意地悪な彼はホンモノじゃない

14★ 冬唯・SIDE2

   

つばさと付き合う事になって2週間が経とうとしていた。

「今日も梅ちゃんと一緒に帰るの?」
大きな弁当箱をしまいながら、浩紀が言う。
高1の時から仲の良い数人と、今のクラスの友人とゴチャゴチャになった状態で、昼休みは他のクラスでオレたちは過ごしていた。
ここは理系のクラスで、男が多いので居心地が良かったからだ。
昼休みになるとその空気を察してか、女子は他へ行ってしまい、実際男しか教室にはいなかった。

「うん、帰るよ」
オレは答えた。
「最近、付き合い悪いじゃん。そんなに今の彼女の事気に入ってんのか?」
クラスが別で、つばさの事をほとんど知らない白石が言った。
「まあ、付き合おうって言ったのオレだし」
「そうだったよな。気まぐれにしても、スゲー珍しくね?お前の方から女の子に声かけるなんて」
浩紀からはつばさの事を時々突っ込まれていたが、確かに浩紀は中学の時から一緒で、オレの今までの事をよく知っていた。
(珍しいって言うか、初めてかも)
確かにオレは自分から付き合おうとした事は無かった。

何となく勢いで『付き合おう』とつばさに言ったが、時々、なんでそう言ったんだろうと思う事がある。
これまでのオレだったら、そんな風に軽く女の子に声をかける事なんてしなかった。
(不思議だよな……)
ノリと言えばそれまでだったが、縁と言えば、それも縁なのかも知れない。


一度キスしてからは、帰り際にオレは必ずつばさにキスしていた。
キスされるつばさはすごく可愛らしくて、照れる姿を見ていると少しはオレの事を意識しているんじゃないかと感じた。
オレは、つばさが可愛かった。
キスすると、付き合っている事を実感する。
ほんの数日前まで、全くの他人だったのに。



「広いねー、冬唯くんち!」
母親が関西にいる家族の方へ行く事が頻繁にあるので、週末、オレの家には誰もいない事が多い。
つばさを家に呼んだのは、下心があるからというわけではない。
付き合ってまだ日も浅かったし、つばさとはいずれそういう関係になればいいなというぐらいで、具体的にどうこうしようと思ってはいなかった。

つばさの方も、男のうちに来るというのに全くそんな事は頭に無いようだった。
部屋に通して、今のオレの現状の話をする。
女の子にこんな風に、自分の状況を言った事は無かった。
彼女だけど、友達に近い。
つばさがそんな存在だから、オレは話しやすかった。
「……」
勉強机を前にして、オレが普段勉強しているイスに座るつばさをしみじみと見る。
緑のスカートに袖がシフォンの白いトップスを合わせているセンスも良かったし、つばさから受ける印象の通り爽やかな感じがした。
恋愛経験が無いせいか、彼女はベタっとしたところが無い。
そこもオレ的には好感度が高かった。

オレが引っ越してしまうかも知れないという話に、つばさの顔色が変わる。
「寂しい」と口に出したその言葉は、本音なんだろう。
実際に寂しそうで、そして恥ずかしそうにしている感じがすごく可愛い。
小動物みたいだ。

オレはつばさにキスした。

―― 2人きり、誰の目も気にする事はないこの状況。

触れるだけのキスは、何度もしていた。
つばさの口の中に舌を入れた。
舌を触る。
そして歯の裏。
少し離して、また唇を合わせる。

「はあっ…はぁっ…」

つばさの息が上がる。
「かわいいね、つばさ」
本当に可愛いと思って、オレは思わず言った。
「えっ…、えっと…、ううん、別に、か、か…かわいくないよ」
つばさはこまった様子で、キョロキョロと辺りを見回し、オレから目をそらす。

(マジで、可愛いじゃん…)
「おいで」
オレはつばさの腕に触れたまま、立ち上がり、ベッドの方へ連れて行く。

つばさが部屋に入って来た時も、そういうつもりは本当に無かった。
しかしキスしてしまうと…。
つばさの口の中、生々しい粘膜の感触に触れてしまうと、オレはたまらなくなった。
もう、その時は抱きたくて仕方がなかったと思う。
正直、頭の中がそれだけになっていた。
「かわいいよ。つばさは。すっごいオレ好み」
「なんで…?だ、だ、だって、わ…私なんか普通じゃん」

