君の香り、僕の事情

☆☆ 13→14 おまけ(みゆきクラスメート視点) ☆☆

   

「やばい、英語の教科書忘れた!」
「え〜、いいじゃん、教科書ぐらい」
「ダメだよ、私明日当たるもん。英語の倉松、怖いもん」
友達を昇降口に待たせて、私は階段を上がる。
先月まで3階にいたけれど、4月から学年が変わって3年は2階になった。昇降口を上がれば、すぐに4組の教室だ。

「あった、あった」
教室には誰もいなくて、私は机の中から英語の教科書を出して自分のカバンに入れた。
(♪〜)
心の中で軽く歌いながら教室を出て、何気なく廊下越しの窓から、L字の構造になっているために見える階段の踊り場を見た。
向こうも窓越しだから、反射してよく見えない。
だけど、人がいる。背の高い2人。
私は本当に何の気なしに、そちらへ目を凝らした。

「あれ…?」

背が高かったから、最初は男子が2人いるのかと思った。
だけど背を向けている肩は男子にしては幾分華奢で、その向こうにいる明らかな男子とは体型が違っていた。
その2人の密着具合から、私はやっと悟る。

(キスしてる!!!!!)

学校で初めて見たキス。
いや、他人の生キス自体、初めて見る。
(うわーーーー!キスだよね!あれ!)
廊下には私以外誰もいない。
放課後も3年になれば、あっという間に生徒達はそれぞれの生活へ戻ってしまう。
おそらく向こうからは見えていないのに、私は思わず窓のギリギリのところへ隠れた。
背の高い女の子の首を、男の子が優しく抑えている。
遠目なのになぜか「優しく」と感じた。
(な、長くない…???)
生キスに何だかすごく興奮してしまって、私は目が離せない。
(誰なんだろ…)
やっと離れた2人、距離ができて見えた顔を見て、私はまたビックリしてしまう。
(深雪くんだ!!!!)
香我深雪、2年の時から同じクラスで、美形な上に長身で、学年を超えて超有名人の彼だった。
同じクラスだと言うのに世界が違い過ぎて、私はほとんどしゃべった事が無い。

(そうだ、あの背の高い女の子、亜麻野さんだよね…)
深雪くんに負けず劣らず、亜麻野さんも有名人だった。
特にうちら4組で、亜麻野さんの事を知らない人はいない。
なぜか去年の秋頃から急に、うちのクラスで深雪くんたちとランチし始めた。それはすごいウワサになって、気が付いたらいつの間にか亜麻野さんと深雪くんは付き合ってた。
(なんだ、あの2人か…)
亜麻野さんと深雪くんが付き合っている事はみんなが知っていて、キスを見たからと言って、それが特別ニュースになるわけでもない。
(でも…)
キスが終わっても、深雪くんはまだ亜麻野さんの髪を触っていた。
彼女を見る深雪くんの目がすごく優しくて、遠くから見てるだけの部外者の私でさえ、トロンとしてしまうぐらいだった。
あんな至近距離で、深雪くんにあんな風に見詰められたら…。
普通の女子なら、軽く死ねる。

もう1度キスすると、2人は踊り場から別々の方向へ去って行った。
深雪くんがこちらへ来そうなので、私は慌てて廊下を走り、階段を下りた。

「どしたの理子?」
待ってくれていた友達が不思議そうに私を見る。
私は彼女を急かして昇降口から出て、急いで校門へ向かう。
改めて大きく深呼吸して、さっきのシーンを思い出す。
(キス、 見ちゃった…)
今更ながらに、すごいドキドキしてきた。


ふだん、深雪くんとの接点なんてほとんど無いのに、どうしてこういう時だけ偶然って起きてしまうんだろう。
次の朝、登校して教室へ入った時、入口に立っていた深雪くんと軽くぶつかってしまった。
「あ、悪い」
深雪くんは女子にいつもクールで、昨日の亜麻野さんに対する態度とのギャップがすごい。
「………」
背の低い私を見下ろす深雪くんと、まともに目が合ってしまった。
同じクラスになってから、こんなに近い深雪くんは始めてかも知れない。
気付いたら、ガン見してた。
「えーっと、何?」
深雪くんは苦笑いして、そう言った。
「あっ!何でもないです!」
同級生だと言うのに、つい敬語になってしまう。
私は慌ててその場を去った。


