二人が入った和風のお店は、黒を基調としていて静かな雰囲気だった。
狭い正方形の個室風の空間は2方向が座席になっていて、カップルの雰囲気を演出していた。
通路とは白い暖簾で区切られていて、店員が行ってしまうと完全に二人の場所になる。
「それしか頼まないの?」
輝良が言った。
「だって、どう考えてもこのテーブルに載らないでしょ?」
テーブルに手をついて麗佳が答える。
「あぁ、そうだな……」
狭く感じられる座席に、輝良は深く座りなおした。
すぐに飲み物が運ばれてきて、一口飲んでいる間に頼んだ料理も運ばれてきた。
二品しか頼んでいないのに、テーブルはすぐにお皿で埋まってしまった。
「ちょうどぐらいでしょ?」
「ああ……」
輝良は手を伸ばしてウーロン茶を置く。
そして麗佳を見た。
「…………」
やっと会えて、何を話していいか輝良は迷っていた。
麗佳もそうだった。
テーブルを挟んで直角に座っている体を、ゆっくりと麗佳は輝良に向けた。
「………」
麗佳は顔を上げて、輝良を見た。
輝良は、その目つきの色っぽさにドキっとする。
「………」
何かを言いかけるように、麗佳は口を薄く開く。
「…………」
そのまま目を閉じて、麗佳は輝良にキスした。
(…麗佳……)
輝良は自分の中で、一気に血液が逆流したんじゃないかと思った。
「……テル……」
麗佳はすぐに唇を離すと、輝良の肩にもたれた。
「………れ…」
戸惑う輝良の言葉を遮るように、麗佳は言った。
「あたしと、……また、付き合ってくれる…?」
熱っぽい目で見上げると、麗佳は輝良の手を握った。
「……うん…」
輝良も麗佳の手を握り返した。
「………」
暫くお互い黙ったままでいた。
輝良は先日の麗佳の告白から、どうしても半信半疑なままだった。
こうして麗佳が自分によりそって来ても、まるで現実感がなかった。
何度も彼女のことを考えた。
麗佳が自分のことを好きだと言ったことでさえ、一人勝手に見た夢のような気さえしていた。
しかし、今、こうして麗佳は隣にいる。
そして実際の彼女は輝良が想像していたよりもずっと可愛らしかった。
(……たまんねぇよなぁ…もう…)
輝良はため息をついた。
「なあ、まさかお前、今日…帰る気じゃないだろうな?」
輝良は麗佳から体を離して、向き直って言った。
「え?帰るよ?…だって何にも準備してないし」
麗佳はビックリした顔で答えた。
「こんなになって…、オレが帰すわけないだろ?今日イブだぜ?」
「イブだから、…親に言い訳できないじゃん!…バレバレじゃんよ!」
麗佳は焦って言った。輝良が本気で自分を帰さないつもりだと思った。
「あたしだって帰りたくないけど……さすがに今日は…」
「……」
輝良は携帯を開いてメールし始める。
「ちょっと、…何?」
麗佳は輝良の行動を見ていた。
「………」
テーブルに置かれた携帯が、すぐに光りだす。
輝良は携帯を開いて、ニヤっと笑った。
「祐一が上手く言い訳してくれるから、心配すんな」
「えぇっ?」
麗佳は状況がつかめない。
「何で、…テルがあたしの弟の携帯知ってんのよ?