(オレにとっては、普通じゃないのかも…)
オレはつばさをよく見た。
少なくとも今、目の前にいる彼女に嫌いなところなんてどこも無い。
むしろ、オレを猛烈に魅了してくる。

「そうかな?…オレ、すごいつばさの事好きだけど」

オレのその言葉に、つばさの目が一気に潤む。
それは傍目に分かるぐらいで、オレの中で彼女を守りたいと思う気持と、その真逆の感情が一気に湧き上がってくる。
「いいわその反応。やっぱ、スゲーかわいい」
「かっ……」
言葉に詰まる彼女が、慣れていない感じがよく分かってまた可愛い。
オレはつばさの髪を撫でて、さらに近づいた。

「つばさってさ、…キスしたのオレが初めて?」
「そうだよ!だって誰とも付き合った事が無いって、知ってるでしょ」
真っ赤になって下を向いている彼女の頬を、オレは両手で触れた。
「ほっぺ、真っ赤。熱い」
「そりゃそうだよ。…な、慣れてないもん。こういうの、全部」
オレの手に挟まれた小さな顔から、熱い体温が伝わってくる。
(はー、かわいー…)
「…そうか。でもオレだって慣れてるわけじゃないよ」
「ウソ」
見上げたつばさの表情が、拗ねている様に見えるた。
オレは軽くキスして、すぐに唇を離した。
頬に触れていた右手をつばさの首の後ろへ回すと、自分の方へ引き寄せる。

「ねえ、つばさの『初めて』、全部オレにちょうだい」



オレはつばさを押し倒して、夢中でキスをしていた。
つばさの事をちゃんと考えたら、ここで止めた方がいいという事は分かっていた。
しかし既に右手の中にある柔らかい感触が、オレの理性をどんどん削いでしまう。
(ヤバイ……止められない…)
つばさの乳首を確認するように、指で触った。
手のひらにある感触は思った以上に柔らかくて、握ると先端が尖っていくような感じがした。
オレは中指と親指でそれをつまむと、その先を人差し指で何度も撫でた。

「んんっ……」

合わさった唇の間から、お互いの息が漏れる。
長い間キスをして、その間もオレはつばさの洋服に手を突っ込んで、そしてブラジャーに手を入れて、彼女の胸を触った。
止めないといけないという理性のかけらが、オレを迷わせる。
次の行動に進めないまま、キスをしながらしばらくつばさの胸を触っていた。

「はあ…、はぁ…」

オレはやっとつばさの服から手を抜いて、少し体を離す。
つばさはぐったりしていた。
その様子が妙に色っぽくて、更にオレを欲情させた。
真っ赤な頬をした彼女の吐いている吐息がこの部屋に充満して、空気全部が桃色に染まっていくように感じた。

「冬唯くん…」

(そんな可愛い声で、名前を呼ぶなよ…)
オレは『彼女』にしか名前を呼ばせない。
夏生まれなのに「冬」という字が付く自分の名前を、聞かれる度にいちいち説明するのも面倒だったからだ。
それに彼女にしか呼ばせないところが、オレにとっての『彼女』を特別なものにしている気がした。

オレは彼女のスカートをまくりあげる。
そしてショーツの中に手を入れた。

(うわ、マジでヤバイ……)

つばさはすごく濡れていた。
手のひらに感じる薄い毛の感触、指先で触れる場所はとても柔らかくて、もうヌルヌルしていた。
―― ここまで来てしまったら、もう引き返せない。


濡れた襞の間、指の滑る上側に丸いところがある。
オレはそこをできるだけ優しく、何度も触ってやる。
「うぅ……」
つばさは声を出さないように、手で自分の口を押えていた。
「声、我慢しなくて平気だよ。聞かせてよ」
オレは左手で、口元を押さえていたつばさの右手を掴んだ。

