ビター(夢色続編)

麗佳編 ★★ 6 ★★

   

「ねぇ、麗佳ー。誰か紹介してよー」
サークルの待ち合わせに向かいながら、有希があたしに言った。
「誰か…ねぇ。大体あたしって男友達なんてほとんどいないんだよね」
ほとんどっていうか、全然いないと言ってもいい。
あたしは苦笑いしてしまう。
有希はあたしを見つめた。
「だってさぁー、もう7月だよ?
10代最後の夏をさぁ、一人で過ごすっていうの、寂しいよー?」
「時間があればあたしが付き合うって」
あたし自身も先生と会えない週末って結構あったから、最近は休みの日でもよく有希と出かけたりしていた。
二人で歩いてるとしょっちゅうナンパされたりしたけど、そういう出会いは有希はイヤだって言ってた。
その気持ちは分かる。
「……。ヒマな時遊んでネ」
有希は渋々言った。

最近はサークル活動に愛莉はあまり参加してこない。
「とりあえず大学生らしい事がしたかった」
って、最初は一緒に来てたけど、
「やっぱガラじゃないかも」
って言ってだんだんとサークル行事には来なくなってた。
今日もあたしは有希と二人だ。

そもそもこのサークルは学校で何かやる時の応援とかがメインの活動で、
実態はそれをダシにしてただ集会して騒ぐ、みたいな感じだった。
今日はKS戦が神宮であった。
普通はSK戦だけど、うちはK大だからKS戦って言う。
スタジアムで、野球を見る。
何か、あたしがこうしてるのがすごく変な感じ。
だって全然興味ないのに。
だけどサークルの人は全体的に優しくって、色々と学校生活に必要な情報がゲットできるからあたしはズルズル参加してた。
で、その後は当然のように飲み会になる。


「それじゃー、勝利を祝して、乾杯!」
今日はうちの大学が勝利したから、特に祝勝ムードで一杯だった。
まぁ、負けても盛り上るんだけど。
ガーって騒ぐのって、あたしはあんまり得意じゃないと思ってたけど、
実際この場にいてしまうとそんなに違和感なくいられた。
すごく不思議。
自分がもう高校生じゃなくなったんだなって気がする。
この数ヶ月間で、随分自分が丸くなったなって思った。


だ、け、ど……
どうしても苦手なのは、好きでもない男に言い寄られるって事だ。
これだけはいつまでたっても、イヤで仕方がない。
普通にしてくれればいいのに、断ってもしつこかったりされると、もうダメ。
何故か分からないけど、根拠のない自信のある人って世の中には結構いる。
あたしにその自信を分けて欲しいぐらいだよ…。
最近ずっと有希と一緒にいたから油断してた。
帰り、どう考えても別々になったはずなのに、ナゼか電車で鹿島と一緒になる。
もしかして、待ってた…?とか思うと、ゲーって気分になってくる。

鹿島に告白された訳じゃない。
だけど、彼氏の事とか、どんな人なのとか、どんなデートしてんのとか、
休みはどうしてるのとか、メールアドレスとか(絶対言わないけど)
…何だかあたしのプライベートな部分ばっかり聞いてくる。
聞いてくるだけならいいんだけど、何だかその言い方とかがシツコイ。
「2次会行ったんじゃなかったっけ?」
あたしは露骨にイヤな顔して言った。
「梶野さんが帰ったから、行かなかった」
おえー…。って心の中であたしは思う。
この話題を掘り下げたくなかった。
かと言って反らす話題も浮かばない。
あたしはただ黙ってた。

「……ちょっと酔った?」
「えぇ?」
何を言い出すのと思った。
あたしは即座に答えた。
「別に酔ってないよ」
何で?とも聞き返したくなかったのに、鹿島は勝手に説明する。
「梶野さん、ちょっと顔が赤い感じ」
「……普通だよ」
もー顔も見ないでって思う。
早く降りてくれないかなぁ。

ヤツの駅に着く。あたしはすごいホッとする。
「んじゃね、鹿島くん」
ってあたしが言ってるのに、鹿島は降りない。
「なんで降りないの?」
突っ込んでるうちに、ドアが閉まってしまう。
「送るよ。遅いしさ」

その一方的な感じに、あたしは何だか腹が立ってくる。
「あのねぇ、悪いけど…いいよ。一人で帰れるし。あたし駅からチャリだし」
別にチャリじゃなかったけど。
「あたしに気を使わなくっていいから。悪いし。帰って」
あたし、モロに顔に出てたと思う。
だって前の席に座ってる男の子がチラチラこっちを見てちょっと笑ってたもん。
「気なんて使ってないよ。オレが送りたいだけだから」
……。
何を勘違いしてんのこの男は。
しつこい男が苦手な理由が分かった気がした。
あたしが嫌いなタイプって、彼氏じゃないのに彼氏顔する男だ。
そうそう、まさに鹿島がそのタイプなんだ。
多分好きだったらこんなにイヤじゃないと思うよ。
だけど、悪いけど全然好きじゃないし。

ホントにムカついてくる。
あたしの駅に着いた。
当然のように鹿島も一緒に降りてくる。
ホームから階段を上がって、改札を抜ける前にあたしは鹿島に振り返る。
「ホント、ここでいいから。気をつけて帰って。んじゃっ」
あたしは早口でそう言って、唖然としているヤツに背を向けて大急ぎで改札を抜けた。
鹿島は精算しないといけないから、すぐに出てこれないはず。


「はぁはぁはぁ……」

あたし、なんで夜に家までダッシュしてんの?

