意地悪な彼はホンモノじゃない

16★ 冬唯・SIDE4

   

叔父のところでのアルバイトは、無駄に広まったネットの口コミのせいで、猛烈に忙しかった。
すぐに浩紀たちが合流してくれたが、毎日は、あっという間に過ぎた。
途中、一瞬鈴乃たちが来てくれたが、それもお盆の超繁忙期に当たって、彼女たちがいなかったらと思うとぞっとするほどの忙しさだった。

その間に、オレは17歳になった。
つばさに誕生日だったことを言おうかとも思ったが、何となく間を逃してしまったし、こんな風に離れている間、その日に他の女子が側にいるような状況を説明するのも嫌だなと思って、オレは結局言わなかった。
ただつばさの顔が見たくて、その夜は珍しくテレビ電話をした。
画面に映るつばさを見ていたら、一瞬猛烈に会いたくなったが、オレはそのことをあまり考えないようにした。

夜一人になると、つばさに会いたいと思う。
多分それはオレの心の奥で感じている、素直な気持ちだ。

オレの方から、冗談みたいに言ってスタートさせたこの関係。
あの時、オレに全然興味の無いつばさを、少しでも意識させたいと思っていた。
実際には、つばさに意識させたかったはずなのに、いつからかオレの方が、つばさの事をだんだん好きになってしまったんだと思う。
きっとつばさがオレを思うよりも、大きい気持ちで。
それがオレは正直悔しくて、つばさへの気持ちを見ないようにしている。
いや、見ないようにしている事さえ、認めたくないのだ。

『会いたい』と、もっと単純な関係ならきっと言えた。
オレ自身がその気持ちを事実として持っているのにそれを奥へ隠そうとしているから、逆に簡単に口に出せなくなっていた。
(あいつはどう思っているんだろう)
こっちに来る前、あいつは確かに寂しそうにしていたが、今、何を考えているんだろう。

付き合った最初の二週間はあんなに一緒に過ごしたのに、会わない時間が増えた今は、この距離みたいにつばさの存在は遠い。
教室での距離だってそうだ。
オレたちは日常生活で、ほとんど一緒にいる事はない。
(遠いんだよな…色々)
距離を置いたのは、自分だという事は分かっている。
恋愛慣れしていないつばさに対して、もっと上手くやりたいと思っているのに、あれ以来オレのペースは完全におかしくなってしまった。
「はあ……」

(何、迷ってるんだろうな…)

オレの中で思い出すつばさは、キスをした後に見せる恥ずかしそうで嬉しそうなつばさだ。
本当は、いつもあいつを喜ばせたいと思っているのに。
(オレって、もっと慣れた感じじゃなかったっけ…)
つばさに対して上手く接する事ができない自分が歯がゆかった。
近づきたいのに、近づきすぎるのが怖かった。




―― 結局、離れている夏の間、お互いに『会いたい』という言葉は無かった。
帰って来たら会おうという、その約束だけをして、オレたちは久しぶりに会った。
そしてその次の日に、やっと夏のデートらしい予定を入れた。


プールサイドのつばさは、焼けた肌にイエローの水着がすごく映えていて、結構目立っていた。

(うわ、可愛いかも……)

久しぶりに客観的に見るつばさは、オレが思っていたよりも女っぽかったし、キレイだと思った。
だいぶ伸びた髪をアレンジして後ろで1つにしばっていて、いつもよりもシュっとして見える。
(やせたのか…?)
日焼けをしているせいもあったのかも知れない。
オレはつばさとセックスをしたことがあるくせに、体を見た事がなかった。
胸でさえ、服に手を入れて触っただけだ。
こうして水着姿のつばさの胸は、貧乳でもないし、大き過ぎるというわけでもない。

