奇跡の青 |
16・会おうぜ |
たまたま用事があって、授業の休み時間にオレはD組へ向かった。 D組というと、イヤでも果凛を意識してしまう。 あいつはオレを見つけると必ず笑いかけてくるし、それにオレが応えないと機嫌が悪くなるから……果凛の顔が見られるかもしれないという嬉しさ半分、面倒くさい気持ちが半分で、オレは普段通らない廊下を歩いた。 教室に入るまでもなく、果凛は いた。 オレに気がつかずに、盛り上って喋っていた。 果凛は廊下にしゃがみこんでいて、その隣には同じクラスであろう男子がいた。 隣、というよりベッタリとくっついた状態だった。 そいつは何かを彼女に渡す。 果凛はそれを見てまた大笑いした。 隣の男も大笑いしながら、手を伸ばしてどさくさに果凛を触った。 (―――― ブチッ) と、オレの理性の端が切れる音がする。 それでもまだ「端」で済んでいたから、オレは表情を変えずにD組の中へ入った。 部員に渡すものを渡して、さっさとオレは教室を出る。 見ないように行こうと思っていたが、果凛がさっきいた場所をついチラっと見てしまった。 果凛はまだ座って男と喋っていた。 そのしゃがみ方が微妙で、正面に回るとパンツが見えてるんじゃないかと思う。 その事でオレはまたちょっとムっときた。 唐突に、果凛と目があった。 「敦志??」 D組から出てきたオレを見て、果凛は驚いていた。 果凛の隣にいた男まで、彼女の態度を受けてオレのことをじろじろ見た。 「…………」 その男の視線のせいもあって、オレは無言で果凛たちに背を向けて歩き出した。 「ねえー…敦志……」 毎日のように学校帰りは果凛の家に来ていて、今日も断る口実もなくオレは彼女の家にいた。 果凛とそういう関係になってからは、リビングじゃなく果凛の部屋に入るようになっていた。 そっちの方が落ち着くからだ。 この女オンナした色合いの部屋にも、かなり慣れてきていた。 ベッドで隣に座る果凛は、オレの顔をじっと見て側にくっついてくる。 「機嫌悪いでしょう……」 「別に……」 オレは顔をそむけた。 「嘘…」 そう言って果凛はオレから離れた。 「昼間のこと、怒ってるんだー…」 「怒るかよ……」 確かに機嫌は悪かったし、それは昼間に果凛と会ったせいだ。 「でも何か機嫌悪いよ?」 「だから、別に悪くないって」 オレは普通の顔で、果凛の方を向いた。 「ふぅーーーん」 果凛はこっちを探るような目で、オレを見てる。 オレは至近距離でジロジロ見られるのは、すごく苦手だ。 冷静な振りをしていたが、ちょっと焦ってくる。 「じゃあ、キスしてー」 「………あのなぁ…」 言いかけたが、果凛が目を閉じて唇を尖らせてる顔を見たらおかしくなってきた。 オレは彼女の両頬を引っ張った。 「あああっ!」 果凛は目を開けて、真っ赤になる。 「もう、何すんの!痛いじゃんっ!」 「くっ……」 堪えきれずにオレは笑ってしまった。 「もう……」 両手で頬をおさえた果凛も、そのまま笑顔になってく。 「もう、やだぁ、敦志………あんっ」 今度こそオレは果凛にキスした。 やっぱり可愛いものは可愛いし、好きなものは好きだ。 だから果凛が他の男と喋るぐらいでも、イヤだと思うのはしょうがない。 「ん……」 果凛がオレの首に腕を回してきた。 彼女の茶色い髪にオレは触れた。 オレを待つ間にシャワーを浴びているから、果凛の体からはいい匂いがした。 こうしていると、至近距離よりももっと近い距離で果凛を感じたくてたまらなくなってくる。 「はぁ……」 唇が離れると、果凛は大きな溜息をついた。 オレと目が合ってニコっと笑ってくる。 彼女のこの顔、オレはすごい好きだ。 「昼間、男子と喋ってたからちょっと機嫌悪かったんでしょうー?」 ニコ、がニヤ、になる。 「喋ってたから、…ってより……」 オレは横にいる果凛の腰に両手を回したままで言った。 「アイツ、果凛にちょっと気があるだろう」 「ええー?」 果凛は驚いてオレを見返す。 「岩村、彼女いるよ?」 「彼女がいてもさ、果凛には気があるみたいだったぜ」 オレを見てきたアイツの目つきを思い出した。 アイツが多少果凛に気があるってことぐらい、オレも果凛が好きだから分かる。 「うーーそー。それはありえない」 果凛は大笑いして、全く取り合わない。 「お前さー…もしかして」 「ん?」 果凛は上目づかいでオレを見る。 普段、普通にこんな顔してる時があるとしたら、やっぱりマズイだろう。 男は自分に気があるんじゃないかって勘違いするって。 「もてない、って言ってたけど、異常に鈍感なだけじゃないのか?」 「えーー?」 果凛は眉間に皺を寄せた。そんなに困った顔しなくても、と思うぐらい。 表情がころころ変わって、ホントに面白いヤツ。 「まあ、とにかく」 「……」 「廊下でしゃがむなよ、多分パンツ見えてるぞ」 「うそ!…それはないよ、…き、気をつけてるもん」 果凛は自信なさげに答えた。 