ベイビィ☆アイラブユー |
ラブリーベイベー編 ☆☆ 14 ☆☆ |
「そいつ、オレの彼女だから」 セイちゃんの信じられないような台詞に、思わず私は全身が硬直してしまった。 (うそ………だって……) 小学3年の頃、セイちゃんと同じクラスになった時のことを思い出す。 教室で一緒にいるセイちゃんは、まるで逃げるみたいに私と視線を合わせなかった。 今は付き合っているから前とは違っていたけれど、それでも教室にいるセイちゃんは私にとって他人みたいな存在だった。 それなのに、突然の交際宣言。 教室はざわざわしていた。 多分、私たちの方を色んな人が見てる。 陸人くんと生駒くんはひやかす様にニヤニヤしてた。 セイちゃんはそんなみんなの反応に、ちょっと怒ってるみたいな顔をしてる。 私はこの状況にすごく緊張してしまう。 ドキドキして、本当にどうしていいのか分からなかった。 「まあ、いいんじゃね?大体不自然だろ?同じクラスにいるのにさ」 生駒くんは冷静に言った。 「そうそう、これでおまえの取り巻きも少し落ち着くだろ?」 陸人くんも笑顔だった。 「……落ち着くか?」 そう言うセイちゃんの視線が私の後方へ向かう。 私は後ろを振り返る度胸がない。 みんなどんな風に私たちを見ているんだろう。 既に陸人くんと萌花ちゃんのツーショットの時点で、女子の視線は険しかったのに。 「はーあ……」 セイちゃんはため息をついた。 その流れで、私たち5人は学校から一緒に帰った。 帰り道も沢山の人が私たちを見て、コソコソと何か話してた。 そして一駅離れたファーストフード店で少し時間を潰した。 「それじゃーまた明日!」 萌花ちゃんは陸人くんに引っ張られるみたいに、ホームへ向かう。 そんな二人から距離を置いて、生駒くんがついて行く。 バラバラになり、方向が同じ私とセイちゃんは二人で電車に乗った。 「………」 車内に同じ学校の子は、まだ結構いた。 男子より女子の視線が、チラチラとこちらに向く。 「なんか、変なの……」 小声で私は言った。 「ああ、変だよな」 さっきからセイちゃんはまともに私を見ない。 セイちゃんが、私のすぐ目の前にいる。 ちょっと手を伸ばせば、ギュっと抱き寄せられる距離に。 さっきからずっとドキドキしたままだった。 制服姿のセイちゃんに、普段以上に男性を意識してしまう。 「………」 このまま少し頭を寄せれば、セイちゃんにくっつけそう。 そんな事を考えながらじっとセイちゃんを見ていたら、ふっと目が合った。 セイちゃんは少し表情を緩めた。 一瞬のその顔がとても優しくて、私はもっとドキドキしてしまった。 電車を降りた後も一緒に帰った。 学校帰りに制服のまま、こんな風にセイちゃんと歩くのは初めてだ。 寄り道をしていたから、もう7時を過ぎてた。 ご飯はいらないと、既にパパにメールしていた。 おじ様は今日も帰ってこない。 パパが遅くに帰ってくるまで、セイちゃんと私は二人きりだ。 「オレ、こっちから入ってもいいよな?」 【津田】の名前がついた入り口、本当は堀尾家の勝手口のそのドアを指差してセイちゃんは言った。 堀尾家の敷地は広くて、両側を道路に挟まれている。 この入り口からセイちゃんちの玄関の門に行くのには、隣接する公園をぐるっと回るか、ここまで来た何軒かの住宅を戻って大回りしないと行けない。 「こっから入るの、マジで久しぶり」 「そうだね」 私は玄関の鍵を開けた。 「なんか笑えるーー」 セイちゃんは自分の脱いだ靴を持って、家に上がった。 「ほんとだね」 そんな姿を見て私もつられて笑ってしまう。 「このまま、詩音の部屋に行ってもいい?」 「ええ!私の??」 朝はいつも大急ぎで準備して学校に行くから、パジャマとか脱ぎ捨てていたような気がする。 セイちゃんの部屋は伊藤さんが直してくれるからいつもキレイだけど…。 「ち、散らかってると思うけど……」 「いいっていいって!久しぶりだぜー詩音の部屋」 付き合っているのに、パパやおじ様にはこの関係は秘密だった。 だからセイちゃんがこっちへ来ることはない。 キスされた、あの雷の日以来だった。 「いつも窓越しに見えるのにな」 セイちゃんは自分の部屋が見える窓に目をやった。 「そうだね…こんなに近いのにね」 私は通学鞄をいつもの場所へかける。 セイちゃんはドカっと私のベッドに腰をおろした。 「しかしもう夜になるってのに、まだ暑いよなあ」 「冷房入れる?」 「うん」 頷くセイちゃんは暑がりだ。 「詩音」 「うん?」 「……」 セイちゃんは私の腕を引っ張って、自分の隣へと座らせた。 「詩音……」 腕を掴んだ手が私の背中へと回る。 ぎゅっと抱きしめられて、私のドキドキも一気に高まっていく。 「なんか、見てるとすげー触りたくなっちゃうんだよ…」 「……うん」 「…抑えるの大変なんだぜ」 「……」 耳元で言われた言葉が、熱く甘く胸へと落ちる。 息が苦しくなってしまう。 「…セイちゃん、大好き」 「うん、オレも……」 狭すぎる私のベッドで、そのまま抱き合った。 裸の状態で、体をぴったりとくっつけて私の横にいるセイちゃん。 学校では知らない男の子のような気がする時さえあるのに、こうして側にいるセイちゃんは私にとって誰よりも安心する存在だ。 「なんかさ、…離れていられないんだよな……」 そんな風に言ってくれるのがたまらなく嬉しい。 「……うん」 だけど嬉しいんだけど切なくて、その想いを持て余してしまう。 「夜なんてこんなに近い距離にいるのに、別々に寝てるだろ?」 「うん」 「そういうのも、すごいもどかしいっていうか」 セイちゃんの手が伸びて、私の指を触る。 「うん…私もそう思うよ」 触れた指を絡め、私もセイちゃんの手を握った。 「学校でなんて、オレもう限界だったって」 「……ホント?」 セイちゃんがそんな風に思っていたなんて意外だった。 「ああ……だから今日、もう我慢できなくなってさ…」 「セイちゃん…」 「お前、結構人気あるしさ」 口を尖らせてるセイちゃんは子どもみたいだった。 「えー?うそ??」 それがあまりに可愛くて、つい笑ってしまう。 「学園祭の時も、できるだけ一緒にいような」 「……うん」 私は明るく頷いた。 今日は予想外の展開だったけれど、もう学校ではコソコソしないで済む。 セイちゃんたちの事を好きな女子がちょっと怖かったけど…。 たとえみんなの憧れでも、私にとってはこんなに近くて大事な存在だ。 (何か、言われちゃうだろうな…) セイちゃん達への取り巻きの反応が少し怖かったけど、他の誰がセイちゃんの事を好きでも、私の気持ちは絶対に揺るがない。 セイちゃんへの愛情は、本当に誰にも負けないと思う。 (うん……負けない) その気持ちを、自信にしよう。 周りにどんな波が立とうとも頑張って行こうと、私は密かに胸に誓った。 |
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