ベイビィ☆アイラブユー

ラブリーベイベー編 ☆☆ 10 ☆☆

   

セイちゃんはさすがに疲れていたみたいで、お昼の12時になっても起きてこなかった。


「セイちゃん……?」
やっと帰ってきたのに昨日だって全然話ができなくて、私はとうとう痺れをきらしてセイちゃんの部屋のドアを開けた。
パパは昨日お休みしてくれたから、今日は午後になると早々に出て行った。
おじ様は明日まで出張だ。
今、この家にはセイちゃんと私の二人きりだった。

「………」

そうっと足音を立てないように、セイちゃんへと近づいていく。
一人で眠るにはかなり広い贅沢なベッドに、セイちゃんはうつぶせの状態でタオルケットもかけずに眠っていた。
(疲れてるんだなぁ……)
飛行機での長い旅、知らない異国の地で過ごす1ヶ月間は、きっと相当に疲れるに違いない。
だけどセイちゃんなら、そんな疲れも勢いで吹き飛ばしてしまいそうだなと思って、私はちょっと笑ってしまった。
「ううん……」
大きく寝返りを打つセイちゃん。
日焼けした体、その手足の長さにほれぼれしてしまう。
寝顔だって、セイちゃんはかっこよかった。

「………」

しばらくセイちゃんの寝姿を眺めていたけど、ずっとこうしているのも…。
「セイちゃんっ」
私はベッドに座って、セイちゃんのすぐ横で声をかける。

バチッ ―――

大きな音を立てたような気がするほど、セイちゃんは勢いよく目を開けた。


「あれっ!詩音っ!!」

すぐ隣にいる私を見て、セイちゃんは驚いて起き上がる。
「ああ………、帰ってきてたんだっけ」
そう言って首を振り、日焼けして真っ黒な腕を上げて髪をかきあげた。
「そうだよ、もう…家だよ」
私は、やっと起きたセイちゃんに嬉しくなって、ニコニコが抑えられない。

「えーっと、……何時?」
セイちゃんは両手で顔を撫でると、部屋の壁にかけてある時計に目をやった。
「げっ、もう1時前??……起こせよー、お前ー……」
「だってセイちゃん、疲れてると思って…」
「…………」
セイちゃんは奥二重の目で、私を一瞬軽く睨む。
それから目を覚ますように何度も瞬きをした。
「はー……」
ため息をつくと、肩をぐるっと回す。

「おじさんは?」
「もう仕事に行ったよ」
「伊藤さんは?」
「今日は来ないよ」
「おやじは………帰ってこないんだっけ?」
「うん」

「そうか、そうか」

セイちゃんは1日ぶりの笑顔になると、いきなり私を押し倒してきた。



―――― 汗だくだった。
改めて触れ合う裸の肌と肌は、離れている間想像していたよりもずっと素晴らしい感触。
セイちゃんの息も、セイちゃんの声も……何もかもが本当に好き。
だけど……だけど………

「あん、もうっ、ちょ、ちょっと………」

私はセイちゃんの肩をグっと掴んだ。
「何?……なんだよ」
私の耳に触れていた唇を離して、セイちゃんは私の上に体を重ねた状態で少し起き上がった。
「……えっ……と、……ちょっと、やりすぎじゃ……」
「何だよ、いいじゃんか……久しぶりなんだから……、お前、オレがどんだけしたかったか分かんねえだろ」
そう言うとセイちゃんはまた私の胸へと顔をうずめようとしてくる。
「うっ………、でも、……」
私はそんなセイちゃんの頭を押さえた。

セイちゃんの腕の中にいるのは気持ちがいい。
セイちゃんに抱かれるのだって、勿論すごく気持ちがいい。
離れている間、私だってずっとセイちゃんとこうしたかった。
だけど、もう立て続けに4回もしてるのに、それでもまだ私を開こうとするセイちゃん。

「あんまりすると……その……、い、痛くなっちゃうよ……」
「………え、マジ?」
セイちゃんは急に真顔になる。
「た、多分……」
本当のところはよく分からなかった。
そもそも、セイちゃんがアメリカに発つ直前にこんな関係になったんだ。
それまで処女だった未熟な私は、セイちゃんの余りある欲望を受けとめきれない。
体も心も、全然ついていけなかった。

