを舐められた。 「言って」 小さい小さい声で、藤木は言った。 私はすごく、ゾクゾクしてしまう。 「好き」 仕方なく私は言葉にした。 すごくドキドキして、もうすごく興奮してた。 自然に彼の唇に目がいってしまう。 「じゃあもう聞くな」 藤木はそう言うと、私の唇に自分の唇を重ねてくる。 濃密なキスをしながら、彼は私のブラウスのボタンを外す。 (やっ……やだ…) 胸元に入ってきた彼の手は、私の乳房をじかに触ってきた。 (やだ……やあんっ…) 次のチャイムが鳴るまで、私は唇を塞がれたままずっと胸を触られていた。 あまりに欲情して、どうにかなってしまいそうだった。 |
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