改めてつばさの顔を見る。
「んぅ…うっ…」
固く閉じた目、我慢しようと噛んだ唇。
彼女のそこに触れるオレの右手の指先は、彼女の出した液体で滑る。

オレは先程よりも力を入れて、その部分をさらに早く撫でた。
「あっ、あっ!…あ…」
左手で掴んでいるつばさの腕が、逃れようと動く。
オレはその手をしっかり握り直して、さらに右手でつばさを愛撫する。
「はぁっ、あぁっ……」
つばさが体をよじる。

(感じてくれてる…)

何もかもが初めてのつばさが、オレの愛撫で乱れる姿はたまらなかった。
オレに全然関心の無かった数日前のつばさを思い出す。
今、オレの腕の中で確かに彼女は感じていた。
「はあ……」
つばさを見ているだけで、オレの興奮は高まっていく。

「あー、もう、すごい可愛い…」

オレはまたつばさにキスした。
彼女の唇を舌で何度もなぞる。
つばさの開いた唇から漏れる熱い息が、いい。
(ほんと可愛い過ぎ……もうヤバイって)
オレはゆっくりと指を入れた。

濡れていたから、思ったよりもスムーズに指は入っていく。
(中、熱い……)
つばさの体の中、今オレの指を締めつけているこの場所に、自分のものを埋められたらどんなに気持ちがいいだろうと思った。

「あぁっ……、あっ…」
歪むつばさの表情。
「痛い?大丈夫?」
オレはつばさの髪を撫でた。
額にはうっすら汗をかいていた。
可愛過ぎて、オレはつい中の指を動かしてしまう。
「あぁっ…」
つばさが声をあげる。
「い、痛くないけど…」
泣きそうな顔で、首を振るつばさ。

―― オレの全身が、彼女を求めた。

「入れさせて…。ねえ、いい?」


オレの言葉に、つばさは目を開ける。
見上げるその瞳が少しおびえていて、それがまたオレを余計に煽る。
「オレの事…好き?」
つばさがオレを好きなのかどうか、ハッキリと聞いた事が無かった。
嫌われていないのはよく分かる。
もちろん好かれているのも分かる。
しかし、本当の意味でオレの事を好きになったのかどうかは、こうしている今だって確信が持てない。

「……」
つばさは小さく頷いた。
言葉にされなかったのは物足りなかったが、その頷きはオレの行為を後押しするのには十分だった。



(ああ………)

―― オレはつばさに入っていく。

入れる直前まで、「してしまっていいのか」と躊躇する気持ちはあった。
しかしつばさがそこにいるから、そんな気持ちはすぐに押しつぶされる。
(うぅっ……)
中に引っかかる何かを、貫いた感触。
それでもオレはもう迷う事なく、彼女の奥まで自分のものを押しこむ。
男の侵入を拒むように固いままの、その部分。

「ああっ!!いたぁいっ…!痛っ…!!」

つばさは本当に苦しそうで、辛そうだった。
(うわ、めっちゃ痛そう……)
気付けばオレも汗だくだった。
オレの下にいるつばさは、顔を歪めてオレの腕をつかむ。
苦しさで、逃げるようにからだを捻る。
本気で痛そうで、オレはつばさにすごく悪い事をしている気になってくる。

しかしオレはつばさを押さえると腰を引いて、そしてまた彼女の中へ自分の猛りを勢いよく戻した。
(やばい……)
「あぁっ!……やっ……、痛いっ!…やぁっ…」
つばさは泣いていた。
彼女の体内がオレを拒絶するように、キツく締めつけてくる。
(やばい、スゲー気持ちいい……)
可哀想に思う気持と裏腹に、オレの体と心は、すごく興奮していた。
(ごめん、つばさ……)
固く閉じたつばさの目から、涙がどんどん零れてくる。
「やっ…、うぅっ……、あぁっ…」

苦しい声をあげるつばさ。
分かっているのに、オレは動くのを止められなかった。




つばさを早い時間に送って、その夜。

オレはつばさにした事を後悔していた。
つばさには抵抗されなかったが、かなり自分本位な行動だったと思う。
途中からやりたくてたまらなくて、完全に理性が飛んでしまった。
(すごい苦しそうだったよな…つばさ…)
オレの下で、オレが動く度に、泣きじゃくっていたつばさ。
痛くて苦しいだろうという事は分かっていたのに、オレはそんなつばさの様子にさえ、興奮していたのだ。

