センター試験が終ったはずの今日、太郎くんにメールしても電話しても反応がない。
もしかして、結果がすっごい悪かったりして…
それか、もう疲れて寝ちゃってるのかも…
昨日の太郎くんの電話、店がうるさくてあんまり聞こえなかったけど、
多分彼は不機嫌だった。
そりゃぁ、そうだよね。明日試験なのに、飲んでるとこから電話なんて。
私は後悔したけど、どうしても太郎くんの声が直接聞きたくてかけてしまった。
飲んだりすると、余計に太郎くんが恋しくなる。
まあ飲まなくても、ちょっとした事でいちいち太郎くんのことを思い出してしまうんだけど。
要するに、いつもいつも太郎くんのことばっかり考えてるんだけど。
夜中12時を回ろうとしたとき、太郎くんから電話があった。
「もしもし……?」
自分のベッドから起き上がって、私は携帯を手に取った。
『あ……涼子…?…起きてた…?』
「起きてたよ」
電話をかけてきた太郎くんの声の方が眠そうだった。
「太郎くんの方が、眠そうなんだけど」
私はちょっと笑って言った。
『あぁ…うん……すごい眠い…電話かける前もちょっとウトウトしてた』
「いいよ、じゃあ、寝て…明日ゆっくり話そ?」
私は太郎くんから電話があっただけでも嬉しいから、
話を聞くのは別に明日でも良かった。
『ううん……どうしても涼子の声が聞きたくて』
「えーほんと?」
私はすっごく嬉しくなる。
『今日、涼子ちゃん、…何回も電話くれてでしょ?』
「うん、ごめんね。しつこかった?」
『ううん…嬉しい…』
太郎くん、声がホントに眠そう。
でもそんな声もすっごく可愛くって、もう超愛しいって感じ。
『なあ、涼子ちゃん、…明日、会えない?』
「ええ!」
最近、こうして急に会えたりすることなんてなかった。
「私はいつでも会いたいよー」
ワクワクしながら私は答えた。
「珍しいねー。それに、久しぶりだよー」
『じゃあ、会おう…』
「ホントに?わーーーーい!」
私は夜中なのに声が大きくなってしまう。
『何時にしよう……』
そう言いながらもやっぱり太郎くんの声は眠そうで。
私は明日のためにも早く時間を決めて、電話を切ってあげようって思う。
「予備校はいいの?」
『いいよ、……今更1日ぐらい』
「…それはそうだよね…」
もう受験までホントにキワキワだった。
「じゃあ、太郎くん、明日学校もさぼっちゃいなよ」
半分冗談で、半分本気で、全部願望で私は言った。
『えぇ………』
太郎くんは暫く黙る。
『……じゃあ、そうする』
「えー!ホントに??」
私はすっごく嬉しくなって、ベッドの上で軽く跳ねてしまった。
『涼子ちゃんこそ、学校いいの…?』
「いいよいいよ。
私、普段結構マジメに通ってるから、全然日数大丈夫だもん」
良かったあ、普段マジメにしてて。
『じゃあ、明日涼子ちゃんち行くよ。
…8時半ぐらいに着いちゃうけど、いい?』
「いいよいいよ!全然いいって!じゃ、適当に来て!待ってるよ」
私はあまりに嬉しくて、興奮してくる。
『じゃ…そういう事で……明日ね』
もうホントに太郎くん寝ちゃいそう。
「うん、すっごい楽しみ、じゃあねー、太郎くん」
私は電話を切ろうとしたけど、太郎くんはまだ繋がってた。
『…おやすみ……涼子、……超愛してるよ…』
いやーん、って思ったら、電話が切れた。
やったあ。
こんなにゆっくり会えるなんて、本当に久しぶりだった。
おまけに平日だし。
平日って、休日よりも何だか時間の進み方がゆったりしてるような気がする。だから、明日は余計にゆっくり過ごせるかもって思う。
何だか今日の太郎くんはすっごく可愛かった。
私は気がついてたけど、太郎くんは私に甘えたいとき、無意識に『涼子ちゃん』って言ってる。今日、何回か言ってた。
(あぁ、試験どうだったか聞くの忘れてた…)
ま、いっか。
明日たっぷり会えるし。
それにしても、なんかあったのかな?
それか、センター試験が終って、ちょっと一段落した?
『愛してる』って、言ってくれた…。
まあ普段でも、よく言ってくれるんだけど。
眠い声で聞いたその言葉は、なんかすごく素な感じで良かった。
(わー明日太郎くんと朝から会えるよぉ…)
そう考えると、私は眠れるかどうか自信がなくなった。