もっと、いつも

☆☆ 23 ☆☆

   

「今週はスゲー疲れた」

部屋に入るなり、ベッドに座る那波。
日曜日。那波の家はお父さんがいるから、私たちは早い時間からホテルのフリータイムに入った。

私にとっては、2回目のラブホ。
自分がこういうところに来ちゃうっていう、この猛烈な違和感。
でも今日はコンビニで食べ物とか飲み物をバッチリ仕入れてきてて、ちょっとした遠足気分。こんなところなのに。

ベッドまでゆっくり歩いて、那波の隣に座った。
まだ午前。
「結構会ってんのに、すごい久しぶりな気がしねえ?」
「うん」
こうやって誰の邪魔も入らないところで、2人きりでいられる。
学校だとあんなに席が近いのに、ずっと『他人』って感じでそれも逆に切ない。
ずーっとおあずけされてる気分。

奈々央ちゃんにまゆ毛を整えてもらったから、今日は自分でも少し描いてきた。
昨日買ったビューラーで睫毛を上げて、ほんの少しだけマスカラもつけてきた。
「やっぱり、今日も目がパッチリしてる」
「ホント?」
「ああ」
那波にじっと見られるのは恥ずかしい。
彼がちょっと冷たい印象なのは、切れ長な目とまゆ毛の形のせいなんだろう。
でもその目が大好き。
教室では、目が合うだけでドキドキが体を巡ってしまう。
それなのに今、目の前に、彼がいる。

「どうしよう…。すごい緊張しちゃう…」
また、遠くに逃げたい気分になる。
近くにいたいのに、逃げたい。
逃げてちょっと遠くから、那波を存分に観察したい気持ちもある。
今、近すぎる彼の気配に、私は圧倒される。
何度も何度も抱かれてるのに、会う度に緊張してしまう。
今日は久しぶりだから、もっともっと緊張してる。
「若林、顔見せて」
「…やだ」
さっきからずっと見られてて、もう顔から火が出そう。
「いーじゃん。かわいーんだから、こっち向けよ」
「……む…無理…」
(そんな言い方されて、どんな顔したらいいの)

那波に手を取られた。
両手を掴まれて、そのまま押し倒される。
私の上に乗った那波を、嫌でも見上げる格好になる。
「恥ずかしいから……、キスして」
変な事を口走ったなと思ったけど、次の瞬間には那波の唇が重なってた。
私の手を掴んでいた那波の手が離れて、私の頬を撫でてくれる。
私は彼の首に手を回した。
キスするのは嬉しい。
すごくドキドキするけど、隣で顔をじっと見られてるよりも落ち着く。
那波に触れると、逃げたい気持ちが無くなる。
ずっと、触っていたい。

「好きだよ」

目を見て、言ってくれる。
(那波…)
好きだと言って欲しいと言ったあの時から、今日初めての2人きり。
彼の口から出るその一言は、どんな言葉も超える。
「拓真…」
好きの代わりに、私は彼を名前で呼ぶ。
私の口から出る『たくま』という言葉の中には、大好きとか愛してるとか、色んな意味が入ってる。特別な言葉。

キスされる。
濃密なキスを受けながら、私は彼に脱がされていく。
肌に直に彼の手が触れると、私はもう違う世界に入ってしまう。
さっきまでの緊張が弾けたみたいに、ドキドキの種類が変わる。
それはもっと熱くて、色が濃い。
裸になるのは恥ずかしいけれど、それもさっきまでの恥ずかしさとは違う。
もっと自然で、もっと求めてる。
肌を合わせて、もっと近づきたい。

「あっ…」

那波に触られる体が跳ねる。
彼とそうなってから、私の体は変わった。
彼の指が、私の出したもので滑る。
(気持ちいい…)
胸のドキドキと違う刺激が、彼の触れた部分から広がっていく。
「あっ…、あぁっ…」
中じゃなくて、外側にあるそこ。
その周りを、その部分を、那波の指が擦る。
何度か捉えられそうになりながら、私はその快感を逃がす。
逃がさないと、どうにかなってしまいそうだから。
私は那波の裸の肩を掴む。
彼の唇が私のまぶたにキスしてくれる。
その間も、彼の指は私をもっとダメにしてしまう。
「はぁっ…あんっ、あんっ…」
彼の指のせいで、こんな、未知の感覚が体中に。
血がそこへ集まっていくみたい。
彼の指が動く場所に、自分の感覚が集中していく。
(ああ……もうダメ…)
もう、逃げられない。

「だめっ…、あっ…、ああっ…」


「はあ……、はあ…」
私は彼に手を伸ばす。
那波の指はまだそこにあって、時々その部分をグっと押してくる。
「あ、……あ、…」
その度に、私の体はビクンと波打つ。
「ダメ…もう…」
那波はやっと指を離してくれた。
キス。
「ん…んっ…」
体中に、快感の余韻があった。
唇が触れ合う度に、また体が震えてしまう。