…っていうか、祐一とどういう関係?」
慌てている麗佳を尻目に、輝良は勝ち誇った顔で携帯をしまった。
「男の付き合いが、あんの」
そう言ってまた笑った。
「とにかく、早く食え、…もう出るぞ」
「えーーー、せっかくコネまで使って予約したのにーーー」
「そんなのいいから早く、…ゆっくり食ってる場合じゃないって」
輝良のペースに乗せられてしまう。
結局、店に入って20分もしないうちに二人は外へ出た。
店を出て電車に乗る間も、改札を出て輝良の部屋まで向かう間も、ずっと二人は手を繋いでいた。
早足で歩く輝良の後姿を、麗佳は彼の腕越しに見ていた。
しっかりと繋いだ手を見ると、それだけでドキドキしてくる。
(もう……テルってば…)
それでも、彼の強引なところも麗佳はいいと思った。
急いでいるから余計に吐く息が白くなる。
それでも寒さは感じなかった。
(なんか、迷ってたあたしがバカみたいに思えてきた…)
輝良の部屋に着く。
「上着、掛けるから」
伸ばした輝良の腕に、麗佳はコートを渡した。
「ありがとー」
麗佳はそう言って、輝良の部屋を改めて見回した。
前に来た時よりも、ずっと片付いていた。
「ねぇ…」
麗佳の振り向きざま、輝良に抱きしめられる。
「…………」
すぐに唇が重なる。
さっき店でしたキスとは全く違う、情熱的なキスだった。
(んん……)
麗佳は輝良の激しさを感じた。
唇を割って、彼の舌が自分の舌を舐めてくる。
深く入ってきそうになると引っ込んで、また角度を変えて唇が触れてくる。
(あぁ…)
(あたし…テルと、キスしたかったんだな……)
自分の体に走る甘さに、改めて麗佳はそう思う。
(…テル……)
麗佳は輝良のキスを受けとめながら、その優しい感触に感激する。
(……すごい…上手なんだ……)
「はぁ…はぁ…」
唇が離れたとき、麗佳は少し息が上がってしまった。
「会いたかった……もう、マジ、すげー…会いたかった…」
輝良は強く麗佳を抱き寄せる。
彼の切実な声に、麗佳は胸がギュっとなる。
「…ごめんね…」
麗佳も輝良の背中に腕を回した。
「やっと…抱きしめられた…」
輝良は頬を麗佳の髪に摺り寄せる。
「うん……」
麗佳は顔を上げると、輝良の頬に自分の頬をくっつけた。
(会いたかった…あたしも…)
心の中で、麗佳は何度もそう呟いた。
「麗佳…」
麗佳を抱きしめたまま、輝良は言った。
「ん…?」
「もう絶対離さないけど、…いいのか…?」
輝良の声がかすれる。
麗佳はつま先立ちして、輝良の首に近付いた。
“離さないでよ…”
輝良の耳元…小さな声で、麗佳が囁いた。
輝良の腕に更に力が入る。
「あっ……」
麗佳が小さく声をあげた。
電気が点いたままの部屋で、暖房の強い音が響く。
輝良は麗佳をベッドに押し倒して、自分も上着を脱いだ。
そして麗佳のニットを脱がし、スカートも剥がす。
「………」
輝良は麗佳に軽くキスする。
下着だけの姿になった麗佳の、ブラジャーの中に手を入れていく。
(キレイになった……麗佳…)
自分の手の中にある、昔知っていた頃とは明らかに大きさの違う彼女の乳房を触る。
「あん……」
顔をそむけながら麗佳が声を出す。
輝良はそんな麗佳のあごを引き戻して、そしてまた口付けた。
柔らかい乳房、…そしてその中心にある固くなった乳首。
輝良は麗佳のブラジャーを外した。
「寒くない…?」
「へーき…」
麗佳は目を閉じて首を振った。
輝良は体を起こして、ショーツだけになった麗佳の姿を、まじまじと見た。
(ホント、…すげー綺麗……)
改めて、自分の知らない女の姿になった麗佳を感じた。
「好きだ…」
「うん…」
輝良は麗佳を抱きしめる。
麗佳も首に腕を廻してくる。
輝良はキスした。
できるだけ優しく…自分の想いを込めて。
ショーツの中に手を入れると、そこは驚く程濡れていた。
(…麗佳……)
輝良の興奮は更に高まる。
ぬるぬると自分の指を滑らす麗佳の狭間に、何度も指を往復させた。
「あっ…あぁんっ…」
麗佳の腰が動く。
(すごい、…可愛い……)
輝良は麗佳のショーツを脱がした。
腰を触ると、麗佳は大きく体を反らした。
輝良は麗佳の足を開く。
そして少しずつ、そこへ自分を埋めていった。
「んあ…、あぁんっ……」
麗佳の出す声は色っぽかった。
そして歪む表情も、以前よりもずっと女だった。
輝良はそんな彼女の姿を初めて見る。
