あんな事があったから、っていうかあんな風に敦志が言ったから…
私はいつもとは違った感情で学校帰りの敦志を家に入れた。
それでも私たちはいつも通りに、うちの母親が仕事から帰ってくる束の間、リビングでお茶をした。
制服姿でうちに居る敦志の姿も、もう全然違和感がなかった。
「…………」
「………」
黙ってコーヒーを飲む敦志。
(何かしゃべってくれないかなぁ…)
敦志はおしゃべりな男じゃない。
普段は感じないけど、何かあるとその『間』に私はちょっと困る。
「疲れてる…?」
『間』に耐えられなくて、結局あたり障りのないところから私は話題を振った。
「…別に、疲れてない」
相変わらず敦志の言葉はそっけない。
「だってサッカーってハードそうじゃん」
口にしながら、本当にどうでもいい話だなと我ながら思う。
昨日はビッタリくっついてたのに、今日はちょっと距離を置いてソファーに座っていた。
「………」
敦志が私を見た。
その目つき。
「……な、何よ?」
珍しくニヤっとしてる敦志に、私は思わず引いてしまう。
「…なんか、果凛……」
ちょっと笑って敦志は前を向いた。
「……な、何…?」
私を見透かしてるみたいな敦志の態度が、気に入らない。
「!」
彼の手が私の顔に伸びただけで、私は体をビクっとさせてしまった。
「………」
呆れたように敦志は私を見た。
「…なぁに、」
そう言った敦志の手が、また私に伸びる。
「ビビってんの、お前」
そして堪えきれないといった感じで笑った。
「…………」
私は恥ずかしくて、返す言葉がない。
「だってさぁ……」
それだけ言ったけど、照れてる自分自身がますます恥ずかしかった。
「果凛」
敦志が笑うのをやめて、私の名前を呼ぶ。
「……何…」
顔を上げた私と、敦志の目がまともに合う。
一瞬、『見詰め合う』って感じになった。
「果凛の部屋、行こうぜ」
5分だけ敦志を待たせて、私は大急ぎで自分の部屋をまとめた。
制服から着替えようか迷って出しっ放しにした服が、ベッドに散乱してた。
結局迷ったあげくに、私は制服のままだった。
朝、髪をセットした残骸とか、飲みかけのコーヒーカップとか…ざっと私は片付けた。
「ホントに散らかってるから…」
部屋に入られる、ということよりもこの散らかった部屋を見られるのが恥ずかしかった。
「………」
敦志は、じろじろと周りを見回した。
「ちょっと待ってよ、あんまり見ないでよ」
そうは言っても狭い部屋だから、ぐるっと見渡せば一瞬にして一通り見られてしまう。
「…オンナ〜〜って、感じだな」
敦志はそう言って苦笑した。
確かに、部屋に占めるピンクの割合は高いと思う。
「しょうがないじゃんよ、…女なんだもん」
「……女、だよな」
敦志はベッドの縁に腰掛けて、眼鏡を外した。
私は急激にドキドキしてくる。
この、私の部屋に…敦志がいる。
それも、ベッドのとこ。
大きい敦志は、この狭い部屋ですごく存在感があった。
「はぁ……」
私は無意識に思わずため息をついてしまった。
自分自身、間を逃してしまって部屋の真中で立ったままウロウロしてしまった。
「果凛」
「うんっ?」
名前を呼ばれただけなのに、過剰に反応してしまう。
(ああ、ヤバイ……)
私はまた挙動不審になってた。
「ここに来れば?」
彼が手招きした先は……昨日私が乗った、敦志の膝の上だった。
「…………えーー」
つい昨日自分がした行動が、1日経っただけで異常に恥ずかしくなる。
「…来いよ」
敦志が手を伸ばすから、私は仕方なく従う。
何気に『手を伸ばしてくれた』のが嬉しかったりして。
「恥ずかしいよー……」
敦志に乗ったものの、私は体を引いてしまう。
「昨日のオレの気持ちを分かれ」
「………」
敦志がなんだか偉そうで、…なんか、立場が逆転してるんだけど。
「あっ……」
おもむろに抱き寄せられる。
もう、…すごいドキドキしてるんですけど。
昨日の敦志も、こんな感じだったのかなって今更思う。
この体勢って、温もりがガンガン伝わってくる。
私の部屋のベッドの上…こんな風に密着してる私たちって…。
「んん……」
(いやーん……)
私の唇に敦志の唇が重なってくる。
(なんで、こんなにいいキスするわけ…?)
