意地悪な彼はホンモノじゃない

28 知ったこと思うこと

   

中休み時間、教室の端の席で冬唯とつばさは、1つの机を挟んで座って話していた。
教室ではそれぞれの生徒たちが友達と話したり、小グループでスマホゲームをしていたりして、ザワザワしている。

「結局昨日、全然英語見れなかったな」
あの後、カラオケ店でただ2人でイチャついてしまっただけだった。
「うん…今月中にやればいいけど…」
そう言いながら、つばさはやっぱり冬唯の事を意識してしまう。

昨日も、沢山キスしてしまった。
冬唯に触れられていると不思議と落ち着いて、今こうして距離のある方がかえってどうしていいのか分からない。
(冬唯くんに、触りたい……)
恥ずかしくなってしまうのは、結局は自分の気持ちなんだと思う。
冬唯の前にいる時はいつでも彼に触りたくて、キスしたくてくっつきたくて、それができないのにそんな事ばかり考えてしまう自分が、本当に恥ずかしい。

「………」
話しながらも彼から目を逸らしてしまう。
今更ながらに冬唯の外見的なカッコ良さに客観的に気付いてしまったし、それを意識すると今までどうして普通でいられたんだろうとも思ってしまう。
(多分、冬唯くんが本当にカッコいいから良く見えるっていうのもあるけど……)
視線の行き場に困って、つばさは机の上に置かれた彼の手を無意識に見た。
(冬唯くんの事がすごく好きになっちゃったから、カッコ良く見えちゃうんだと思う……)
彼の指先さえ、色っぽく見えてしまう。
これまででさえキラキラだった彼なのに、意識している今はもう眩しすぎてたまらない。

「なあ、つばさ。ちゃんとオレの事見て話してよ」
「ええ……」
困惑しつつ、つばさはゆっくりと冬唯へ視線へ戻す。
冬唯は昨日、つばさがどんな風に思っているのかを聞いていたから、つばさが自分をすごく意識してしまっている事をもう分かっていた。
「ちゃんと見てよ。顔、逸らすなよ」
「う、……うん」
フラフラ動く目線を冬唯へと向けながら、やっぱりつばさは顔が赤くなってしまう。
「つばさ、……可愛い」
つばさだけに聞こえる小声で、冬唯は笑いながら言った。
彼の目はすごく優しくて、そんな目を見ているだけでつばさの体が熱くなっていく。
「む、無理ぃ〜……」
そこから逃げたくて、思わずイスを引いてしまう。
すぐ冬唯に察知されて、言われた。
「ダメだよ、逃げんな。こっち見て」
「うぅ………」
困るつばさに対して、嬉しそうに顔を見つめてくる彼。
(もう、分かってるくせに……)
「い、意地悪……」
「ははは」
そんな楽しそうな冬唯の姿もやっぱり魅力的で、つばさはもはや全く直視できない。
(ああ…冬唯くんの顔、見れないよ〜…)


「見てらんないよね」
離れた席、生徒の合間から2人を見ていた、鈴乃は思わず言ってしまった。
「教室なのに、イチャつき過ぎじゃない」
ため息をつきながら、鈴乃は2人から目をそらす。
それでも遠く視野に入ってしまうので、気になって仕方がない。
「なんか片倉も、もう何も気にしてないっぽいよね」
万結は答えた。
彼女はそんな冬唯たちを、正直微笑ましく思っていた。
幸せそうな2人を見ると、自分も彼氏である浩紀に優しくしてあげようという気分になる。
ただ、昔から冬唯に想いを寄せていた鈴乃の気持ちも分からなくもない。

「片倉って、あんなキャラだっけ?」
「全然!あんなデレデレしてるあいつなんて、見た事ないよ」
鈴乃は再びため息をついた。
(あいつがあんなに変わるなんて…信じらんない)
心の中で、鈴乃はそうつぶやいた。


