ベイビィ☆アイラブユー

ドキドキ編 ☆☆ 7 ☆☆

   
「征爾、誰?この子」
孝輔が詩音をあごで指し、思い切り怪訝な顔で言った。

「あっ……あの」

メールの返信がなかったから、ちょっとイヤな予感はしていた。
洗濯籠を持ったまま、詩音は呆然とその場に立ち尽くしている。
詩音はピンクのTシャツに白っぽい短パンを履いていた。
その短パンの丈がものすごく短くて、まあ詩音にとってここは自分の家みたいなもんだからしょうがないかも知れないけど、オレっていう男が一緒にいるってことを、相変わらずこいつは全く理解していない。
案の定、友人二人は詩音の足をじっと見ていた。

「…裏に住んでるオレのいとこだよ」

オレは仕方なくそう言った。
「へー、いとこさん、名前なんていうの?」
陸人は子供をなだめるみたいな声を出す。
「津田…詩音です」
詩音は洗濯籠を抱えていた腕を少し下げた。
おかげで足が少し隠れてくれる。
「詩音ちゃんかー、可愛いね!征爾のいとこって、君、いくつなの?」
陸人は詩音のことを年下だと思っているようだ。
「えっとぉ…」
詩音が答えようとしているのを遮って、オレは男二人を背中から押した。
「同い年だよ!もう部屋に行こうぜ!」

詩音を追い越して、オレは奥の階段に向かった。
入り口の階段から上がれば詩音と鉢合わせなくて済んだのにと、今更ながらに後悔した。


「なあ、いとこちゃん、洗濯までしてくれんの?」
人のベッドに座り込んで、孝輔はツンとした髪型を気にしている。
「たまにな…。普段は家政婦がやってるよ。オレんち女がいないから」
そう言いながら、オレは机の引き出しからハードカバーの本を出した。
その間から1枚の写真を抜き取る。
「同い年に見えないよね?中学生かと思った…。あ、あれは中学生の足じゃないか♪」
下心満開で陸人が言った。
こいつは要注意だ。なぜなら……
「詩音ちゃん、すっげーーオレのタイプなんだけど。あのフワーンとした感じ!」
詩音みたいなタイプは、陸人の好みど真ん中だった。
今までの彼女とか口説く女とか、コイツの趣味はとにかく分かりやすい。
男のくせに陸人自体も結構ボーっとしていて、女からよく癒し系と言われていた。
自分に共通するものを求める典型的な例だ。
「なー、詩音ちゃん呼ぼうぜー…お近づきになりたいー、あんな子に癒されたい〜」
そう言いつつ無意識に詩音の部屋が見える窓際に向かう陸人に、オレはハラハラする。
「お前、もしかして…もう癒されてるとか?」
ニヤニヤして孝輔がオレに突っ込んでくる。
イヤな野郎だ。
「うるせーな、適当なこと言うなよ」

「結構図星なんじゃねえ?セイちゃーん」

(うっ………こいつ…やっぱり聞いてたか)

オレは一瞬言葉に詰まった。
孝輔は見た目は派手だし態度も軽かったが、ものすごく頭が切れる。
おまけに鋭い。
何とか平常心を保ちながら、オレは写真を持った手を陸人へ伸ばした。
陸人は向こうに見える詩音の部屋に気づかずに、こちらへ戻ってくる。

「何だ?この写真?……このちっさい二人、征爾と詩音ちゃん?」

渡した写真はオレが最高に大事にしているお気に入りの1枚だった。
中心に4歳の頃のオレと詩音、その二人の後ろにはオレの母さんと父さん、そして沙織さんと尊さんがいた。
「これ、お前のお母さん?」
陸人も孝輔も、オレが小さい頃に母を亡くした事を知っている。
「ああ」
オレは頷いた。
孝輔も立ち上がって陸人の後ろに回り、写真を見た。
「お前もいとこちゃんも、あんまり面影ないなあ」
「今の詩音ちゃん、この写真のお母さんと似てるね」
写真を手に、陸人はオレに顔を向ける。

「かもな……。でも詩音の母さんも、もう亡くなってんだ」

「そっか……」
にこやかだった陸人の顔が曇る。
幸せそうに写る写真の中の笑顔の母たちは、よりによって二人とももうこの世にはいない。

「サンキュー」
陸人は大事そうに写真を持ち直すと、オレに返してきた。
「じゃあ、ストWやろうぜ!オレ、今日は本田でやるぜ!」
さっさと人の棚から勝手にゲームソフトを出して、孝輔はテレビのリモコンを掴む。
「お前、張り手好きだもんなあ」
孝輔の隣でコントローラーを取り、陸人も腰を下ろした。

二人はオレに気を使って、すぐに違う話題で盛り上がる。
(やれやれ……)
これでとりあえずこの場では、詩音のことで茶化されるようなことはないだろう。
オレは丁寧に写真を挟み、本を元の場所に戻した。



