もっと、いつも

★★ 10 ★★

   

眠い眠い、…とにかく眠い。

夜10時までバイトして、家に着くのは11時。
オレが帰って、ギリかちょい後かぐらいに親父が帰って来る。
親父より先にシャワーを浴びて、深夜番組を2時ぐらいまで見る。

1つ下の妹が高校に入ったと同時に、うちの両親は別居を始めた。
妹の高校が都心にあって、満員電車で通わせるのが可哀想だなんだ言っていたが、そんな事が理由じゃないのは分かってる。
うちの両親は、もう限界だったんだ。
姓がどうとかって籍は抜いてないみたいだったが、実際もう離婚してるみたいなもんだった。

母親が妹と出て行ってから、オレの生活はかなり自由になった。
夜のバイトを始めたのも、その後からだ。
親父はいわゆる一流大学を出て、普通に見れば十分エリートと呼べるサラリーマンだ。
給料だってそこそこもらってるはずだ。
だけど、それが何だって言うんだ。
俺は親父みたいになりたくなかった。
ガキみたいな考えかも知れないが、本当にそう思ってる。
一流大学目指して、いい会社入って、挙句コレかよ。

色々どうでも良くなってきたのと、バイトにハマり出してきたのもあって、オレの学校への関心は薄れてきた。
このままバイトし続けて、誰かに紹介してもらって近場で店長でもやらせてもらえないかとか、甘い事を考えていたりした。
実際そうやって店長になってる先輩が沢山いたからだ。


朝に一旦起きて、ゲームして、夜のバイトのために昼寝してた時だ。
誰かがうちの呼び鈴を鳴らしてる。
今日、龍大たちとは約束していない。

ドアを開けると、同じクラスの女がいた。
(誰だっけ…?ああ、隣の席の)

「若林…、なんでお前がここにいんの?」

クラスのその他大勢って言葉がピッタリくる、平凡過ぎて目立たない女。
比留川の親戚だとか言って、オレに学校に来るように伝言されてきたらしい。
なんでこんなヤツにそんな伝言を頼むんだよ。
(比留川、マジでウザイ…)
適当にあしらって帰らせようとしたら、この女、意外にも食い下がってくる。
比留川が親戚を使って姑息なマネをしてきたのもちょっとムカついたし、若林の突っかかり方も面白くて、オレは言った。

「そこまで言うんなら、明日また来いよ」
「え?」
「明日ここに来たら、次の日は学校に行ってやる」

今日も夜はバイトだったし、明日学校に行く気も無かった。
バイトにハマり過ぎて時間が無くなって、ちょっと前に彼女と別れたとこだったし、ヒマだったし。
面白半分で言っただけだった。
まさか本当に次の日に来るとは思わなかった。

「部活のことも、ちゃんと誰かに話した方がいいと思うよ」

(マジメそ〜)
オレの周りにいないタイプ。
って、そうでもないか、バスケ部の連中はみんなコイツみたいに真面目だった。
「ちゃんと、自分で話すんだよ?」
(お前は母親かよ)
そう思ったが、意外にも若林のこの口ぶりが嫌じゃなかった。
それによく見ると、結構可愛い顔してるかも知れない。地味だけど。

翌日、オレは何日かぶりに学校に行った。
普段ツルんでる奴らに同じクラスの奴はいなくて、オレは教室で浮いてた。

「…おはよう」

隣の席に座ってる、若林がオレに声をかけてくる。
声は小さかったが、笑顔だった。
(なんだよ、笑った方がいいじゃん)
その時はそのぐらいしか思わなくて、授業が始まる。

(あー、やっぱり退屈だぜ…)
授業は眠くて仕方が無い。
休み時間に、若林に呼び止められる。
「明日もちゃんと来なよ」
部活の話までして、おせっかいな奴だなと思う。
だけどコイツも誰かに頼まれてるワケだし、若林にとっても、まあ迷惑な話だよな。
「……」
「親戚…っていうのは、皆には内緒で…」
若林が近づいてくる。
改めて顔を見ると、すっげー肌が白い。
白いから地味なのか、地味だから白いのか、でも顔色が悪いっていうんじゃなくて、透き通る肌ってこういう感じなのかと思った。

