ラバーズ(Lovers)

☆☆ 12 ☆☆

   

ほとんど毎日オタ仲間とチャットをして過ごしていたのに、ネットから落ちてしまった今ではほとんどパソコンに触っていなかった。
帰ってからすぐにパソコンを開かないと落ち着かなかったのに、そうじゃなくても今では全然平気だ。
それにこれまでのボクは、二次元の世界の女の子が大好きだった。
今だってもちろん好きだ。
だけど生身の女の子の柔らかい感触とか、華奢な感じとか 途方もない可愛さとか、あまりに素晴らしすぎて現実なのにこっちの方が幻みたいな気がした。
君はボクの想像の産物で、本当は現実に存在しないんじゃないか。


「ううん……」

ベッドで白い肩を出し、寝返りをうつ彼女。
ボクの不安を吹き飛ばすぐらい、無防備な顔で眠っている。
(可愛いなあ……)
そっと手を伸ばして彼女の髪に触れてみた。
ボクとは全然違って髪まで柔らかい。
こんな可愛い女の子を、ボクは毎日抱いているのだ。

(神様ありがとう……)

何度心の中でそうつぶやいただろう。
彼女がここにいる事、それがボクの人生にとっての最大の奇跡だ。

「んん、…優哉ぁ……」
杏菜がボクへと手を伸ばしてくる。
ボクは彼女の横に寝そべって、その手を優しく握った。
「行っちゃイヤ……」
彼女はボクの手を振り解き、目を閉じたままボクに抱きついてきた。

「行かないよ……どこにも」

ボクの方こそ、彼女がどこかへ行ってしまうんじゃないかと不安でたまらなかった。
杏菜の背中に手を回すと、ギュっと彼女を抱きしめた。
服を着ていない背中はツルツルで、いつ触れてもすごく気持ちがいい。

「優哉…」

薄目を開けてボクを見た杏菜の目は、今にも涙が零れるんじゃないかと思うぐらい潤んでいた。
「大好き……」
そうつぶやいた杏菜は、再び目を閉じる。
ボクたちは唇を重ねた。
こんなボクのことを好きだと言ってくれる彼女は、やっぱりボクにとって、本当に奇跡だった。
杏菜のことが、好きで好きでたまらなかった。



夏休みの間はバイト先と家での往復ばかりで、杏菜とはほとんど外出していなかった。
彼女は「外は暑くてヤダ」と口癖のように言っていたし、ボクのお金もあんまりなかったし、家でセックスばかりして毎日過ごしていた。
「たまには街に出ようか」
ボクの誘いに乗り、外出するために化粧をして着替えた杏菜は、普通にすごく可愛かった。
ちょっと拗ねたような唇が普段の彼女の表情で、女の子の目よりも男の目をひく可愛さだ。

「デートもいいよね♪」
電車を降りて、混んだ街を歩く。
すぐにボクと手を繋いでくれて、本当にボクたちは付き合っているんだなと思った。
二人の時以上にこうして街を歩き雑踏に紛れると、一緒にいるのが本当に不思議な感じだ。
「なあに?」
ニコニコとしてボクを見上げてくる彼女。
「いや……その、か、可愛いなあ、と、…思って……」
「いやぁん、嬉しいっ♪」
もっと笑顔になった杏菜は、ますますボクの腕に絡んでくる。
前から歩いてきたイケメンが、じっとボクを見ていた。
(………)
ボクは相変わらずのボクだから、彼女と不釣合いなんじゃないだろうか。
(杏菜は、ボクとこんな風に街を歩いててもいいのかな)
すれ違う若い男の格好よさに、ボクの気持ちは小さくなってしまう。

「ねえ、優哉……せっかくだから、買い物していく?」
「うん、そうする?」
前に派手に買い物をした彼女を思い出す。
あんまり認めたくないけれど多分家出している杏菜が自由に使えるお金を持っている事に、ボクは違和感を感じた。
「優哉の服とか、買おう♪私が奢っちゃうよ」
「えっ……い、いいよ…」
そんなお金がどこにあるんだろう。
ボクの不安を察してか、杏菜は小さな声で言った。
「実はさ……、うち…お金持ちで……。私…今まで結構な額、内緒で貯金してたんだ」
そんな話は始めて聞いた。
そもそも、杏菜が自分のことを話すことは今までほとんどなかった。
「でもさ…、ボ、ボクのために使うなんて…余計、ダメだよ…」
今まで貯めていたお金だったら尚の事、ボクのために使わせる事に気が引けた。
「いいよ♪だって優哉にはお世話になってるし!勝手に住まわせてもらってるしね」
「で、で、…でも…」