二人家族には広すぎる家。
ガラじゃないが、暗いままだと寂しいからリビングの電気は昔から誰もいなくてもいつも点けることにしていた。
静かなリビングを抜けダイニングを過ぎ、オレはキッチンに入った。
奥にちょこんと詩音が座っている。
詩音と尊さんがいなかったら、この家でオレはいつも一人だ。
「セイちゃん……ごめんね。メール、全然気が付かなかった…」
ただでさえ小さいのにもっと小さくなりながら、詩音は本当に申し訳なさそうに言った。
「いいよ。あいつらも『いとこ』ってので納得してるし」
コンビニで買ってたおやつを結構食べてしまっていたが、それでも尊さんの作った料理は食える。
「運ぶのめんどいし、ここで食っていい?」
「セイちゃんが良ければ、いいけど…」
詩音が料理を温めて、キッチンの白いテーブルに乗せていく。
普段このテーブルは尊さんが食材を広げたりするのに使っていた。
詩音と二人の時は、時々ここで食べてしまう。

「…………いただきます」

すごくへこんでる様子の詩音はほとんど黙ったまま、オレと一緒に食べ始める。
気づくとオレはなぜか汗ばんでた。
「ここ、暑くね?」
「そうかなぁ…?私は寒いぐらいだけど…」
詩音はぼんやりと空調の隣に掛かるリモコンの温度を見た。
(そりゃ、そうだろう…そんなに露出全開じゃあ)
オレはそう突っ込みたくなったが、やめた。
そんな事を言ったら、詩音は気にしてしまう。
そうしたら無防備にさらされる肌を、見ることができなくなってしまう。
詩音のそんな姿を見られるのは、同居しているオレの唯一の特権だ。

「オレらと廊下で出くわした時、お前オレに何か言おうとしてなかった?」
ふと思い出して、オレは聞いてみた。
「あ……、そうそう。セイちゃん、Gパン洗濯機に放り込んだでしょう?」
「そうだっけ?」
「そうだよー。私、白いTシャツ一緒に洗っちゃって」
詩音は頬を小さく膨らませ口を尖らせた。
(か……、可愛い……)
最近、こういう何気ない仕草がなぜか猛烈に可愛く見えて仕方がない。
気になりだしてきたら加速して、…いまや詩音が何をしてもオレの目には可愛く映るんじゃないだろうか。

いつからか、二人きりだと意識してしまうようになってた。

高校に入ってから急に女っぽくなった詩音。
詩音はオレのことを意識していないのか、平気でブラジャーの透けたシャツを着たり、今日みたいに足を全部出したりしている。
(二人きりなんだぜ…?)
手を出すなって方が無理だ。
全くの無防備で、甘ったるい声で「セイちゃぁん」とか話しかけてくるコイツ。
ちょっとからかうと思いのほか面白い反応で、つい、オレは…。

「…………もう、聞いてる?セイちゃん?」

詩音はGパンのことでまだ文句を言っていた。
オレは下心のみでただ彼女を見ていた。
「全然聞いてなかった」
真剣な様子の詩音に、思わずオレは笑ってしまう。
「もうー!」
ちょっと顔を赤くして、詩音はさらにふくれた。
(童顔だな)
モロに陸人好みのルックス。
(会わせたくなかった……)
今日、奴等を連れてきたことを後悔した。

(感じると、あんな反応なんだよな…)
童顔で可愛い顔が、興奮すると急に女になる。
恥ずかしそうに感じるその姿がすごいエロくて、最近は毎晩詩音のことを思い出していた。
(やっべーな、オレ)

――― このままだったら、いつか犯してしまう。

我慢するにも限界があった。
妹みたいで家族のような詩音に、手を出したオレがそもそも悪いんだが。
(付き合うっていうのもな……)
詩音がよければ、別に付き合ったって良かった。
しかし、オレはこれまで女と付き合ってうまくいった試しがない。
束縛されたり詮索されたり、ちょっとした事で大喧嘩になったり、…一旦気に入って付き合ってるはずなのに、すぐに気持ちが醒めてしまう。
女との交際に対して、今、オレはかなり臆病になってた。
それが詩音なら、尚更だ。
詩音へのオレの気持ちは、もしかしたら好奇心からかも知れなかった。
それ以上に、もし付き合って詩音がオレに幻滅するような事態になったら、なんだか本気で立ち直れなくなりそうな気がした。
(かと言って、今の状態もなあ…)
「?」
オレにあんな事をされているというのに、ポーっとした表情でオレを見る詩音。

(だからその顔がやばいんだって…)

オレは詩音の顔から目をそらしたが、つい彼女の生足を見てしまった。 
 
 

ラブで抱きしめよう
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