ビター(夢色続編)

麗佳編 ★★ 18 ★★

   

「麗佳……麗佳」
あたしの名前を呼ぶ声。
ちょっと前に見た夢を思い出す。
夢の中では、テルと手を繋いでいた。 
「うん…」

目を開けると、本当にテルがいた。

「あ、…テル…」
あたしは驚いて体を起こしたら、その動きと一緒に猛烈な頭痛に襲われた。
「あーーーー、あっ、頭、いたーーーっ」
(うわーガンガンするよ…)
「昨日の事、覚えてる?」
(何となく…)
テルに覚えてることを言ったら、それで合ってたみたいだ。
良かった。おかしな事したり、暴れたりしてなくて。
「……。ごめんね…テル」
何だかこの前からテルには謝ってばっかり。

あたしが頭痛で動けないうちに、テルは学校に行ってしまった。
「はー…何やってんの、あたし…」
それにしても体が重かった。
テルの言葉に甘えて、また眠ることにした。


目が覚めたら、3時過ぎてた。
だいぶ頭がすっきりしてる。とりあえず、頭痛は治ったみたい。
「はぁ…」
テルのベッドから出る。
(まだ帰ってこないよねぇ…)
テルが何時に帰って来るか聞くの忘れてた。
とりあえず起きる。
(顔、洗わせてもらおう)
ワンルームの洗面所はトイレとシャワーが一緒だった。
そういえば、昨日あたしトイレで吐いてた。
「あー」
昨日の自分の行動を思い出すと、ホントいやになってくる。
お店で飲んでたあたりから、自分の発言がよく分からなくなってた。
(ヘンなこと言ってないかなぁ…)
洗面台に手を伸ばす。

目の前には、どう見ても女物の洗顔料。
メイク落としも置いてある。
(テルの彼女のだ……)
横には歯ブラシが2本あったし、どう見てもテルのものじゃない化粧品類も目についた。
「………」
そんなものを見ていると、何だかたまらなくなってくる。
(何なの…この気持ち…)
考えたくなかった。見たくなかった。
なのに目の前の現実からは目が反らせない。
猛烈に落ち込んでくる。

「はあ…」
イヤだったけど、こっそりあたしは洗顔料とか借りた。
ファンデーションとかは持ち歩いてるから、ざっと化粧はできた。
体の重さと共に、色んな意味でものすごくブルーになってくる。

部屋に戻ると、携帯が光ってる。
テルからメールが来てた。もうすぐ帰ってくるみたい。
(帰っちゃおうかな…)
でもすごくダルかった。
こんな気持ちなのに、それでも送ってもらおうなんて甘えもあった。
(ダメだなぁ、あたし)
テルのベッドを直して、その縁に腰掛ける。

(このベッドで……)

何だかさっきからそんなことばっかり考えてしまっていた。
テルの彼女がこの部屋でテルと2人きりで、ごはん食べたり眠ったり、エッチしたりシャワー浴びたりしてること。
恋人同士なら当たり前すぎる行動。
その全てが、あたしを落ち込ませる。
散らかった部屋。
脱ぎっ放しの服もあったけど、妙にちゃんと収納してる場所もあった。
全てがテルのもの。そして一部が彼女のもので。
あたしは息が詰まりそうになる。

静かにドアが開いた。
テルが帰ってきた。
あたしはこの空間に2人でいることに緊張する。
「おかえりぃー…。改めて昨日はすみませんでした…」
「もう気分は大丈夫?」
テルが玄関で立ったままあたしに言う。
あたしたちは部屋を出た。

テルの家の近くのゴハンやさんに行った。
あっさりしてそうなメニューばかりで、今のあたしには丁度良かった。
「ああ、美味しそう…」
あたしは結構空腹だった。なんせ吐いてたし。
「食べれそう?」
テルが聞いてくる。あたしは頷いた。
正面に座って、箸を持つテル。
お醤油を取るのに、あたしの方へ手を伸ばす。

(この手だ……)

大きい手、細くて骨ばった指。
付き合ってたとき、この手が好きだったんだ。
実感を伴って急に思い出してしまう。

「まだ、気分悪い?」
唐突に声をかけられて、あたしはちょっとビクっとする。
「……」
テルに言う言葉が見つからなかった。
「…大丈夫。………」
あたしは何とかそれだけ言った。
気分が悪いわけじゃなかった。
だけどあたしは自分の中から、こみ上げる一つの感情に戸惑ってしまう。
「何?」
テルがあたしの変な空気を察知して、言った。
「…ううん、何でもないよ……」
何でもないなんて、ウソだった。

 

ラブで抱きしめよう
著作権は柚子熊にあります。全ての無断転載を固く禁じます。
Copyrightc 2005-2017YUZUKUMA all rights reserved.
アクセスカウンター