ビター(夢色続編)

麗佳編 ★★ 19 ★★

   

先生からメールが来た。
いつもは嬉しくて仕方がないのに、あたしの心は複雑だった。

あたしはすぐに電話を返した。
メールじゃなくって、どうしても彼の声が聞きたかったから。
あたしの『彼』の。
『今週末、会えそうだけど麗佳は大丈夫?』
「うん、うん!平気!やったぁ!ホントに!」
あたしにしては珍しく、素直に喜んでしまった。
『良かった…。土曜の夜から行けると思う』
「ホントに?嬉しい!よかったーー」
彰士の気配が和んでるのを感じた。
そしてあたしも落ち着いてくる。

「彰士……」
『うん?』
「…好きだよ」

あたしは口に出して言った。
普段、あんまり素直に言えない言葉を。

『オレもだよ』

そう言う彰士の顔が浮かんだ。
大好きな、先生のあの表情が。


なのに、どうして胸が痛むんだろう。
先生のことが好きなのに、テルのことが気になってるってことに罪悪感を感じてた。
そしておかしいんだけど、テルのことが好きになってるのに彰士のことが好きな自分にも
同じ様に悪い事をしているような気がしていた。

(2人のことが好きだなんて……)

自分がどうしようもなく悪い人間になってしまったような気がする。
だけどこの想いは抑えられなかった。
彰士に対しても…テルのことも…。

毎週のようにテルに会う約束を、あたしは止められない。
『友だち』なんだから普通に会う分には何でもないことだって、思おうとしていた。
あたしの気持ちはテルだって分かってないし、あたしの周りにいる人間誰にもバレてなかった。
このまま、自分の中でテルへの気持ちを風化させてしまえば、…それで済むとも思っていた。
そんなことできるかどうかは分からなかったけど。


「麗佳!ホントにありがとう!」
有希がすっごく明るい笑顔で言った。
(眩しい……)
相変わらず色んな意味で明るくなりきれない自分にとって、その笑顔はホントに眩しかった。
あの後、有希からメールを貰ってて…驚いたけど、それが自然な流れかなとも思った。
そのぐらい、2人はお似合いだったから。
「良かったねー。ホントに。こういう縁もあるんだね」
あたしはホントに感心した。
有希を見てると、『恋する女の子』っていうのはこういう感じなんだよなぁって思う。
涼子とかもモロこんな感じだし、何気に愛莉だって幸せそうにしてる。
(あたしは、何なんだろうなぁ……)
恋愛に関して、自分が経験不足な気はしていた。
最近ホントにそれを痛感する。


彰士と土曜日から会えるのは久しぶりだった。
最近は多くても月に2日ぐらいしか会えない。
そしてあたしもそのペースに慣れてきてた。
「車で来たよ」
駅で待ち合わせてたから、あたしはそれに気がつかなかった。
「ホント?久しぶりだね」
「夜なら、そんなに渋滞しないからな」
彰士はあたしの少し前を歩く。
これも習慣なのかも知れないけど、あたしと彼は時々しか手を繋がなかった。
「ちょっとドライブでも行く?夜のこの辺りも久しぶりだし」
先生は笑った。
あたしは彰士の目が好きだ。男の人って女の人にはない独特の彫りの深さがあるなって思う。
そんな目だった。
「ホテルに停めたから、そこまで行こう」

あたしと先生は何度か泊まったことのあるホテルに着いた。
「あ!懐かしい!彰士の車!」
夜にはもっと深いブルーに見えるその車。
よく手入れされてて、駐車場の光を艶やかに反射していた。

