先週あんな事があったっていうのに、オレの予定は容赦なく埋まる。
月曜からプチ合コンかよ……。
いつもは麗佳の顔が見れるって思うと、それだけで浮き足立つオレなのに。
「えーっと、小笠原くん、…この子は有希。あたしの大学の同級生」
麗佳がめっちゃ愛想笑顔になってる。
「よろしくー♪あ、雄吾でいいから」
雄吾はすげえ浮かれてた。
オレ達は洋風居酒屋に来てた。
ここも間違いなく女のチョイスするような雰囲気の店だ。
でも4人テーブルってすごく自然で、合コンしてます!って感じはしなかった。
麗佳の連れてきた女の子、有希ちゃんは結構カワイかった。
大体、可愛い女が連れてくる女ってナゼか外れが多い。
だけど有希ちゃんはなかなか…良かった。
麗佳は可愛いコと一緒にいる事が多いなと思う。
高1のときの賀茂さくらだってまあまあ可愛かったし、
春日なんかは実際のトコ学年で一番美人だったんじゃないだろうか。
麗佳と春日が一緒にいる姿って、何かガンガンにオーラが出てて、ちょっと男が近寄りがたかった。
おまけには結構二人とも気が強かったし。
そういえば、あの1年の「太郎」ってヤツは相当うちの学年の男子から反感買ってたっけ。
ちょっと前の事なのに、なんだか懐かしい気がする。
「ちょっと、話聞いてた?輝良?」
雄吾がオレに言った。
「あーああ、全然」
そのまま答えると、麗佳がオレを軽く睨む。
「何か、麗佳のトモダチって可愛い子が多いよなーって思ってたトコ」
オレは正直にそのまま言った。
有希ちゃんは照れてる。
何となく場が和んだ感じがする。
「有希ちゃんって、高校の時ベースやってたんだって」
雄吾が興奮気味に話す。
「へーそうなの?雄吾はドラムやってたじゃん」
二人で愛のリズムを…何て言うなよ、と思いながらオレは話を振った。
「そうそう、でも珍しいよなぁ、女子でベースなんてさ」
「何か女の子バンドとかってやってて…。
ギターより簡単かと思ったら、指の皮剥けるし、難しいし…」
そう言って有希ちゃんは笑った。
麗佳は「へー」って顔して見てる。
「女の子が低いポジションでベース弾くのって、ヤらしいよな」
オレは言った。
雄吾もそうそうって頷く。
「えー、そうなの?」
有希ちゃんは意外そうだった。
「そうだよ。何かなぁ…」
雄吾とオレは目で頷きあう。
ホントはそういう姿、女の子がオナニーしてるみたいに見えるんだけど、
それはオレらは言わないでおいた。
「絶対、変なこと考えてるでしょー?テル」
麗佳がオレに突っ込んでくる。
こういうトコ、変に鋭いのがこいつの悪いトコだ。
雄吾と有希ちゃんは、初対面なのにすっごい意気投合してた。
こういうのが運命の出会いなのかって、側で見てるオレですら思ってしまうぐらい、二人は打ち解け合ってた。マジかよ…。
4人の会合は早々にお開きになって、雄吾は有希ちゃんと飲みに行くからってすぐにオレらと別れた。
(雄吾……今日手を出す、とかそんな事はやめてくれよ…)
オレは麗佳の友達なんだからって思って、内心気が気じゃなかった。
「なんか、気が合ったみたいだねぇ」
麗佳が呑気に言う。
「すげえな。初対面なのに。あーいう出会いもあるんだな」
オレは本気で感心した。
「ホントだねぇ……。でもお似合いかも…上手くいくといいなぁ…」
麗佳も本気で言ってるみたいだった。
時計を見ると、なんとまだ8時だった。
麗佳がちらっとオレを見上げる。
「ねえ、テル……」
「何?」
「早いし、どっか飲みに行く?」
「あぁ、そうだな」
オレは麗佳の方からそう言われた事が素直に嬉しかった。
飲みに行くっていうと、いつもは麗佳に連れられてばっかりだったけど、
今日は珍しくオレの知ってる店に行く事にした。
そこは和食メニューが中心で、客層は女と男が半々って感じだった。
カウンターの向こうには、ずらっと酒瓶が並んでる。
「ここさー、日本酒がマジうまなんだぜ」
「そうなの?あたし、日本酒なんて飲んだ事ほとんどないよ」
「じゃあ、ちょっとだけ試してみる?」
オレらはメニューを開いた。
「えー、すっごい種類多いじゃん!」
麗佳はホントに驚いたみたいだった。
「こういうのって、メニュー見てるだけでも楽しくねぇ?」
「うん、うん、…分かるー」
ちょっとした解説が付いたメニューを麗佳は真剣に見てた。
二人で違う種類の辛口を頼んで、適当につまめる…という割には結構な量の注文をした。
ガラスの小さなグラスから枡へと店員が酒を零していく。
「このこっちに入った分も、飲むんだぜ」
オレは麗佳に言った。
「へーこうやって出てくるんだね。知らなかった〜」
麗佳とオレはとりあえず一息ついて、小さく乾杯した。
「どー?」
オレは聞いてみる。
「うん。…美味しい!思ってたよりもずーっと飲みやすいよ」