「花帆……可愛い」
「んっ…」
那波の耳元の声だけで、体の奥がギュンとなる。
(那波…好き…)
足を割って、まだ快感の中にある体に、彼が入ってくる。
「ああっ!…ああんっ…」
何度か動いて、そして更に奥へ入っていく。
「はあっ…はぁ……はぁ」
彼の息も熱い。
中へと繰り返される動きが強すぎて、辛いぐらい。
(もう…、いっぱいで…ああ…)

那波は体を起こして、私の腰を少し持ち上げる。
腰を引っ張るみたいに掴んで、彼は体をそらす。
(あっ…、ダメ…)
私の体の中の、彼の当たり方が変わる。
「ダメっ…、あ、あっ…、だっ…ダメっ…」
奥ばかり突かれて、すごい快感が私の中から湧きおこる。
(なんでこんなになっちゃうの…)
腿の力が抜けて足が震えてしまう。
逃れようと、手に力を入れるけれど、那波の手がしっかりと私の腰を掴んでいて離れない。
「ああっ…、やっ…、あ、ああん!」
(ダメ……、刺激が強過ぎて…、もう…)
那波の動きは止まらない。
私の腰は彼の動きに合わせて、ただ彼を受け入れた。


「ああ……、はあ…、はあ…」
(もうダメ…)
那波が後ろから抱きしめてくれて、私の首にキスしてる。
それすらくすぐった過ぎて、ダメ。
「花帆って、感じやすいよな…」
「わ、分かんないよ…」
そんな風に思った事は無かった。
私が感じるとしたら、ただ、理由は1つだ。
「那波だからだよ…」
「さっき拓真って言ってたじゃん」
「……拓真のせいだから」
「へー」
右肩を押されて、私は仰向けにされた。
裸の那波が、私の方を向いている。
私も彼の方へ体を向けた。

「那波…」
「ん」
「じゃなかった、拓真」
「くっ」
那波は笑った。
「この前、奈々央ちゃんに言われちゃった」
「何て?」
「なんで拓真って呼ばないのって」
「あー…」
「みんな拓真って呼ぶから」
私は那波を見た。
至近距離だけど、気持ちはさっきより落ち着いてた。
触れ合う前が緊張のピークで、エッチした後はいつもちょっとホっとするような気がする。
「私も拓真って呼ぼうかな」
「うん、呼べよ」
「だって、何でって聞かれるのも、説明するのもヤだし」
「そうだな」
那波はそこで深く頷いてた。

「龍大がさ」
「うん」
「オレより先にお前の事、呼び捨てで呼んでるじゃん」
「……」
「あれ嫌だった」
確かにそうだった。
でもそんな事を気にしてた那波がすごくカワイイ。
「じゃあ、透也くんみたいに『花帆ちゃん』って呼んでよ」
「はあ?やだよ。ちゃんづけ、気持ち悪い」
「ははは」
私は笑ってしまう。那波が私の事を『花帆ちゃん』なんて、ホントに気持ち悪い。
「若林は、…やっぱ若林で、『花帆』だよ」
「うん」
「お前んちで、『若林』って言うのも、…なんかどうなのとか、最近思ってきて。お母さん呼び捨てにしてるみたいじゃんか」
「やだ、あはは」
お母さんが那波に『若林』って呼ばれてるのを想像して、おかしくなってくる。

「……花帆」
那波は急に真面目な顔になって、私を真っ直ぐ見た。
「何?」


「愛してる」

「えっ?ええっ??何っ?」
急に真顔で、那波にそんな事言われるなんて。
一瞬にして顔面が火を噴いたと思う。
「はははっ、お前の反応、超おもしれー」
横で那波は爆笑してた。
「何?何?もしかしてからかってんの?もう、ヤダー」
それでも今の『愛してる』が耳から離れなくて、でも信じられないぐらい奇跡で、からかわれてるのに嬉しくてたまらない。
(那波に愛してるって言われちゃった…)
どうしよう、嬉しすぎる。

「花帆、オレ、…お前の事ホントに超好きだぜ」
那波は私を抱き寄せて、その腕に力を込めた。

「………」
ドキドキがまた一気に起こって、体を揺らしそうなぐらい。
那波のくせに、こんな事を言っちゃうとか、言ってくれるとか、本当に信じられない。
離れてる時間のせいで彼が素直になってくれるなら、それも悪くないかもって思った。
(どうしよう、顔が上げられないよ…)
私も、大好き過ぎて。
とても言葉にできなかった。


 

ラブで抱きしめよう
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