ビター(夢色続編)

(テル編) ☆☆ 5 ☆☆

   

「テル、明日の都合は?」
帰り際、香里がオレに聞いてくる。
オレはハンドルを握りながら答える。
「火曜は夜バイト入れることにした。悪いな」
なんて、ホントはウソだ。
明日は麗佳と会う。
何となくだけど暗黙の了解って感じで、火曜には二人で晩メシを食う。
どちらかがこうしようと決めたワケじゃない。
自然とそうなったんだ。

学校も始まり、いつもと変わらない日常が続く。
それでもオレは学校よりもバイト優先って感じで、受けないといけない授業以外はほとんど学校に行かないで過ごしていた。
大学生ってこんなもんなのか。


「あたし、先生よりもテルと会う方が多いよ」
麗佳が笑いながら言った。
もう9月も終わりそうだ。
お盆明けぐらいから、オレらは週1のペースで会ってた。
普通の恋人関係みたいなペースだ。
田崎よりも会ってるっていうの、オレとしてはアイツよりも麗佳に近付いてるような気がしてて、なんだか満足してた。
だからこそ余計に火曜の麗佳との予定は外せなかった。

「テルの彼女って、前から付き合ってるB組の子?」
「そうだよ。東野香里」
「あの賢そうな子」
「賢そう?」
「うん。ほとんど喋ったことないけど…。賢そうな感じした」 
「へぇ。まあ確かにオレよりは賢いと思うよ」
麗佳のバイト帰りの食事、要するにオレと会う時の食事はオレの選択でいつも気取らないところばっかり来てた。
「すいません、お勘定」
オレは店員を呼び止める。
「今日、テルに奢ってあげる」
「なんで?」
「バイト代出たし。いっつも送ってもらってるしね」
「いいよ。別に」
金を出そうとすると、麗佳がオレのサイフの上に手を置こうとする。
「いいのいいの。あたしの方が稼いでそうだし。
ラーメンなのが安くてごめんだけど」
麗佳が笑う。
「んじゃ、今日はゴチ」
オレは素直に奢ってもらうことにした。

駅前のラーメン屋を出た。サクっと食ったから、まだ8時前だった。
送って9時…。まあそんなもんか。
別にデートじゃなかったから、麗佳との夜はいつもあっさりしたもんだった。
「輝良!」
「おー、雄吾!」
偶然にサークルのヤツと会う。
「何してんだよ。こんなとこで」
オレは言った。
「バイトのお使いで来ただけ。もう終ったし……」
答えながら雄吾が麗佳をじっと見る。
麗佳が会釈すると、雄吾も挨拶を返した。
「輝良の彼女?すっげーーーーーーーカワイイじゃん」
「違うよ、高校の時のトモダチ」
オレはちょっと困って言った。
「もうメシ食った?」
雄吾が聞いてくる。
「おぉ、今そっから出たとこ」
オレはラーメン屋を指差す。
「せっかくだから、ちょっと飲まねぇ?オレもうビール飲みたくて死にそう」
雄吾が言う。オレは考える。
「ビールなぁ」
『ビール』という言葉を聞くと、条件反射的にすっごい飲みたくなってくる。
「あたし、電車で帰るから、テル行ってきなよ」
雄吾に目で合図して、麗佳が一人で帰ろうとする。
「あ、あ、あ、彼女…じゃなかった、テルのおトモダチも、一緒に行こうよ」
雄吾が麗佳に言う。
「麗佳、予定なんかある?イヤじゃなければ、行く?」
オレは麗佳に言った。こんな言われ方したら、まぁ断れないよな。
麗佳はオレと雄吾を見る。
「うん…。じゃぁ、ちょっとなら」
結局3人で飲みに行くことになった。