あの時の果凛の爆笑っぷりを思えば、正面にまわれば多分見えてたと思う。 「無防備過ぎ」 オレは呆れて言った。 果凛は今更自分のスカートの端を掴んで引っ張る。 そして改めて顔を上げると、悪戯な表情で言った。 「敦志……ちょっとヤキモチした?」 「……」 目の前の果凛があからさまにオレの答えを期待しているから、オレはそれに応えてやることにする。 「焼いた、よ」 彼女の答えを待たずに、オレはベッドに果凛を押し倒した。 「あぁ……うぅんっ……」 果凛の部屋には、オレが買ったコンドームを置いてもらっていた。 オレは学校帰り、毎日のように果凛の部屋に寄って、毎日のように果凛としていた。 「あぁんっ、…なんか……」 オレは制服を着たまま、果凛は上半身部屋着を着ている状態のまま、その部分を繋げていた。 果凛はうつ伏せになって、オレは後ろから彼女の中に入っていた。 「この格好……、気持ちいいかもっ……」 果凛は指を歯に当てながら、苦しそうな声で言った。 「これ…?」 オレは彼女の腰をしっかり掴むと、もっと奥まで強く入った。 「あっ、…あ、…あんっ…あっ…」 果凛は完全に枕に顔を埋めてしまう。 「これが…?」 オレは彼女をもっとオレの方に引き寄せる。 自分のモノが、根元まで果凛の中に埋まった。 (キツいよな……いつも…) 果凛の中はすごく狭くて、オレはすぐにイッパイイッパイになってしまう。 「あぁぁっ、……あっ、……敦志っ……」 枕から離れた彼女の声が鮮明に部屋に響いた。 オレはきっと、果凛を満足させていないだろう。 初めてから何回目かまで、果凛は結構痛がっていた。 オレだって痛いと思う時があるくらいだから、彼女が痛いというのは容易に推測できた。 いつも時間がないせいで… オレはほとんど自分のペースで、果凛とのセックスを終わらせていた。 言い方が悪いが、毎回「入れるだけ」のような気がする。 本当はもっとたっぷり、時間をかけて愛撫してやりたいのに。 「うわーん、急がないとお母さん帰ってきちゃうよー」 果凛は慌ててGパンを足に通す。 「いつもバタバタだよな…」 オレは立ち上がって、コートを着てマフラーを手に取った。 「しょうがないよねー…あーあ」 果凛は鏡台の前に屈んで、髪を触った。 玄関口でオレは言った。 「帰ったら電話するから」 「えっ?珍しいねー敦志が電話くれるなんて♪」 果凛はちょっと驚いていた。 そしてすぐに笑顔になる。 「じゃあ楽しみに待ってる♪」 ニコニコする果凛を見ていると、さっきエッチしたばかりなのにオレは軽く復活してきてしまう。 「じゃあな」 オレは果凛の髪を触ってちょっとキスすると、玄関のドアを開けた。 『えー、やだー早いじゃん!』 オレは家についてすぐに果凛に電話した。 オレ達の家は本当に近いから、果凛の家を出てからまだ5分も経っていない。 「帰ったら電話するって言っただろ」 『うん、…でもこんなにすぐくれるなんて思わないじゃん普通』 電話の向こうの果凛の嬉しそうな様子が想像できた。 そしてオレも嬉しくなる。 オレたちは、さっき話さなかったどうでもいい世間話をしばらくした。 『岩村に、敦志と付き合ってるのがバレちゃったよ』 「そうか」 別に今更果凛との交際を隠す必要はなかったし、あの岩村ってヤツには分かっててもらった方がいいだろうとオレは思う。 『なーんか、だんだんと色んな人にバレてきた』 「……オレも別に秘密になんてしてないし」 最初のうちは奈那子の事を気にして、あえて果凛との事は言わなかった。 しかしこういうことは噂になると早かったし、オレが気を使う間もなく、奈那子にはすぐに伝わっていたらしかった。 『じゃあさーお昼ごはんとか、一緒に食べちゃう?』 「いや……それはやめとく」 果凛と昼休みなんて過ごしたら、目立ってしょうがない。 それにオレは昼飯を女子ととるような、そんなキャラじゃなかった。 オレは本題を切り出すことにする。 「なあ、…ゆっくり会いたいよな」 『会いたいよ……』 果凛の声がいつになく小さくて、彼女の気持ちがギュっとオレに伝わってくる。 『だって敦志、部活ばっかだし…休みの日も』 「………ごめん」 ごめん、としか言い様がなかった。 冬場は試合が目白押しで、実際に1日中休める休日はなかった。 『…いいよ……分かってるよ……敦志、部長だし』 「ごめんな……」 こうして電話で話していると、自分が自分の思っている以上に果凛と会いたいってことを改めて知る。 『クリスマス近い休日に、1日中会うなんて……夢のまた夢かな』 溜息を吐くような細い調子の声。 その声が切なくて、オレまで鼻の奥が痛いような気分になる。 「夢、か……」 でも叶えられる夢だよな。 12月23日… こんな分かりやすい休日に、部長のくせに部活をすっぽかしたって事が、サッカー部では衝撃のニュースだったらしい。 |
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