奇跡の青

18・気がかり

   
うちの高校は2年から3年に上がるときのクラス替えがない。
だから敦志とは違うクラスのままだった。
その流れで3年になっても、私と敦志は学校内ではやっぱり接点がなかったし、学校で言葉を交わすなんて事も相変わらずほとんどないままだった。

「おー、元気か」
E組の廊下の前で、稜二とすれ違って声をかけられた。
付き合ってる玲衣に会うために、うちのクラスでもないのに稜二はしょっちゅう3年D組に来ていた。
だから、違うクラスなのにコイツとはよく顔は合わせてる。
それでもこうして廊下で私と二人で立ち話なんて珍しい。

「元気だよ。いつもうちのクラスで会ってるじゃん」
「そうだな」

稜二はまだ立ち止まったままでいた。
ふっと動いた彼の夏服のシャツから、男の子独特のいい匂いがした。
夏なのにいい匂いがする……そんなとこ、稜二ってすごい。
改めて横に並ぶと、彼のガタイの良さと背の高さを実感した。
敦志よりもデカそうだ。
稜二は私を上から見下げて、言った。
「駒井沢と、仲良さそうじゃん」
「…まあね……」
敦志のことを突っ込まれたのは意外だった。
「何か、ピンと来ないな。お前とコマなんて。
海都のとこと、相手交換してちょうどいい雰囲気じゃね?」
「……雰囲気は、そうかも…?」
私は海都と付き合ってる真面目な森川のことを思い出した。
敦志だって一見真面目に見えるし(実際真面目だけど)、軟派な雰囲気で言ったら私と海都はお互い負けてなかった。
「でもいいのー。…マジで海都に振られてよかったあ〜。ホントに」
私は海都のことが好きだった頃、よく稜二から情報を仕入れようとしてた。
稜二は私の言葉を聞いて、ニっと笑う。
この笑顔は、女子の間で密かに女殺しと呼ばれていた。

「今度、玲衣と一緒に遊ぼうぜ。コマによろしく」

稜二はそう言って教室に入って行った。
チラっと見たE組の前の方の席に、森川がいた。
相変わらずの眼鏡で、髪の毛を無造作に二つに縛っている。
だけど彼女は海都と付き合ってから、どこがどう変わったってわけじゃないのにすごく可愛くなった気がする。
なんか萌えっぽい。妙にエロい感じで。
実際今では男子からも人気があった。
(…海都と私、敦志と森川)
稜二が言うように雰囲気は逆だなと思って、私はちょっと納得してしまった。



「あぁっ、……あっ」

高校最後の夏休みが目前だった。
3年になってからは前ほど頻繁じゃなかったけれど、やっぱり敦志はしょっちゅう私の家に寄っていて、そして時間もあんまりないのに毎回エッチをしていた。
(あっ……)
両足を持ち上げられる。
敦志が上に伸びた私の足を、私の体の方へと押してくる。
(この体勢は……)

「 あっ、……イタッ…」

「えっ?」
敦志の動きが止まる。
(やば、言っちゃった……)
「………」
私は目を開けた。
敦志が心配そうに私を見ている。
「痛かった…?大丈夫か…?」
「……うん……足が…」
私がそう言うと、敦志は私の足を脇へ下ろした。
体が真直ぐになって、中にかかっていた変な圧力が緩む。
痛かったのは、足じゃない。
敦志と当たってる、自分自身の奥の方だ。
私は息を吐く。

「平気……。動いて…敦志…」
私は敦志の肩に腕を回す。
敦志は私を抱きしめ返してくれて、そしてキスしてくれる。
「……果凛…」
私は敦志に名前を呼ばれるのがすごく嬉しい。
そして敦志とするエッチがすごく好きだ。


「暑い……うーん…」
私は手を伸ばして冷房の温度を確認した。
家の中で裸でいるのが落ち着かなくて、私たちはエッチが終わるとすぐに服を着る。
本当は裸のまま、抱きしめあったりしたかったけど。
「稜二と、仲いいの?」
着替えながら、私は言った。
「ああ……。前、時々草サッカーのメンバーに呼ばれてた」
「へえ、稜二、サッカーなんてやってんの?」
「あいつかなり上手いぞ。こっちはマジに何回も誘ってたのに」
「ふーん」
敦志と稜二って結構気が合いそうだなと、私は今更気付く。

6月が終わって、敦志の部活も終わった。
最後の試合を見に行きたいと言う私に、「絶対来るな」って言ってた敦志。
多分、感動の最終日だったんだと思う。
私には何も言わなかったけれど、何となく敦志の態度から伝わってきた。
何かに熱中した高校時代を過ごしていた彼を、私は眩しく感じ、そして羨ましくも思った。