それから1週間後。
偶然とは恐ろしいもので、資料返却の当番がたまたま深雪くんと当たってしまった。
「オレ重い方持つよ」
深雪くんはカッコいいのに、優しい。
「ありがとう」
そもそもこんなに美しい男子に縁が無さ過ぎて、私はいちいち緊張してしまう。おまけにキスを目撃しちゃったから、猛烈に意識もしてしまう。
廊下を2人で歩きながら、先日の亜麻野さんに対する深雪くんの眼差しを思い出した。
(いいなあ、こんな彼氏…。でも緊張して疲れちゃうかな)
亜麻野さんはソフト部のエースだ。
スラっとしていてカッコ良くて、おまけに爽やかで顔も可愛い。
付き合うまで全然接点が分からなかったけれど、一緒にいる姿を見るとお似合い過ぎて、惚れ惚れするほどだ。

「加納さん、何か、オレに言いたい事あるのかな?」
「えっ?!」
突然深雪くんからそんな風に言われて、私は心底ビクついてしまう。
「オレの事好き、ってわけでも無さそうだし」
(スラっとすごい事言うな、この人)
「好きとか、そう言うんじゃないよ!?だって深雪くん、彼女いるじゃん!」
イケメンの思考回路など分かるはずもなく、私はただひたすらに困った。(彼女)と言ってしまったせいで、私はまた亜麻野さんの事を思い出した。
確かにこの1週間、私は深雪くんを見過ぎていた。
見ない様にと思っても、つい目が行ってしまい、その度に不自然に避けていた。
「………」
私は言葉に詰まる。
でも、深雪くんの目は、私に「何なの?」と問いかけてる。

資料を返却して教室へ戻る間も、深雪くんは私の返事を待つような素振りを見せていた。
(あ〜、もういいや)
「あのね、深雪くん…」
「うん」
全然親しくもないのに、いきなり”深雪くん”なんて呼んでしまった。
でも女子はみんな彼の事をそう言っているから、まあいいか。
「私、見ちゃったんだ……」
「ん?何を?」
威圧感があるでもなく、ただ話の続きをせがむような純粋な感じで、深雪くんは私を見た。
「えーっと…、先週の放課後……深雪くん、踊り場にいたよね…」
「先週……あっ!」
すぐに深雪くんはハっとした。

「もしかして……見た?」
「うん、見た」
恐る恐る深雪くんを見ると、彼は真っ赤になっていた。
(ええっ、深雪くんが!)
そんな彼が可愛すぎて、意外過ぎて、私はまたガン見してしまう。
「その……キス、な、長かったね……」
照れる深雪くんが本当に可愛かったから、私はつい言ってしまった。
「うわ〜〜〜、マジで〜〜〜〜」
深雪くんは頭を抱えた。
「オレ、はずいな〜…、やっべ〜…」
「……」
(やだ、深雪くん可愛過ぎる)
イケメンな上にふだんはクールで、だけど優しくて、こんなに可愛い表情になったりしたら、女の子はきっとみんな彼を好きになっちゃう。
(こんな男の子もいるんだなあ…)
もしかしたら卒業まで、深雪くんとこんな風に話す事はなかったかも知れない。そう思うと、キス現場を目撃したのはラッキーだった。

「加納さん、誰かに言ってないんだよね?噂になったりしてないし…」
「うん、言ってないよ」
本当はすぐ誰かに言いたかったんだけど、何だかあの場面を自分だけのものにしておきたくて、それからなんだかすごく興奮しちゃって、だから私は今日まで誰にも言えずにいた。
「ありがと…。こんなの順平とかにバレたらまたうるせーし…。やっぱ恥ずかしいしな」
深雪くんは気を取り直そうとしてか、口元をギュっと両手で押さえる。
そしていつも通りのキラースマイルで、私を見た。
目が合うだけで、動悸が激しくなる。

「これ、加納さんだけの秘密にしておいて、ね」

(秘密……)
まるで2人の特別な秘密みたいな気がして、私は舞い上がる。
そんな私の心を見透かしたみたいに、深雪くんは楽しそうに笑って、早足で教室へ戻って行く。
(あ、いい匂い…)
深雪くんが去る時に、フワっといい香りがした。
(イケメンは、匂いまでいいのか〜!)
すごく得した気分。


それからの私と言えば、
1人になると深雪くんと亜麻野さんのキスばかり思い出していた。
自分がされたわけじゃないのに、ドキドキして。
(こんなんじゃあ、彼氏ができるのはまだ先だなあ…)
亜麻野さんが羨ましい。
あんな風に優しく触れられて、あんな風に見つめられて、あんなキスをされて。
恋愛初心者の私が、遭遇してしまった超上級レベルのキス。
やっぱり刺激が強すぎる。
(でも!深雪くんの事、好きになっちゃったわけじゃないから!断じて!)
ムクムクと湧き上がってくる気持ちを、私は懸命に否定した。
(と言うより…もしかして)

深雪くんに男を感じていた。
これって、恥ずかしいけど性の目覚めってやつなのかも知れない。


 

ラブで抱きしめよう
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