頬を触ったら、若林は大げさに驚いた。
最初から思ってた事だけど、コイツのリアクションは面白い。
小学生だったら、オレ、多分コイツに意地悪してたなと思った。


(さて…)
余計な第三者を挟まれるのにもいい加減うんざりしてたオレは、渋々和久井と話す事にした。
1年の時は結構仲が良くて、受験して入りたてのオレもまだ真面目だった。
中3の運動不足もあって、1年の時はちゃんと部活にも出ていたが、正直今はあまり興味が無くなっていた。
(練習キツイしな…)
バスケは好きだ。
だけど、あの体育会系みたいなノリについて行けない。
バイトの先輩とだって、ある意味そうなのかも知れないが、もっと軽い感じだ。
そもそも上から抑えつけられるのが苦手だったし、一度部活から離れてしまえば、体力的に練習についていけなくなる事も分かっていた。
(パっとした部員、いないのかもな…)
比留川にしても、オレなんかに執着してる辺り、そうなのかも知れない。

放課後の部室、練習は始まっていたが和久井は時間を取ってくれた。
続けるつもりはないと話したが、休部扱いにされた。
ヒルにもすれ違いざまに言ったけど、あいつは聞いてるのか聞いてないのか分からない。
オレをやめさせる気が無いって事だけは、察した。

その後も、何度か若林と話した。
さすが比留川のいとこってだけあって、いつでも説教くさい。
だけど真面目な感じは、不思議と好感が持てた。
言い過ぎてるけど、悪気はない。
良く分かってた。
龍大たちに対して、「あんな友達」って言った事だって、オレはそんなに怒ったわけじゃない。
それにあいつがオレの家の周りをウロウロしてるのも、そんなに嫌じゃない。
「ストーカー」とか言ってやったけど、全然そんな事思って無かった。
(来たいなら、いつでも来れば?)
それぐらいに思ってた。
一緒に遊んでた女たちみたいに、アイツはベッタリしてない。
そんなところも結構気に入ってた。

「昨日は、ごめん……あんな事言うつもりじゃなかった…」

オレがちょっとキレた事に対して、若林は気にしてたみたいだった。
例によって、オレのマンションまでやってきた。
オレもヒルの事について、いとこなのに言いたい放題言って、悪かったと思ってた。
怒ってないオレの反応を見て、若林はホっとしてた。
(分かりやすいヤツだな…)
「はあ、喉かわいちゃった…」
若林の緊張感がドっと抜けていくのが、オレの目から見てもよく分かる。
オレは可笑しくなってきた。
「……いいぜ、入りなよ」
オレは若林を家に上げた。

若林はソファーに座った。
オレは冷蔵庫に大量にストックしてるコーラを2本持っていく。
1本はオレの分、もう1本は若林の分だ。

「謝りに来たのに、コーラご馳走になってる……変なの」

この場所で、居心地悪そうにちょこんと座っている女。
学校では全然しゃべった事が無かったけど、話し出すとしゃべりやすかった。
教室では目立たないのに、こうして近くで見るとすごく女子っぽい。
オレの行動にいちいち大げさに反応するところも面白い。

「昨日は…オレも言い過ぎた……比留川 だって、悪気がないの分かってるのに」

(お前に悪気が無いのも分かってるけど)
そう言いかけて、やめた。
若林の表情が切なげで、すごく可愛く見えた。
周りに気付かれていないだけで、コイツは十分魅力的だった。
少なくとも、今目の前にいる彼女は。

2人きりだったし、沈黙がオレの背中を押した。

近づいて見ると、やっぱり肌がすごいキレイだ。
若林の頬が赤い。
奥二重の目が、下を見ていた。
下向きに生えたまつ毛が真っ直ぐで、意外に長い。

オレは若林にキスした。

ただ、キスしたかったから。
目を開けると、若林は驚いた風でも無く、じっとオレを見ていた。
心の奥まで見透かされそうな、曇りの無い視線。
こんな風にこんな目で、今まで人から見つめられた事があるだろうか。