最初にキスした時から、ずっと思ってた。
普段がそっけないから、余計にこのキスは効いてしまう。
(もう、ヤバいって…)
昨日、『好きにしていい』なんて挑発的な事を自分から言ったくせに、敦志の言うとおり、私はホントにビビっていた。
「あ…んっ」
敦志の唇が、私の耳元に移る。
くすぐったくって、私は思わず身震いした。
ドキドキしてた。
敦志の手が、私の制服のブラウスのボタンを外している。
(うわーどうしよう…)
私は敦志の肩を掴んだ。
敦志は私の耳にキスしたまま、開いたブラウスの中に手を入れてくる。
そのままその手は私の背中に伸びた。
(ああ…)
後ろに回った彼の手が、ブラジャーを外した。
緩んだブラは自然と下にずり落ちていく。
「や……敦志…」
思わず体を引くと、思っていた以上にブラウスが開かれていた。
自分の生のおっぱいを見てしまって、一瞬驚いてしまう。
「やあっ……」
無意識にはねのけようとした私の腕を、敦志の両手が素早く掴む。
「果凛……」
敦志の声が甘い。
私は押し倒された。
「んっ……んんっ…」
ブラウスは完全に開かれて、私の胸は敦志の手の中にあった。
時々乳首に触られて、体がビクっとなってしまう。
唇はしっかり敦志に封じられて、私は全く身動きがとれなかった。
(ああんっ…)
そんなに揉まなくても、と思うぐらい、私の胸は敦志に揺さぶられていた。
敦志が部屋に入って来てからまだそんなに時間は経ってないと思うのに、随分長いことそうされているような気がする。
唇が痛くなりそうなぐらい、ずっとキスされていた。
「うぅんっ……」
苦しくて、私は唇を離した。
「……あっ…」
声が出てしまう。
私の唇から離れた敦志は、右手で乳房を掴みながらその先端にキスした。
そのビジュアルが、生々しい。
「やあっんっ……」
顔をそむけると、部屋の時計が目に入った。
「あ、敦志っ!」
私がそう言っても、敦志は私の乳房に食らいついたままだった。
「お、お母さんが帰ってきちゃうよっ……」
「………っ」
敦志は体を離して、ガバっと起き上がった。
寝転がったままの私はおっぱい丸出しで、すごく恥ずかしい格好だった。
「……」
私は慌ててブラウスを閉じた。
「何だよ……そんな時間?」
敦志は目を細めて部屋の時計を見た。
そのまま手を伸ばして、眼鏡を取った。
そして腕時計を確認する。
「……あーもうすぐ7時かよ…」
敦志はベッドから降りて、再び縁に座りなおした。
「帰んないとな……」
そう言って自分の首筋を手で押さえた。
「……」
私は半ば放置された状態で転がっていた。
そんな私に気付いて、敦志が私に手を伸ばしてくる。
私は敦志に引っ張られて起きた。
「……」
敦志に、ちゅっ、とされた。
こういう感じ、すごく嬉しい。
「敦志ー……」
私は敦志に抱きついた。
「……」
敦志は今日は逆らわずに、私に腕を回してくれる。
「ねえ、敦志…」
「ん?」
彼の手が私の髪に触れる。
すごく近くにいる敦志が、私は好きで切なくてたまらない。
「…明日、学校休んじゃおうよ」
私は言った。
「ええ?」
敦志は体を離して私を見る。
眼鏡をしていてもしていなくても、どっちの顔も私は好き。
している時は、『学校』っぽいと思う。
「いいじゃん、…土日も部活ばっかだしさ…」
1日中敦志と一緒にいられる日は少なかった。
平日に、心おきなく……誰にも何にも邪魔されずに会いたかった。
「………」
敦志は考えていた。
「そんな格好で言うなよ」
「えっ」
敦志に言われて自分の姿を見ると、油断してブラウスの胸がはだけていた。
バッチリ谷間が見えてた。敦志の目線からだったら、乳首まで見えちゃってたかも。
「……」
私は慌ててブラウスのボタンを閉める。
そんな様子を見て、敦志まで恥ずかしそうにしてた。
「しょうがねえな……明日だけだぞ」
「ホントに?」
あっさり承諾してくれたのが信じられなくって、私は何度も聞きなおした。
その日の夜、私は敦志に電話をした。
こんな近くに住んでいて、声だけしか聞けないなんてすごくもどかしかった。
今日の夜だって眠るのに、数十メートル離れたところにいる敦志は側にいてくれない。
私は毎日、そんなことばかり考えていた。
「ねえ、敦志……明日、楽しみだね」
もしかしたら処女を奪われてしまうかも知れないのに…きっとそうなるに違いないのに、私は明るい声を出していた。
本当はドキドキしていて、今からすごく緊張してたのに。
『家、大丈夫なのかよ』
敦志が小さい声で言った。
「うん………大丈夫」
私もつられて小声で頷いた。
『大丈夫』の意味、私にとっては違う意味もあった。
電話の向こうの敦志。
今日、私の体に触れた敦志。
声を聞きながら、思い出してまた恥ずかしくなる。
(どんな感じなんだろ、エッチって……)
全く想像できなかった。
なんか、大変そうだなとは思ったけど。
大体、裸になるっていうのが信じられない。
でも…今日だって、当たり前みたいに敦志は私の胸を露にした。
(恥ずかしい………)
ホントにしちゃうんだろうか。
しないといけないのかな。
(だけど……)
敦志にならいいかなって思う。
(まあ、いっか……)
深く考えようとしても、未知の事でよく分からなかった。
ただひたすらに緊張して、私はほとんど眠れなかった。
翌朝、制服姿で敦志はうちに来た。
二人とも学校に行くフリをしていたから、私も制服だった。
「おはよー……」
昨日以上に、私は敦志を見るのが恥ずかしかった。
自分でも小心者だなと思う。
落ち着かなくて、朝から髪をバッチリ巻いて気を紛らわした。
「おはよ」
眠そうな声。
敦志は肩のカバンを、引っ張ってかけ直した。
彼はいつもと変わらないように見える。
学校に行ってるみんなにとっては、普段どおりの朝。
私にとっては、特別な日。
「…上がってよ」
私は敦志の前を歩いて、自分の部屋に向かった。
緊張はもう、ピークに達してた。