ラブで抱きしめよう

☆出会い(太郎くん番外編)

   
付き合って〜…とか言うんだったら、いいよ」

オレは自分の耳を疑った。

ひと目惚れなんて、全然信じてなかった。

だけどそれは、衝撃的な出会いだった。
部活中、ボールを追って出たオレの前に立っていたのはまさに理想の人―――

中庭のキラキラした木漏れ日の中で、その目はまっすぐオレを見た。
目があった瞬間、彼女は笑った。
花が咲くようだ、とオレは思った。


後から調べたら、彼女は3年の春日涼子という人だった。
同級生ではないだろうなと思ってたけど、3年か。
付き合ってる人はいるんだろうか。
いるよな。やっぱり。
ハードルは高そうだ。だけど。

当たって、砕けても、いいと思った。

その後偶然廊下ですれ違って、覚えていてくれて、
で話し掛けてくれて、その日1日中気分が高揚した。
オレは全然彼女のことを知らない。
勿論彼女もオレのことを知らない。
だけど、ダメでも、近付きたいと思った。
もっと側で顔を見てみたい。
彼女のことを知りたい。話したい。
多分、当たって砕けても、また当たりに行ってたと思う。
特定の女性に、こんなに執着心を感じたのは初めてだ。
どうしてだろう。
何も知らないのに。
彼女の周りの空気に、オレの全てが引き寄せられるみたいだ。


一大決心をして、彼女を待ち伏せた。
なのに、
オレが自分から何も言えないうちに、彼女の方から言われてしまった。

「付き合って〜…とか言うんだったら、いいよ」
彼女はにこにこしてオレを覗き込みながら言った。
「…ええっ!」
あまりに唐突に突っ込まれて、オレは言葉を失う。
「何?違うんだった?…ちょっとあたし間違えちゃった?」
「いや、あの、その、…えっと…」

「…………」

彼女がじっとオレを見てる。
すごい目が大きい。
…やばい、何か言わなくちゃ。
昨日からずっと、今日は1日中、
言うセリフを考えていたというのに。
あまりの緊張で足が震えてきそうだ。
何か、言わなくては…

「その…、間違っては、ない、です……」

自分でもバカな答えだったと思う。

彼女はすごい笑ってる。
そりゃあ笑うよな。…もしかしてオレはからかわれてる?
イヤ、からかわれてても、嘘でも、今の状況は最高のはずだ。

「あの、でも、…なんて言うか……、ほ、ホントですか?」
「えぇ?」
うわ、めっちゃニコニコしてるよ。
その笑顔が凄く可愛くって、これは絶対嘘じゃないよなって、自分に言い聞かせた。

「だって、…その、何か急じゃないですか。だって…」
何を言い訳みたいなことを言ってるんだオレは。
「ええー、じゃあ、本当はあたしに何が言いたかったの?」
彼女の表情が少し曇る。
機嫌を損ねたくない、
とにかく、落ち着け…

「いや、あの、つまりは、……まあ、そういう事です」
「なに?ちゃんと言って?」
彼女がニヤニヤ笑ってる。
「えっと…、えっと…」
ああ、我ながら情けない。

ダメだ、ちゃんと言わなくては。
ちゃんと、確認しなければ。
「本当に、付き合ってもらえるんですか?」

「うん、いいよ〜」

拍子抜けする位、軽い返事。
ちょっと教科書見せて、ぐらいの出来事みたいだ。

でも、付き合っていいってことだよな。
「気が変わった」とか言われないうちに、ここは乗るしかないよな。
間近で顔を見ることでさえ、昨日までは夢みたいな事だった。
体中の感覚がないっていうのは、こういう状態かもしれない。
(ホントかよ……)
現実なのに、夢みたいだった。
あんなに想い焦がれてた彼女が、今こうして隣にいるなんて。
もの凄い運気が、自分に向かってきてるような気がした。


信じられないことに、早速二人で下校した。
「涼子ちゃん」は、すごく気さくな人だった。
すごく可愛いのに、すごく喋りやすい。
オレが気を使う間もない程、たくさん話しかけてくれた。
帰り道の短い間だったけど、色々と涼子ちゃんのことを知った。
涼子ちゃんは一人っ子で、母親と二人暮しだって事。
(ちなみにオレは弟がいてばあちゃんと両親の5人家族)
涼子ちゃんはO型だって事。
(ちなみにオレはB型)
身長160センチだって事。
(ちなみにオレは168…)
偶然にも同じ沿線に住んでいて、途中の駅で降りれば涼子ちゃんの家に行ける事。
大学受験する気はないって事。
服飾関係の専門学校に行きたいって事。

話すときに、じっとオレの目を見る。
涼子ちゃんの睫毛はホンモノじゃないみたいにびっしり生えてる。
こんなに睫毛の長い人がいるのか、と思う。
そんなに見られると、バツが悪くて逃げ出したくなるよ。
だけどオレだって、涼子ちゃんの顔が見たい。
だから時々ちらっと目を合わせるんだ。

見つめあえる日が来るんだろうか。
横にいるだけで、イッパイイッパイなのに。
しかしとりあえず、今オレは強烈に満足してる。


土曜日の午後、デートする約束をした。
すごい急展開だ。
「約束」をした事で、今日の出来事は夢じゃないよなって確認した。
考えれば考えるほど、ピンとこなかったけど
デートの前日までの寝不足だけが、オレの実感だった。


太郎編(出会い)〜終わり〜

 

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