「…これからも、一緒にいたいし……遠慮しないで」

(これからも、一緒…)
その言葉がボクの胸にズギュンと刺さった。
(本当にこれからもずっと一緒にいられたら……)
想像すると嬉しさがこみ上げてきて、だけど同じぐらい不安になった。



買い物した紙袋を幾つも持って、ボクらはラブホテルに入った。
「あーーー、久しぶりにいっぱい歩いて疲れちゃった!」
「うん」
喫茶店にでも行こうかと思ったけれどどこも人が多くて、結局こんなところに来てしまった。
ボク的には、初・ラブホテルだ。
まるで家についたようにリラックスして、杏菜は部屋の中にずんずん入っていく。
ボクはキョロキョロ周りを見回して、二人がけにしては小さいソファーの近くに買い物の紙袋をとりあえず置いた。
このホテルの使い方を書いたものがファミレスのメニューみたいにパウチしてある。
それが机の上に何枚も乗っていた。
すぐ横には、ベッド。
ソファーとこの小さいテーブルを除くと、部屋にはホントにベッドしかない。
まさにヤルためだけの部屋だ。
だけどテレビのモニターはボクの家よりもずっとデカい。
「ねーえ、優哉…。お風呂お湯入れて入ろうよ。毎日ずーっとシャワーだし!」
「うん」
(そうか風呂があるのか)
当たり前といえば当たり前なんだけれど、ボクはちょっと嬉しくなる。

ボクが想像していたのよりずっと、ラブホテルはシンプルでキレイだった。
「何か飲み物出しておいてーーー」
お風呂場から杏菜がボクに声をかけてくる。
「はーい」
ボクは返事をして冷蔵庫が入っているらしい棚のドアを開けた。

「ゔっ!こ、これは…」

飲み物よりも先に、大人のオモチャが目に飛び込んできた。
ネットや漫画でしか見たことのない玩具、……それがこんな間近に。
「どうしたのぉ?」
杏菜がボクのすぐ後ろに来ていた。
「えっ……イヤ、…そのぉ…」
ものすごくエッチな想像をしてしまっていて、ボクは恥ずかしくてたまらなくなる。
目の前の自販機の中身を見て、杏菜は笑いながら言った。
「優哉、エッチなこと考えてたんでしょー?」
「あ、まあ、えーっと……」
図星すぎてボクは困る。
杏菜が後ろから、しゃがんでいるボクの肩に腕をまわしてきた。
「いいよー?せっかくだし、何か買ってみる?」
「えっ……」
ボクのテンションが上がったのは言うまでもない。


「こ、…こわいよ…」

「優哉が?」
ボクの前で裸になっている杏菜はクスリと笑った。
バイブレーターのあまりにアダルティなその姿かたちに、ボクはすっかり気持ちが萎縮していた。
(こんなの、入れて女の子は痛くないのかなあ…)
さんざんバイブを観察した後、ボクの興味はその動きに移る。
「ちょっと、スイッチ入れてみてもいい?」
「うん、やってやって」
杏菜は起き上がり、ボクが握り締めているバイブレータをじっと見つめた。
その光景は、変な感じだった。
ボクは2コあるスイッチのうち1コを上げてみる。
「うわー、なんかジャリジャリいってるよ!」
彼女が指摘したとおり、真直ぐなバイブの真ん中辺にある真珠みたいな粒がジャリジャリ回り出した。
「もう1コのスイッチは?」
別のスイッチを入れると、バイブレーターの先がウネウネと回り出した。
「いやーん、なんか蛇っぽい」
スイッチを最強に入れると、その回転がさらに速まる。

「はあ……」

スイッチを切って、二人でため息をついた。
「なんか、すごいね……」
ボクは率直な感想を言った。
「うん、そうだね……」
杏菜も頷く。
「こ、こ、こんなの……い、入れて大丈夫なのかなあ」
バイブ片手に、ボクはすっかり怯んでしまった。

「わかんないけど」

杏菜はボクに抱きついて、キスしてくる。
彼女に導かれるまま、ボクは杏菜のそこに指を伸ばした。
(ええ……)
ボクの指に触れる杏菜のそこはすごく濡れてた。
「興奮しちゃったの?」
ちょっと驚いて、ボクは杏菜を見た。
「わ、わかんないけど……」
そう呟くと杏菜はまたボクに唇を重ねた。


