テルに電話して、二人で会うことになった。
本当に随分久しぶりだった。
3年ぶり…。
学校の外で最後に二人で会ったのは、別れたあの日の放課後だった。
制服じゃないテルを見るのも、ちょうど3年ぶりだ。
時間の流れって速いなぁって思う。
あたしの高校生活はそれなりに重たくって長く感じてたけど、過ぎてしまえばあっという間だった気がする。
それでもあたしにとってのテルの存在って、もう「懐かしい」って感じだった。
久々に人に会うと、それだけでドキドキしちゃうんだよね。
それが男子でも女子でも。
あたしは歩き出しながら、テルに言った。
「お店、予約したよ。行こ」
「おぉ」
あたしからのお願いだから、ちゃんとしたお店に行こうと思ってわざわざ予約しておいた。
一度、有希と愛莉と一緒に来たことがあった店だ。
結構雰囲気がよくって、ここなら落ち着いて話せそうって思ったんだけど。
この前来たときは気付かなかったけど、店の客って女の子ばっかりだった。
テルが店に入った途端、一斉に視線がこっちに向くのを感じた。
すごい気配だ。声にならないザワメキってあるんだ。
視線がテルからあたしへと移る。なんかコワ。
あたし達は席に座る。
奥まったとこで、女の視線から逃れられてあたしはほっとした。
テルに言うと、
「男の客がいないからだろ、…ただ単に」
って返される。
分かってないのかなぁ。自分がすごくかっこよくなっちゃってるって事。
今、目の前にいるテルは、確実に高校時代よりもいい男だった。
たった3,4カ月しかたってないのに。
そもそもあたしの抱いているテルのイメージが、高校1年生のものだってのが間違ってるのかもしれないけど。
普通に、普通のTシャツを着てるだけなのに、すごく垢抜けてる。
なんかお洒落に成長してるじゃんってあたしは感心した。
テルに対して緊張するっていうよりも、
いい男を連れてるーみたいなプレッシャーであたしは固くなってくる。
それに待ち合わせしたときからずっと、テルの視線を感じてた。
あんまり気になるから、あたしは言ってしまった。
「何よ、じろじろ見て。テルのエッチ」
テルはニヤっと笑いながら照れたみたいな顔になる。
「いや…、麗佳、すっげキレイになったなって思って」
(えー?そんな事言う?)
あたしと付き合ってた頃のテルって、そんな事言うタイプじゃなかった。
あたしはそのテルの言葉にビックリして、急に自然に男っぽくなっちゃった彼にドキドキしてしまった。
なんて言っていいのか分からなくてちょっと困ってたら、
テルが学校の話に振ってくれた。
うーん、なんだか随分スマートになったなぁってこんなトコも感心。
ビールを飲みながら、あたしはかいつまんで鹿島の話をした。
「お前には、『先生』がいるだろう」
ちょっと機嫌の悪い顔になって、テルが答えた。
あたし、テルはすぐに「分かった」って言ってくれると思ってた。
だからそう言われた事に対してちょっと意外だった。
「だってさ…」
だってテルしか頼める人がいないし。
せっかくわざわざ呼び出したのに、ここで諦められない。
それに鹿島の事って、結構あたし的には深刻でブルーだった。
何とか食い下がってたら、テルが渋々了解してくれる。
「しょうがねぇなぁ。特別だぞ」
「ありがとーテル♪やっぱテルだよー♪頼りになるよー♪」
良かった…。マジで。
「学校でも麗佳モテるだろ?」
もう何杯か分からないビールを飲みながら、テルが言った。
「…どうかなぁ。よく誘われたりはするけどさ、
ほら、理系だから女子が目立つんだよね…」
実際クラスの女子はすごく少なくて、あたしたち3人はかなり目立ってたと思う。
だけどそれぞれがそんなにフレンドリーなオーラを出してなかったから、
クラスの男の子からは迷惑って程、声をかけられたりすることはなかった。
「あたしのトモダチ結構可愛いんだよ」
あたしは思ったままを言った。
「あー何かそれ分かる。春日もすげーキレーだったしな」
テルがあっという間にビールを飲んでしまう。
元々よく食べる人だったけど、お酒もガンガンにイケちゃうんだ。
「ねぇ、テル、すごいお酒強いじゃんよ」
