奇跡の青 |
21・もしかして |
そんなこんなであっという間に寒くなって、冬休みも過ぎてしまった。 高校3年の1月。 教室の中は、受験を控えた子とそうでない子と、雰囲気で二分されてた。 普段仲のいいグループの子たちも、受験が近付くにつれなんとなく分離してるみたいだった。 私は気楽な方に入っていた。 その日は玲衣と亜由美がダッシュで帰ってしまい、教室でだらだらしてた私は一人で学校から出た。 「珍しいじゃん」 後ろから、耳に馴染んで愛しくてたまらない声が聞こえた。 「敦志こそ」 振り返ると、敦志も一人で歩いていた。 こうして見ると改めて背が高いな、と思う。 最近短くした髪型も、今までと違っててそれもまた良かった。 眼鏡をしてるせいで余計に真面目に見えるけど。 「………」 私たちは学校内でほとんど会話をしない。 敦志とまた親しくなるきっかけになった、あの怪我以来、二人で通学したことなんてなかった。 「帰るの?」 「……そりゃあ、帰るだろう」 敦志は私より少し下がって、それでもほとんど並んだ状態で歩いた。 学校から出て、駅まで続く道。 『帰る』以外に、この時間のこの道を歩くなんてないだろう。 「……えっと…」 このまま一緒に帰っていいのかなと、私は彼に少し遠慮してしまう。 「一緒に帰るか?」 「えっ」 敦志の方からそう言ってくれて、私はビックリして思わず顔を上げた。 「い、いいの…?」 「…って、ここから別々に帰るのか?」 「……一緒に帰る…」 私は突然のサプライズがあまりに嬉しくって、手を伸ばして敦志の手を握って歩きたくなる。 そんな衝動は何とか抑えたけれど、顔のニヤニヤは止められなかった。 駅のホームで、色んな人の視線を感じた。 私たちが付き合ってるのは密かに知られていて、別に隠していたワケじゃないけどこうして二人で一緒にいるのを学校の人に見られる機会ってあんまりなかった。 「敦志と一緒に帰れるなんて」 そこまで言って私は思わず笑ってしまう。 「やっぱり、すっごい超嬉しい」 「………そうか」 敦志の返事は相変わらずそっけなかったけれど、それでも声の響きに優しさを感じた。 公然と一緒にいる、っていうことがすごくすごく嬉しい。 それからの日々、私と敦志は待ち合わせをして時々一緒に帰った。 もっと早くからそうしておけば良かったと、つくづく後悔した。 残りの高校生活の時間は、驚くほど早く過ぎていったから。 敦志は志望大学に合格した。 「良かったねー♪やっぱすごいね。さすが私の敦志」 「その『すごい』は、オレにかかってんの?お前にかかってんの?」 「やーだー、敦志に決まってんじゃん」 パステル色のディスプレイを横目で見ながら、二人で歩いていた。 3月初めの街は、春に溢れている。 それでも私は大好きな革のブーツをまだ履いてた。 二人でこうしていると、もっともっとイチャイチャしたくてたまらなくなってくる。 「ねー、敦志……、ホテル行こう」 「………もう?」 敦志は小声で私に問い直した。 「うん、……ダメ?」 私は彼の腕をギュっと抱きしめる。 敦志は姿勢を正そうとする。 「ダメじゃないけど」 こういう言い方を彼がするとき、いつも100%心は決まってた。 「う、あぁっ……」 その場所をさっきからずっと舐められてて、もう何度もそうされてるのに私はいつも恥ずかしくて興奮してしまう。 敦志が体を起こす。 「あっ……、敦志」 「何?」 手を伸ばしかけた裸の敦志が、動きを止める。 「あ、あのさ……」 私の体は下半分が痺れたまま、敦志が入ってくるのを待ち焦がれていた。 「…?」 「今日は……」 私は言いかけて、一瞬迷う。 それでも今日はそうしたくて、何だかたまらない気分だった。 私の間(ま)に、敦志が口を開く。 「今日は、何?」 「……今日は……そのまま…」 「?」 「そのまま、して……」 敦志の体重が私にかかる。 「大丈夫なのか?」 「うん、もうすぐに生理だし……中で出さなければ大丈夫だよ」 (多分) 私たちはいつもちゃんとコンドームをしてセックスをしていた。 こういうとこって、敦志の真面目な性格が出てると思う。 一回、生でしてみたかった。 だって玲衣とか、すごくいいよ、って言ってたし…。 「あっ……う、ああっ」 (す、すごい……) 全然違う。 入ってきた敦志のモノに、直接触れてるって感じがした。 あったかくて、固いのに柔らかくて、…すっごい、気持ちがいい。 「あぁっ、すごい……気持ちいいっ、…敦志っ…」 ホントになんかすごかった。 