麗佳とのセックスは初めてではないのに、まるで知らない女のようだった。
(すげぇ、……ゴムしてるのに、…すごい気持ちいい……)
「ハァ…」
輝良はため息をついた。
(そういえば麗佳の中って、すごい良かったんだっけ…)
過去が甦る。
輝良にとってただでさえ麗佳は魅力的なのに、昔以上に彼女は自分の全てを魅了してくる。
動きを止めて、麗佳の顔を見る。
「……テル…」
薄目を開けて、麗佳も輝良を見た。
その表情がゾクッとするほど色っぽくて、輝良は麗佳の中でさらに自分が固くなるのを感じた。
「…好き…」
麗佳が小さな声で言った。
その声を聞いて、更に輝良は興奮してしまう。
昔、麗佳を抱いていた頃、ガマンできなかった自分を思い出す。
きしむベット。
輝良は何度も、ここで麗佳のことを想像した。
少し前までそれは夢のままで終わると思っていた。
切なくて行き場のない想いを、封印するつもりでいた時もあった。
まさかまた、……こうして麗佳を抱けるなんて。
明るい部屋の中、考えていたよりもずっと美しい麗佳の裸に触れている。
――― 会いたかった。
会いたくてたまらなかった。
そして今、こうして腕の中に麗佳がいる。
こうなることが現実とは思えないほど、欲しくてたまらなかった彼女の全て。
輝良の体の内部から、そして気持ちの中からさえも、熱いものがこみ上げてくる。
「もう、…オレ、限界…」
輝良の指が麗佳の指に絡む。
「…いいよ…」
麗佳は輝良の手を握り締める。
「あ、あっ…あ、あぁっ…」
輝良の動きが早まり、麗佳も小刻みに息が切れる。
「………んんっ…」
しっかりと繋がったまま、輝良は麗佳の中で果てた。
「ごめん、全然ガマンできなかった……」
麗佳を腕枕しながら、輝良は天井を見て言った。
「ううん、…そういうのって、なんか嬉しいよ…」
麗佳は輝良の顔を見ながら、微笑んだ。
「そうか?」
「うん、そんなもんだよ。女の子は」
輝良の肩を触る。
そして自分の頬もくっつけた。
「ふぅん……」
輝良は恥ずかしくなった。
(しかし、可愛いなぁ…麗佳…)
隣にいる麗佳の想像以上の可愛らしさに、戸惑いさえ覚えてしまう。
(田崎の前でも、こんなんだったんだろうか…)
自分と別れてからの間、こんなにも可愛くなった麗佳に対して、イヤでも田崎のことを想像して嫉妬してしまう。
(あいつのこと、忘れられないのは……オレの方かもな…)
輝良は思わず麗佳の肩を抱いた。
「なぁ、お腹すかない?」
「うん、…さっき全然食べてないもんね」
二人は交替で軽くシャワーを浴びると、近くのコンビニへ行った。
行きも帰りも、ずっと手を繋ぐ。
「前はさぁ…」
歩きながら麗佳が言う。
「こんなにずーっと、手、繋いだりしなかったのにね」
そう言って輝良の手を更に握った。
「そうだよな」
輝良は麗佳を引き寄せた。
ベッドに寄りかかりながら二人でテレビを見る。
「なんか、今日コンビニでお泊りセット買うのってさ、…すごいあからさまじゃない?」
麗佳がパンの袋を折りたたみながら言った。
「そういえば、店員めっちゃオレらのこと見てたな」
輝良はテレビのリモコンをいじりながら答えた。
お互いに会いたくてたまらなかったのに、こうして実際隣にいると二人の間には自然な空気が流れる。
(なんか、こういうの…)
麗佳は輝良のその指を見ながら考える。
(すっごい…付き合ってるって感じする……)
「何?見たいヤツある??」
視線を感じて、輝良は麗佳を見た。
「ううん、…テルの見たいのにして」
麗佳はそう言って、輝良の肩に寄りかかった。
輝良はそんな麗佳の仕草にドキドキしてくる。
(なんか、すっげー可愛いんだけど……)
今夜だけで、自分の知らない『麗佳』を沢山知った気がしてくる。
「麗佳ってさ…」
「…なに?」
麗佳が顔を上げる。
「可愛いんだな」
「…………」
まともにそう言われて、麗佳は照れてしまう。
「…………」
唇が重なる。
麗佳は輝良の匂いを感じる。
『先生』とはまた違った匂い ―――。
「ベッドいこ」
輝良は麗佳を引っ張る。
「電気、暗くして…」
麗佳は言った。
裸のまま重なり合ったお互いの唇。
(テルの唇って、こんなに柔らかかったっけ……)
何度もキスを繰り返して、輝良の唇が麗佳のうなじへと移る。
「はぁっ……」
耳元に息をかけられて、思わず麗佳は声を出してしまう。
輝良の舌が鎖骨を舐めて、乳房を噛む。