彼女に体重をかけると、ソファーにそっと崩れていく。
自然に、オレを導いているみたいに、静かに。
(いいのかよ…)
白い首筋から続く鎖骨が、オレの衝動を駆りたてた。
人形みたいに、若林はオレの下で力を抜いている。

触れても抵抗しなかった。
キスしても、若林の唇は柔らかくて、オレを受け入れているように感じた。
肌蹴た胸。
白い肌は、冷たかった。

「マジで、いいのかよ…?」

後戻りできるような状況じゃなかったけど、オレは念を押した。
若林は遊んでる子とは思えなかったし、こういう事に慣れてそうでもなかった。
オレ自身、マジでいいのかよって、本当に思っていた。
「……」
ゆっくりと、目を閉じたまま若林は頷いた。
オレは、その唇にまたキスする。
オレの唇は彼女の唇から首筋へ流れ、そのまま心を決めた。



制服のブラウスの前だけを開いて、ブラジャーの中に手を入れた。
スカートもそのままで、オレは若林を探る。
「はあっ…」
彼女の反応は静かだった。
催眠術にでもかかったみたいに、体中の力が抜けていて、オレに身を任せてくる。
その姿は艶っぽくて、 普段とは違う若林のそんな姿に、オレは妙にそそられた。

触れた彼女は、ちゃんと濡れてた。
愛撫もそこそこに、オレは自分自身をさらけ出す。
「あっ…」
オレのものが触ると、若林は声を出した。
そこに当て、ヌルヌルと動かすと、自然に彼女の間に入り込んでいく。

オレは興奮していた。

制服のままの若林の姿が、妙に倒錯的で、精神的に異常に高ぶっていた。
ゆっくりと腰を寄せると、更に彼女へ、めり込んでいく。
「あぁっ…」
歪んだ顔から漏れる声が、また可愛かった。
「ううんっ…」
若林がオレの背中に腕を回す。
オレは動いた。
中がキツ過ぎて、それなのに濡れてて、自分が興奮してるせいもあって、あっという間にイキそうになる。

若林は苦しそうだった。
オレは我慢もせず、欲求に任せて果てた。

(やっぱり処女かよ…)

かなり思っていたが、引き抜いたオレ自身にも血がついてて、急に現実に引き戻される。
さっきから反応の薄い若林に対して、オレは心配になってきた。

「おい…大丈夫かよ、なあ」

オレの始末が終わった後でも、若林はまだ放心状態だった。
「おい…」
彼女の肩に手をかけた。
「あっ…、えっ…と」
唐突に我に返ったみたいに、若林の顔に生気が戻ってくる。
「ト、トイレ貸して」
「ああ、…そこ、廊下の左、近いほうのドア」
乱れた制服のまま、若林はトイレにダッシュした。

衝動にかられて押し倒して、処女まで奪った。

相手は、この真面目な若林。
どう声をかけたらいいのか、正直分からなかった。
こういう展開、経験が無いのだ。
オレは女遊びしてるように勘違いされる事が多かったが、実際にセックスまでするのは「彼女」になった女だけだ。
それだって、そんなに人数が多いわけじゃない。
どうしたらいいかまとまらないうちに、若林はトイレから出てきた。
慌てている様子で、周りを見回している。
「若林、送る……」
オレのセリフを遮り、自分のカバンを見つけた彼女はとってつけたような笑顔で言った。
「いい、いい、大丈夫!じゃあまた明日ねー!」
「おい、若林っ…!」
オレが立ち上がるよりも全然早いペースで、あいつは玄関まで駆け抜けて、そのまま出て行ってしまった。

(大丈夫かよ…)

後を追おうかとも思ったが、やっぱり言葉が見つからず、オレは思いとどまる。
(ヤバイよな…)
ガマンできなかった。
2人きりっていうのがまずかった。
あいつが無防備過ぎた。
それに、あいつが思ってたより可愛かった。
(って、全然言い訳できてねーじゃんよ…)

ヤってしまった…。

隣の席で、ヒルのいとこの若林と…。
(やべー…)
処女、だったんだよな。
オレが奪ったんだよな…。

嵐のように去って行った若林の後ろ姿を思い出して、オレはこれからどうしたらいいのか、頭を抱えた。


 
 

ラブで抱きしめよう
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