那波はカッコいい。
他人に興味が無いって感じも、視線を動かす時のダルそうな感じも、那波がそうしてるってだけですごくサマになってた。
立つと背が高くて、すごく『男子』を感じる。
染めてない髪も、那波の場合はクールに見えた。
私が普段いる立ち位置とは、全然違う世界にいる男の子。
「いいなあ……花帆」
「絵美香、また言ってる」
アイドル雑誌を見てる結衣が行った。
「那波って、超カッコいいと思わない?」
「思う思う。目の保養!」
大して興味が無いくせに、雑誌から目を離さずに適当な返事を返す結衣。
「結衣のタイプじゃないもんね」
「私のタイプは、どっちかって言うと A組の〜…」
ダメダメ、A組のあいつはナヨ過ぎる。
私は那波の、あの冷たそうな感じが好き。
(でも、花帆の前では優しいんだよね…)
羨ましすぎる。
2人のデートについていって、観察したい。
あの那波に優しくされてる花帆になりたい。
と言うか、やっぱりイチャつく2人の姿を見てみたい。
最近、私の妄想ネタは、那波と花帆のツーショットになってる。
(絶対エッチしてんだよね…)
花帆は相変わらず挙動不審のところがあるけど、何か前と違う。
何か余裕を感じると言うか。
(あ〜あの那波が…)
那波が脱いでる姿を想像すると、心の中で鼻血が出そう。
(あの花帆が…)
花帆サイドの事を考えると、やっぱり超恥ずかしい。
「はーあ。彼氏欲しいな」
那波の事は確かに好きなんだけど、それは憧れに近い。
届かないものを、好き、みたいな。
だけど花帆がそのハードルを簡単に超えて今や彼女になった事で、変だけど自分の妄想が果てしなく現実になっちゃったみたいな感じ。
花帆はホントに普通の子。
だけど、ちょっと間違ったことをする子がいると、ガンガン注意しに行ったりしてる。
あの正義感と度胸は何なんだ。
男子から見るととっつきにくいタイプの花帆。
女子から見るととっつきにくいタイプの那波。
もしかしたら、気の合うとこもあったのかも知れない。
でも花帆も、那波の前では可愛いんだよね。
他の男子の前では、絶対見せないその姿。
(なーんかね…)
友達もひっくるめて、妄想ネタにしてる自分が恥ずかしい。
教室ですれ違う時、微妙に視線のやりとりをしてる花帆と那波に気付く。
(あー、そういうのがたまんない)
それを客観的に見て萌えてる私。
何か違う、私。
「花帆、那波の友達とか、紹介してよ。合コン的な〜?」
昼休み、花帆に言ってみる。
「えー、那波が合コンみたいなのするかなあー」
「うーん…しないか」
「だけど那波の友達とか、絵美香のタイプの子っている?かえって『誰』って言ってくれた方が話しやすいかも」
「誰…か〜。そう言われてみると〜」
那波がよく一緒にいる水沢はいかにも彼女がいそう。
「って言うか、彼女のいない子って誰なんだろ?」
私が言うと、花帆も考え込む。
「そうだね。…その辺もちょっと聞いてみるよ。最近、那波の友達とも結構仲良くしてもらってるんだ」
ニコニコしてる花帆を見ると、もう存在自体が羨ましい。
意外にも、那波の友達ともうまく付き合えてる彼女がすごい。
(でも那波の友達も、チェックしとこ〜♪)
気楽にそんな事を考えながら、1人で教室へ向かって歩く。
(あー、男運、向いてこないかな〜)
「あ、ちょっとちょっと」
廊下で誰かに呼びとめられた。
「??」
立ち止まって見ると、派手な男子。
「あんた、那波の彼女の友達だよね?」
「花帆?」
「そそ、花帆ちゃんにこれ渡しに行こうと思ったんだけど、めんどいから頼んでいい?」
見覚えがある。ちょっと変わった茶髪だから、目立ってる奴だ。
確か猪瀬透也。
思い出したけど、めちゃくちゃ女癖悪いってウワサの奴だ。
「いいよ、渡しておく」
紙袋に入ったCDケースらしいものを受け取る。
(花帆ちゃんって呼ばれてるんだ)
着々と人脈を広げてる花帆が、また羨ましい。
「よく花帆の友達って分かったね」
そう思ったから、私は素直に言った。
「分かるよ、可愛い子はチェックしてっから」
(可愛い子って…私?)
「じゃー、よろしく〜」
ヘラヘラしつつ手を振って、奴は去っていった。
『可愛い』か…。
(そんな一言で、ウっと来るなんて、私も枯れてるなあ…)
そう思いながらも、教室へ戻る足取りは、さっきよりちょっと軽かったと思う。