 
放課後、いつものように冬唯とつばさは一緒に学校を出た。
教室でピンクの空気をまき散らしていると、昼休みに今日子から指摘されて、つばさは余計に恥ずかしくなってしまった。
(喋ってるだけなのに……)
普通にしていたいのに、冬唯といると、もう何が普通なのか全然分からなくなっていた。

(私、どんな風に男子と話してたっけ…)

そう思ったが、既につばさにとって冬唯は「男子」という枠を超越していて「冬唯」という別次元の存在になっていた。
(ふ、普通って、どんなだっけ……)

図書館に併設されている飲食スペースで、冬唯とつばさは先日するはずだった英語のレポートを広げた。
真面目に英文を読んでいる冬唯の姿を見ていると、邪心だらけの自分を少し抑える事ができた。
特に英文の間違いを彼から指摘され始めると、さすがにつばさも一気に頭が切り替わる。
しばらく集中して、2人で課題を行った。

「あー、進んだ!ありがとう!これで堂々と提出できるよ」
つばさは本当に冬唯に感謝して、自然と笑顔になった。
そんな彼女の普通の態度が久しぶりで、冬唯は改めて新鮮な気持ちでつばさを見た。
(ああ、どんなつばさでも可愛いな……ってオレも重症かも)
触りたくて、冬唯は机の上のつばさの手を握った。

「ん?」
すぐにつばさは真っ赤になって、恥ずかしそうに冬唯に笑った。
冬唯は手の甲を触って、そして自然に指を絡めてきた。
「学校で、すごいこうして触りたかった」
隣に座っているので、そう言う彼が近い。
「うん……」
つばさが頷くと、手を握る冬唯の手に力が入る。

「今日、教室でピンクの空気が出てるって、今日子に言われちゃった」
「え、ピンク?」
「そう」
そう思われてしまうのも仕方がないとつばさは思った。
しかし分かっていても抑えられない。
誰から見ても、そんな風に見えてしまう自分が、改めてやっぱり恥ずかしくてたまらない。
「ははは、そうかもな。確かに」
「笑いごとじゃないよ。もう、恥ずかしいよ……」
真っ赤になるつばさを見て、冬唯は言う。
「確かに、今、顔もすごいピンクになってる」
「やー、もうホント。困るよ〜……」
つばさは冬唯の手を離して、自分の顔を両手で隠した。


平日の図書館。
飲食スペースの営業時間はもうすぐ終了で、既にほとんど人はいない。
そこから廊下に出て、トイレの奥の備品を入れる部屋へのドアがある場所は、少し中に入っていて誰からも見えない。

「んん……」

足元にカバンを置いて、つばさは壁にぴったりと背をついていた。
口に入ってくる彼の舌が熱くて、その動きから冬唯の欲望がつばさへと流れ込んでくるようだった。
(冬唯くんにキスされると……)
首筋の後ろがゾクゾクして、背中に震えるような感覚が沿う。
「はあっ、んっ……」
どこで呼吸をしていいのか分からないぐらい、続く彼のキス。
つばさも自然に冬唯の背中に手を回していた。
(このまま……冬唯くんと……)
全身で触れあいたいと思う。
服を脱いで、先日彼の部屋でしたように、繋がりたいと思ってしまう。
(ああ……)
そんな風に思ってしまう自分が恥ずかしい。
本当は学校でも、そんな事ばかり考えていた。

ちゅ、ちゅ………

冬唯はつばさの唇から、頬、額にキスした。
「あぁー……、はあ……」
つばさの頭に手をやると、抱き寄せて全身をギュっとする。
「学校でさ、目の前につばさがいると、もう抱きしめたくてたまんないよ」
そしてつばさを抱く腕にもっと力が入った。
「うん……私も」
つばさも冬唯の背中を抱きしめる。

飲食スペースのある棟が閉まるアナウンスが、廊下に響いた。
「あぁ、もうそんな時間か…行こうか」
冬唯がつばさから手を離した。
お互いのカバンを取り、薄暗い廊下を通って建物から出る。

