ベイビィ☆アイラブユー |
ラブリーベイベー編 ☆☆ 8 ☆☆ |
めっちゃキスしたい 早く 詩音に なんかあいしてるかも 『…なんてな』って、その後に書いてあったけど、 セイちゃんのメールのその言葉は私の胸を熱くさせた。 (会いたい……) セイちゃんが帰ってきたら、絶対ギューってしてもらおう。 穴があくぐらい顔を見て、いっぱいキスしてもらおう。 (早く、会いたい……) 明日、セイちゃんは帰ってくる。 一人でいるとこの家は広過ぎて、なんとなく心細くなってくる。 だから私は、この家で一人になるような時は自分の部屋にいることが多かった。 だけど今日はパパが仕事で出て行った後、セイちゃんの部屋に行ってみた。 別にセイちゃんの部屋を探るわけじゃないけれど、ここにいるとセイちゃんを感じられて落ち着いた。 家政婦の伊藤さんがセイちゃんのいない間に定期的に掃除をしていたから、部屋は衛生的で、おまけに片付いている。 私はベッドに座り、息を吸い込んだ。 「……セイちゃんの匂い」 同じ敷地内に住んでいるのに、セイちゃんの部屋の匂いは私の部屋とは全然違ってた。 2階の窓からは、遠くに沈んでいこうとしている夕日が見える。 セイちゃんの部屋からは緑が濃く色づく庭を一望できた。 「明日……」 セイちゃんはこの部屋に帰ってくる。 今、私が座っているこのベッドに、きっと明日はセイちゃんが眠る。 (やっと……) 手に触れるシーツの感触さえ、愛しく思えてくる。 私はポトンと体を落とし、セイちゃんのベッドに横になった。 「セイちゃん………」 目を閉じてそう呟いたとき、玄関でドアの開く音がした。 私はシーツを直すと、慌てて下に下りて行った。 「おかえりなさい……」 「ただいま」 堀尾のおじ様は真っ白な半そでのシャツを着て、額の汗を小さなタオルで拭いていた。 「門から歩いてきただけなのに、暑いなあ」 そう言うと、私を見てにっこり笑った。 おじ様の目が細くなったとき、その表情が最近のセイちゃんにすごく似ていて私はドキっとしてしまう。 「まだまだ、夏ですもんね〜」 私にとってもセイちゃんのパパは、もう一人の父親のような感じだった。 家にいるときはほとんど一緒に食事を取っているし、とくにセイちゃんのいない夏はおじ様と過ごす時間も結構あった。 「尊くんはもう出かけたんだろう?」 「はい、1時間ぐらい前に……」 「そうか」 シャワーを浴びたら食事にすると言って、おじ様は玄関に近い方の階段から2階にある自室に上がっていった。 私はパパが既に用意してくれた食事の、準備をするためにキッチンへ向かった。 料理を一人分ずつセッティングし、いつものようにリビングで食事をする。 私とおじ様は、少し離れて座っていた。 明日の天気も晴れだと、アナウンサーの軽やかな声。 静か過ぎるのも何だか妙なので、二人のときはいつもテレビをつけていた。 「明日だったね?征爾が帰ってくるのは」 「ハイ!……パパと和食作ろうって、明日は頑張ります♪」 私は胸にグーを作り、意気込んだ。 セイちゃんは久しぶりの日本だから絶対和食だよねと、パパと話していたのだ。 何品かはパパの手を借りずに、自分一人でセイちゃんのために作ろうと思っていた。 「明日、なあ……」 おじ様はビールの小瓶に手を伸ばし、自分でグラスに注ぐ。 「ちょっと遅くなるかもしれないから、先に食事しておいてくれるかな」 「あっ……、そうなんですか…」 夕食の時におじ様がいないのは日常茶飯事だったけれど、明日は一緒にいて欲しかったなと思う。 私はちょっとガッカリしてしまって、何て言っていいのか分からず困っていたら、おじ様が口を開いた。 「ところで詩音ちゃんは……」 「はい?」 「何かやりたいこととか、ないのかい?」 「えっ?明日ですか?」 私はきょとんとしてしまう。 おじ様は優しく笑うと、言った。 「違うよ、将来のこと」 「将来……?」 「もう高校2年だろう?…詩音ちゃんに何か希望があれば、ぼくはできるだけ力になるよ」 両手を机の上で軽く組み合わせると、おじ様は姿勢を正した。 (将来………) 部屋で一人になっても おじ様から言われたことがずっと頭から離れなかった。 中学だって高校だって、おじ様の援助があるからこそ私はこうして今の学園に通えてる。 (セイちゃんは、高校を出たらどうするんだろう……) この学園は大学の付属だ。 普通なら、このまま進学するのが自然なんだろう。 だけど、毎年ホームステイをして小学校のときはアメリカンスクールに通っていたセイちゃんが、もっと違う道を進んだとしても全然不思議じゃない。 (セイちゃん……) 昼間に来たメールと写真を、何度も見た。 (明日、会える……) 胸が一杯になってくる。 会いたくて会いたくて、ずっとセイちゃんのことばかり考えていた夏。 いざ会えると思うと緊張して、今からドキドキしてしまう。 (セイちゃん……大好き……) その夜は興奮して、全然眠れなかった。 スーツケースをガラガラ引っ張る音が聞こえて、玄関のドアがバっと開いた。 「ただいまっ!!詩音、元気にしてたか?!」 真っ白な歯を見せて笑うセイちゃんは日焼けして真っ黒だった。 光を背負って玄関から入ってきたその姿は、本当に眩しかった。 |
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