ベイビィ☆アイラブユー

ドキドキ編 ☆☆ 6 ☆☆

   

「おう」
「ハッ!」

キッチンを出たところで、セイちゃんとバッタリ会ってしまった。
一緒に住んでるようなものだから、バッタリっていう表現はちょっとおかしいかもしれないけど。

「何だよ、ビクつくなよ」
ダイニングのテーブルのところにいたセイちゃんは、こっちに向かって少し近づいてくる。
「………」
私はセイちゃんの顔もまともに見れずに、急ぎ足でキッチンに戻ると自分の部屋へとダッシュした。



「はあ……」

私は自分の部屋のドアを後ろ手に閉めると、大きくため息をついた。
あれ以来………セイちゃんと二人きりになると、大体またああいう事になっていた。
こうやってあからさまに避けない限り…、私はセイちゃんにうまいこと誤魔化されて触られてしまう。
回を重ねる毎にセイちゃんは大胆になってくる。
私はといえば、セイちゃんの指であっという間にイかされるようになってしまっていた。

(ダメ、ダメだって!)

何もしていないのにうなじがゾクゾクしてきて、私は首を犬みたいに振った。
触れられる度に、私はどんどんセイちゃんのことを好きになってしまうような気がする。
(好きだけど……)
セイちゃんは?
私のこと、嫌いじゃないのはよく分かってる。
だけどセイちゃんの態度はいつも面白半分って感じだ。
(からかわれてる……?)
学園でのあの人気といい、セイちゃんに声をかけられるとイヤだなんていう女の子ってそうそういないだろう。
私だって、結局そうだ。
(何なんだろう……私って……)
手近なところで適当に私の事をもてあそんでるのかもしれない。
だけど、そう思うのは辛い。
いっそ拒否してしまえばとも思うけれど、セイちゃんに抱きしめられるのは嬉しくて……私はいつもされるがままだった。



「えー!拒否したの!?」

「ちょっと、声が大きいってば…」
日差しが入るともうだいぶ暑くなる教室の端で、クラスの子が話していた。
思わずその内容に、聞き耳を立ててしまう私。
普段私とあんまり会話をしないグループの子たちが3人いて、その後もひそひそと話を続けた。

「だって……、急に怖くなったんだもん…」
「…でもさあ、そこまで許してダメだなんて……、男はキツイと思うよー」
「でも、その後も優しかったし……そんな、キツイって感じじゃあ…」
「ハァー分かってないなあ、奈津の彼氏、かわいそう!」

(キツイ……?かわいそう?)

こういう話に疎かった私でも、今ならその内容が何を指すのか分かった。
(そういえば……)
セイちゃんは私に触れてくるけれど、それ以上求めてきたりしなかった。
あの状況でも、押し倒されたり迫られたりされたことはない。
うなじにされるぐらいで、キスだってしたことがない。
自分のことでイッパイイッパイで、そんな風に考えたことがなかった。

(セイちゃんは、よ、…欲情とか、って…しないのかな…)

私ばっかり気持ちよくさせられてる。
でもそれもセイちゃんから迫られてるからそうなってるだけで、私からして欲しいとかそういうんじゃなくって…
「ああっ、もうっ」
頭の中がゴチャゴチャしてくる。
(セイちゃん、どうしてあんなこと私にしてくるんだろう)
男の子のことは、よく分からなかった。



日曜の午後、パパは今日は忙しいと早々に仕事に出かけていった。
おじ様は出張で来週に帰ってくる予定で、金曜から家にいない。
家政婦の伊藤さんが午前中に来てくれて、堀尾家はすっかりキレイになってた。
「暑いなあ……」
もう7月だ。
パパが作っている小さな畑に水を撒いて、私は自分の家に戻ってシャワーを浴びた。
(ノド乾いちゃった)
堀尾家のキッチンに、パパがハーブティを作って冷やしていた。
取りに行こうと、私は母屋へと向かった。