彼女なんだし、触ってもいいんじゃないかと思った。
しかし、全然自制できずにヤってしまったあれ以来、オレはなかなかつばさに対して踏み出せない。

「こっち、深い方行こう。つばさはオレの浮き輪使って」
「ありがとー。すごい、用意いいね。冬唯くん」
「まあな」
浮き輪をしたつばさを水の中で引っ張って、もっと深い空いている方へ移動する。
夏休みも終わりになる平日のせいか、ファミリーは少なかった。
むしろ今日は中学生以上の学生が多い。
さっきもプールサイドを歩いていたつばさを、高校生か中学生か、じっと見ていた男子がいた。
制服ではあまり分からないが、つばさは脱いだ方がずっとスタイルが良かった。

「こっち、空いてるね〜。浮き輪してるから、私もう足が届かないよ」
水に入ってしまうと、他人の視線はあまり気にならない。
こんなに近い距離で、真正面からつばさを見るのは久しぶりだった。
彼女は無邪気で、ニコニコとオレに笑顔を向けてくる。
(やっぱ、すげー好みかも…)
「……」
裸みたいな水着の状態も、つばさ自体が久しぶり過ぎてオレはバカみたいに1人でテレてきた。
つばさの顔から視線をずらすと、首元、水着が少しずれて真っ白いつばさの肌が見える。
裸にしたら、日焼けした肌に水着の跡がくっきり残っているんだろうと想像すると、つばさをこのままどこかに連れて行ってしまいたい衝動にかられる。
そして裸にして、その後…、その肌を…
(って、ダメだ)
その続きを考えようとした邪念を、オレは振り払うように首を振った。

つばさの後ろに回り、艶のある日焼けした肩を見る。
(あ〜……)
本当は昨日からそんな事ばかり考えている。
考えているという事を頭の中で全力で否定してきたというのに、やっぱり水着の肌の威力は半端無い。

「元々、こんなに色白いんだな」
「そうだよ〜」
オレはつばさのリボンに手をかけると、指で少しずらした。
「やだ、くすぐったい」
オレが触ると、つばさはブルっと肩を揺らす。
バイト先の奴らと海に行ったと話していた事を思い出す。
バイト仲間とは仲がいい様子で、休みの時は他にも出掛けていたみたいだった。
オレの方はと言えば、ひたすら浩紀たちと男同士で行動していただけだ。
浩紀の彼女の万結と、鈴乃も来たが、それは別に男友達の延長みたいなもんだ。

「なんか、夏……損した気分」
「え?なんで?」
「なんか、な……」
オレはつばさの肩と首の間の、肌の白い部分にキスした。

(このまま、色んなとこにキスしたい…)

8月に入って、キスも全然していなくて、オレはちょっとイラっとしてくる。
「バイトの奴らと、海行ったんだろ?」
「う、うん……」
つばさは首筋の近くについたままのオレの唇が気になっているようだった。
(………)
バイト先の奴らはきっと、まだ日焼けする前の真っ白いつばさの肌も見ていたはずだ。
「なんか、ムカつくな」
オレはつばさの首筋をもっと強く吸って、キスマークをつけてやった。



結局、つばさにちゃんとキスする間さえ完全に逃したまま、2学期に入ってしまう。

体育の時間に、クラスの男子がオレに聞こえないと思って、つばさの噂をしていた。
「梅田の首の日焼け跡、なんかエロくねえ?」
「だよな、オレも思ってた!」
少し離れていたが、オレにもそいつらの会話はハッキリと聞こえた。
9月に入って、つばさの日焼けは薄くなったとは言え、首の辺りの色の差はまだしっかりとついていた。

(結構、男ウケしてるんじゃんか…)

つばさの事を全然知らないまま付き合いだしたので、つばさがどんな風に皆から思われているのか、オレはあまり知らない。
後で聞いた話では、結構マジな告白を何度かされているらしいという事だった。
(当の本人は、恋愛感情が分からないって言ってるんだからな…)
今更ながらに、もしオレがマジな告白をあの時に唐突にしたとしたら、間違いなく断られていたんだろうと思った。
お試しみたいな感じで適当なノリだったから、つばさもオレに流されたんだろう。
つばさの事が気になって仕方がない今となっては、オレはそれでラッキーだったのかも知れないと思う。