(…テル……)
輝良が自分に触れる全ての感触が柔らかくて、以前キスマークを心配したことがウソみたいに思い出されてくる。
(こんな風に、…するんだ…)
「あぁぁんっ…」
乳首の先を舐められると、首筋がゾクゾクしてしまう。
ゆっくり触られる乳房からも、官能の波が押し寄せる。
「あぁ…ん…んん…」
輝良が麗佳の足を開いて、そこへ口を付けた。
「あぁっ、あぁ…」
彼の指が麗佳の中へ入ってくる。
その指は入ったままで、時々ゆっくりと動くだけだった。
輝良の舌は麗佳の粒を捕らえて、優しくそれを潰す。
柔らかく繰り返される愛撫。
達する2歩くらい前の、全く苦痛の伴わない快感が続く。
(ああ……すごい、…すごい気持ちいい…)
じれったくて時々腰が動いてしまう。
クリトリスからの快感が、膣の奥まで蕩かしていく。
それでも輝良は力をいれずに、ゆっくりと優しく麗佳を責める。
麗佳は自分の中が、輝良に溶かされてしまうような気がしてくる。
そしてトロトロと自分から溢れていくのが分かった。
「はぁ、…あぁん…あぁ…あぁっ…」
ゆるゆるの快感に、体のどこかを少しでも触られたらすぐにでも達してしまうんじゃないかという錯覚に捕らわれる。
(こんなのって、…はじめて……)
手の指が痺れてくる。
輝良の舌を求めて、自分から腰を動かしてしまう。
「いい…?麗佳……」
輝良は麗佳のそこに口をつけたまま言った。
「…あぁん…いい……はぁ…テルっ…すごいよ…んっ…」
(あぁ、…もっと……欲しい…)
すぐに達してしまうほどの強烈な快感を与えてくる田崎の愛撫とは、全く別の快感だった。
全てがあまりにも優しすぎる愛撫。
輝良の柔らかい唇から送られる、柔らかい快感。
中に入った指の、ゆっくりとした動き。
「あぁ、…あぁ、あぁん…」
麗佳はひっきりなしに声を出してしまう。
(もっと……欲しい……)
輝良の愛撫に少し力が入る。
麗佳へ差し込まれた指先が、少しずつ加速していく。
(あぁ、…ホントに溶けちゃう…)
ずっと待っていた出口への光りが、麗佳には見えてくる。
「テルぅ………んあぁっ、い、いきそうっ…」
輝良が口を離し、今まで舌が触れていた部分を指で強く弾く。
内部への刺激も、更に速さを増して麗佳を責めた。
「いいよ…麗佳、イって……」
輝良の声を合図のように、溶けそうになっていたその部分から電気のように快感が全身へと走る。
「あっ、んあ!…あぁぁっ…!」
麗佳の両足が伸びる。
大きく体を反らしながら快感に顔を歪ませる麗佳を、輝良は見た。
達する彼女を、初めて見た。
「…………」
それは輝良がずっと思い焦がれていた姿だった。
求めていた麗佳の全てに、改めて愛しさがこみ上げてくる。
「……麗佳…」
さっきよりもずっと敏感になっている、愛液で溢れた麗佳のその場所に、輝良が入ってくる。
「あ!あぁぁぁぁんっ!!」
麗佳はそれだけで軽くイってしまったんじゃないかと思った。
それぐらい気持ちが良かった。
(あぁん、すごいよ…テル…)
輝良は麗佳の膝を掴んで、ゆっくりと動き始める。
「あ、…あ、あっ、あっ…あぁぁん…」
直に触れる彼の温かさと存在感に、麗佳の興奮も高まってしまう。
(あたし…乱れちゃうかも…)
あまりの強烈な快感に、麗佳は涙が出てくる。
(どうしよう……)
自分の中に生で入ってきている彼のものが、今まで経験したことがない感覚を与えてくる。
それは苦痛ではなく、純粋な快感だった。
(こんな風に感じるなんて……)
麗佳にとってそれは全く初めての感じだった。
田崎から与えられていた、怖いほどの快楽とはまた違っていた。
(先生……ごめんなさい……)
麗佳はまた涙が出ていた。
輝良が動いている。
麗佳はしっかりと抱きしめられて、彼の情熱を受けとめる。
体が震えるほどの甘い感覚が、麗佳の全身を包む。
(……あたしの中で……先生が薄まっていくよ…)
「はぁ、あぁん、あっ、あぁんっ…」
『打ち付けられる』、というのとは違っていた。
自分の中にもう一つの感覚があって、それが彼のものを掴んでいた。
輝良が滑るたびに、麗佳の中ははっきりと彼を感じた。
「テル、…テルっ……あぁっ…」
「麗佳っ………」
吐息で唇が外れても、何度もキスし合った。
「んあっ…あんっ、…もぅ……、も、…いっちゃう…」
麗佳は輝良の肩を掴んだ。
「うん……」
輝良はそう言うと、麗佳の深い場所で動きを増した。