「おかえり………」
詩音は小さい声で言うと、ほっぺたを真っ赤にして微笑んだ。
久しぶりの詩音。
相変わらずちっさいヤツ。
外人のデカさに慣れたオレには、余計に小さく感じる。
そのせいか………
(なんか、可愛くなってんじゃんか……)
白い玄関の中、キラキラしてなんだか詩音が眩しく見えた。
「ただいまぁ〜〜」
「……」
後ろから尊さんが来て、詩音に向かって伸びそうになった腕をオレは引っ込めた。
「これ、部屋に持って行っちゃっていいのかな?」
尊さんが玄関のドアを閉めながら言った。
「すみませんタケルさん、お願いします」
オレは軽く尊さんに軽くおじぎをした。
尊さんはオレのボストンバッグを持って、2階へと上がっていく。
「…………」
「…………」
つかの間の二人きりの一瞬。
すげー会いたくて会いたくて、たまらなかった詩音が今、オレの目の前にいる。
「セイちゃん、真っ黒だね」
詩音は満面の笑みになる。
ちょっと伸びた髪のせいか、発つ前よりもやせたような気がした。
大人っぽくなったというか。
だけど笑顔は変わらず幼い。
「ああ……」
オレは頷いた。
確かに焼けすぎたと思う。
日焼け止めを塗っていても、向こうの陽射しは容赦なく肌を痛めつけてくる。
「詩音、部屋に麦茶持ってきてくれよ。ピッチャーごと、頼むな」
オレはスーツケースの持ち手を両手でグっと掴み、少し持ち上げた。
「うん」
詩音は嬉しそうに頷くと、リビングの方へ駆けて行った。
「はーーー」
久しぶりの日本。
久しぶりの自分の部屋。
オレはスーツケースを尊さんが運んでくれたバッグの横に置くと、すぐにベッドに倒れこんだ。
「疲れた……」
両手を上げ、長時間座り続けた体を伸ばす。
「あーーー」
日本の自分の部屋は、アメリカとは違う匂いだなと思う。
ベージュのシーツからは微かに詩音を連想させるような、柔らかな匂いがした。
コン、コン
オレは起き上がり、ドアを開ける。
ちょっと恥ずかしそうな詩音が、お盆にグラスと麦茶の入ったボトルを乗せて、そこに立っていた。
「サンキュー、そっち置いといて」
詩音はオレの机の上にお盆を置く。
とりあえず、オレはお茶をグラスに入れて一杯分、一気に飲んだ。
「セイちゃん…」
詩音が何か言いかける。
オレは彼女の背越しにドアが閉まっているのを確認して、ガマンしていた腕をやっと伸ばした。
「あーーーー、すーげー会いたかった」
詩音の背中に腕を回し、ギュっと抱きしめる。
彼女の腕も自然にオレの背に回る。
「うん……」
顔をオレの胸に押し付けられて、くぐもった声で詩音は頷いた。
ドキドキが、伝わってくる。
(ああ、もしかしてオレの方か……?)
詩音の肩を掴むオレの手のひらが、ドクドクと脈打っているのを感じた。
「……………」
オレは詩音にキスした。
詩音も素直にオレを受けとめる。
(ホントに、会いたかった……)
唇が、詩音の柔らかい唇に触れるたび、ドキドキがオレの中でどんどん大きくなっていく。
思っていた以上に、オレは詩音を求めていて、
そして想像していたよりもずっと、詩音のことを愛しく感じた。
――― しばらくキスしていた。
オレは詩音をさりげなく移動させて、ベッドに近づける。
唇を離し、ぼんやりしている詩音の肩を軽く押す。
トンッ
「あっ」
詩音はベッドに座った。
オレを見つめてくる詩音の目は潤んでいて、黒いまん丸の瞳がさらに輝く。
(たまんねえよな……)
オレはその前に跪き、またキスをした。
「…………」
詩音のキャミソールの中に、腕を滑らせる。
すぐに胸に触れ、オレは更にブラジャーの中へと手を入れた。
「んっ」
詩音が小さく声をあげる。
オレの手が熱いから、詩音の肌が冷たい。
柔らかいその感触が、オレの衝動を抑えられないところまで突き上げてしまう。
久しぶりすぎて夢を見ているような、そんな感じになってきてぼうっとしてくる。
(はあ……)
心の中で大きくため息をついて、オレは詩音の胸に触れていた手を引っ込めた。
左手で彼女の背中を支えながら、すばやくスカートの中へと右手を伸ばす。
「あっ……!」
詩音がビクンと震えた。
スカートの中、ショーツの脇から滑り込ませた指先が、ヌルリとする。
