ぼくらのキスは眼鏡があたる |
9−2 初体験 |
「………んっ……、うっ…ん……」 森川さんが小さな声をあげる。 眉をひそめて、唇に手をあてていた。 声をガマンしてるみたいだった。 ボクの指が動くのに反応して、彼女の体がビクンとなる。 多分、彼女は感じ易い。 ボクはものすごく興奮してくる。 制服を着たままの森川さんの姿を、ボクは薄目で見つめる。 彼女は清純そのものだ。 ボクは森川さんのショーツの中に手を入れて、彼女のその部分の亀裂に指を這わせていた。 多分どう考えても処女であろう森川さんに、指を入れて愛撫はしなかった。 裂け目の間にある突起を、ボクは丁寧に触った。 始めは渇いていたその部分も、しだいに潤ってくる。 それがボクを喜ばせ、そして興奮させた。 「…………、んん……」 森川さんがボクの下で首を振る。 さっきから固く目を閉じていた。 (すっげー可愛い……) 眼鏡じゃない森川さんの顔。 そして見たこともない表情。 ボクの指先に感じる柔らかい感触……そこを開いて顔を埋めたい衝動を抑えた。 少し下の方に指を滑らせると、潤った彼女の入り口がある。 ボクは時々そこにも触りながら、早くここへ入りたくて仕方がなかった。 彼女の反応を見ながら、ボクは時々森川さんの耳にキスする。 そうすると彼女はビクっとして、さらに体を固くさせる。 「や……、…杉下、くん……だめ…」 森川さんは小さくつぶやく。 それははっきりとこの行為を否定しているものではない気がした。 彼女はすっかり抵抗しなくなっていて、ボクの指の動きに今翻弄されている。 「…、はぁ……はぁ……、あぁ……」 (なんて可愛い声出すんだよ……) 多分ボクは森川さんの全部が好きなんだと思う。 今日は本当に強烈にそれを思う。 森川さんのイヤなところなんて、ボクにはひとつもなかった。 指先でその部分を擦りながら左右に揺らす。 「んんっ、……やっ……」 森川さんが腰をひねる。 ボクの指はその部分を捉えていて、離れなかった。 「ん、…ん、ん……あぁっ…」 彼女の脚が伸びる。 ボクは更にその部分を愛撫する。 「……やっ!…」 愛撫するのに没頭していて、ボクは一瞬何が起きたのか分からなかった。 ボクの体は弾かれていて、下にいたはずの彼女は窓際の壁に座る体勢で寄りかかっていた。 「………」 ボクは体を起こして森川さんを見た。 「…………!」 森川さんは泣いていた。 (…………マジかよ) ボクは一瞬で青ざめるぐらい焦った。 両手が急に冷たくなってくる。 ボクの右手の指は彼女のもので濡れていたけれど、そんなことはどこかに飛んでいた。 (ヤバ……) 「森川さん……」 近付きたかったけど、ボクまで固まってしまったみたいだ。 ポロポロと涙をこぼす彼女を、ただ呆然と見ていただけだった。 本当にどうしていいのか分からない。 (泣かせた………) 彼女の前ではボクはしょっちゅう挙動不審だけど、今このときが一番そんな気がする。 どうしようって、その言葉ばかりが頭をグルグル回っていた。 「……ご、……ごめん…」 ボクはなんとかそれだけ言った。 ボクの言葉に、森川さんは首を振った。 手で涙を拭っている。 どうしていいか分からないボクは、とりあえずティッシュを箱ごと渡した。 「…ごめん」 今度は森川さんが言った。 「ごめん……ボク…」 森川さんの『ごめん』を消すみたいに、ボクはまた謝る。 「ホントにごめん……ごめんな……」 ボクがそう言うと、森川さんはまた首を振った。 そして涙を拭きながら、肌蹴ていたブラウスのボタンを直す。 彼女の乱れた姿を見て、ボクは足元から頭までガーっと後悔という波が一気にこみ上げてくる。 「………」 しばらくボクらは、お互い黙ったままでいた。 「…ありがと」 森川さんは落ち着いたみたいで、ティッシュの箱をボクに返した。 「………」 ボクは黙ってそれを受け取る。 1mもない彼女との距離だったけど、心の距離はぐんと離れてしまった気がした。 やっぱり、焦り過ぎたのか。 いきなり押し倒してってのは、まずかったよな…。 って今更反省しても後の祭りだ。 「帰る……」 「うん……」 勿論ボクは引き止められるワケもなく、彼女が帰ろうとするのを受けとめるしかなかった。 「送っていっても……いい?」 ボクは恐る恐る聞いた。 このままの状態の彼女を一人で帰すのも心配だったし、どんなに気まずくても今日この部屋で別れてしまうのはイヤだった。 「うん」 森川さんは、小さく頷いた。 ボクの家を出て、鍵を閉める。 森川さんと来た道を、歩き出した。 稜二の家へと続く道を見ながら、今ここであいつには会いたくないなと思った。 日の長い夏の夕空はまだ明るかった。 横を歩く森川さん。 さっきから全然しゃべってない。 ボクも何て言っていいのか分からなくて、何も言えないでいた。 多分、今何を言っても単にボクの欲情への言い訳になってしまう。 彼女をちらっと見ると、少し泣いた感じの顔だった。 (はあ………) 猛烈に自己嫌悪になる。 ボクの心に大きさがあるならば、今これ以上ないってぐらいに小さくなっているに違いない。 彼女を見る。 俯いたまま、黙って歩いていた。 彼女をこんな表情にさせたのはボクのせいだ。 隣にいるのに、さっきまであんなに近くにいたのに、心がどんどん離れていくような気がしてボクはすごく不安になってくる。 「…………」 ボクは思い切って森川さんに手を伸ばした。 「………!」 手に触れると、彼女は一瞬ビックリしたみたいだった。 「………」 森川さんは何も言わずに、ボクの手を少しだけ握り返してきた。 ほんの微妙な力加減だったけれど、ボクは少し救われた気分になった。 ボクらはほとんど何も喋らないまま、電車を乗り継いで彼女の家へと向かった。 繋いだ手だけは、離さないでいてくれた。 「今日は、……ホントにごめん…」 彼女の家が見えてきたとき、ボクは立ち止まって言った。 「………」 森川さんがボクを見上げる。 「…ううん………私こそ…泣いてごめん」 ボクは森川さんを見た。 眼鏡をした姿はいつもの優等生っぽかったけど、ボクにとっては大切で大好きな『彼女』だ。 ボクを見つめる目。 眼鏡の奥にあんなに可愛いのを隠してるなんて、本人は分かってるんだろうか。 今こうしていても、ボクは森川さんの唇に目が釘付けで、…キスしたい衝動は相変わらず体の奥からこみ上げてくる。 「……怒ってるよな…」 ボクは言った。 言った後で、何だか情けない声出したなと思った。 「………」 森川さんは首を振った。 「……怒ってないよ…」 繋いだままの手を、森川さんはちょっと持ち上げて言った。 彼女のそんな仕草に、ボクはまたドキドキしてくる。 「ホントに……?」 ボクは彼女を真っ直ぐに見た。 「…うん」 相変わらずの可愛らしい声を出して、ボクを見つめ返してくる。 「…………」 ボクは森川さんの手にキスした。 ものすごくドキドキしていた。 さっき、欲情にかられて押し倒したあの時以上に、ドキドキしていた。 また真っ赤な顔になった森川さんが家に入るのを見届けながら、ボクは複雑な想いで自分の家路についた。 |
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