つばさは2学期に入っても夏のアルバイトを続けていたし、オレは相変わらず講習の時間があったりで、休みの日にろくにデートもできないまま、テスト期間になる。
平日にしても、変わらず1週間に1度一緒に帰る程度だ。
オレがちゃんとつばさに毎日メールしていなかったら、全然『付き合っている』感じじゃなかったと思う。
オレが付き合っていたこれまでの彼女は、ほぼ全員、すごく束縛が強かった。
こんなあっさりとした関係で、交際と呼べるのかとも思ったが、つばさが他の男子に興味を示していないのは分かっていたし、オレもそれと同じ事が言えていた。
だからと言ってそれでいいのかと考えれば、日が経つにつれ距離が開いていく様な気がしないでも無かった。
だがオレも日常の予定に埋没して、オレの方からつばさの事を最優先するというアクションも起こしていなかった。


テストが終わると、すぐに学祭準備が始まる。
オレは客寄せだと言われて、チラシ係になった。
なぜか他の男たちに誘われて、つばさは設営へ行ってしまった。
2学期の学校が始まって改めて気付いたたのだが、つばさは結構男子とも仲が良い。
つばさ本人が男子を意識していないので、話しやすいんだろう。
それでもやっぱり客観的に見たつばさはちゃんと女の子で、しゃべっている男子たちの下心がオレには見えてしまう。
もしかしたらあいつらもつばさの事を何かしら想像している事もあるのかも知れないと思うと、オレはムカついてくる。

「片倉くん、時間があったらうちのクラスのオバケ屋敷、一緒に入らない?」
「明日、ちょっとでも時間無いかな?」
学祭の当日に一緒に回って欲しいとか、自分のクラスのブースに時間を合わせて来て欲しいとか、色々な女子からオレは声をかけられた。
中には呼び出して告白まがいの事をしてくる子もいた。
オレに彼女がいるのは皆知っているはずなのに、食らいついてくるそのガッツ。
(女子ってすげーな…)
オレは時々思う。
ほとんどしゃべった事もないような子が、自分の理想像とオレを重ねて、目の前にいるオレと違うオレを作り上げて、さらにアタックしてくるのだ。
オレはよくそれに違和感を感じて、時折すごくうんざりしてしまう。
女子が抱く理想の『片倉冬唯』は現実のオレとは違っている。
オレは彼女たちの期待する『片倉』を演じるつもりもなかった。
(そういう意味で、オレってモテてるようで、実際本当に好かれてるってわけじゃないんだろうな…)
本当の『彼女』と思うように付き合えていないから、余計に今のオレはそういうのにイラついてしまう。


「誰か設営の方にもチラシ持って行ってくれない?」
「あ、それオレが行くわ」
「じゃあ、片倉くん、よろしく。結構重いよ」
美術部の女子が、オレにチラシの束を持って来る。

オレは屋台の準備をしている設営の場所へ行った。
途中、1年の女子がジロジロとオレを見て、明らかにオレの事を何か話していた。
恐らく悪い事を言っているわけではないのだろうが、頻繁に起こるこういう事も、オレは気分がいいとは思えなかった。

静かなところに行きたくて、この後の時間、オレは教室の荷物当番に代わってもらった。
それが終わってしまうと、もう3時を過ぎる。

今日、つばさとは全然話せていない。
昨日LINEをした、その時ですら明日の自由時間の話は出なかった。
(やっぱ、あいつからは誘って来ないか…)
まあ分かってはいたが、何となく空しい。

(『彼女』って自覚、無いよな、あいつ…)


近づくと屋台はもうほとんど出来ていて、作業の終わった奴らが日陰になったテントの中で、すげー楽しそうにしゃべっている。
その中に、つばさもいた。

 
 

ラブで抱きしめよう
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