夢色

6 6月

   
あたしは座り込んでしまった。
脚がガクガクする。心臓はバクバクする。

「はぁ、…はぁ、はぁ…」

元々腰を落としていた田崎は、あたしの髪にキスした。
頭がぼうっとしてる。

これから…されちゃうのかな。


田崎はあたしが落ち着くのを待って、言った。
「もう帰らないと」
「え…」
あたしは田崎にぽんぽんと肩を叩かれる。
「し、…しないの?」
エッチされるものだとばかり思っていた。
田崎はあたしの手をとって、体を引っ張って起こしてくれる。
「学校では、しないよ」

(でもこんなことしたじゃん…)

あたしはちょっと(いやかなり)ガッカリして、脚を真っ直ぐにして起き上がる。
パンツが膝のあたりまで脱がされたままだった。
もうこの部屋はだいぶ暗い。
あたしは慌てて下着を直すと、田崎に付いて一緒に部屋を出た。

スカートを強く握りすぎたせいで、前の方がくしゃくしゃになっていた。
おまけにやっぱりすごく汚してしまって、あたしは自分の脚の間がとても不快だった。
「先生、あたしなんだかひどい格好なんだけど」
その言葉で、振り返って田崎はあたしを見た。
「………そうかもな」
実験室を出ると、廊下ももう既に暗くなっていた。
7時を回ってる。
この時間はもう残っている生徒はいないはずだ。
田崎は廊下を歩きながら、あたしに言った。

「今日だけ、特別に、家まで送ってやる」


あたしはトイレに行ったあと、人目を気にしながら校舎を後にした。
誰もいない学校はなんだか怖いし、自分が悪いことしちゃったっていうのが助長される。
車で通勤している教員は、近所の月極めの駐車場を借りている。
田崎の車が停まっていた。
暗い中でも、高級車なのが分かる。
助手席の窓が開いていた。
「お前は、後ろに乗れ」
「はぁい…」
助手席に乗れるって期待してたけど、仕方ないか。
誰かに見られると色々とまずいし。

学校から車で出て行くなんていう事、自分が経験するなんて思ってなかった。
座り込むとどっと力が抜ける。
……体がだるい。
この前田崎とエッチしたときも、歩くのもイヤになるぐらいぐったりしてしまった。
帰りの車の中で、あたしはすっかり眠ってしまったんだったっけ。
それと比べるとかなりマシだったけど、今日もフラフラになってた。
後ろの席にいると、猛烈に眠気が襲ってくる。
「先生、寝てもいい…?」
「いいよ。」
田崎が小さくFMをかける。
あたしは後部座席の黒い革シートに倒れこんで、すぐに眠ってしまった。

家から少し離れたところで車を降ろされた。
自分の部屋に戻ると、疲れがどっと出た。
「あたしは、バカだな…」
帰りの車、せっかく二人だったんだからもっと喋ったりすればよかった。
やっぱり田崎はすごく気持ちよくしてくれて、やっぱりいやらしかったんだけど気になることがあった。

今日は唇にキスしてくれなかった。
自分の唇を、指でなぞってみる。

田崎は今までどれくらいの数の女性と、関係があるんだろう。
どんな女の人と、付き合ってたんだろう。
色んなことが気になる。
今は彼女がいないって言ってたけど、どうしてなんだろう。
学校では全然分からなかったけど、多分彼はお金持ちなんだと思う。
それに、実は相当かっこいい。
学校でのあの風貌は、自分で分かっててそれを隠してるって感じだ。
「謎だ…」
あたしは田崎のことばかり考えながら、いつの間にかまたウトウトしていた。


あたしは思い切って田崎にメールをした。
彼からは次の日に返事がきて、結局7月に入ってテストが終わってから会う約束をした。


日曜日、買い物がしたかったからあたしはテルと渋谷に来ていた。

「なぁ、麗佳の誕生日っていつよ?」
テルはカレーの大盛りを食べながら言った。
こいつの食べっぷりは、いつ見てもすごく気分がいい。
「18日」
あたしは「激辛」を頼んで、それを一口食べて答えた。
結構辛い。やっぱり辛いものは辛くないと。それが美味しい。
「何月の?」
「先週」

「えぇ!」

テルはスプーンを置いた。
「なんでそんな大事な事言ってくんないのさ!」
テルはなぜかちょっと怒ってる。
あたしは答えた。
「だって、別に聞かれなかったし。…なんか催促してるみたいじゃん」
「はー」
テルはため息をついて、改めてあたしを見た。
「催促してもいいじゃんよ。オレら付き合ってるんだし」
「んー…」
こんな風に、テルに「付き合ってる」ってハッキリ言われたのって初めてかもしれない。
『付き合って』って言われて、あたしはその答えを言葉にしていなかった。
だけどどう見ても付き合ってるんだろうなぁ…この状況は。
テルはあたしに何かプレゼントしたいって、食い下がってきた。
「いいよ、あたし何かもらうのって苦手。呪われそうで捨てらんないし」
「…いきなり捨てる話かよ」
その後もブツブツ言ってたけど、あたしは適当に流した。

「うぅんっ…」

なんとなくなりゆきで、テルとホテルに来ていた。
テルとは、これでまだ2回目だ。
なんだかんだ言って、田崎とのエッチを入れてもあたしの経験はまだ10回もない。
服を脱いだテルは細い。
あんなに食べるのに、こんなに太らないなんて羨ましいってこの前も思った。
愛撫もそこそこに、テルがあたしの中に入ってくる。
きっとテルも、そんなに経験豊富ってワケじゃないんだと思う。
男の子にそんな事聞いちゃいけないような気がして、はっきり確認してないけど。

「麗佳っ…」

テルの汗があたしに落ちてくる。
「う、あぁんっ…」
あ、その当たり方、気持ちいい…
だけどテルはすぐに体の位置を入れ替えてしまう。
今のがよかったのに。

「あっ、…あっ…」
「麗佳…、…麗佳…」

耳の下に強くキスされる。
そんな風にしたら、あとが残っちゃう。
肩の開いた服を着てきたから、あたしはテルのキスが気になって仕方がない。
さっき脱いだカーディガン、シワになっちゃわないかな…。
あたしは何となく集中できないまま、テルを受けとめた。

シャワーから出てくると、テルはベットで爆睡していた。
(その気持ちは、分かるよ…)
田崎とエッチな事をした後、あたしは眠くて仕方なくなってた。
「んー…」
テルがかすれた声を出す。
眠っているテルを見ると、しみじみカワイイなって思う。
睫毛なんて男のくせにビッシリだ。
なのに、顔の印象はさっぱりしてる。
二人で街を歩いてると、テルを見る女の子の視線を感じる。
まぁ、私を見る男の視線も感じるんだけど。
学校でもあたしたちが目立ってるのは何となく分かってた。

(どうなのかな…)

もしかしたら、田崎もあたしがテルと付き合ってることぐらい、知ってるかもしれない。
付き合ってる子がいるのに田崎を求めてしまうあたしを、彼は軽蔑するだろうか。
テルと抱き合うのはイヤじゃない。

だけど、違う…
やっぱり、…あたしがしたいのは先生だ。

早くテストが終わらないかな…
テルの横で目を閉じながら、あたしはそんな事ばかり考えていた。

 

ラブで抱きしめよう
著作権は柚子熊にあります。全ての無断転載を固く禁じます。
Copyrightc 2005-2017YUZUKUMA all rights reserved.
アクセスカウンター