ベイビィ☆アイラブユー

ラブリーベイベー編 ☆☆ 18 ☆☆

   

「…で囲まれた二つの部分の和をSと考えると、Sの最小値は…」

先生の声がBGMみたい。
目を開けていても頭の裏側の方で、昨晩のセイちゃんの姿が浮かんでしまう。

セイちゃんがしてくれるキス。
ささやく言葉。その声。

(ああ…)
ドキドキしてくる。
今シャーペンを握るこの指先にも、セイちゃんはキスしてた。
キスしながら、セイちゃんの手は私の体のあちこちを触った。
(どうしてあんなに気持ちいいんだろう…)
セイちゃんの指はすごい。
でもすごいのは指だけじゃなくて……

(あああ…もう…)

両手で頬を押さえ、机にひじをついた。
(私、変なのかな…)
この教室の中でこんなにエッチな事考えているのって、私だけなのかな。
だけどエッチなのは頭の中だけじゃなくって、座っているだけなのに私はすごく濡れてしまっていた。
セイちゃんの事を考えるときは、いつもそうなってしまう。
でもいつもセイちゃんの事ばかり考えているから、結局はいつも濡らしてる。
(ダメだなあ…)
それでも、止まらない。


私は今、自分でも悩んじゃうぐらい、エッチだ。



「詩音ちゃん、突然だけど今日うちに遊びに来ない…?」
放課後、萌花ちゃんから声をかけられた。
「え、いいけど……陸人くんは?」
学園祭の後しばらくして、猛プッシュしてくる陸人くんに流されるみたいに萌花ちゃんは彼と付き合いだして、最近は毎日のように二人は一緒に帰っていたのだ。
「大丈夫大丈夫、是非うちに来て」
萌花ちゃんはにっこり笑った。やっぱりほんわかしてて可愛いな、と思う。


久しぶりに来た萌花ちゃんの家。
どこを見ても女の子が喜びそうな、豪華で可愛らしいインテリア。
そして萌花ちゃんのお部屋は、私の家のリビングぐらいの広さだ。

白い勉強机は幅広で、ピンク色のイスが二つ置いてある。
私たちはそこに座った。
萌花ちゃんはもじもじしている。
学校から思っていたんだけど、今日の萌花ちゃんはどこか変だ。

「どうしたの…?学校で、何かあった?」
ガマンできずに私は言った。
「ううん……学校じゃなくて、」
「……?」
「えーっと…」

「何?」
萌花ちゃんの普通じゃない様子に、だんだん心配になってきた。
「えっと、その、……あ、あの〜〜」
下を向いて、もじもじが更に激しくなる。
「??」
「し、詩音ちゃん、堀尾くんと付き合って…どれくらい?」
「え?私とセイちゃん?…えーっと、夏前ぐらいで今12月だから…ご、5ヶ月ぐらい?」
(改めて数えると、付き合ってからそんなに日にちが経ってないんだ…)
知り合ってからが長すぎるせいで、なんだかピンとこない。

「まだ、そんなもんなんだね……でも、詩音ちゃんと堀尾くん、二人はすごく密接な感じがする」
「み、密接?」
萌花ちゃんらしからぬ表現に、思わず聞き返してしまう。
「幼馴染みだからかな」
何事もなかったように言う萌花ちゃん。
「うん……セイちゃんのことは、ずっと知ってるしね」
私も普通に返した。
萌花ちゃんは真顔になって、そして言った。

「や、やっぱり、…その、し、詩音ちゃんは…、もう…そういう経験があるの?」

「えっ…?」
(そういう経験、って……)
いきなりの質問に、ドキドキしてしまう。

「あっ!……やっぱり変な事聞いたよね?ご、ごめん、……わ、忘れて…」
萌花ちゃんは真っ赤だった。
「えっと……萌花ちゃん、……陸人くんと……な、何かあったの?」
多分私も負けないぐらい真っ赤になってると思う。

萌花ちゃんは下を向いた。
「なんていうか……、陸人くんに迫られてて」
(ああ、迫ってきそう……)
陸人くんの萌花ちゃんへの猛烈アタックを間近で見ているだけに、すぐ想像できた。
それに、私と出会った頃の積極的な陸人くんを知っているし、彼なら好きな女の子に対して行動に移さないタイプじゃない。

「あ……ああいう事って、しなくちゃいけないものなのかな?」
そう言って萌花ちゃんはまっすぐ私を見た。
「………えっと」
私は痛いところを突かれたような気がして、何故だか胸がズキンとする。

「ご、ごめん…、何ていうか……その…そういう事って……どうも苦手で…」
萌花ちゃんはまたモジモジしだした。
「そ、そうだよね……」
きっと彼女は処女だし、そう思うのも無理はないと思った。
陸人くんが迫りすぎてるんじゃないかという気もしたけど、実際どうなのかは分からない。

「り……陸人くんの事、キライじゃないんだけど…」
「うん」
「何ていうか、……付き合いだしたのも、急な感じがするし…」
「…うん」
「色々、気持ちが追いついてないっていうか…」
「うん…」
陸人くんには悪いけど萌花ちゃんの言ってる事が、何だかよく分かる。
「それ以上に、…そ、そういう事するっていうのに、すごく抵抗があって…」
「……」