「稜二って、顔広いね」
私は感心して言った。
「そうだな、あいつ意外にマメだし」
すっかり制服を着直した敦志は、一度立ち上がってまた私の横に座りなおした。
「早く、服、着ろよ」
「もう着てるよ?」
私はキャミソールを二枚重ねて着てた。

「お前…そんな格好で、外歩くなよ」
そう言って敦志は私の胸元に視線を移した。
「今はいいけど」

「あーん……」
抱きしめられて、敦志の手が私の胸元に入ってくる。
「はぁ……もぅ…敦志…」
唇が塞がれて、私の乳首に敦志の指が触れた。
(ああ……)
こうされてるだけでも、すごく気持ちがいい……



「いいんだけどさっ!」
「な、何?……声デカイよ」
玲衣が思いっきり引いて、怪訝そうに私を見た。
今日は亜由美はあからさまなズル休みをしてて、玲衣と私の二人で、教室の隅でランチしてた。
私は大人っぽくて色っぽい玲衣をジロジロ見てしまった。
稜二と、すっごく似合ってると思う。

「ねえ玲衣、イクって、どんな感じ?」
「ハア???」

玲衣は驚いて、さっきの私より大きい声を出した。
「はっ…」
周りを見まわして、慌てる玲衣。
「何言ってんの?こんなとこで」
珍しくあたふたする彼女が、なんだか面白かった。
「だーってさぁ、稜二ってなんかスゴそうじゃんよ」
私は机に肘をついて、ダラっとしつつ言った。
「すご…くないよ、多分」
玲衣は赤くなってくる。
「でもさ、やっぱちゃんとイクんでしょ?」
こういう玲衣って可愛いなぁと思いながらも、私は真面目に聞いた。
昼休みの教室はすごくうるさくて、私たちが普通にこんな話をしていても誰も聞いていない。

「…う、…うーん…うん…」

やや俯き加減で、玲衣は小さく頷いた。
普段落ち着いてる子のこういう表情って、やっぱり可愛いなって思う。
あの稜二が長続きしてるわけも分かる。
「あ、暑いね…」
玲衣は窓の外を見た。
結構涼しい風が通っていた。
「そっかー、ねぇ、どんな感じなの??イクって」
私は興味津々で聞いた。
「ええーー、…どんな感じって言われても……ううーん…」
「………」
玲衣が考えてる間、私は黙って待っていた。

「上手く説明なんてできないよ。……果凛もそうなったら分かるよ」
困った笑顔で、玲衣は答えた。
私は溜息をつく。
「そうならないから聞いてるんじゃんーーー」
雑誌とかネットの変な影響で、エッチってしたらイクもんだと思っていた。
だけど現実はそんなことはなくって。
「あのさ、彼とコミュニケーションとりながらしてみたら?」
普段の落ち着いた調子に戻って玲衣は言った。
「コ、コミュニケーションって」
(どんなの?)
稜二と玲衣のことが妙にリアルに頭によぎって、急に私が恥ずかしくなる。
だけど玲衣はそんな私の考えなんて分かるわけもなく、きちんと答えてくれる。
「うーん、…言葉でちゃんと言う、って感じ?」
「玲衣……りょ、……稜二に言ってんの?」
私は変にドキドキしてくる。
「稜二には、言わなくても」
玲衣は余裕の笑みを浮べた。


『言葉にする』って言っても、やっぱり私たちにはそんな余裕がなかった。
ホントは私たちの放課後って、エッチするのには時間的に無理があるんだと思う。
それなのに、私たちはそうしてしまってた。
私の部屋で敦志と二人きりになると、やっぱりお互いに近付いてしまう。
そうしたらキスしちゃうし、キスしたら盛り上ってきちゃうし、盛り上ってくると、もうそうしたくてたまらなくなってしまう。
だけどやっぱり、頭の片隅のどこかでいつも時間を気にしていた。
それはきっと敦志もそうだ。
彼の方が強くそう思ってるかもしれない。
だから体を触る時間も短くなるし、実際一つになってる時間も短かった。

気持ちよくない、ってことはない。
触れ合ってるのは嬉しくて、できればずっと敦志とそうしていたいと思う。
だけどいつも余裕がなくて、私は敦志の大きさと固さを痛いと思うときもあった。
実際に私の感じ方は、『イク』なんて感覚までまだまだ遠かった。

「敦志………好き……」
ブラウスは前だけ肌蹴て、スカートも履いたままで、私は敦志を受け入れていた。
「オレも好きだよ……」
敦志は私の頬を触る。
薄目を開けて目に入った彼の表情がとても色っぽくて、それに私の体内がギュンと反応してしまう。
「あぁん……」
「果凛……」
敦志が私の耳を舐めた。
「あ、あんっ…」
中がグッと締まって、敦志のものを掴むのが自分でも分かった。

