夢色

10 愛されるって(続き)

   
暖かい腕の中で、目が覚める。
また眠ってしまったんだ。

田崎はあたしを見ていた。
「…起きてたの…?」
「あぁ…」
改めてあたしも彼を見つめ返す。
「ずっと…?」
「ずっと」
田崎が言う。

(ずっと起きてたの?)
(ずっとあたしを見つめていたの?)

彼の左手があたしの左の耳たぶをいじる。
右手は体に廻されて、あたしの頭のてっぺんあたりの髪を触ってる。
こんなにも、彼が近くにいる。
今、体中に、温もりを感じてる。
あたしが田崎に顔を向けてもう一度見つめ返すと、彼の左手があたしの頬へと移動する。
(あ…)
そうなるのが当たり前のように、田崎の唇があたしの唇に触れた。

すごく優しいキス。

彼の唇は、あたしの唇から頬へ、頬からまぶたへと移っていった。
甘い空気が流れる。
まるで恋人同士のように。

あたしは思わず思っているままを口に出してしまう。
「いつもは、こんな風にキスしないのに」
田崎は相変わらず優しい目であたしを見ている。
「さっき、キスできなかったから」
そういえば、そうだった。
だからといって、こんな風に甘く…まるで好きな子にするみたいに。

あたしは言葉にしてみたくて、たまらなくなる。
「大好きだ」って。
だけど、あたしの中で大きくブレーキがかかる。
その一言で、この関係を終わらせてしまいたくない。
彼と、会えなくなりたくない。
だけど彼に聞いてみたい。
先生は、あたしのことをどう思っているのか。
それでもその返事が怖くて、やっぱり言い出せない。
「先生…」
今度はあたしが彼の手を触る。
指が絡まる。
好き…

田崎はあたしの言葉の続きを待っている。
「…なんでもない…」
指を絡めたまま、あたしは彼の爪の先を触る。
この指が腕が、さっきあたしをたくさん愛してくれた。
先生は何も言わない。
絶対、あたしの気持ちはバレバレだと思う。

分かっているくせに、どうしてこうして平然と会ってくれたりするの?
そして、なんでこんなにも優しくしてくれるの?
どうしてそんなに甘い目で、あたしのことを見るの?
でも少しでも好きでいてくれているのなら、こうして時々あたしの事を愛して欲しい。
体だけでも…、
だけどあたしは心から彼に愛されているような気がする。
それは錯覚なの?現実なの…?
それでも目の前にいる彼は、夢じゃない。


田崎の視線。
彼の指の感触。
すぐ側に顔があるから、吐息まで感じられる。
胸がドキドキする。
切なくて、唇が震えそうなぐらい。
大好きなの。
もう、体中から溢れてる。
平然なんて、装えない。
愛されたい。
たとえそれが意味をなさないものでも。


あたしは目を閉じる。
それが合図のように、先生がまた唇に触れる。
田崎の体が、あたしに覆い被さってくる。
さっきよりも、ずっと深いキス。
「んん…」
思わず声が漏れてしまう。
口の中、歯の裏、…まるであたしを食べてしまいそうに。

私の体の上に重なった田崎の重み。
お腹の辺りに、大きくなった彼を感じる。
何も言わない。
先生も、あたしも。
ただ、ずっとキスを続ける。
まるでそれが言葉のように。
彼が、そっとあたしの脚を割る。
あたしの両手は彼の両手と繋ぎあったまま、重なったお互いの体が引き寄せられるみたいな自然の動きで、彼があたしに入ってくる。
そのままの姿勢で少しずつ、田崎が動く。
あたしは体の中に起こされた快感のせいで、首がぞくぞくして背中がのけぞってしまう。
離れそうになる唇を、彼が追いかけてくる。
あたしの空いてるところ、唇も下も、彼に塞がれる。

あたしたちの吐く吐息が、重なる。



あたしはまた彼の作る波に押し流された。


「お湯、入れて入るか?」
正直、あたしはもう相当ぐったりしていた。
田崎に頷いて、彼に任せる。
(年の割に、元気だよなぁ…)
本気で思う。
先生はバスルームから戻ってくると、飲み物を出してきてあたしに差し出した。
「ありがと」
500ミリペットのウーロンを、あたしはほとんど一気飲みしてしまった。
「あ〜、すごいノド渇いてたみたいだよ」
あたしが言うと、田崎はもう1本、今度はポカリを持ってきてくれた。
「大丈夫?」
田崎があたしの隣に来て言った。あたしは黙って頷いた。
「立てるか?」
田崎が手を伸ばしてくれる。
その腕を掴んで、脚に力を入れてみたけど、すっごくフラフラしてた。
もちろん気持ちよすぎたってのもあるんだけど、さっき自分が動いて、体力というか筋力を消耗してたせいだと思う。
あたしこそ、若いのに全然体力がない。
「やだぁ…、フラフラかも」
「…しょうがないな」

「えぇっ!」
田崎があたしを抱き上げる。
これっていわゆるお姫様抱っこだ。
「いや〜ん」
あたしは嬉しくて、思わずヘンな声を出してしまう。
「先生、重いでしょ?」
「そうでもないよ」
田崎は平然とあたしをバスルームまで運ぶ。
そして、浴槽の中で下ろしてくれた。
あったかい…
田崎もあたしの背中側に入ってくる。

バスルームのスイッチをいじって浴槽の中に明かりをつけて、天井の照明を落とした。
うす暗いバスルームの中、浴槽の白い照明があたしの体の影を色っぽく幻想的に演出する。
田崎は後ろからあたしの腰に手を廻していた。この抱かれ方、好き。
「こういう明かりで見ると、あたしの体もキレイに見えるね」
あたしはそう思ったので言った。
「梶野は、キレイだよ」
腰に廻された彼の腕に力が入る。
「………」
あたしのドキドキが一気に高まる。
少し振り向くと、あたしはまた田崎にキスをされた。
 

ラブで抱きしめよう
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