自宅のドアを開ける。
リビングにいた両親が驚いてあたしを見た。
「どうしたの?…麗佳。ヘンな人でもいたの?」
母親が言う。
「ううん…。違うけど……。早く帰りたくて……つ、疲れた…」
無駄に気力と体力を消耗して、一気に疲れが来る。
ヤバい…明日は足がガクガクになるかも知れない。
汗びっしょりになってた。
冷蔵庫からペットボトルを出して、自分の部屋に持っていく。

「あー……マジで体力ないかも…」
運動不足の体を痛感しながら、ベッドの上でヘバる。
とりあえず服を脱いで冷房をつけて、キャミと短パンになる。
携帯がメールを着信してる音がする。
先生かもって思って、あたしは手を伸ばす。

登録してないアドレスからメールが来てた。
「誰?」
メッセージを見てみると、鹿島らしかった。
「ゲッ」
あたしは全部読まないで、即行で削除した。
(何であたしのメアド知ってるのよ……)
すっごくイヤな気分になってくる。
鹿島一人のせいで、サークル行事に参加したくなくなってきた。
だけどそれも何だか悔しい。
「なんだかなぁ……」

あたしは彰士との連絡でさえ、毎日取り合ってるって訳じゃなかった。
どちらかというと、あたしがメールする方が多い。
そりゃぁ先生からもくれる事はあるけど。
だけど彰士からは電話の方が多いかな。それでもたまにって感じだけど。
先生と知り合ったばかりの頃、
「どうして彼女作らないの?」って聞いたことがあった。
その時先生は、「色々とめんどくさいから」って言ってた。
もうはっきりとは覚えてないけど、マメに連絡を取り合ったりとかそういうのも苦手だみたいな事を言ってた気がする。
そんな事を聞いてたから、あたしはどうしても彰士に遠慮してしまう。

(今日は、いいや……)
彰士に今日の出来事を話すのも鹿島を思い出してうんざりしそうだったし、そういう自分も見せたくなかった。


「ははははっ」
愛莉にめっちゃ笑われた。
「もー笑い事じゃないんだってば」
ここは新館の大きな教室で、冷房が効いてて他の部屋よりも気分がよかった。
教壇には大きなディスプレイまで付いてる。
「いつの間に麗佳の後、つけてたんだろうねぇ…。確かにキモいよ」
有希がマジで嫌そうな顔で言った。そしてこう付け加える。
「彼氏欲しいけど、鹿島はヤダな」
「誰がメアド教えたんだろう?」
あたしは自分の携帯を手にとって表面を触ってた。
「あっ…」
ちょうどのタイミングで携帯が震える。
「マジぃ…」
二人の視線があたしに向かう。
メールアドレスが表示される。
多分昨日のと一緒だ。
「鹿島だよ!」
あたしは顔をしかめて言った。

あたしは携帯を開くと、即、着信拒否設定した。
「もう……。マジでキモー」
「確かに、だね…。でも何て書いてあったんだろ?」
愛莉が言った。あたしは答える。
「読むのもヤダよ」
「夏休み入る前、また飲み会なかったっけ?]
自分の携帯を出しながら有希が言った。
あたしも予定を思い出す。
「あー、あったね…。
でもさ、鹿島のせいで行かないっていうのもなんか悔しくない?」
あたしは思ったままを言った。
「あたしもその日は行こうかなぁ。久しぶりに…。なんか面白そうだし」
愛莉がニヤニヤして言った。
「面白くないって」
あたしはそう言いながら、本当に困ってた。
また帰り、待ち伏せされたりしたらヤだな…。
露骨に怒るってのも大人げないし…。
そもそも、悪意がある訳じゃないっていうのが余計タチ悪いよ…。
「誰か男トモダチっていないの?その日送ってもらえば?」
愛莉が言った。
「…いないもん」
「でも男の子で、誰かに頼んだ方が鹿島も諦めがつくんじゃない?」
有希もそう言う。

授業が始まった。
あたしはぼんやりと考える。
先生に「来て」って言うのはムリだなって思う。
そもそも鹿島の話を彼にするのがイヤだった。
あたしは先生に負担にならないような自分でいたいって無意識に思ってしまってるのかもしれない。
だって彰士は大人だし…社会人だし…。
こんなモロ学生ノリな話をするのもなんだか恥ずかしかった。


あいつしか、いないな……。

あたしは机の下で、テルのアドレスを探した。

 

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