意地悪な彼はホンモノじゃない

27 ドキドキのかたまり

   

(昨晩は普通に電話でしゃべれたけど……)
実際に冬唯の顔を見てしまったら、つばさは今日も普通でいられない気がした。
教室に入り自分の席へ行くと、巻いていたマフラーを丁寧に畳みながら深呼吸して気持ちを落ち着ける。

「つばさ」
冬唯は先につばさが登校しているのを見つけると、彼女の席まですぐに近づいて行った。
「あ、冬唯くん」
できるだけ平静を装って、つばさは振り向いた。
並ぶとつばさよりもだいぶ背が高いので、目線が上に行く。
自然と上目遣いになって、つばさはそのまま冬唯を見つめた。
やっぱりドキドキしてしまう。
以前は2人でいるだけで注目されていたが、既にクラスの友人たちはつばさたちにも慣れて、もう彼らをジロジロと見てくる者はいない。
時折近くにいる女子が、冬唯の事をチラリと見る程度だ。
「今日の放課後だけどさ」
昨晩電話で、英語の課題に自信が無い事を冬唯に相談すると、作文を見てくれると彼は言ってくれた。
「図書室だとしゃべれないし、確か駅前の○○センターに…」

冬唯の話が、つばさの耳に入って来ない。
ただ彼が近くにいるという事だけで、もう心臓が早くなっていた。
冬唯の首筋や、ブレザーの肩幅、そして先日顔をうずめた、ネクタイの結ばれているあの辺り。
(やだ…また…)
ドキドキの音が体の中で大きくなって、顔が赤くなっていくのが分かる。

「つばさ?」
つばさの様子が変な事に気づき、冬唯はつばさの肩に手を伸ばした。
「えっ?!」
つばさは驚いて、思わず冬唯の手を払いのけてしまった。

「え…………」
今度は冬唯もつばさの行動に驚いて、一瞬言葉が出てこない。

「ごめん、冬唯くん!えっと……ちょっとビックリして……」
つばさは自分でも自分の行動が不審過ぎて、冬唯の前でどうしていいか分からなくなる。
「どうした?なんか昨日から……」
「何でもないの!ホントに……ただ……」
やっぱり昨日の行動から、冬唯には変だと気付かれていたのだと思った。
何か言わなければいけないのに、この状態を何て言っていいのか分からない。

つばさが黙っているので、冬唯は言った。
「ただ……何?」
「えっと………」
口ごもって下を向いてしまったつばさを見ていると、さすがに冬唯も不安になってくる。
「あのさ……」
「ごめん、うまく説明できないんだけど、……私、何か変で」
そう言うと、つばさはまた赤面してしまう。

「もしかして、…オレが何かしたんじゃないの?」
「違うよ!冬唯くんがどうこうとかじゃなくって……」
教室内でのそのやりとりに気付いたクラスメートたちが、さすがにつばさたちの事を気にし始めていた。
つばさもその視線に気づいた。
「今、言うのもあれだし……。帰りに、ちゃんと話す……」
冬唯の顔も見ることができずに、つばさは教室から出て行った。


その日1日中、つばさは気が気ではなかった。
冬唯とちゃんと話したいのに、皆の前で顔を見るだけで恥ずかしい。
そんな自分を抑えたいのに、抑えられない。
結局昨日に引き続き、今日も放課後まで冬唯を避けてしまった。


(やっぱりオレ、何かしちゃったのかな…)
冬唯の方もつばさの事が気になって仕方がなかった。
つばさの態度がおかしい。
教室では、目も合わなかった。

(何なんだよ…)

モヤモヤしてくる。
『ちゃんと話す』というつばさの一言が気になって仕方がない。
(教室で話せない事なのかよ…って言うか、話があるのかよ……)
(でも昨日の電話は、普通だったよな……)
つばさの態度に、冬唯は混乱していた。
とりあえず、放課後まで時間が経つのを待った。



ちゃんと話がしたくて、2人きりになれるカラオケボックスへ行った。
曲を入れるでもなく、カラオケの機械から勝手に流れる宣伝映像を、音量を小さくして流す。

カラオケに来るまで、普通に手をつないで歩いた。
しかしつばさの態度は相変わらずいつもとは違っていて、よそよそしい。
フリードリンクの飲み物を取って部屋に入ってしまうと、もう完全に2人きりになる。

「冬唯くん!………ごめんなさいっ!」

つばさは思い切り頭を下げた。
「えっ…」
何の事だか全く分からない冬唯は、リアクションが取れない。
「昨日から、変な態度とっちゃって、ホントにごめんね……」
「いや、別にそれはいいんだけど………何で?」
「なんか……」
つばさは顔を上げて冬唯を見た。
冬唯は不安そうで、彼にこんな顔をさせてしまっている事に申し訳なさを感じる反面、なぜかそんな冬唯を可愛いとも思ってしまった。

またドキドキが強くなってしまう。
そのドキドキと衝動を抑えたくて、触りたくて、抱きつきたくてたまらなくなってくる。

(ああ……私……)