「そうか……、ごめんな……オレ」

セイちゃんは私の上から体を横滑りさせると、私の隣に仰向けに寝転んだ。
「ごめんな、詩音」
手を伸ばして、私の手を握ってくれる。

「ううん、……わ、私こそ……そのぉ……、ごめんなさい」
「あやまるなよ」
セイちゃんは笑ってくれた。
気まずくなりそうな雰囲気が、セイちゃんの笑顔だけでガラっと変わる。

「…………」

唇が重なり合う。
セイちゃんのキスが大好き。
離れている間、何度想像したことだろう。
想像しすぎて、セイちゃんとキスしたことがあるっていう現実でさえ、私の妄想じゃないかと思えた。
(好き……セイちゃん)
首に触れるセイちゃんの指が、うなじへと滑る。
(あん……)
キスが深くなって、その指はさらに私の肩をなぞっていく。

……すごくドキドキしてくる。
さっきまでさんざん体中愛されたせいで、今 触られていない乳首が固くなっているのが自分でも分かった。
自然と抱きしめあう形になっていく。
セイちゃんの体が私に触れると、彼もまた固くなっていた。

「…………セイちゃん」

目が合うと、セイちゃんは私の言いたいことをすぐに察知した。
「しょうがないだろ?……こうなっちゃうんだから」
珍しく恥ずかしそうなセイちゃん。

「なんか、……オレ、……詩音とするのすごーく好きみたい」

「……セイちゃん……」
こんな風に言われたら、誰だってトロトロになってきちゃうよ。
拒否した自分に対して、なんだか罪悪感を感じてしまう。
セイちゃんは横になり、肘をついて私の方へ向き直る。
そしてまた恥ずかしそうな笑顔になると、子どもみたいな表情で私に言った。

「詩音、早くオレの子ども産んでくれないかな」

「えっ!!!」

セイちゃんの唐突な重大発言に、私は本当にビックリしてしまった。
(こ、こ、子ども………??)
(は、早く……??)
「なあ、もう、……詩音の中に出しちゃってもいい?」
(ええっ、普通にそんな事言う……???)
「えっ、ええっ……?せ、セイちゃん、な、何言ってるの???」
「だって、詩音の子どもが欲しいから」
自分が子どもみたいな口調になってるセイちゃん。
あまりに突然の話の展開に、私は全然反応できなかった。

「こ、こ、子ども、って……」

(子ども、ってことは……結婚??結婚しないで、子どもだけ産むってこと……??)
バカな想像が頭の中をぐるぐるとめぐった。

「だって、この家……広くて寂しいじゃん?
オレ、詩音の子ども欲しいし、この家にオレと詩音の子どもたちがいたらさ、すげえ良くない?」

天井を見上げているセイちゃんの表情は無邪気で、心からそう思っているのが分かった。
そしてセイちゃんの言葉は私の胸に刺さる。
母が二人ともいなくなった寂しすぎるこの家。
この多くの空き部屋に、もし家族がいたら……。

(家族………)

セイちゃんと私が、何よりも求め、大事に思っているものかもしれない。

(はっ!)
だけど、現実を思い私は我に帰った。
「で、でも!まだ高校生だし」
「ああ……」
話の腰を折られて、セイちゃんはちょっとムっとしている。

「それに、結婚だってしなくちゃ………、いけないし!」

(プロポーズもしてないのに、いきなり子どもの話なんてずるいよセイちゃん!)
どんどん冷静な方に思考が向かっていく。
「そういえばセイちゃん、まだ18歳にもなってないじゃん!」
「ああ、そういえばそうだな、ははは」
(ははは、って……笑わないでよ〜!そこ大事なとこなのに!)
なんだかからかわれてるみたいな気になって、私は頬を膨らませた。



セイちゃんと私の子どもが、この家にいる………
そんなことを想像して、私は胸が熱くなった。
そして、セイちゃんがそんなことを考えてくれた事が、すごくすごく嬉しかった。

いつか、それが本当になりますように―――


それが、その日からの私の、切実な願いになった。


 

ラブで抱きしめよう
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