自分がいつもよりずっとヌルヌルしてる感じがした。 動いて擦られる中の感触が、いちいちすごい気持ちいい。 「ああんっ、ああん、…敦志っ、…ああんっ」 「うぁ……、オレ、もうヤバイかも」 「はぁ、んっ…!あぁっ…!」 敦志が固くなったのを中で感じて、私はますます興奮してそこを締めてしまう。 「果凛………」 「あぁぁんっ……」 (イっちゃうかも……) そう思った時、敦志は私から抜いてしまった。 (あっ……) 暖かいものが、私のお腹にかかった。 「き、…気持ち良かったぁ……」 私は終わった途端、思わず言ってしまった。 「オレも良かったよ、何か、……すげー良かった」 普通の顔で彼は言いながら、私の腰のあたりを撫でた。 「敦志も気持ち良かったんだ〜」 敦志がいい、と言ってくれると私はすごく嬉しかった。 極端な話、自分が全然気持ちよくなくても、敦志がよければそれでいいと思う。 「何だか、ホントに一つになれてるーって感じがしたね…」 私は敦志の首に腕を回した。 「そうだな……」 そう言った敦志の唇は私の頬に触れて、そして唇に移る。 「んん……」 キスを沢山した。 そして何度も結ばれる。 当たり前のように繰り返すその行動も一つ一つが嬉しくて、柔らかくて甘くてくすぐったいものに私の体は包まれていく。 「すごい気持ちいいよ……、すごい、好き……」 「オレも……」 多分言葉なんていらないんだろうけれど、私たちは口にして、何度もお互いを確かめ合う。 触れ合う感触も、耳から入ってくる声も心に響く言葉も…… 全部が嬉しくて、敦志が側にいてくれるだけで私はすごく幸せだと思った。 (あーあ!充実!) もうすぐ卒業で高校生活が終わるのは寂しかったけれど、部活からも受験からも解放されて、敦志とすごせる時間が増えたことがすごく嬉しかった。 去年の今頃とは比べられないぐらいに、私たちは一緒にいられた。 「なーんか、卒業間際にラブラブって感じじゃん」 亜由美が教室の入り口を見ながら言った。 「そーかなぁ?」 と答えてる時点で私の顔は笑ってた。 「ほら」 亜由美が入り口の方へ首を動かす。 そちらを見ると、敦志が立ってた。 「やっぱり、ラブラブ?」 私は思い切りの笑顔で亜由美に答えると、敦志の方へ走った。 その夜。 お風呂から上がってドライヤーをかけている時、ふと気付いた。 (そういえば……) 舞い上がっていて、全然気にしていなかった。 (…………) 体はまだ火照っているのに、指先が冷たくなる。 (生理、来てないじゃん……) 予定日より3日過ぎてた。 私はいつもかなり正確に来るほうで、2日遅れることなんてなかった。 「来てないよ…」 行っても仕方がないのに、私はトイレに駆け込む。 お風呂上りのショーツはきれいなままだ。 (やっぱり、……遅れてる…) 頭の中で『妊娠』の二文字がグルグル回った。 (ウソでしょー……、マジで) 信じられなかった。全然。 でも生理は来ていない。 (まさか………) 考えないようにしようと思っても、やっぱり考えてしまう。 敦志は大学に合格したばかりで、私だって短大の推薦が決まってる。 10代の『でき婚』なんて、芸能人とか有名人がすることだ。 学生同士の私たちが選択できることじゃない。 (ど、どうしよう……) これからどうするかなんて何も思いつかなくて、私はただベッドで目を開けていた。 (明日、…明日まで様子を見よう) 眠れなくて、ドキドキするばかりだった。 「果凛、またトイレ?下痢?」 「違うよ、…何だか近くて。寒いからかな」 学校でも何度もトイレに行った。 家に帰っても何度も行った。 (……やっぱり、来ない) さすがに4日遅れると、かなりヤバい予感がする。 (…どうしよう……) 敦志に言うのが怖かった。 (どうしよう、って思っても、…どうしたらいいの?) だけど相談できる人なんて、敦志しかいない。 それにこんな大事なこと黙ってたら、あの性格だから後ですごい怒られそうな気がする。 っていうか、実際私だって、このまま黙っていることなんてできない。 自分の母じゃなくて、敦志のとこのおばさんの顔が頭に浮かんだ。 近所とか、どう思われるだろうって、急に心配になってくる。 産むのだって、おろすのだって、どっちにしても怖い。 私は手が震えてくる。 「敦志ぃ………」 夜の11時を過ぎてた。 ベッドの中からほとんど半泣きの状態で、彼の携帯に電話した。 |
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