毎年楽しみにしてる12月になったけど、
私は相変わらずあんまり太郎くんとは会えてなかった。
だけど、年を越してしまえば、もうすぐ受験も終る(予定)。
だからそんな状況でも、今はひたすらガマンするんだ。
「どう?太郎くんとは?」
だいぶ久しぶりに会った麗佳は、高校のときよりもずっとキレイになった。
元々可愛いのにちょっと女っぽくなって、キラキラのオーラが出てる。
幸せな恋愛してるーって感じ。
「あんまり会えてないけどー。とりあえず今はしょうがないかなぁ…」
私がバイトしてるビルの中の、最上階のお店に入った。
「ここねぇ、カクテルがすっごい美味しいんだって。甘すぎなくって、大人の味だって」
バイト先の店長に薦められたこのお店、
私も入るのは初めてだったけど落ち着いたいい雰囲気だった。
一緒に飲みにこれちゃう、っていうの、大人になったなぁって思う。
だいぶ前にハタチになった麗佳を追いかけて、私ももうすぐ20歳になる。
太郎くんはまだ高校生だったし、ゴハンを食べるのはいつも普通のレストランだった。
それに、一緒に過ごす時間は大体私の部屋が多かったし。
「あ、ホントに美味しいね」
飲み物に口をつけて麗佳が言った。
「麗佳って、強かったっけ?」
私は聞いた。
「そんなにたくさんは飲めないけど…あ、でも日本酒は全然ダメ」
「日本酒なんて、飲むの?」
私は日本酒は飲まない。どっちかっていうと甘い系のお酒が好き。
「美味しいのもあるよ。
でもさ、日本酒の飲みやすいのって、すっごい酔っ払うから…控えてる」
「ふーん。今度、教えてよ。美味しいヤツ」
「うん。涼子は結構飲めるよね」
「酔うって感覚が分からない」
実は私はかなり強いんだ。
思い切って水商売のバイトでもしようかと思うぐらい。
「もしかして、卒業を待たずして結婚しちゃうかも」
麗佳が言った。
「えーー!ウソ!マジで!」
「や…わかんないよ。向こうが勝手に言ってるだけだから」
そう言いながらも、麗佳は嬉しそう。
「ホントー?すごいねぇ!ふーん」
「いや…わかんないけどね」
「へぇー…でもすごいよ〜…」
ビックリして私は思わずジュースみたいにお酒を飲んでしまった。
「なんかさぁ、急展開したけど…、私は結構応援してたんだな。実は♪」
グラスを置いて私は麗佳に言った。
「そ…、そうなの…?」
今度は麗佳が驚く。
「そうだよ…あいつめっちゃ麗佳の事好きだったじゃん!…でも結婚ねぇ〜早いねえ〜」
「涼子は全然考えないの?」
「うーーーーん」
今日は結構お店が空いていて、私たちは窓際に座れた。
窓の向こうは夜景がすっごくキレイ。
「だってさぁ、まだ高校生だよ?ちなみに、まだ17歳なんだよ?
法律でも、結婚できないじゃん…」
「高校生か…。ああー若いよねー!改めて!」
麗佳も頷く。
「そっかぁ…。まだ17歳か。っていうか、まだあの制服着てるんだよね?」
「そうだよぉ〜。もうすっごい年齢差を感じるよ…」
私はため息をついた。
「私さぁ、…離婚してお父さんいないじゃん」
「うん」
麗佳が神妙な顔をする。
片親だからっていうの、そんなに自分の中では卑下してるワケじゃないんだけど。
「だからさ〜、結婚とかって、…あんまり『自分の夢』って感じじゃないんだよね〜」
「ふぅん…」
「好きな人と結婚したとしてもさ…、それで相手を縛れるとも思えないし。
実際、うちなんかは別れちゃってるじゃんか」
「うん…」
麗佳がちょっと間を置いて、私に言う。
「でも、太郎くんは…涼子一筋!って感じするけど?」
「えー…」
それは私も感じてるけど。
「でもさ、太郎くんも男の子じゃん」
「まぁ、男の子だよね」
麗佳が笑う。
なんだか私も笑ってしまった。
「もしも、太郎くんが浮気とかしても、しょうがないかなって…なんか思うよ」
「……」
私は自分のあごに手を当てた。
「太郎くんが、いつか私から離れていってしまうかもしれないって……
本当は不安で仕方がないんだ……」
「そうなの…?涼子ってそんな感じ、…あんまりしないけど…」
麗佳が私に対してそう思う感じも分かる。
「私…、ずっと特定の彼氏作ってなかったのって……
ただ本気になるのが怖かっただけだと思う」
こんな事、人に話せるようになったのって、
ちょっと大人になったなって自分で思いながら私は続けた。
「太郎くんのこと、大好きで一緒にいたくて、
…好きでたまらないから、…その分、すごく不安なの。
…太郎くんを失ったら、どうしようって思う」
もっとお酒が弱かったら、飲んで話したい内容だったけど私は100%シラフだった。
「早くずっと一緒にいられたらいいのにね」
麗佳が言葉を続けた。
「離れてたら、どんどんヘンに不安になっていくよね…。
だけど、涼子のとこは大丈夫だと思うけど?
だって、あたしの目から見たって、どう見ても太郎くんは涼子に夢中!って感じだけど」
「だけど人の気持ちは縛れないよ…変わるかもしれないじゃん」
私は言った。
麗佳は黙ってる。
「私はさ、…太郎くんと愛し合えてる、
今の時間を大事にしたいんだよね〜…」
「涼子…」
「うん?」
麗佳がすっごく可愛く笑った。
「なんか、涼子が大人に見えるよ〜」
ヘンなんだけど、麗佳の可愛さに私が照れてしまった。
「だってもう大人だもん!」
私はメニューを取った。
「でさ、もうちょっと飲んでいい?」