「麗佳ちゃんに、乾杯〜〜」
近所の居酒屋に入った。
雄吾が音頭をとって、とりあえず3人で乾杯する。
座敷でオトコ二人で並んで座るのがイヤだったから、オレは麗佳の隣に座った。
机を挟んで雄吾。
まるでオレの彼女みたいなその席順も、麗佳は特に違和感なかったみたいだった。
「高校の同級生なんだ」
オレは雄吾に言う。
「こっちは大学のサークルの同期で、小笠原雄吾」
雄吾を見て、オレは麗佳に言った。
ヤツがさっそく麗佳に話し掛ける。
「麗佳ちゃんは彼氏いるの?」
「いますよ」
「やっぱなぁ…。可愛いもんなぁ。あ、敬語じゃなくていいからね。
一応同学年だし」
「小笠原くんは、彼女いないの?」
麗佳が言った。
オレは二人のやり取りを黙って見てた。
「最近、前から付き合ってた彼女に振られてさぁ…。
誰かいい子いたら紹介してよ」
ちなみに雄吾はすっげぇノリが軽い。その割にはしっかりしてるところもあって、仲間内では結構信頼されてる。
「うん。あたしのトモダチにも同じような事言ってる子がいて…。
良かったらホントにマジに紹介するけど」
麗佳が意外な反応をした。
「ホント?じゃあ是非ともセッティング頼むよ!
オレは都合つけるから!いつでもいいし!」
「じゃあ、ホントに段取りしちゃうよ?…小笠原くんメール教えて」
麗佳が携帯を開いた。
雄吾がオレを見る。めっちゃ嬉しそう。
それよりも麗佳が簡単に初対面の男とメアド交換してる事に、オレはなんだか複雑な気持ちだった。
「おい、初対面でいきなりメアド交換する?」
オレは麗佳に言った。
「初対面だけど…。テルのお友達でしょ?」
麗佳は何いってんのって顔でオレを見た。
「輝良、麗佳ちゃんには手ー出さないから心配すんな」
雄吾が笑って言った。

「ホントにやめろよ…、麗佳はオレの大事な…」

そこで、オレは言葉に詰まってしまう。
黙ってるオレを、雄吾と麗佳が見てる。
何とも言えないヘンな空気が流れる。
『オレの大事な』…彼女?…女?…トモダチ…?
言葉が浮かばなくて、イヤな汗かいてくる。
「はいはい、だから大丈夫って言ってるじゃん」
雄吾が言葉を続けてくれた。
麗佳が困ったような顔で雄吾に向かって微笑む。
オレはすごく間が悪い気になって、ただビールを飲んだ。


なんだかんだ言って話も盛り上って、10時になろうとしてた。
「麗佳、お前もう帰れ。遅くなるから」
オレは麗佳に言った。
「え…、う、うん。テル達は?」
「オレらはもうちょっと飲むから…今日送ってやれなくてごめんな」
「いいよ、いいよ。たまに飲むのもいいかもね」
麗佳がお金を出そうとする。
「いいから。ここはオレらの奢りで」
雄吾が言った。
「でも…」
「いいよ。それよりも、お友達とのセッティングよろしくね」
雄吾が携帯を握る。
「うん。それじゃ、早いうちに連絡するね。
……忘れてそうだったら、メールして」
恥ずかしそうにしながら、麗佳が立ち上がる。
「オレ、ちょっとそこまで送ってく」
「あぁ、待っとくよ」
オレは雄吾を置いて、麗佳と店を出た。

居酒屋は駅のまん前で、送るって言っても本当にすぐだった。
「今日は付き合わせて、ごめんな」
オレは麗佳に言った。
こうして二人でいると、まるで付き合ってるみたいだなと思う。
「うぅん。楽しかったよ」
麗佳がニコっと笑う。ちょっとほろ酔いっぽいのがまた可愛い。
「雄吾の件は、適当でいいから」
オレも笑いながら言った。麗佳が答える。
「なんか、いい人そうじゃん?テルのお友達だし。
彼氏欲しい〜〜って言ってる子が、ちょうどいてさ。よく紹介してって言われてんの。
ホントにちょうどタイミング良かったって感じ」
「…」
オレは改札を見た。
「じゃ、気をつけて。家からはタクシーで帰れよ」
「大丈夫だって。…」
麗佳が一歩、歩き出す。
「テル」
「ん?」
「いつも心配してくれてありがと」
「あ…あぁ」
麗佳は軽く手を振ると、改札へ向かって真っ直ぐ歩く。
オレも雄吾を待たせてるから、急いで居酒屋に戻った。