枯葉をカサカサ踏んで歩きながら、冬唯は言った。
「オレ、毎日つばさにキスしないと死んじゃう病かも」
「えっ」
「おととい、できなかっただけですごい辛かった」
「………うふっ」
大真面目な冬唯を見たら、つばさは自然に笑いがこみあげてきてしまう。
「あははっ」
「ええっ、笑うとこ?ここ?」
冬唯はつばさの意外な反応に戸惑う。
「だって、………冬唯くんすごい可愛いんだもん」
つばさは冬唯が愛しすぎて、ニヤニヤを超えて笑ってしまった。

「………」
冬唯は恥ずかしくなってきて、ガラにもなく顔が赤くなっていった。
そんな様子を見たつばさは、彼の事をもっと可愛く思ってしまう。
「嬉しいなぁ……」
つばさは自然と冬唯の手を取った。
珍しくつばさの方から触れられたので、冬唯も嬉しくなってくる。
そしてつばさの笑顔が好きだと、改めて思う。

「冬唯くんと、いっぱい一緒にいたいな」
「うん」
冬唯も心から頷いた。
「いっぱい一緒にいて、いっぱい喋ったり、今日みたいに一緒に勉強したり、……色んなこと冬唯くんとしたい」
つばさは素直にそう言った。
冬唯と本当に気持ちが通じたと実感できた文化祭の前まで、ずっと抑えて言えなかった本音だった。
「そしたら、多分、……学校で挙動不審になっちゃうのもマシになりそうな気がする」
こうして2人でいると、学校にいる時の変な恥ずかしさは不思議と無かった。
今は触りたいのに触れないという状況ではなくて、彼に触れる事ができている。

(エッチも、したいけど……そうじゃない時間も沢山過ごしたい……)
つばさの中で、性的に触れあいたい気持ちと、そうではなくて普通に過ごしたい気持ちと、相対する2つの願望があった。
体が触れあう良さも知ってしまったが、その欲望に自分が支配されるのも嫌だった。
かと言って、性的なものを求める本能も気持ちも、もうつばさの中に存在している事は否めない。
(まだ自分の中身が追い付いていないのに、体だけ大人の世界を知っちゃったのかも……)
それでも知ってしまった世界を、もう無かった事にする事はできないし、そうしたくも無かった。
セックスは性的な行為以上に、精神的な幸福感を満たしてくれるという事も実感として知ってしまった。

(でも……)
こうして手をつないでただ歩いたり、放課後に一緒に勉強したりするのもすごく嬉しかった。
それにあんなに色んな事をしたというのに、まだ目が合うだけでも恥ずかしいのが不思議だ。


「お互い忙しいから、なかなかまとまった時間がとれないけど」
冬唯は言った。
彼がちゃんと受験勉強をしているので、あまり時間が無いのもあったし、つばさも夏休みからのバイトのシフトを休日には結構入れていた。
放課後毎日一緒に帰っていたが、それでもその時間は短い。

「クリスマス、絶対会おうな」
「クリスマス!」

それはつばさにとって、彼氏と行う初めてのイベントらしいイベントだった。
(やだ!今年は彼氏がいるじゃん!!)
自分の事ながら、改めて今の状況が信じられない。
「クリスマス……って、カップルが何するかよく分かってないんだけど」
つばさは思わず言ってしまった。
彼氏と過ごすクリスマスなんて、想像もした事が無い。

「とにかく、バイトのシフトだけは入れるなよな」
「うん、わ……、わかった!」
大きく縦に首を振るつばさに、冬唯は手を伸ばす。
「オレもやりたい事、考えとく」
彼女の髪に触れて、ポンポンと頭を撫でた。

(まあ、一択っちゃ一択なんだけど……)
冬唯はあえて口に出さずに、つばさに何をしてあげたいか考える事にした。

 

 

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