「せっかくだから、ご馳走してやる」
「え!ホントに!」
さっきからあたしはずっとドキドキしてる。
田崎のしぐさ、1つ1つにビクビクしてる。
一緒にゴハンが食べられるなんて、すごく嬉しくなってきたけどすごく緊張もしてきた。
『大人』とデートしてるみたいで、あたしは浮き足立ってくる。
田崎が連れてきてくれたのは、少し郊外の景色のいい洋食系のお店だった。
「女の子って、こういうとこ好きだろ」
「うん」
あたしは素直に頷いたけど、田崎はこういうとこ、しょっちゅう誰かと来てるんだろうか。
舞い上がってて気付かなかったけど、田崎は随分色々と慣れてそうだ。
あたしが普段見てる、「教師」の一面なんて、きっと彼のほんの一部で…
っていうか、きっと「教師」の顔自体が田崎の全く違う面なのかも知れない。
座るとき、お店の人がイスを後ろに引いてくれた。
こんな風なお店も初めて。
「しかし梶野に騙されたよ」
水に口をつけながら、田崎は言った。
あたしも冷たいグラスに手をつけた。
「高校生じゃないフリ、するの結構気ー使ったよ」
指先が少し震えてる。
どうしよう。
ホントに緊張してる。
こんなんでゴハン食べれるんだろうか。
「高校生とは、思わなかった。でも今日の梶野だって高1には見えないよ」
先生はあたしを見て笑う。
あ、この笑顔、ダメかも…。
どうしよう。
「た、田崎って、何歳なんだっけ?」
焦ってつい素で名前で呼び捨ててしまった。
田崎は生徒にそんな風に呼ばれるのは慣れきってるみたいで、流してる。
「もうすぐ32」
田崎の顔をよく見てみる。
シャープな感じなのに、目の表情が優しい。
こんな目、してるんだ…。
「せ、先生も、32には見えないよ。…もっと、若い感じするよ」
料理が運ばれてくると、やっぱりあたしもまだ高校生なワケで。
ちゃんとしっかり食べてしまった。
いっつも友だちや彼氏と行ってる、安い店とは全然違ってた。
雰囲気も、料理の質も。
食事をしながらだんだんとあたしは田崎に慣れてきて、だけどそれと同じぐらいドキドキは増えていった。
「ねえ、先生」
あたしはダメ元で言ってみようと思った。
こういう事、平気で言えるの、(我ながら)コギャルの強みだ。
店を出たとき、あたしは田崎に近付いた。
もう、肩が触れるぐらいに。
「…せっかくだから、ねぇ、エッチしようよ」
女の子も欲情するんだって、初めて思った。
田崎を見てたら、体の中がいつもと違ってきた。
田崎は本気でビックリしてた。
「はぁ?…なんなんだよ急に?」
その反応にあたしは心底ガッカリしながら、言った。
「うーん…なんていうかー、…先生と、したくなってきたからー」
多分、『付き合ってほしい』と、『エッチしてほしい』っていうの、比べたら絶対『エッチ』の方が言える。
あたしにとって、セックスのハードルは低かった。
「なんだよ、オレを誘惑して脅迫でもすんのか?」
田崎は笑ってた。
冗談で流されてしまうのか。
「脅迫なんて、しないってば」
なんだか、泣きそうな顔になってたかもしれない。
口に出しながら、自分の中はもういっぱいいっぱいだった。
不思議な感情。
恋しいとか、そういうのとはまた違う。
一番近いのは、「欲しい」ってこと。
――― 約束、した。
今日のこと、絶対誰にも言わないって。
今までの人生(まだ15年だけど)、それなりにもててちやほやされてきた。
そんな面目だって、これで何とか保てそうだ。
あたしは初めて、車でラブホテルに行った。