「麗佳、運転する?」

「えっ」

あたしは無意識に左側に来ていた。
「ううんっ、あたし免許ないし!
間違えちゃった…。ホラ、最近よく友だちの車に乗るしさ」
一瞬背中が冷たくなるぐらい焦った。
慌てて右側に回って、助手席のドアを開けた。
「麗佳は免許とらないの?」
「あっ…取ろうかなぁ。あった方が何かと便利そうだもんねぇ」
先生が振ってくれた話しにあたしは乗った。
「楽しいよ、運転は…」
先生が車を出す。
彰士のBMWは音がすごく静かだった。
滑り出すっていう表現がピッタリきた。彼の運転する仕草も。
「免許取ったら、運転させてあげるよ」
彰士が言った。
「えぇっ?え、…だってこんな高級車!それに左ハンドルだし」
あたしは首を振った。
免許ないけど、自分で運転に自信が持てるなんて想像できなかった。

先生は笑ってた。
あたしはそんな彰士を左側に見る。
毎週、テルの助手席に乗ってあいつを右側に見てた。
(………)
ふとしたことで思い出してしまう。
自分の気持ちがこんなにも走り出してることを知る。
(ダメだよ…考えたら…)
あたしは先生が好きだ。
実際、今隣にいられることがすごく嬉しい。
「彰士……」
あたしは思わず口に出してしまった。
「何…?」
運転しながら、少しこちらを見る彼。
「うん……もっと…」
「……」
「一緒にいられたらいいのになって思って…」

不思議だった。
あんなに不器用な態度しかとれなかった自分が、テルのせいで急に先生に対して素直になれてる。
あたしは、彰士が自分の彼氏だって確認したかった。
色んなところで…。
「麗佳」
「うん?」
道路は空いていて、海沿いの道をあっという間に一回りする。
「なんか、今日、いつもより色っぽい」
「………」
自分ではそんな風に思ってなかったから、あたしはビックリした。
「…そう、かなぁ…?」


部屋に着いて、キスをする。
「はぁ……」
唇が離れて、あたしは言った。
「いつもよりも…色っぽい?」
「うん」
彰士があたしの腰に腕を廻す。
先生の方がよっぽど色っぽいって、あたしは思う。
「昔よりも、ちょっとは大人になったってこと?」
「………」
彰士があたしの髪を撫でた。
そしてあたしを見て黙って笑う。
(もう……)
こんな彼の表情が、憎らしいぐらいにあたしをドキドキさせる。


ベッドで抱き合う。
あたしは裸で、彰士に体を触られてる。
先生があたしに触れる指が、好き。
(ああ、…いやっ…)
彰士はあたしの体のあちこちを触ったり舐めたりしながらも、
右手の指をしっかりあたしの中に差し入れてる。
どうやって動かしてるのかは分からなかったけど、確かに彼の指はあたしの中をぐちゃぐちゃと混ぜる。
「あっ、…うぅんっ…」
いつも思うけど、先生にはあたしのポイントがしっかり把握されていて、あたしは確実にすぐに感じさせられてしまう。

「はぁぁんっ…」

片手を先生に持ち上げられて、乳房から脇の方まで舐められる。
そしてあたしの中の刺激は一向に緩む気配がない。
(あん、…気持ちよすぎちゃう…)
体を仰け反らせても、あたしは彰士の指を飲み込んだままだった。
「あっ、あっ……、あぁぁんっ…」
(ダメ……ダメっ…)
脇の下のあたりを軽く彰士に噛まれる。
それがくすぐったいのと、中が気持ちいいのとであたしは益々体を反らしてしまう。

あたしが軽く達してしまった後、彰士がゆっくりと入ってきた。
「あぁん……彰士…」
彼のものはやっぱり指よりもずっと存在感があって、あたしのそこはこれを待ち望んでいたんだなって思ってしまう。
彰士が止まったまま、あたしを抱きしめた。
「はぁ……」
思わずため息が出る。

テルも、彼女とこんな風に抱き合っているんだろうか。

先生に抱かれながら、あたしはテルを思い出してしまった。
こんな風に……彼女を触って…こんな風に、彼女の中に…。
あたしとエッチしてた頃はお互いに子どもすぎて、うわっという間に行為は終わってたってことは覚えてる。
テルも成長して、…こんな風に彼女を愛しているんだろうか。

