ラブで抱きしめよう

7☆ 癒し

   
「あぁ、ちょうどいいとこに通りがかった!藤田くん、そこ持っててくれる?」
教室の後ろで、中山が掲示物を貼ってた。
こいつはあっさりした性格で、クラスの雑用とかいつもやらされてる。
でも本人は全然嫌がらない。
そんな感じで結構いいヤツだったから、女子も男子も中山の事が好きなヤツが多かった。
「もうちょっと上に…あたしじゃ届かなくってさ」
「この辺?」
オレは手を伸ばして、模造紙を全体に上にあげる。
中山が下からオレを覗き込む。
「う…、…うん、そんな感じ。これでとめて」
オレは画鋲を受け取ると、言われた場所に固定した。
伸ばした腕を引っ込めて、オレは中山に言った。
「何?どうかした?」
「ヘンに思わないでよ」
中山が上目遣いにオレを見る。
「うん」
「なんか、藤田くん、一瞬すごい色っぽかった」
「えぇ?」
こんな風に他人に言われたのは初めてで、オレは戸惑ってしまう。
「なんかさぁ、男のエロさを感じたよ」
「ただスケベっぽいってこと?」
欲求不満ムンムンしてんのかなって思ったら、ちょっと恥ずかしくなってくる。
「ううん、いい意味で。…側にいたらちょっと惚れそうかも」
中山はオレが手伝ったことにお礼を言うと、友達の和の中に戻っていった。

(色っぽい、かぁ…)
ピンとこなかったけど、そんなに悪い気はしなかった。


「太郎、オレF女の子と付き合うことになった」
「ええ!」
須賀は珍しくちょっと嬉しそうにしてる。
「堀内に紹介してもらった子さー、結構カワイくってさー」
「早いな!」
「太郎だって、涼子ちゃんと速攻付き合ってたじゃん」
須賀と駅から予備校までの短い道のりを歩く。
11月に入って急に寒くなった。
「こんちわっ」
「うぉっ」
須賀が振り返って声をあげる。
「あぁ、堀内か」
「うーっす」
オレも声をかける。

「麻衣子ちゃん、この前はありがとぉ〜〜♪」
須賀が堀内に言った。
誰が『麻衣子ちゃん』だよ。
ところで堀内って麻衣子って名前だったのか。
堀内はすっごい複雑な顔をしてる。
「良かった…。小百合も須賀くんのこと、すっごい気にいってたから」
「マジぃ…」
オレは思わず言ってしまった。
「どー?太郎?ダブルデートってのは!」
須賀が余計なことを言う。
「そんなの、堀内が困るだろ」
オレは堀内を見た。堀内は本当に困ってた。


須賀の事もあって、堀内はよくオレ達と話すようになってた。
慣れてくると堀内は見た目よりも明るかった。
中学の時、バスケのキャプテンだったっていうの、何となく想像できるようになった。

須賀がいないとき、オレは堀内に言った。
「なぁ、須賀ってさ、すっごい飽きっぽいヤツなんだけど…。
堀内の友達は、大丈夫なのかな?」
「あぁ…。大丈夫だよ。紹介した小百合っていう子、
その子もすっごい飽きっぽいから」
「なんだそれ?」
オレは思わず笑ってしまった。
「だって、須賀くんが紹介してくれって言うんだよ?
須賀くんと合いそうな子って言ったら、…自然とそういう事に」
堀内も笑う。
笑うと結構可愛いかもって最近気付いた。

堀内は髪を染めていない。
肩までのショートが伸びたみたいなフツーの髪型にしてた。
化粧も全然してない。
学校の中でも、女子は眉毛書いてるぐらいは当たり前って感じなのに。
完全にすっぴんの状態で、よく見ると実は可愛い。
これは化粧したら化けそうだなってオレは思う。
うちの高校の女子と違って、女子校の子って感じがする。
男と喋るのに慣れてないなっていうの、ヒシヒシと伝わってくる。

オレは何となく堀内との会話に、新鮮さを感じていた。
それと同時に、近い感覚。やっぱり同級生だからだろうか。
受験で息が詰まってる中で、何気に癒されてるかも…って感じだった。

 

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