(気持ちいい……)

敦志が動く。
擦れ合うその部分から、快感が腰へと広がる。
「あっ、…あっ…敦志っ……」
(気持ちいい……敦志……)
体の奥が彼に馴染んで、自分自身のきつい感じさえも快感を増幅させた。
(ああ、気持ちいい……)
もっと、と思い始めた時、敦志は私の中で達してしまった。

「はあ、…はあ…」
(気持ち良かった……)
私はぐったりして、敦志の胸元にくっついた。
(だけど、イってないし……)
イかなくても結構気持ちがいいしこれはこれでいいかも、と思う気持ちもあった。
だけどやっぱりイってみたい。
快感のその先が、どんな感じなのか知りたかった。
(これって、肉欲……?)
そうなのかも、と思って私はちょっと笑ってしまった。

「何?」
私に腕を回していた敦志が、少し離れて私の顔を覗き込んだ。
「ねえ、敦志……私とのエッチ、気持ちいい?」
「は?すごいいいけど」
敦志は私の首から腕を抜いた。
そして肘をついて私の方へと向いて少し体を起こす。
「…何、……果凛は…?………」
敦志の自信なさげな表情を見て、私は笑顔で答える。
「気持ちいいし、嬉しいし、大好きだよ」
「……あっ、そう…」
目をそらした彼が照れてるのが分かる。
たまに見せる敦志のこういう可愛いとこが、すっごく好き。

「だけど、イかせてやってないもんな……オレ」

「えっ……」
敦志の方からそう言われて、私はちょっと驚いてしまう。
そして女の本能的な勘で、彼のその一言が胸に引っかかる。
その言葉の裏側にあるもの…多分私の勘は当たってる。
「もしかして、敦志……」
私も少し体を引いて、敦志の顔をじっと見た。
「ん?」

「前の彼女は、ちゃんとイってたんでしょー?」

「…………」
一瞬言葉につまる敦志の表情で、それが間違ってないことを確信した。

「はーあぁ、そうなんだー……ふーん、へー…」
未だに宇野の事を考えると、なぜかヘコんだ。
私の知らない敦志を、きっと彼女は知っているからだ。
それにずっと敦志と同じクラスっていうのも、密かにずっと気になってた。
(イってたのかよー……宇野〜……)
嫉妬心?…なんだかすごく悔しくなってくる。
敦志が宇野に色んなことをして、そして宇野がイクほど気持ちよくなってたなんて。
「はー、そうー…へー……」
想像してさらにヘコみながら、私は独り言のようにつぶやいてた。

「なんで今更、そんな事言うんだよ」
「だって、何かそうなのかな、って思って」
過去の敦志と、今の私と同じぐらい至近距離に宇野がいたってことがすごく悔しかった。
どうしようもないことなのに、頭では分かってるのに…何だかすごく悲しい。
「そんな顔するなよ」
「だって」
敦志の手が私に伸びてくる。
私の髪に触れる彼の指先は優しかった。
そしてそれ以上に、私を見る敦志の目はすごく優しかった。

「今まで出会った女の中で、果凛が一番好きだぜ?」

「………敦志…」

抱きしめてくれる敦志の体から出てくる気配全部がすごく優しかったから、私は改めてキュンとして、胸が熱くなった。
(『一番好き』って……嬉しいな…)
私はこれ以上くっつけない、ってとこまで敦志に密着して抱きついた。
「そのうち……」
私の耳元の敦志の声も、すごく優しい。
ヘコんでた私の気持ちは、もう完全に回復してた。

「ちゃんと、イかせてやるから」


「ホントに?」
体を離そうとした私を、敦志はギュっと抱きとめた。
「………多分、な」
「……うん」
何かもう、イクとかイケないとか、そんなことどうでも良かった。
ただこうやって、優しくしてくれる敦志とくっついていられることが重要だった。
(だけどいつかそうなれたら……なれたら……)
何だかすごくドキドキしてきて、私は敦志にしがみついた。
敦志も、私を抱く腕の力を強めてくれる。
ふいに宇野がイってたってことを思い出して、私は敦志に更にしがみついて言った。

「やっぱり、絶対、イかせてね」
「あぁ……うん」
ちょっと引いた彼の腕が少し緩んで、私の髪をそっと撫でる。
私は彼のその手に触りながら、敦志を見た。
目が合った敦志は『しょうがないな』って顔をすると、また私にキスしてくる。
今抱かれたばかりなのに、もう私は敦志としたくてしょうがなかった。
 

ラブで抱きしめよう
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