恋愛経験の無かったつばさにとって、冬唯がする事、冬唯から感じること、全てが未知のものだった。
好きな人の側にいるだけで、こんなにも体が反応してしまうという事を、つばさは知らなかった。
こんな自分になる事も、信じられなかった。
心臓の鼓動が、全身を打つ。
いてもたってもいられなくなるような感じで、思わず足をモジモジしてしまう。

「なんか、冬唯くんの顔を見ると、…すごいドキドキしてきちゃって」
「…うん?」
「恥ずかしくなってきちゃうって言うか……、なんか変って言うか……」
全くうまく説明できなくて、つばさは困る。
冬唯はつばさの言葉を待っていたが、黙っているのでとうとう口を開いた。
「え、もしかして、オレの事避けてたっぽい原因って、それ?」
つばさは下を向いて黙って頷いた。

「え、え?そんだけの理由?」
「うん、……ご、ごめん」
「なんだよ」
冬唯は拍子抜けして、思わず笑ってしまう。
「オレが何かしちゃったわけじゃない?」
「全然違うよ……だから、変な態度とってホントごめんね」
そう答えるつばさを見て、冬唯は今日1日思い悩んでしまった事がバカらしくなってくる。

「オレから逃げるぐらいドキドキするって、どんぐらいのドキドキか教えてよ」

「………どのぐらいって…」
つばさは顔を上げて冬唯を見ると、彼はちょっと意地悪で楽しそうな表情をしていた。
最近、ずっと優しかったのでこんな冬唯は久しぶりだ。
「オレが納得できるように、教えて」
「えっと……」
冬唯のキレイな目でじっと見られているだけで、また緊張してドキドキしてくる。
改めて、学校での制服姿の彼が好きだと思った。
だから余計にその中身、先日の裸の彼の姿がまるでファンタジーのように感じる。
しかし自分の中に起こるこの体の感覚が、つばさに先日の事を現実として自覚させる。

「なんか、つま先まで心臓になってるんじゃないかって思うぐらい」

つばさは座ったまま、足を伸ばして靴の先を見た。
本当にそんな感じで、手も足も指先までドキドキしていた。

「へえ〜……」
つばさの仕草が可愛くて、冬唯は思わずニヤついてしまう。
(一昨日、あんなに色んな事したのに、こんな反応なんだ)
冬唯は座り直して、つばさにもっと近づく。


「じゃあ確かめさせて」

「えっ……」
戸惑っているうちに、冬唯にキスされた。
彼の舌が優しくつばさの唇をなぞる。
薄く開いた唇の間から、その柔らかさがつばさの口に入ってくる。

(ああ……)

彼の部屋で、先日沢山したキス。
何度しても何度しても、それはいつもつばさをドキドキさせる。
顔を見て恥ずかしくなるドキドキとは、また違った動悸。
もっと熱い、もっと中からの……
「んん……」
冬唯の手が、つばさのスカートからブラウスを引っ張り出して、直に素肌に触れた。
その手が背中に回ると、あっという間にブラのホックをはずされた。
(あっ……)

冬唯の手がつばさの胸に触れる。
大きな彼の手、細い指が、つばさの胸を掴む。

「あっ……」
「ホントだ、すごいドキドキしてる」
手のひらをギュっとつばさの胸に当てて、冬唯が小さく耳元で言った。
「すっごい柔らかい……、何この感触」
さらに冬唯はつばさの胸を揉む。
(ああ、あ……)
つばさは首筋がゾクゾクする。

「オレのも確かめてみる?」
「えっ?」
「いいよ、触って」
そう言うと冬唯は、ブレザーの中、ネクタイを取ってシャツのボタンの上の方を外して行く。
「ほら」
冬唯はつばさの手を取り、自分の開いたシャツの中へ入れた。

(あ……)
つばさの手のひらに直に触れる、彼の胸。
その場所は暖かくて、滑らかなその感触に抱かれた事を思い出してしまう。
「オレもドキドキしてるでしょ」
「ホントだね……」
手に伝わる、彼の鼓動。
冬唯もドキドキしていると思うと、何だか信じられなくて、すごく嬉しくなってくる。

「つばさ………」


そのまま冬唯の胸へ引き寄せられて、ギュっと抱きしめられた。
手の中の彼のドキドキと、自分の体のあちこちから響くそのドキドキが混ざる。
(冬唯くん……)
彼に抱きしめられる時の、他に例えられる物のない最上の幸福感。
つばさは彼の胸に顔をつけた。
開いたシャツの間、素肌に頬を擦る。
(冬唯くんの肌、気持ちいい…)

そんなつばさの姿が甘えているようで、冬唯も切なくなってくる。
(ドキドキし過ぎるって、なんか分かるかも……)
冬唯はつばさをもっと抱きしめると、髪を撫でた。
周囲の部屋の雑音も、気にならなかった。

しばらくずっと、そのまま抱きしめあっていた。

 

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