ベイビィ☆アイラブユー

ドキドキ編 ☆☆ 3 ☆☆

   

「や、約束って……」

私が口篭もっていると、セイちゃんは立ち上がった。
その途端、私はビクンと体が震えてしまう。
「くくくっ……」
笑いながら、セイちゃんは戸棚からマグカップをもう一つ出した。
そこにコーヒーを注いで、自分のカップのすぐ側に置いた。
「ほら、詩音の分」
「あ、あ、……ありがとう」

食器洗い機の蓋を閉めて、ゆっくりとセイちゃんの座っている方へ歩いていった。
カップに手を伸ばしてコーヒーをとると、私は立ったまま一口飲んだ。
(びっくりした……)
私は溜息をついた。

テーブルにコーヒーカップを置いた途端、セイちゃんが急に立ち上がる。
「えっ…」
さっきほど驚かなかったけれど、突然横に並ばれてまともにセイちゃんと目が合う。
伸びた黒い前髪の間から覗く視線は一瞬冷たく見える。
セイちゃんはフッと笑うと、私に手を伸ばしてくる。
「えっ…?えっ……??」
何が何だか分からないまま、私はセイちゃんに腕を取られた。
「詩音…」
セイちゃんの声にハっとして気が付くと、キッチンの端に追い込まれていた。

「やっ……な、…何??」

「だーかーら、約束だろ?」

セイちゃんの手は、もう私の胸の上にあった。
(えっ、えっ、えっ……??うそ、うそっ…)
そう思っているのに、言葉が出なかった。
私はキッチンの壁にぴったりと背中をくっつけていて、もう逃げ場がない。
家政婦の伊藤さんはとっくに帰っていたし、父も仕事に行ってしまった。
今、この家にはセイちゃんと私の二人しかいない。
色々とぐるぐる考えているうちに、セイちゃんの手が私の服の中に入っていた。
「やっ…、セイちゃん!」
うまく抵抗できなかった。
セイちゃんに握られていない方の左手で、セイちゃんの肩を剥がそうとしても力が入らない。
自分のどんくささがこんなときに身に染みた。
「詩音、結構胸あるじゃん」
楽しげな笑みを浮べ、セイちゃんは私の顔を見た。
そう言っているセイちゃんの右手は、もう私のブラジャーの中にあった。
泣きそうになってくる。

「やだ、……だめ、セイちゃんっ」

信じられない。
セイちゃんにこんなことされてるなんて。

その時、遠くで携帯電話の鳴る音がした。
「んーだよ、誰だよ、こんな時に……」
セイちゃんは私の服の中から手を抜き、私を掴んでいた手を離すとキッチンを出て行った。
「はあ、はあ……」
思わずその場に座り込んでしまう。
(今、……セイちゃんに…)
突然セイちゃんにされた事に対して、頭がついていかなかった。

キッチンの電気を消し、フラフラしながら自分の部屋に帰る。
「はあ……」
しばらくしてやっと落ち着いてきた。
左の胸に、なんだか生々しい感触があった。

セイちゃんの、手。

「うそぉ……」
その夜は全然眠れなかった。



「おはよーございます」
普段と全く変わらずに不機嫌な様子のセイちゃんは、私の父に挨拶すると堀尾のおじ様を見て少し頷き、自分の席に座った。
4人で囲む食卓。
私と父は飲み物とグラスをテーブルに並べると、一緒に席についた。
「………」
それぞれが朝のニュース番組を見ながら、黙々と朝食を食べ始める。
私は恥ずかしくて、下を向いたまま急いで食べる。

「今日、急ぐから……、お先に失礼します。……パパ、後片付け、ごめんね」
おじ様とパパに軽く頭を下げ自分の食器をキッチン戻すと、私は急ぎ足で自分の部屋へ戻った。
特に用事があったわけじゃなかったけれど、すぐに家を出て学校へ向かった。


「詩音ちゃぁん」
教室に入ると、萌花ちゃんはもう来ていた。
「おはよう、萌花ちゃん早いねぇ」
「私はいつもこの時間だよ。だって電車、混むでしょう?詩音ちゃんこそいつもより早いんじゃない?」
きちんと髪型を整えた萌花ちゃんは、朝から爽やかな笑顔を見せた。
「うん……ちょっと」
私は今朝の気まずい食事の席を思い出して、少し気が重くなる。
セイちゃんの顔が見れなかった。
多分、セイちゃんは普通だったと思う。
セイちゃんにとっては、昨日のことはたいしたことじゃなかったのかもしれない。
だけど私にとっては腰が抜けちゃいそうにとんでもない事だったんだ。

「今朝、堀尾くんと電車が一緒だったの!」
「ホントに?うわあ!朝から羨ましい!」
教室内で他の子たちがそんな話をしていた。
名前を聞いただけで、またドキドキしてきた。
セイちゃんは女の子たちの憧れだ。
だけど私にとってのセイちゃんはやっぱり幼馴染で家族みたいな感じで…、それなのに。