「そうか?」
笑って、すぐに追加で注文しようとして店員を呼ぶ。
「あのさ、別に今日奢らなくていいから」
テルが言った。
「えー、いいよいいよ。だって呼び出したのあたしじゃん」
あたしは慌てて首を振った。
「奢ってもらうって思うと、あんま飲めなくなるから」
「………」
そういえば結構な量、注文してたし飲んでた。
「割り勘ぐらいでも、申し訳ないし」
テルがにこっとして言う。
こいつの笑顔って、殺人的に魅力があるな…ってあたしは思った。
「テルこそ、すーっごくモテそうだよ」
高校の時だって彼女をとっかえひっかえしてた。
その一人に自分が入ってる事がちょっと悔しいけど。
大学入って、この男がモテないワケない。
「まあ、そこそこな」
テルは、何か含んで笑った。
窓に流れる景色はもう真夏の感じで、今日は日焼けしそうだなって思った。
「何とか送ってもらえそうな友達と、約束したよ」
あたしは有希に言った。
「良かったじゃん。
麗佳可愛いから、変な男にはマジで気をつけた方がいいと思うよ」
真剣な顔で有希が答えた。
あたしはその言葉で苦笑する。
山手線に乗りながら、二人で外の景色を見てた。
「ねえ、今週麗佳って時間ある?」
「土曜だったら大丈夫だよ」
日曜日は先生と約束してた。
今月は忙しそうで、土日でこっちには来られないみたいだった。
「日曜はデート?」
有希が笑って聞いてくる。
あたしは頷いた。
有希が髪の毛を触りながら言う。
「すごいなぁ、遠距離なんて。あたし多分ムリだなぁ」
「…だってしょうがないじゃん」
あたしも近い方がいいのにって思うけど…でも実際近くに住んでても会う頻度ってこれぐらいだったりして。
もしかして、遠距離だって事をなかなか会えない言い訳にしてるっていうのもあるのかもしれない。
「あたしは会えないっての、ダメだな…すごいよ麗佳」
「うーん…」
彰士と『いつも会える』っていうイメージが全然湧かなかった。
だからあたしは離れてても結構平気でいられるのかもしれない。
3年間の片想い経験は、あたしの芯まで染み付いてるのかも。
「は、……あぁんっ…」
両方の手首をあたしは彼に握られて、ベッドでキスを受ける。
唇が乳首に触るとき、あたしの体は大きく跳ねた。
ラブホテルは寒いぐらいに冷房がよく効いてた。
「抱きたかった……麗佳」
耳元で彰士の声があたしをくすぐる。
すぐに裸にされて、すぐに感じさせられてしまう。
どうしてこんなに早く一気に高められてしまうのか、自分でも不思議な程だった。
それだけ先生が上手って事なんだろうけど。
「うあ、…あっ、…彰士っ…」
彰士があたしの中を掻き回す。
その腰の動き、……男の人に、いやらしさを感じてしまう。
「だめっ……あっあっ…そんなっ…」
奥まで入るように彰士が体の向きを変える。
深すぎて、最初は痛いぐらいだ。
なのにすぐにそれは強烈な快感へ変わってしまう。
苦しいぐらいに。
(また流されてしまう……)
先生を見ることができない。
あたしは苦しい快感の中で、ただ彼を受けとめる。
抱かれたかった。
こうされたかった。
だけど……
二人の時間は本当にあっという間に過ぎてしまう。
もっともっと時間があればいいのにって思う。
セックスが二人の時間の一部だったらいい。
だけど性的な時間は、あたしが彼を想う余裕もなく一気に押し流してしまう。
体が重なってしまうと、あたしは彰士を見つめることができなかった。
見つめたい。
あたしも愛したい。
別れの時間がきて、彰士は帰ってしまう。
すごく嬉しいのと同じぐらい、先生が去ってしまった後のあたしは相変わらず虚脱感で一杯になってしまう。
それは付き合う前と変わってなかった。
(もっと側にいたい…)
心から思う。
有希がイメージする「男女の付き合い」っていうのとか、愛莉の彼氏との関係とか、
…そういうのと、あたしと先生は違うって気がしてた。
(普通って、なんだろ……)
二人のスタートが特殊だったから、あたしはよく分からなかった。
自分の中で先生がもっと近い感覚での「彼氏」って存在になればいいのにって、ただそれだけを今は思っていた。