(はあー、やっぱりパパは何を作っても最高)
すぅっとしてそれでいて甘い、絶妙にブレンドされたハーブティを飲んで私はすっかりリラックスした。
「オレにもそれ、くれ」
「!」
誰かいると思わなかったから、私は驚いて後ろを振り返る。
「…セイちゃん、いたんだ」
「いたよ……。さっき起きた」
セイちゃんは相変わらずのTシャツとGパンだったけれど、一応着替えて降りてきたみたい。
昨晩はセイちゃんの帰りが遅かったから、私はセイちゃんに会わないで1日が終わってた。
同じ敷地内に住んでいるのに、こんな風に全く1日会わない時もある。
そんな日は何となくさびしくて、なぜか落ち着かなかった。
「はい」
キッチンの白いテーブルの隅に立っているセイちゃんの前に、私はグラスに入れたハーブティを置いた。
「おお、サンキュー」
セイちゃんはノドを鳴らしながら、それを一気飲みする。
「昨日、遅かったんだ?」
私は何となく聞いてみる。
「ああ。ちょっと盛り上がって」

ドキン…

何気なくこちらを見ているだけのセイちゃんの目つきに、私の胸が鳴る。

「詩音は、昨日何してた?」
「私?…私は…ちょっとだけお友達と会って…すぐ帰ってきたよ」
昨日は久しぶりに、私たちとは別々の学校に通うゆかりちゃんと会ったんだ。
ゆかりちゃんは今の学校で彼氏ができたみたいで、とても幸せそうだった。
「ふうん、友達って……女の?」
セイちゃんがどうしてそんな事を言うのか、私は不思議だった。
「うん。…セイちゃんも知ってると思うけど、ゆかりちゃん」
「ああ、お前たちまだ付き合ってんのか」
少し懐かしそうに、セイちゃんはふっと笑う。
(ゆかりちゃん、…ゆかりちゃんが知ってるセイちゃんは、こんなにカッコよくなっちゃいました)
ドキドキしながら、そんなことを思う。

「帰りにビデオ借りて来たんだ。一緒に見ようぜ」

セイちゃんが借りてきたのは、イギリスのバンドのライブビデオだった。
一緒に見ようと言われて隣に座ったものの、私は全然興味がなかった。
外が明るいからとカーテンを引いて暗くした部屋。
セイちゃんはそのビデオを結構真剣に見てた。
黒いソファーの上で、セイちゃんは姿勢を崩してテーブルに足を置いている。
真っ白な床は伊藤さんがキレイに磨いてくれていて、テレビの映像が薄く反射していた。
セイちゃんとパパがこだわって、ここはちょっとしたホームシアターになっている。

曲の間のMCで、セイちゃんは笑う。
セイちゃんは夏休みに毎年ホームステイに行ってるから、英語はかなりできるようになってた。
私には何て言っているのかさっぱり分からない。
何気ないけどちょっとした瞬間に、私とセイちゃんの違いを感じるときがある。
その違いは結構大きくて、私にとってのセイちゃんとの距離を広げた。

「……!」

ビデオに目をやったまま、セイちゃんが私の髪に触ってきた。
無意識に、すごく近くに座ってた。
セイちゃんは両手を伸ばすと、私を自分の胸に引き寄せる。
「あっ…」
ゆったりとした大きなソファーの上、足を広げて座るセイちゃんに後ろから抱きしめられるような格好で、私もまた足を開かされてしまう。
「やんっ……」
「全然嫌じゃないくせに、さっさと観念しろ」
後ろから回されたセイちゃんの手が、いきなりパンツに入ってきた。
「うあんっ、だめぇっ!」
その場所を、セイちゃんの指が探る。

「詩音、お前ってホントエッチなヤツだな。もう、ここ、ぐっしょ濡れ」
「やぁんっ…セイちゃん……、ち、違うもんっ……」

セイちゃんは器用に足を動かして、私の両足を自分の足に乗せた。
「『違う』って、……こんななのに?」

クチャ、クチャ、クチャッ…

セイちゃんはわざと音を立てる。
自分からそんな音がするなんて、恥ずかしくてたまらない。
ただセイちゃんのそばにいるだけでドキドキして、そしてこんな風になってしまう自分が情けない。
「ち、違う、もんっ……、あっ、やんっ…」
本当は、すごく濡らしちゃっていること…分かってた。
セイちゃんの細くて長い指が、私のそこを何度も撫でる。
「うっ、…うぁ、……ひゃんっ」

(ああん、気持ちいいっ…)

