ベイビィ☆アイラブユー

ラブリーベイベー編 ☆☆ 7 ☆☆

   

萌花ちゃんは驚いて、買ったばかりのパンフレットを落としそうになった。
「詩音ちゃん、ホントに?」

「うん……ホント」
何よりも嘘のヘタな私が、萌花ちゃんに黙っていられるわけがなかった。
セイちゃんの家を自分の家だと言ったことは、まだ訂正していない。
セイちゃんの家は、本当に私の家みたいなものだったし、何よりも「じゃあ誰の家?」となった時に説明ができない。
だけど、彼氏ができたこと……。
これは全然違う話だ。

「あっ」
私の携帯電話にまたメールが入ってきた。
セイちゃんのいる場所はこちらの昼間がちょうど前日の夜で、昼過ぎのこの時間が一番セイちゃんから連絡が来る。
「また彼氏からメールなんだ?」
萌花ちゃんがクルンとした目を輝かせて私を見る。
「うん……」
頷きながら、私は耳まで赤くなるのが自分でも分かった。

(照れちゃう……)
そもそも彼氏ができたこと自体が初めてだ。
今、自分の身に起こっている全てのことに戸惑ってしまう。

セイちゃんは、頻繁に連絡をくれた。
それだけでもすごく嬉しくて顔がにやけてきちゃう。
それを萌花ちゃんに気付かれて、こうして白状することになったんだ。
「いいなあ〜〜、詩音ちゃん。…………あっ、私お腹空いちゃったぁ、あそこに行かない?」
イタリアン風のお店の看板を指し、彼女はいつもの可愛い笑顔でにっこり笑った。
萌花ちゃんは照れてる私に対しても、相変わらずホワンとした態度で和ませてくれる。
「うん、行こう、行こう♪」
お店に入っても、私は何だか上の空だった。
映画を見ている間に何通も来ていたメールを、本当はじっくり読みたくてたまらなかった。


萌花ちゃんから質問攻めに遭うということはなくて、二人でゆっくりとご飯を食べた。
時々、「いいなあ〜」と言われるぐらいで。
おかげで、付き合っているのは同じ学園の男子部の、よりによってあの堀尾征爾だということは、結局言わないで済んだ。
彼女のおっとりとしたところが、大好きで居心地が良かった。

「ふう…」
家について、ベッドに横になり、携帯電話を開く。
夜の8時になっていて、セイちゃんのところは今頃夜中の3時だ。
今夜は電話で話すことはないだろう。
私は今日までに来たセイちゃんのメールをまた読んだ。

写真をつけて送ってくれるから、私の携帯はセイちゃんの画像で一杯になっていた。
それがすごく嬉しい。
今日もありえない大きさのステーキを食べている写真を送ってきてくれた。
(うわぁ、太りそう……)
だけど写真の中のセイちゃんは全然太っていない。
アメリカに行って、もうすぐ3週間が経つ。
あと1週間で、セイちゃんは帰ってくる。

(会いたいな……)

どこで何をしていても、セイちゃんのことばかり考えていた。
空を見上げれば、アメリカもこんなに晴れてるんだろうかとか、
ちょっと動いて汗をかけば、向こうも暑いのかなとか、
実際会ったら太ってないかなとか、きっと日焼けして帰ってくるんだろうなとか、
……こんな風に、セイちゃんも私のことを考えていてくれてるのかな……とか。
自分のする行動の全てが、セイちゃんに繋がってしまう。

最近は、携帯電話が手放せなくなってた。
これまでは、家にいるときなんて自分の机の上にずっと置きっぱなしにしたりしてたのに。
(もう、宝物だよ……)
画像を開くと、笑顔だったり、わざと面白い顔をしていたり、色んな表情のセイちゃんが写っている。
どのセイちゃんも、大好きだと思う。
早く会いたくて、たまらなかった。

会いたいと思うと、胸の奥から切なくなってくる。
痛いぐらいに、好き。
油断してると、泣けちゃうぐらい好き。

好きだとは思っていたけど、離れて余計にそれを自覚してしまう。
自覚するだけじゃなくて、セイちゃんを好きな気持ちは大きくなってる。
離れてる時間の分だけ、どんどん膨らんでしまう。
もう、心がはちきれるんじゃないかと思う。

私は携帯を握り締めて、泣きそうになるのをガマンしながら眠りについた。



朝からセミの鳴く声で起こされる。
今日は、家政婦の伊藤さんが来てくれる日だった。
パパも早めに出かけていて、私は部屋でゆっくりできた。
それをセイちゃんにメールしてたから、早速お昼に電話がかかってくる。
『おー、詩音、オレも自分の部屋に戻ったぜ』
アメリカは今、夜だ。
私の部屋から見えるセイちゃんの部屋の窓は 昼の日差しを反射して、目を向けるだけで眩しい。

『そっちはどう?』
少しハスキーで、だけど甘く響く。
電話の向こうのセイちゃんの声は、実際に聞く声よりも優しい気がする。

「うん、相変わらず」
そう答えて、私は笑顔になってしまう。
ほとんど毎日のように話していた。
携帯から聞こえるセイちゃんの声は、クリアだ。
だから、セイちゃんが海を隔てたすごーく遠くにいるっていうのがピンと来ない。
「今、すごく暑いよ〜。もう、今日は絶対外出しないんだ」
『日本は暑そうだよな〜、こっちは昼間暑いけど、夜は寒いぐらいだぜ。今もパーカー着てる』

何度も何度もおんなじような話をしてた。
それでもセイちゃんの声が聞けるだけですごく嬉しくて、他愛もない話題だって楽しかった。

『髪、伸びたんじゃね?』
「えー、まだ数日しか経ってないのに、そんなに伸びないよ」
『そうか〜? 去年、夏に帰ってきたとき、詩音髪伸びたなって思ったぜ』
「ええー?そうだったっけ?」
セイちゃんが去年の私を覚えてたってことに、ちょっとビックリする。
『そうだぜ〜、1ヶ月って長いよ』
「………うん、そうだね」
それは思う。
ホントに思う。

『詩音の顔が見たいよ』

「……」
セイちゃんの口から出るこういう言葉に、私はいつも反応できなかった。
ドキドキして、胸がいっぱいになって、何て言い返したらいいのか分からない。
いつも憎たらしいことばっかり言っていたセイちゃんの、こんな言葉…。

『会いたいよ』

「…………うん」


頷くだけで、鼻の奥がツンと痛くなった。
(私も会いたいよ……)
私はそれがセイちゃんの代わりみたいに、ギュっと両手で携帯を握った。

(会いたい……セイちゃん)


1日が過ぎていく事ばかりを望む夏は、長く感じた。
セイちゃんのいない夏はつまらなかった。
それでも、何故か私の心の傍にセイちゃんは、いた。
こんなに離れているのに、気持ちは近かった。

「早く、会いたいね…」
私がやっとそう言うと、セイちゃんの答えがすぐに返ってくる。

『おお、帰ったらイヤってほど抱きしめてやる』

電話の向こうのセイちゃんのいつものニヤニヤ顔が想像できて、私は笑ってしまった。
(イヤってほど、抱きしめてね……)
心の中でそう思ったけど、セイちゃんに言うのはやめておくことにした。
 

 

ラブで抱きしめよう
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