「詩音」

「きゃっ!!」
こんな早くにセイちゃんが帰っているとは思わなくて、突然リビングで声をかけられて私は心底驚いてしまう。
「なんだよ、お前の朝の態度」
セイちゃんはだらしなく履いたズボンのポケットに両手を突っ込んで、猫背がちに立っている。
「……だって昨日セイちゃんが」
あんなことしてきたくせに偉そうなセイちゃんに、私はちょっとムっとして答えた。

「詩音ー、じゃあ仕事行って来るから」
キッチンからパパが出てくる。
「行ってらっしゃい〜〜」
セイちゃんが思い切りの愛想笑いをパパに向けた。
「あ、征爾くん、おかえり。今日は堀尾さんは外食だから、二人で適当に食べてな」
パパは私とセイちゃんに笑顔でそう言うと、急ぎ足で出て行ってしまった。

「………」
「………」

外食ってことは、堀尾のおじさまは遅くなる。
(二人で夕食……)
いつもの事といえばそうなんだけど…。

「じゃあ暫くは二人きりだな」
「!」
セイちゃんが私のすぐ後ろに立っていた。
「それじゃあ、昨日の続きしようぜ」
「続きって……何??」
後ろからセイちゃんに抱きしめられた。
「やっ…えっ…?…もう、……うそ…」
ギュっと腕に力が込められて、私は動けない。
器用にセイちゃんの手は私の服の中に入ってきて、そのまま上に上がってくる。

(続きって……、うそぉ…)

「セイちゃん、…セイちゃんってば!」
逃げようと思って動くと、お尻がセイちゃんの体に当たってしまう。
何だか変な感触がして、私は動いてはいけないような気がした。
(うそ……)
服の中で、ブラジャーがずり上がるのが分かった。

「やんっ、……やんっ」

完全に、私の胸はセイちゃんの手の中にあった。
「あっ…!」
キュっとおっぱいを掴まれて、思わず足がガクンとなる。
「なんだよ、詩音……お前感じ易いんじゃね?」
セイちゃんの手が、何度も私のおっぱいを握った。
「やん、やんっ……だめぇっ……だめぇっ…」
私はセイちゃんの手に支えられるみたいになって、体が前のめりになる。
体が曲がると、後ろにいるセイちゃんと更に密着してしまう。
(ヤだっ……なんで…)

「あんっ!」

セイちゃんが、私の胸の先をつまんだ。
「あーすげー、詩音」
「やん、やんっ……あんっ……あんっ…」
嫌がっている声が、いやらしい声になってきて自分でも焦る。
「可愛いじゃん、お前」
私は完全に膝をついてしまい、後ろから胸を掴まれて上半身をセイちゃんに支えられていた。
セイちゃんの手が、私の胸を触っている。
セイちゃんの指は、私の乳首の先を擦っていた。

「ひやぁんっ……だめっ……あんっ……」

イヤなのに……変な感じだった。
そういえば、今日の私は全然抵抗していない。
さっきからセイちゃんにされるがままだった。
乳房を何度も揉まれ、もうハッキリとどうされているのかが分からなくなってくる。
(やんっ、……なんか……変っ)
「あっ……ふあぁんっ……うぅんっ…」
だんだん息が上がってきた。

ふと、セイちゃんの動きが止まる。
セイちゃんの腕がそっと下がってきて、私の服の中から出てきた。
「詩音、ホントに感じ易い?」
「やだっ……もうっ……」
私は首を振った。
セイちゃんの手は私の肩に回って、私を尾正座するような姿勢に導いた。
「可愛かったぜ、じゃ、メシの時メールで呼んで」
そう言って私の顔を見た。
ニヤニヤしたセイちゃんは、まるで子どもが悪戯をした時みたいに目が輝いている。
「セイちゃん……」
座り込んだままの私を置いて、セイちゃんは2階の自分の部屋に戻っていった。


「ああ……うそぉ……」

また触られてしまった。
足がガクガクしている。
もちろんこんな風に誰かに体を触られたことなんてなくて、手の先までドキドキしていた。
(どういうことぉ……セイちゃん…?)
よく分からなかったけれど、今まで家族みたいに思っていたセイちゃんが、昨晩から急に男になってしまった気がした。
それから、自分も……女なんだって思った。
「なんで……?」
立ち上がろうとしてよろけてしまう。
それでもなんとかキッチンに向かい、私はイスに腰を下ろした。

「はあ……」

二人で食べる夕食の用意をしないといけない。
(なんで……セイちゃん…?)
混乱し過ぎて何も考えられなくなり、私はしばらく放心していた。
準備をしようとやっと腰を上げた時、パンツを汚してしまっている事に初めて気がついた。


 

ラブで抱きしめよう
著作権は柚子熊にあります。全ての無断転載を固く禁じます。
Copyrightc 2005-2017YUZUKUMA all rights reserved.
アクセスカウンター