ラブで抱きしめよう |
4☆ 嫉妬 |
全然気が乗らない。 そもそも合コンなんて、大嫌いなのに。 今日は専門学校の友だちの由梨絵がどうしてもメンツが足りないからって言って、私はシブシブ参加することになった。 イヤイヤ行ったこの前の合コンは最低だった。 仕切りが男の方だったし、ヘンな居酒屋の座敷みたいなとこでやった。 人数が7対7で、他のお客さんからも店員さんからも「あいつら、合コンやってる」って目で見られるし、来てる男たちもとにかく暗くって、気は使っちゃうわもうホント最悪だった。 「この前とは違うからさー」 って言われて、ホントにしょうがなく私はついて行った。 今日は男女3人ずつ。 これぐらいの人数だったら、まぁ普通の飲み会っぽく見える。 場所も由梨絵が選んだだけあって、そんなに悪くなかった。 「えーと、春日涼子ですー」 こんな自己紹介も、すっごいバカっぽい。 あぁやだやだ。もう帰りたい。 男の子たちは美術系の大学行ってる人らで、学年は1コ上だった。 「涼子ちゃんはどんな人が好きなの?」 「んー。年下かなぁ…」 しーん。 ごめん由梨絵。こんな私で。 普通の話題ならともかく、こんなパーソナルな話題では気を使えない。 「それよりそれより!今日のメインは美咲だよね♪」 私は隣にいた美咲に話を振る。 美咲は今フリーで、彼氏をめっちゃ欲しがってたのだ。 せっかく話を変えようとしているのに、私と対角線上に座ってる男がまだ食いついてくる。 「涼子ちゃんは彼氏いるのかな?」 「うん。いるよ♪」 私はニコニコして答えてたと思う。 別に私はメンツ合わせだし、隠すこともなかった。 「付き合ってどれぐらいなの?」 いいじゃん。そんなことどうでもと思いながらも答える。 「2年半ぐらいかなぁ〜」 「じゃあ、そろそろ飽きてきたんじゃない?」 知らないくせに平気でそういう事言ってくる。 あの人に対する私の印象はだんだんと悪ーくなってきた。 「飽きないですよ。だってすごいカワイイんだもん」 なんかムキになって言ってしまう。 「あ、彼氏が年下なんだ?」 「そうなの」 私は答えた。 料理がどんどん運ばれてきて、みんなの注意が反れる。 私はほっとする。 その後は由梨絵が上手く繋いでくれた。 彼女は最近合コンの仕切りばっかやってて、なんだか場慣れしてた。 私はいつもならヘンに盛り上げようと気を使っちゃったりするんだけど、 今日は由梨絵に任せておとなしくしてた。 「涼子ちゃん同じ方向なの?」 帰り、最初に私に質問してきた男が聞いてくる。 やだなぁ、でもしょうがないかなと思って、私は答える。 「倉元さんもそうなんですか?」 その男の名前は倉元…だった気がする。 「ラッキー。じゃあ途中まで一緒に帰ろうか?」 『送るよ』とか言われなくてよかったぁと思いながら、私は改札へ向かう。 自然と一緒の電車に乗る羽目になる。 「涼子ちゃんが一番可愛かったのに、彼氏がいるなんて残念だったよ」 「美咲とか、どうですか?」 さっき聞いたら、美咲はこの人が一番気に入ったみたいだった。 うーん。まぁ確かに話すと優しそうだし、顔も一番男前だった。 何よりも、自分に自信がある、っていうのが滲み出てる。 そういう男って、女から見たら悪くない。 「美咲ちゃんかぁ。確かに可愛いけど、涼子ちゃんには負けてるし」 「負けてませんよ」 このとってつけたような会話がイヤだなぁと思ってたら、 カバンに入れてた携帯が震えた。 目ですみませんって言って、私は携帯を出した。 太郎くんからメールが入ってる。 ナイスタイミング。 「ごめんなさい。ちょっと電話したいんで、次で降ります。」 すぐに次の駅に到着する。 もうホントにいいタイミング。さすが私の太郎くん♪ 残念そうにしてる倉元さんを置いて、私は電車を降りた。 駅のホームで太郎くんに電話をする。 「太郎くん〜。も〜超愛してるよ〜。」 『ど、どしたの、急に』 慌ててる太郎くんの声。 「太郎くん、今どこにいるの?」 『予備校出たとこ。さっきは予備校からメールした』 横に誰かいるっぽい。 太郎くんの喋りがいつもより固いからすぐわかる。 「私今渋谷出て、次の駅で降りたとこ。 ちょっとでも会えないかなぁ〜」 いつも思ってることだけど、太郎くんに凄く会いたい。 太郎くんにしかできないあの優しい表情で、私を見つめて欲しい。 『うーん。すっごいそうしたいんだけど… これから会うのにちょっと時間かかるよね。 …会ったらなかなか帰れなくなっちゃうし…』 それはそうなんだけど。確かにもうすぐ10時だし。 自分の中ではまだ10時って気がする。 だけど太郎くんは高校生で、また明日普通に学校がある。 「そう言われればそうだね…。