「多分さぁ、辛口なほど飲みやすいと思うぜ」
麗佳はまた日本酒に口をつける。
「ねえ、テル……。この前は、ホントにごめんね…」
「あ、……あぁ」
オレらは何となくあの日の話題を避けてた。
「…でも、ホントに助かったよ…。ありがと」
「あー。まあいいよ。…また何かあったら言ってくれてもいいし」
オレも日本酒に手をつけた。
「だけど、…やっぱ…反省した…」
麗佳は神妙にしてる。
「もういいよ。そんな…しょうがないだろ、あんときのことは」
何がしょうがないのか、…確かに麗佳は遅くにオレに電話してきた。
それはしょうがないにしても、…帰りの車の中、結局麗佳が泣いてからは家に着くまでずっとオレ達は手を繋いでいた。
正直、オレは麗佳を友達なんて思えない。
「田崎が、近くにいたら良かったのにな」
自分でも自虐的な振りしたなって思う。
だけどそういう話題でも出さないと、何だかオレは勘違いしてしまいそうだった。
「………そうだよね…」
麗佳は酒をまた飲む。さっきから見てると結構グイグイ飲んでる。
「…先生が近くにいたらさ、…テルにも迷惑かけなかったかもしれないもんね」
麗佳はオレを見て言わない。
「別に、迷惑とは思ってないって」
それは正直な気持ちだ。
「……迷惑だよ……」
ため息をつきながら麗佳が言う。
「お前が決めんなよ」
「なんでよ……」
「なんでって、何だよ」
意味分かんねえ。
麗佳がオレを見る。なんかちょっと怒ってるみたいだ。
何でこの会話の展開でオレが怒られるんだ?
「テルのバカ……」
「……何でオレがバカ?」
ホントにワケ分かんねえ。
「先生のこと、言うから…」
「…ああ…」
あーそういう事?っても今ひとつ分からない。
「ねえ、お酒美味しいね」
「あー」
麗佳を見ると、もう飲み終わってる。オレだって半分も飲んでないのに。
「もう一杯飲んでもいい?」
「いいけどさ、日本酒って、…結構後でくるぜ?大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ」
麗佳はにっこり笑った。まあ、まだ大丈夫そうだ。
「すいません」
オレは店員を呼び止めた。
1時間も経つと、麗佳も大分酔ってきたみたいだった。
この前の店でも結構飲んでたし。
「先生はさ…」
「うん」
なんか愚痴っぽくなってきた麗佳の話を聞く。
のろけられたら嫌だなって思いながら。
「会ってるとき、すっごく優しいんだよね…」
「はあ」
適当に相槌は打ってたけど、オレは何て言ったらいいか分からない。
「なんかさー、好かれてるって感じ、すっごいするの…」
「…うん」
こういう時、タバコでも吸えたら間を繋げるのになって思う。
オレは仕方がないから、少しずつ酒を飲んだ。
「でもさー」
「……」
オレは麗佳を見た。横顔も、すごくキレイだよなって思う。
「会ってない時、あんまり思われてる感じがしないの…」
「………」
オレは麗佳の話を聞くしかなかった。
「……あたしと先生、…会ってない時間の方が多いのに…」
麗佳の口から田崎の話が出るのは、正直オレは辛い。
麗佳が、あいつの事をすごい好きだって感じるからだ。
オレと付き合ってるときには感じられなかったあいつの感情が見える。
オレは心のどこかで、あいつと上手くいかなければいいのにと思う自分が抑えられない。
だけど麗佳の前では、そんな素振りを見せられるわけなんてなかった。
何だか微妙な立場に追い込まれてるよな、オレ。
飲んでるから送れないし、10時には店を出るつもりだった。
「テルーー」
会計を済ませて店を出ると、麗佳が結構しんどそうにしてた。
何だかんだ言って、麗佳は3杯も日本酒を飲んでいた。
「なんかー立ったらフラフラするよー」
麗佳はホントにフラフラしてた。
「大丈夫かよ?」
「んーわかんない」
麗佳はほとんどオレに寄りかかって、そのままエレベーターで下まで降りた。
「帰れないだろ?こんなんじゃ」
「んんー。…どうしよう?」
っていうか、こんなんじゃ帰せない。
麗佳が一人で帰るって言ってもオレは引きとめたかも知れない。
まだ10時だったし、麗佳の家まで電車で送っても何とかうちまでは帰れそうだった。まあいざとなれば、実家へ帰ればいいし…。
「しょうがねぇなぁ。もー」
オレ達は駅に向かった。
「だめー…。テルー…」
麗佳がかなりぐったりしてくる。
「大丈夫か?」
「ごめん、…だめだー…こんなんじゃ、電車乗れない…」
(どうすんだよ…)
麗佳を見ると、すごく顔色が悪くなってた。
「しょうがねえなぁ…」
ホントにしょうがない、っていうのはこういう事だなって思った。
オレは麗佳の肩を抱いた。
「オレんとこ、来い」
麗佳は下を向いたまま頷いた。
恥ずかしいからとかじゃなくって、本気で具合が悪そうだった。