(いや…)
あたしは自分の想像に首を振りたかった。
彰士に抱かれてるのに、何だか辛い気持ちになってくる。

彼女と濃厚なキスをして……。
たくさん触って……。

いつもあたしに優しくしてくれるテル。
でもその優しさは『友達』だからであって、別にあたしはテルの恋人でも何でもない。
テルの息を感じるようなこともないし、テルに触れることもない。
週末の今頃……もしかしたらテルも同じ様に彼女を抱いているのかも知れない。

(考えたくない………)

あたしは彰士の肩を掴んだ。
「もっと……、して…」
「…え…」
先生は少し驚いたような顔であたしを見た。
あたしはいつも彼にされるばかりで、自分からねだったりってほどんどなかった。
「………」
彰士はキスしてくれた。

「麗佳が動いてみて…」
あたしも薄目を開けて先生を見た。
「この姿勢じゃ、無理だよ…」
あたしは彼に抱かれる形で、彼の体の下にいた。
「できるよ」
彰士があたしの耳元で囁く。
「オレの体を、足で抱いて」

「…………」

先生はあたしに恥ずかしいことをさせるのが凄く上手だったってことを、
今更思い出す。
あたしは彰士の下で、彼に言われるまま彰士の腰に自分の足を絡めた。
そのまま自分から腰を動かす。
「そうそう…」
彰士の声がすごくいやらしくて、あたしは恥ずかしいのに興奮して自分から腰を振っていく。
この角度で入ってくる彼のものは、あたしをすごく感じさせた。
「麗佳……気持ちいいよ…」
彰士にそう言われると、あたしは自分の動きを止められなかった。
「あぁっ、あ、…あぁんっ…」

自分がすごくいやらしくなってしまったように思える。
そして、そんな行為に益々感じるあたしがいる。

(あたし、…いやらしい…)

「……麗佳っ」
唐突に両足を抑えられて、あたしの中から彰士のものが抜かれた。
「うあんっ…」
抜かれたとき、自分から熱いものがたくさん出てきた。
彰士が中で出したのかと勘違いするほど、あたしは自分自身を溢れさせていた。

「麗佳、すごいよ」
「いやっ……」

彰士の両手で腰を持ち上げれられると、すぐに彼のものがあたしに打ちつけられる。
「んあぁぁぁんっ!」
あたしはまたいやらしい声をあげさせられてしまう。

「あ、あ、あ、…あっ、あぁぁっ…」

腰を持ち上げられたまま、彰士が激しくあたしに出入りする。
しっかりと支えられて、あたしの一番奥まで強い刺激が送り込まれてしまう。
体の中の…、前と奥の方…、そこから生じる激しい快感のせいで、あたしはまた何がなんだか分からなくなってくる。

(いい……もう、…このまま…)

いつもは怖いぐらいの快感なのに、今日は自分から求めていた。
もしかしたらあたしから動いていたかもしれない。
「彰士っ…も、…もっと、…もっと、あぁっ…」

彰士が動く。

「あっ…あぁっ…、あぁーんっ!」

快感が全身を襲っていく。
腰がガクガク震えてしまう。
自分の中が締まっていくのが分かる。
手が突っ張って、背中が反ってしまう。


何も考えられなくなりたいのに………

どうして心が、こんなに切なくなってしまうんだろう。
それは体の中のあちこちに伝わって、全身が快感とともに蒼く震える。

彰士に愛されたい。
今、…愛されてる。
この愛撫が、キスが、全ての行為が…
鏡のようにあたしの中でテルを連想させる。


(先生……好き……)


彰士のことが好き。
こんなにも、彼が欲しい。
なのに、…もう一つの想いがあたしの中に大きな波を作る。


二つの切なさの螺旋に流されて……

あたしは自分から激しく彰士を求めた。

 

ラブで抱きしめよう
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