あーん会いたいなぁ」 太郎くんを困らせるつもりはないけど、自然と口をついて出てしまう。 『オレもすっごい会いたいよ。涼子』 少し小さな声で電話の向こうの太郎くんが言う。 「今度いつ会えるかなぁ…。もう待ちきれなくなりそうだよ」 声を聞いたら、もう会いたくて会いたくてたまらなくなる。 最近は毎日こんな想いで夜を迎えてる。 『うーん、今週はムリかなぁ…。もう11月入っちゃうかも…。 ホントごめん。オレも会いたいんだけど…』 「…うん。ガマンする…。太郎くん頑張ってね」 今月もう会えないって思ったら、少し悲しくなってきたけど だけどそれはきっとお互いそう。 太郎くんだって、頑張ってるんだ。 「じゃあ、また明日電話するね」 『うん。涼子も気をつけて帰ってな』 「おやすみ、大好き」 『うん、オレも…。おやすみ』 私は電話を切った。 (寒いなぁ…) 急に体が冷えてく気がする。 早く帰ろう。 太郎くんとは対照的に、私は来年の4月から服飾関係に就職が決まっていて 気楽に日々を過ごしてる。 やっぱりどうしてもガマンできなくなって、太郎くんの予備校の前で彼を待つ。 ちょっと電車で一緒に帰るくらいなら、いいよね。 9時5分前にビルの入り口に着いたけど、もう深夜みたいな雰囲気。 こんな時間まで勉強してるっていうのが凄いなぁって改めて思う。 何もなければ、私はお風呂入って家でテレビ見たりしてグダグダしてる時間だ。 ちょっとザワザワして、高校生が出てくる。 私は気恥ずかしくて、歩道の少し離れたところに立ってた。 (あ、太郎くん……) 見慣れた制服が見える。 隣に須賀くんがいて、なんか喋ってる。 いつもの私だったら、このまま出て行って二人に話し掛けてる。 今日は隣に知らない女の子がいた。 セーラー服で、うちの高校じゃない。 足早に3人は斜め向かいにある喫茶店に入って行った。 私は出るに出て行けなかった。 あの子、太郎くんの事が好きだ。 女の勘というか、彼女の勘というか、…一目ですぐわかった。 太郎くんを見る目、あの女の子は太郎くんの事凄く好きだ。 太郎くんは普通にしてたけど、気付いてないのかな。 気が付いてなさそうだな…。太郎くんってそういうトコある。 私のコトとかよく気が付いてくれるのに、自分の興味のない事全然分かってなかったり…。 太郎くんと一緒に帰れなかったこともガッカリだったけど、 太郎くんの事を好きな女の子を見てしまったのも、何だかショックだった。 あと、お茶する時間があったら私に連絡してくれればいいのに、とかも思ってちょっとむかついた。 どんなちょっとの時間でも、ヒマがあったら(ヒマじゃなくても)飛んできちゃうのに。 それぐらい、私は太郎くんに会いたくて仕方がないのに。 太郎くんのちょっとした隙間の時間、全部欲しいと思う。 一人で家に帰る間も、ずっと太郎くんのことを考える。 家に着いてからも、太郎くんのことで頭がいっぱい。 もしか自分がこんな状態で受験生だったら、全然勉強なんてできなさそう。 ていうか、太郎くんのこと以外、私は何もできないような気がする。 今日改めて思った。 太郎くんには太郎くんの世界がある。 私と一緒にいる時間は太郎くんは私のものだけど、今みたいに離れてる時間の方がずっと長いと、彼の日常は私の知らない事ばかりだ。 今日ちらっと見た太郎くんのことを好きな女の子。 知らない高校の制服で、素顔なのに充分に可愛らしかった。 太郎くんの事が好きって感じが溢れてて、なんかキラキラしてた。 制服同士の高校生の姿が、私には眩しく感じた。 なんだか嫉妬してしまう。 それだけじゃない。 太郎くんが毎日通っている学校。 その教室にいる女の子全員に、太郎くんと時間を共有しているというだけで嫉妬してしまう。 自然に一緒にいられるっていう事、それが最高に羨ましい。 同じ年だったら良かったって、今まで何度も考えたけど今日はホントに思う。 もしも太郎くんと同学年だったら、私の高校生活はもっともっとずっと良かったと思う。 特に1年のときと2年のとき。私はただ時間を潰すために、ただ気持ちが良かったってだけで、どうしようもない事ばっかりしてた。もうその時間は取り戻せない。 なんだかすごく切なくなる。 今、太郎くんを取り囲む全てのものに、私は嫉妬してしまう。 今日の夜は太郎くんの弟になりたい。 明日の昼は太郎くんの隣の席の女の子。 夕方は須賀くんになって予備校に一緒に行きたい。 それぐらい、会いたくて仕方がない。 太郎くんのことが、どうしようもなく、好き。 想いが溢れてきて、私はお風呂に入りながら泣いてしまった。 |
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