「詩音ちゃんはどうだった?」

「ええっ!」
突然振られて、肩が上がるぐらい驚いてしまった。
「だって……堀尾くんと詩音ちゃん、すっごく仲いいし…や、やっぱりもう…」
「えーっと……、う、……うん…まあ…」
私は何となく曖昧に頷いた。
「ああ!やっぱり……!ええ……詩音ちゃん、大人だ……」
萌花ちゃんはショックを受けてるみたいだ。

「そ…、そんなに、イヤなものじゃないよ?」
自分をフォローするみたいに、弁解する私。
「そうなんだ……す、すごいね、詩音ちゃん…すごいね…」
私を見る萌花ちゃんの目が変わりそうで、怖い。
「あのさ、好きだったら…嬉しいと思うよ」
「…そうなの?」
「うん……」
昨日のセイちゃんの事を思い出して、萌花ちゃんの前だっていうのに私の体の奥は熱くなってしまう。

「じゃあ、私……あんまり陸人くんの事、好きじゃないのかな」
思いつめたような顔で、萌花ちゃんは私をじっと見た。

「えっ……!なんで??」
「だって、触られたりするの怖いし……服を脱ぐなんて、絶対イヤだし」
本当に困ってるみたいだった。
だけどそういう風に思ってしまう萌花ちゃんの気持ちも、何となく分かった。
「初めてで…付き合って間もないんだったら、そう思うのも無理ないよ」
「……そうかなあ」
「好きだったら、多分いつか自然にそういう気持ちになると思うよ」
「………」

「陸人くんに、素直に『急がないで欲しい』って言ってみたら?」
「……言った方がいいのかな」
「うん、言った方がいいと思う」
「……そうかな?」

「だって、陸人くん、普通より急ぎそうなタイプに見えるもん」
「そうだよね?」
萌花ちゃんは、やっと笑った。

その後も萌花ちゃんの部屋で、私達はいわゆるガールズトークっぽい話をした。
なかなか学校では話せない話もしたり、すごく楽しかった。

(私は……)
萌花ちゃんに ああ言ったものの、実際は全然違うと思った。
付き合う前からセイちゃんに体を触られて、私は完全に欲情してた。
本当の事言うと、セイちゃんの事が欲しくて欲しくてたまらなかったんだ。
だからお互いの気持ちを確かめたらすぐに、そういう関係になってしまったのも自然な気がした。
側にいると触れたくて、そしてもっと側にいたくなって……

(セイちゃん……)

自分の部屋にいる今だって、学校でだって、…セイちゃんの側にいてもいなくても、
私はセイちゃんの事ばっかり考えて、そしていつも欲情している。
(私、やっぱり変なのかな……)
最近、真剣に悩んでしまう。
セイちゃんと今は毎日触れ合うことができなくて、余計に悶々としてた。
(私、性欲強すぎるのかなぁ…)
セイちゃんの事を考えると、いつも濡れてしまう。
(なんだか、体がおかしくなっちゃったみたい…)
自分ではどうにもできなかった。



そして待ちに待った日曜日。
やっとセイちゃんとゆっくり会える。
セイちゃんの事を考えて、昨日はほとんど眠れなかった。
(やっと……会える)
ワクワクし過ぎて、朝も早い時間に起きてしまった。

すぐ側に住んでいるのに、いつものように駅で待ち合わせをした。

「よ、お待たせ」
ニコニコしてセイちゃんは近づいてくる。
「待ってないよ。セイちゃんも早かったね」
私達は定期券をかざし、駅に入った。
「なんか急に寒いね」
「そうだな…」
セイちゃんはグースの黒いダウンを着ていて、何気なくすごく上質なものを身に着けている。
そのさりげなさに、やっぱりお坊ちゃんなんだなと思う。

セイちゃんに手を引かれて、二人で電車に乗った。
「今日、どうする…?って考えたんだけどさ、やっぱりさ、……二人でいたいだろ?」
珍しくセイちゃんは、少し照れてるみたいだった。
「うん……そうだね」
結局、考えていることは同じだった。



今の私たちは、お互いの距離を縮めたくてたまらない。
それを叶えようと思えば思うほど、お互いを求める気持ちが強くなってしまう。

「セイちゃん……」

早い時間だったけれど、ホテルに来てしまった。
こんな場所なんて自分には全く縁がないものだと思っていて、半年前の自分は想像もしていなかった世界だ。
色んな人が来て、この場所でそういう事をする。
私たちも、そうだ。

「詩音……会いたかった」

毎日のように顔を合わせているのに、というより顔を合わせているからこそ、物足りない気持ちが余計に大きくなってしまう。
触れ合う唇。
セイちゃんの熱い舌が、私の舌に触る。
食べられてしまいそうな瞬間。
大きなベッドに押し倒される。

「ああ……ん…」
セイちゃんの指がショーツの隙間から入ってきて、私のそこに触れた。

「やっぱりすごい濡れてるじゃん…」
私の顔をハッキリ見て、セイちゃんは言った。
「だって……そうなっちゃうんだもん」
恥ずかしかったけど、本当にそうだった。
セイちゃんはちょっと笑った。
「詩音もオレとしたい?」
「……うん…」
「もしかして、オレとすることばっかり考えてる?」
「……そうかも……」
口にするとやっぱりもっと恥ずかしくなってきて、私はセイちゃんの首に手を回した。

「詩音のそういうところも、すげー好き」

そう耳元で囁くと、セイちゃんはもう何も言わなかった。
言葉の代わりに、たくさんキスしてくれた。
 

 

ラブで抱きしめよう
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