すっかりセイちゃんに身を預けていた。
そこをなぞられる度に、小さく体が震えてしまう。
「あん、…あっ……あぅっ」
背中に感じるセイちゃんの温もりに安心して、力が抜ける。
セイちゃんにそこを触ってもらえるように、もう自分から足を開いていた。
(ああんっ、…やんっ…)

「うあんっ……あぁ、あんっ」
「イきそう?詩音」

静かにそうささやくセイちゃんの声にも興奮してしまう。
私を触るセイちゃんの指の動きが早くなる。
そこに自分の感覚が集中して、弾けるその時を求めていた。
(はあん、だめ、気持ちいいよぅ……)

「イクっ……、イっちゃうっ……!」

体が何度もビクンビクンと動いた。
無意識にセイちゃんの腕を掴んでいて、セイちゃんの首筋に頭をこすり付けていた。
「ああ………、ああ……」
知らないうちにビデオは終わっていて、DVDのメニュー画面が静止していた。
「はぁ……はぁ……」
足の力が抜けて、自然に閉じていく。
「なんか、イきやすくなったんじゃねえ?」
意地悪なことを言いながらも、セイちゃんは優しく私を抱きしめてくれた。

(セイちゃん………)

腰のあたりに固いものを感じた。
『そこまで許してダメだなんて……、男はキツイと思うよー』
クラスの子が話してた事を思い出す。
気持ちが落ち着いてくると、私の首元にかかるセイちゃんの息が熱いのが分かる。

「セイちゃん………」
私は体を離して、セイちゃんへと振り返った。

ドキン、ドキン……

セイちゃんの目はすごく優しかったけれど、……その表情は男なのにとても色っぽかった。
手を伸ばしてリモコンを取ると、セイちゃんはDVDを切って立ち上がる。
「セイちゃ……」
一緒に立ち上がろうとする私の頭をクシャっとして、セイちゃんはさっさとリビングを出て行ってしまった。
「セイちゃん………」
暗い部屋に一人残されて、私はひたすらにドキドキしたままだった。



二人きりの時、私はどんな顔をしていいのか分からないのに、そうならない時のセイちゃんは至って普通だ。
その夜の晩御飯も、普段と変わらない様子だった。
そんなセイちゃんに、私は戸惑ってしまう。
私ばっかりがドキドキしているような気がする。
セイちゃんにとってあの事は、『ちょっと会話する』ぐらいの簡単な事なんだろうか。

(好き……)

私はどんどんセイちゃんを好きになってしまう。
体が解かれるように、心までセイちゃんを求めてしまう。
(セイちゃんはどういうつもりなんだろ……)
聞いてみたい気もした。
だけど、怖い。
いつもみたいに、『別に』なんて言われたら……相当辛いと思う。
「はあ…」
このカーテンの向こう、あの窓の先にいるセイちゃんのことばかりを考えて、心はもう破裂しそうだった。



家にいても、セイちゃんにいつ会うか分からないから私はいつもドキドキしていた。
学校でも、色んな女の子がセイちゃんのうわさをしていたし、食堂や渡り廊下で会っちゃうんじゃないかと思ってやっぱりドキドキしていた。
だから私は何をしていても落ち着かなくって、最近はいつも上の空だった。


もうすぐ夏休みが始まる。
テストが終わって早い時間に学校から帰ると家は静かだった。今日は伊藤さんが来ない日だ。
堀尾家の洗濯機に自分の洗濯物を入れて、セイちゃんのことを考えながらボーっとして洗濯機を回した。
「ああっ!」
干そうと思って洗濯物を出して気が付く。
下の方にセイちゃんのGパンがあって、一緒に入れたTシャツたちが青く染まってしまった。
「やだあ!もう!」
気が付かない自分も情けないけれど、その時は無造作にGパンを洗濯機に放り込んだセイちゃんを責めたかった。

廊下にドタドタと足音が聞こえる。
「もうっ!セイちゃん!」
私は洗濯籠を抱えて、廊下に出た。



「えっ………」

一瞬、空気が固まる。
廊下にいたのは、セイちゃんだけじゃなかった。

「征爾、誰?この子」

セイちゃんのすぐ後ろに、同じ学園の制服を着た同級生らしい男の子が二人、いた。
「あっ……あの」
戸惑う私以上に、セイちゃんはもっと困った顔をしていた。
 

 

ラブで抱きしめよう
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