ヤツは更にビールを追加してた。
「輝良」
「あぁ…なぁ、つまみも頼んでもいい?」
雄吾は頷いてビールを飲む。
飲んだあと、息を吐いて言った。

「輝良、麗佳ちゃんのこと、スッゲー好きだろ?」

「えぇ?」
オレはその突っ込みにすごい動揺する。
「もろ分かりだってーの。普段のお前の目つきと、全っ然違うぜ」
「そ……」
オレが言葉を言う前に、雄吾が続ける。
「麗佳ちゃん彼氏いるんだろ?…お前も彼女いるじゃん。
なんかめんどくさそうだな。お前ら」

オレはちょっと考える。
「あのさ…」
「何だ?」
「ぶっちゃけ、脈ありそうに見えるか?」
オレは素直に聞いてみた。
麗佳に対して「気がない」なんて、そんな見え見えの嘘なんてつけなかった。
「……どうかなぁ。まぁ、輝良のことキライではなさそうだけど」
「…それはオレも分かってるよ」
それぐらいの事はオレも分かる。
むしろ、どっちかっていえば好かれてるって事も。
あいつの性格から言って、気に入らないオトコとこうして会うワケがない。
「しょちゅう会ってるんだろ?」
「まあまあ…結構会ってるかもな」
「それじゃ、頑張ってみれば?」
雄吾が軽く言う。
「行くか、行かないか、しかないだろ」
「……」
オレは何とも言えなかった。


次の火曜日、いつもの様に軽く食事をして麗佳を家まで送る。
「ねぇ、10月の2週目ぐらい…。
小笠原くんとの事だけど、テルの都合、どう?」
「オレも一緒に行くの?」
ガスの残りメーターが気になって、オレは目でスタンドを探した。
まだ時間は早かった。
「うん。…来てよー…。だって小笠原くんとはこの前会ったきりだもん」
「いいけどさ、何曜日?オレ、水曜はイヤだぜ。
木曜の1限、落とせないから」
反対車線にスタンドを見つける。
もうすぐ麗佳の家に着く。帰りに入れていこう。
「じゃぁ、水曜以外で…聞いてみる」
「雄吾とメールしてんの?」
オレは言った。
「うん。用件だけだけどね。あと、この前のお礼もしたよ」
「あぁ…」
用件だけっての、想像できて笑ってしまう。

「そんじゃ、またな」
「うん。じゃぁ、またね。小笠原くんと会うんなら、都合合わせといて」
麗佳は車から降りて、家に入る。
ちょうどそのタイミングで雄吾からメールが来て、オレは携帯を見た。
「あれ…」
見たような顔が麗佳の家へ向かって歩いてくる。
オレは運転席の窓から顔を出した。
「祐一?」
男子高校生に声をかけた。
「…」
祐一は不思議そうにオレを見たが、しばらくして思い出したみたいだった。
「あぁ…、姉ちゃんの…元カレ?…久しぶりっす」
オレは心の中で苦笑してしまう。
まぁ、そうだよな。付き合ってたときしか知らないもんな。
「元気か?」
「はい…。姉ちゃんとまた付き合ってんですか?」
祐一は麗佳にちょっと似てて、オトコのくせに結構可愛い顔してる。
「別に付き合ってないけど…。
ところで祐一、将来の兄にメールアドレス教えろ」
「兄…?なんでメアド?」
「何かで使うかもしれないだろ。一応教えとけ。
お前も年上と合コンしたかったらオレに言え、何とかしてやるから」
祐一はちょっと笑って携帯を開いた。

「将来の弟よ、またな」
笑いながらオレは車を出した。

 

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