(うーわーーーー)

小さなその場所はその玩具を、まさに今、飲みこもうとしていた。
「ああんっ……」
生々しい肉の間に、シリコンでできたそれが入っていく光景に、ボクは異常に興奮してくる。
我ながら、さっきまでの躊躇はなんだったんだ。
「…全部入っちゃったよ」
「あん……ホントに?……よくわかんないぃ…」
ボクに向かって無防備に足を開いている杏菜のその姿だけでたまらないのに、その間にバイブレーターが…。
「う、…動かして、いい?」
「うん」
彼女の返事を聞いて、ボクはちょっとだけスイッチを上げてみる。

「あぁぁんっ……あんっ…」

杏菜が足を閉じかける。
ボクは玩具を持つ手を、少し動かしてみた。
「あっ、…気持ちいいっ………、動かすの…気持ちいい」
ジリジリと玩具の音がする。
ボクの手の中にある白いバイブレーターが、杏菜のそこに出たり入ったりする。
ゴムをしたバイブが、彼女の愛液でヌルヌルしているのが分かる。

(うわあ……うわー…)

異物挿入というカテゴリーが、ボクの頭に浮かぶ。
同人アニメでは欠かせない行為だ。
だけど、目の前で生々しく反応する彼女の全ては、ボクの興奮のマックス値を一気に引き上げる。
「あんっ、…あんっ!…優哉っ、……もっと、してっ…!」
杏菜の腰が動く。
(エ、…エロ過ぎる……)
ボクもだんだん乗ってきて、玩具を出し入れする手を早めた。

「ああん、あっ……、ダメっ……!もっ…もう、イきそうっ…」

杏菜はあっという間にイってしまった。


うねる玩具を彼女からそっと引き抜く。
ポタリと愛液が滴り、首をぐるぐると回した機械の全部が彼女から出てくる。
(こんなの、入っちゃうんだなあ…)
彼女の体から出てしまうと、バイブレーターにはやはり違和感を感じた。
「ううん……」
腰を少し震わせて、玩具で達した杏菜は苦しげな顔をしていた。
ものすごく色っぽい。

「優哉ぁ……、きて…」

杏菜がボクへと手を伸ばす。
ボクはバイブレーターをベッドの隅へと放り投げ、杏菜に体を重ねた。

「うあぁぁああんっ!……ああーんっ」
ボクが挿入すると、杏菜はギュっとボクに抱きついてきて大声を出した。
「ああっ、…やっぱり優哉のがいいっ…」
「ホントに…?」
たかが玩具だけど、あんなすごいヤツにボクは勝ったような気がして、ちょっと嬉しくなる。
「うん……なんか、すごいイイよ……、全然気持ちいい…」
杏菜はボクの腰に自分の足を巻いてきた。
それにつられてボクのものが更に彼女の奥に入る。

「ああん……、優哉……気持ちいい…好き…」
「ボクも……、好き…杏菜…」

何度もお互いを「好き」だと言い合うこの行為が、ボクは好きだ。
(ホントに……好きなんだよ……大好きなんだ…)
さっきの杏菜以上に早く、ボクはイってしまった。

閉めきられたラブホテルの中では時間が止まっているような錯覚に陥る。
ボクたちはその後も、何度か抱き合った。
ボクの部屋とは全然違う大きな風呂に二人で入り、ボクらは束の間現実から離れた。
こんな時間もいいなとボクは思った。



ホテルから出て駅までを歩く道のりの途中、杏菜が突然立ち止まる。
「何?どうしたの?」
杏菜を見ると、顔面が蒼白になってた。
(???)
雑居ビルから男が一人出てきた。
不自然に立ち尽くしたボクらに視線を向けると、彼は杏菜を見て驚いた。

「朝香…?」

「!」

ボクの覚えのない名前に、弾かれるように杏菜が我に返る。
慌てて走り出す杏菜。
一瞬呆然として、ボクも急いで彼女を追いかける。

「待て!朝香!」

男はボクよりもずっと速く、あっという間に杏菜に追いついてしまう。
グッと腕を掴まれ、振り返った杏菜は泣きそうだった。
(朝香……?)
尋常じゃない二人の様子に、ボクまで一気に緊張してくる。
そして、どうしようもないほどイヤな予感がした。

 

 

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