ビター(夢色続編)

麗佳編 ★★ 3 ★★

   

待ち焦がれてたゴールデンウィークに入る。
本当はサークルのどうでもいい合宿が3泊で、あった。
それをあたしは親への口実にして、まるまる先生と会うことにした。
こんなに長く一緒にいられるのって初めてだった。
あたしはもう本当にホントに待ち焦がれた。

結局4月はこの前のデートの1回しか会えなくてあたしはガマンって感じだったけど、
このロングステイデートがすぐに決まったから、それを考えて嬉しくて仕方がなかった。
遠距離のせいかも知れないけど、相変わらず先生と会える時間はあたしにとってすっごく貴重な時間なんだ。

ここぐらいしか顔が利かないからって彰士は言って、この前と同じホテルだった。
部屋は違ってたけど、相変わらずすごくキレイで、お部屋の備品も普通のホテルとはちょっと格が違ってた。
置いてある食器とか、いちいちすごく良さそうだった。
勿論、浴衣じゃなくてバスローブの高級そうなのがキレイに畳まれてクローゼットに入ってる。
ベッドもちゃんとダブルだ。…先生やっぱエロい。
でも、これから4日間も先生と一緒にいられる。

「ねぇ、ゆっくりできるね…。初めてじゃない?こんなのって」
「何かずっとバタバタだったからなぁ」
先生は荷物を置いてる。
今回は車でここまで来たみたい。その方がゆっくりできるからって。
あたしも彼の荷物の横に自分の荷物を置く。
「合宿」って言って家を出てるから、あたしも結構荷物が大きかった。
「ねーどうしようか?とりあえず、彰士、運転疲れたでしょ?」
もう夕暮れの太陽が海の方に見えた。
右には大きな観覧車が見える。
あー、アレに乗ったらロマンチックかも…って思ってちょっとニヤけてしまった。
「うん。ちょっと休憩。麗佳、何か飲み物頼む?」
最初に先生とホテルに泊まったときもビックリしたけど、彰士は平気でルームサービスを頼む。『大人だ!』ってそのときは思ったけど、何となくそれって普通の感覚じゃないなって後で気が付いた。
要するに彰士はお坊ちゃんなんだ。
せっかくだから、あたしもそれに便乗しちゃおうと今は思ってる。

大学の友達に彼氏が歯医者だって言ったら、みんな「オイシイ!」って口を揃えて言ってた。
(サークルの面々には内緒にしてもらってるけど)
そうだよね…。確かにオイシイかも…。
だけど実際あたしはそんな風に考える余裕なんて全然なかった。
彰士とこうしてリッチに過ごす時間もすごく嬉しかったけど、そんなんじゃなくていいから、
いつも側にいて貰いたいなっていうのが本音だ。
そしてそれはあたしの夢だ。

「んっ……」
彰士にキスされる。
優しく唇を舐められる。
されちゃってもいいけど…やだなって、あたしは頭の片隅で考える。
だって、そうされちゃうといつもあっという間に訳がわからなくなるから。
せっかくの時間を、今はゆっくり彼の顔を見たりして過ごしたかった。
目を開ける。
「彰士…」
近くで見る彼はやっぱり周りにいる男子よりもずっと大人で、
だけどオジサンって感じじゃなくって……なんか大人のいいトコどりって感じだった。
特に目と口元がすごくセクシー。
この目つきは10代では絶対ムリ。
やっぱりじっと見てると、だんだんと欲情してきちゃう。
もうそういう風に先生に教育されてしまったのかも。
「会いたかった…」
あたしはガマンできなくて言ってしまう。
「オレも」
彰士もあたしに腕を廻してくれる。
ぎゅって、ただ抱き合う。
ああ、こういうのがいいな。いつもガーっとセックスって感じだから。

思えば高校時代の先生とあたしの関係って、ホント体だけだったと思う。
認めたくなかったけど…セックスフレンドって言ってもいい。
今、自他共に『恋人』と認め合って、…それでもまだ2ヶ月も経ってないけど、結局してることってあんまり前と変わってない。
何となくだけど、『デートらしいデート』ってしてみたかった。
時々しか会えないから余計に求めてしまう。
それって分かるんだけど。
そでがイヤな訳じゃないんだけど。

「ねぇ、外にお散歩とか行こうよ」
「いいよ」
彰士はあっさり頷いた。
『ダメ』とか言われて押し倒されるかなとか想像してたから、ちょっと拍子抜け。
あたしの中の先生のイメージって、…そんななのね。

「今日、天気いいよね」
海の風を感じながら二人で歩く。
あたし、先生の腕に自分の腕を絡ませる。
彰士はあんまり、というか全然手を繋ぎたがらない。
そういうの好きじゃないって、かなり前に聞いた。
それを覚えていて、あたしは遠慮がちに彰士の腕を取る。
だけどそうしたとき、彼は優しく笑ってあたしを見てくれる。
(あー…夢のよう)
二人でこんな風にくっついて、堂々と歩いてる。
ずーっとこうしたかったんだよね。
でもできなかったから、ずっとあたしは悶々としてた。
(だけど今、できてるじゃん!)
すごく嬉しくなってくる。
彰士を見る。
あたしが見上げると彼も視線に気付いて、あたしを見てくれる。
隣に彼がいて、ただ歩いてるだけなのに。
これが嬉しくてずっとこうしたくて、そして今、すごく幸せだなって思う。

「彰士がここにいれば良かったのに」
今更どうにもならない事を言ってしまう。
「…ごめんな」
ちょっと寂しげに彰士が言う。
あたしはすぐに自分の発言を後悔する。
「あっ、…そういうんじゃなくって…」
「分かってるよ」
すぐに先生は優しい顔になる。
学校にいた時、彰士は無表情で淡々とした人だった。
多分、学校にいたみんなはこんな彼の姿を知らない。
あたしはすごく得した気分だったし、全然違うけどみんなの物を一人占めしたみたいな、ヘンな優越感もあった。

「オレも麗佳を連れて帰りたいよ」
「…………」
唐突に言われて、あたしは返す言葉もない。
だけど胸の奥から、ギューンって何かが溢れて一杯になっていく。
ドキドキしちゃう。
嬉しすぎて、全然思考が付いていかない。
「彰士…」


散歩もそこそこに、あたしたちは部屋に戻った。
重なり合う。
求め合う。
結局そこに辿り着いてしまう。
だけどそれが自然なら、それでもいいのかもしれないって思った。


一つになれてるとき、あたしは何も考えられなくなる。
時々、彼への想いでさえ何処かへ飛ばされてしまいそうになるぐらい。
抱かれているとき、抱き合っている時間、あたしはただ彼に揺られて本当に「無」になれる。
自分の中で、一番純粋で綺麗な時じゃないかって思う。
会いたいとか、会えないとか、……もしかしたら片想いのままなんじゃないかとか、
どうでもいいたくさんの不安がその時は押し流される。


彰士が好きで、ただ、こうしていたいだけ―――――

結局、彼もあたしと同じ気持ちなのかもしれない。

 

ラブで抱きしめよう
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