涙で顔をぐちゃぐちゃにするつばさも、すごく可愛かった。
純粋でキレイなつばさを壊しているという背徳感が、オレをもっと興奮させた。
そんな悪魔みたいなオレの感情に対して、終わった後、オレ自身がかなり引いてしまった。
(つばさ………)
彼女の泣き顔を思い出す。
(痛そうだったよな…)
辛そうで本当に可哀想だったと思う。
それでもこうして思い出しながらも、また興奮してしまう自分も否定できない。

「オレ、ドSなのか……?」
口にしてみて、改めてそんな事は無いと思う。
オレはつばさの喜ぶ顔が好きだったし、嬉しそうにしているところが見たい。
(でも……)
数人の今までの『彼女』とセックスしてきたが、もしかしたら今回が一番昂ってしまったかも知れない。
(やばいな……オレ…)
自分にこんな一面があった事が、少し恐ろしい。
明日、平常心でつばさの顔が見れるだろうか。

「はあ……、やっちゃったよ…」
つばさを抱けたのは素直に嬉しい。
だが、オレは大きな罪悪感に苛まれていた。

つばさは嫌じゃなかっただろうか。
もしかしたら、あいつはかなり無理矢理をしていたんじゃないだろうか。

軽い男だと思われて、
…オレの事を嫌いになっていないだろうか。
(そっちの方が、やばい…)
2週間の間、確かにオレは急ぎ過ぎた。
色々な事が早すぎたが、 今日の行動は絶対に時期尚早だったと思う。
今更ながらに、つばさの泣き顔が胸に痛い。

つばさを目の前にして、単純な衝動に完全に流された自分が情けなかった。

「すげー泣いてたよな…」
少し時間が経って、なって冷静に考える。
つばさが初めてだという事が分かっていたのに、オレは全然優しくできなかったと思う。
つばさに触れた、最初の方だけだ。
その後は欲情に任せて、乱暴にしてしまったような気がする。
泣いているつばさを優しく扱うどころか、涙に煽られてただひたすらに興奮していたんだ。
(…オレ、最低かも…)
同学年の仲間内でも、オレはそんなに経験値が低い方ではない。
それなのに、つばさの前でそんな経験は全く生かされなかった。
(ああ…あいつは初めてだったのに…)

衝動に任せて強引にしてしまった事に後悔はしていたが、「ごめん」と謝るのも違う気がして、オレはできるだけいつもどおりに、そしてつばさの体の事を気遣って電話をした。
電話口でのつばさは案外普通で、声だけを聞いていると普段と変わらない。
しかし大き過ぎる罪悪感の裏側で、オレの体はつばさに反応してしまう。
正直、尋常じゃなく興奮していたせいもあるのだろうが、つばさの体はすごく良かった。
一緒にいる時も相性の良さを感じるが、多分体の相性もいいんだろう。

(つばさ……)

今日、安易に手を出した事をすごく反省しているのに、オレの中で空気を読まずにまた肉体的な衝動が沸き上がる。
(何だ、この感じ…)
今まで付き合った女の子に対して、確かにセックスしたいと思う気持はあったが、自分の体の中から上がってくるようなこの感覚は無かった。
つばさの事を思い出すと、動悸が激しくなってくる。
オレの頭に浮かぶ今日の彼女は、泣きじゃくる姿だった。
家へ送った帰り際も、つばさはまだ目が腫れていた。

ふと、彼女に愛想をつかされてしまったらという不安がこみ上げる。
「ダメだ、大事にしないと…」
オレは自分に何度も言い聞かせた。
もし今度抱く事があるなら宝物みたいに丁寧に扱って、ちゃんとつばさも良くしてあげたい。
オレの体にも触れて欲しい。
ちゃんと触れあいたい。
今度は、裸で。
(今日、全然体が見れなかったな…)
そう思うと、オレの頭の中でまた妄想が始まってしまった。

 

 
 

ラブで抱きしめよう
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