ビター(夢色続編)

麗佳編 ★★ 8 ★★

   

とりあえず飲み会は無難に過ぎていった。
久しぶりに愛莉も来て3人揃ってたし、他の女の子の友達とも会えたりして楽しかった。
やっぱり参加して良かった。
気にしないようにと思ってたけど、やっぱり鹿島の視線を感じる。
イヤーもう。ホントかなりイヤだよ…。
他の男の子の視線も感じないって事はなかったけど、こうあからさまにジロジロ見られると、
会社だったら絶対セクハラだよって思うぐらい失礼な感じだった。

集団で会計を済ませ、店を出る。
店の場所も言ってあったし、ちょっと前にメールしてた。
あいつが待っててくれる筈だった。

「麗佳!」
あたしが気付くよりも先に、あいつの声が響いた。
うわ。何なのあの派手な格好。
Tシャツ赤いし、それにこの前会った時よりずっと肌が黒くなってる。
おまけに普段かけてないくせに夜なのにサングラスしてるし。
(ガラ悪ー)
だけどあたしはテルがちゃんと来てくれた事にホントにホっとする。
適当にまわりに挨拶をして、あたしは早々にその場を離れた。
背中に、めっちゃみんなの視線を感じながら。
テルはあたしが近付くと、すぐに腰に腕を回してきた。
絶対みんなが見てるよ…。

「ありがとう、テル!」
あたしはホントに大感謝して言った。
「誰がストーカーだかわかんなかったぜ。みんな麗佳を見てた」
そりゃぁ見るって、あんた派手だよって思う。
至近距離でテルがいた。こんなに背が高かったっけ?
「なんか、注目されすぎちゃったかなぁ…。っていうか、テル派手すぎ」
あたしは堪えきれずに爆笑してしまった。

テルと二人で夜の街を歩く。
「でもホントにありがとう…。ごめんね。こんな遅くまで時間潰させて」
「別にいいって」
駅に向かう。やっぱりテルといると色んな人の視線を感じた。
思い出したけど、この感覚って付き合ってた時もそうだった。
「飲み会楽しかった?」
テルが聞いてくる。
「うん」
あたしは笑顔で答えた。
「じゃあ、行って良かったじゃん」
テルも笑顔になってくれる。
「うん、…テルのおかげでゴチャゴチャ考えないで楽しめたよ」
ホントに。

切符売り場で値段を見てると、テルがあたしのすぐ横に近付いてくる。
「送ってやるから」
「えっ、……いいよ。悪いよ。テルが今住んでるとこってここから近いんじゃなかった?」
「そうだけど、心配だし」
あたしは時計を見た。1次会がちょっと延びたけど、まだ10時前だった。
「そんなに遅くないし…。迎えに来てくれただけで充分だよ」
本当にテルに悪いなって思ってあたしは言った。
「普通、送るから。あんま気にすんなよ」
テルはあたしを見てニヤっとした。
「そんなもんなの…?」
一人で帰るよりは、そりゃあ送って貰える方がありがたかったけど。

電車に乗る。
この前は鹿島と一緒で、イヤでイヤでしょうがなかったのに。
テルが送ってくれるのは素直にすごく嬉しかった。
同じ事してるのに、人によって、こうも受けとめ方って変わるんだなって思った。
「ごめんね、テル…」
それでもあたしは本当に申し訳なかった。
こんなに我がままばっかり聞いてもらって、すごく恐縮しちゃう。
「いいって。お前あやまりすぎ」
テルが優しい声で言う。
「…それか、もしかして送るのとかって迷惑だったとか?」
ちょっと怪訝な顔になる。
「ううん!そんなんじゃないって!…もうマジで悪くってさ…。ホント」
あたしは慌てて言い訳みたいに言った。
「んじゃ、もう言うな」
「うん…」
こういう言い方。なんか懐かしい。
テルは口調が強くてもすごく優しい。
多分、普段からこんな人なんだろう。
そりゃあ、モテると思うよ。
こんなタイプって今の学校であたしの回りには、いないし。
もしいたら想像を絶するぐらいモテるだろうなぁって思う。
そういえばテルって同性の友達にも人望があったっけ。

テルと家までの道を歩く。
また二人でこうしてるのがすごく不思議だ。
いつも一人で帰る道はちょっと心細いけど、今日は安心できた。
この前ダッシュで帰った事を考えると、バカみたいでなんか笑えてくる。

「お前この道こんな時間に一人で帰ったらダメだぞ」
「えぇ〜、大丈夫だよ。いっつも帰ってるよ。人通りあるし、ここ」
「とにかく、ダメ!ストーカーされるぞ」
テルが親みたいな事言ってくる。
「だってしょうがないじゃん」
あたしは言った。うちまではタクシーに乗るって距離じゃない。
それに夜も人通りがあるからそんなに危険な道じゃなかったし。
思うけどテルって結構心配性だ。
もしかしたら、今付き合ってる子とか、超束縛してたりして。
束縛かぁ……何か憧れるなぁ…ってあたしはぼんやりと考える。

「ったく、田崎も使えねぇなぁ」

急に先生の名前を出されて、あたしはドキっとした。
「それこそ、しょうがないよ」
ホントはさ、飲んだ帰りとか彼氏に送って貰えたりするのって理想なんだけど…。
あたしにとってはホントそれこそ夢だよ。

「テル……今日はホントにありがと」
あたしは本気で心を込めて言った。
マジで助かった。
これだけあからさまにしたら、鹿島ももう、つきまとわないかも。
「いいよ。…ついでだから、また何か困ったことがあったら言え」
テルがそう言ってくれる。
そんな事言ったら、また困った時言っちゃうよ?

帰ってくテルの後ろ姿を見送る。
そういえば、あたしっていつも送ってもらっても見送ったりしなかったな。
だからこの道を歩くテルの後ろ姿を見るのは、ほとんど初めてかもしれない。
付き合ってたのに、当時のあたしってドライだったなぁって思う。
テルは背中を向けているのに、その姿もいい男っぽかった。
見栄えはいいし、おまけに優しいし…。
何か、素晴らしいヤツだなって思ってあたしは家に入った。


部屋で携帯を見ると、先生からメールが来てた。
(うわー珍しい…)
あたしは即行で電話した。
すぐに彰士が出る。
今日って、なんていい日なんだろう。今日の運勢がもし悪かったなら、あたしは占いなんて今後絶対信じないなって思った。

愛しくてたまらない先生の声を聞きながら、ホントの彼氏の「彰士」がああいう時迎えに来てくれたらなって、あたしは思った。
そしてその姿をあたしは今ひとつ想像できなかった。

 

ラブで抱きしめよう
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