「なーんだよ、これ」
オレは詩音の間に、もっと指を深く沈めた。
「あんっ、セ、セイちゃん………だ、だめぇっ…」
「詩音はいつもすごいけど、久々でもやっぱりマジですごいな」
詩音から溢れた液体は、ショーツをぐっしょりと濡らしていた。
少し触れただけでもはっきりと絡み付いてくるほどの量。
指を少し動かすだけで、もっと濡れてくるのが分かる。
「やっ……、だ、だって……パ、パパがいるしっ…」
詩音は首を振って、オレの腕を剥がそうとしてくる。
「しっ…静かに」
オレは薄く笑って言った。
「だって、声出ちゃうから……ダメっ」
必死な様子の彼女が、また余計オレを興奮させる。
「オレに、ちゃんとつかまって」
オレは詩音の足を開いた。
一刻も早く、彼女の中に入りたかった。
そこはすでにそれを待ち構えていたかのように、あっけなくそれを飲みこんでしまう。
「んんんっ……!」
詩音の体が大きく震えた。
それと同時に体全体が強張って、中がギュっと閉まる。
(うわ……)
オレが声を出しそうになってしまった。
詩音の唇に、しっかりと自分の唇を重ね、お互いの声を殺しあう。
「ん……んん…」
二人の息が、小さく漏れる。
お互いの体温の熱さを、ハッキリと感じた。
詩音は声をガマンしようと、オレの唇をもっと求めてくる。
触れ合う舌先を噛むように、激しく絡み合うキス。
(ああ……すげー、気持ちいい…)
長旅に疲れた体に、久しぶりのセックス。
久しぶりの詩音。
色んな意味で、ヤバかった。
詩音の中は痛いぐらいキツイのに、オレをよく滑らせる。
「はあ……はあ…」
全然堪えられない。
「ごめ……、もう、イっていい?」
「………」
唇を噛んだ詩音が、大きく頷いた。
「もう…………、もう!」
終わった後、詩音はちょっと怒っていた。
「オレ、シャワー浴びてから下行くから。尊さんによろしくな」
「セイちゃんはいいよ?……もう〜〜〜」
オレのひとことで、詩音はもっと機嫌が悪くなる。
でも詩音は怒っても、全然怖くない。
(かわいいなあ………ホント)
「詩音………」
「なによぅ……」
オレは自分でも驚くほど優しく、彼女を抱きしめた。
ふわっとした髪が、オレのあごに触れた。
「…セイちゃん………」
詩音も同じぐらい優しい空気で、オレを包んでくれる。
ずっとこうしていたかった。
だけど同じ家にいてこんなにそばにいるのに、オレたちは二人きりってわけじゃなくて。
「詩音……今夜、ここで寝れない?」
思わず言ってしまう。
詩音とこんな関係になってから、毎晩考えてたことだ。
「ダメだよ!それはダメ」
顔を上げて、詩音はバッサリと言った。
「なんで」
とりあえずオレは食い下がる。
「だって………それって、……とにかく、ダメ!」
詩音はオレから離れると、ドアへと近づいていく。
「………じゃあ、また後でね」
困ったような表情を見せて、詩音は部屋から出て行った。
「はあ……」
まだ腕の中にある詩音のぬくもりを探すように、オレは自分の両手を見つめた。
「やっぱダメか」
当たり前だよなと思いつつ、2階のシャワールームへオレは向かった。
尊さんと詩音と、3人で夕飯を食べた。
詩音も何品か作ってくれたらしい。
久しぶりの日本食に、オレのテンションはすごく上がった。
さっきは興奮していてよく観察できなかったが、こうして少し距離を置いて詩音を見るとやっぱりカワイイと改めて思う。
現実的に絶対可愛くなったし、オレの目に映る詩音は可愛さ倍増フィルターがかかって、余計にものすごく可愛く見えて仕方がない。
(あーーー、なんだかなぁ……)
1ヶ月ぶりに詩音に会って、体と気持ちの暴走っぷりに自分の理性がついていけない。
照れているのを気付かれないようにするのが、精一杯だった。
(やべー……、好きだ……)
こんなに人を好きになっている自分が、自分でも信じられなかった。
「詩音………」
窓の向こう、すぐ近くに詩音がいるのを感じながら、オレはベッドで目を閉じた。
やっと帰ってきた、と実感した。
飛行機と旅の疲れで、体はあっという間に眠りを求める。
「し、おん……」
無意識に枕を抱きしめていた。
―― その夜オレは、怖いぐらいの幸福感に満ちた夢を見た。